キングダムが教えてくれる最強の組織のつくり方
  キングダム 6つの名シーンを語り合う
伊藤羊一×麻野耕司
one for all, all for oneの体現と、トップが見る視界

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大ヒット書籍『キングダム 最強のチームと自分をつくる』の著者でありヤフー株式会社コーポレートエバンジェリスト・Yahoo!アカデミア学長である伊藤羊一氏を迎え、キングダムの大ファンであるリンクアンドモチベーション執行役員 組織改善クラウド「モチベーションクラウド」事業責任者の麻野耕司が、組織づくりという観点からキングダムの名シーンを語り合った。

【プロフィール】
ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト
Yahoo!アカデミア 学長 伊藤羊一 氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野耕司 

キングダムはリーダーシップの物語

進行:今日はお二人にキングダムの名シーンを挙げて頂きながら、最強のチームと自分をつくるというテーマでお話しして頂きたいと思います。麻野さんはキングダムの大ファンとのことですが。

麻野:はい。会社にも全冊置いていまして、僕の部門では課題図書にしています(笑)。キングダムに出てくる登場人物やエピソードは共通言語となってコミュニケーションがとられています。投資先の企業やクライアントの経営者でも、キングダムを愛読書にしている人は多いですね。

伊藤羊一氏(以下、伊藤氏):やっぱり起業家の人たちにとっては、グロースしていく感、しかもただ個人として成長するだけじゃなくて、束ねる兵隊の数が大きくなってくるっていうところが、やっぱりたまんないってところですかね。

麻野:例えばスタートアップ企業が社員100人、300人と大きくなっていくことが、百人将、千人将、五千人将という形で主人公信の部隊が大きくなっていくのと重なるんでしょうね。あとは、この中華っていう大きなマーケットがあって、そのシェアを取り合うという感じも事業を進めていくこととリンクするんでしょうね。

伊藤氏:どうやって天下を獲るか、みたいなね。

麻野:そうですね。

進行:好きなシーンを挙げて頂く前に、お二人それぞれの好きな登場人物を教えて頂けますか?

麻野:そうですね。僕は登場人物としては政が一番好きですね。もちろん戦いのシーンも好きなんですけど、やっぱり国をどうやって治めていくかっていう話が入ってきてから、さらに好きになりましたね。

伊藤氏:ちょっとやばいですよね。

麻野:漫画としてのレベルがちょっと変わってきた感じがしますよね。

伊藤氏:僕が一番好きな登場人物で言うと、麻野さんの政に対してすごく当たり前な感じになってしまうんですけど、やっぱり僕は信が好きです。どこが好きかっていうと、信は戦いのリーダーではあるんだけれど、よくよく読んでみると、ものすごく周囲に気をつかって、「みんなでやろうぜ」みたいな感じのリーダーシップ感が、今、僕らが目指したいリーダーシップなんだなぁ、って。キングダムはチームプレイが描かれていて、その中心にいるのが信。そこがすごくいいなと思っています。

麻野:そうですよね。あとは信のチームも、単なる兵力として描かれてるんじゃなくて、一人ひとりが、しっかり顔の見える人間として描かれてますもんね。

伊藤氏:そこがすごくいいですね。リーダーシップとか考える場合、キングダムといえば麃公(ひょうこう)のリーダーシップとか、王騎(おうき)のリーダーシップとか、ってイメージしやすいんだけど、それだとちょっとなって思って。一般的にはそうなのかもしれないけれど、やっぱり信のリーダーシップやチームっていうのを中心に考えてみたいということで本を書いたというのもあります。やっぱり信と政ですね。

麻野:この二人が成長していく様子が、特にベンチャー企業の経営者にはすごく自分と重なるんでしょうね。特に飛信隊なんかはまさに古参の社員がいて、新参の能力の高いメンバーがいて。で、その中で古参の社員がちょっと居場所を失って、モチベーションが下がるけど、やっぱり活躍する場面が出てくるとか。その辺がもう本当にベンチャー企業でもよくある光景ですよね。

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伊藤氏:麻野さんはコンサルタントとしてお仕事されているので、クライアント企業の組織の様子が当てはまりそうな感じがしますね。もともといらっしゃる社員と、実力があって後から入ってきた社員が、どうやったら融合できるんだろうかって。

麻野:成長企業は必ずぶつかる壁ですね。会社が立ち上がったときは、その会社の中で仕事ができるナンバー2とか3がそのまま取締役になるという感じで、仕事ができる順にシンプルに取締役になったりするじゃないですか。でも、会社が成長してくると取締役の役割も変わってきて。現場のプレイングマネジャーではなく会社全体の統治をするような役割になってくると、最初からの取締役はだんだんと機能しなくなって、入れ替えないといけない。まさにそういうことを連想させるような話が描かれていますよね。当社のモチベーションクラウドのデータベースでも企業の成長と共に古参の社員のエンゲージメントスコアが下がっていくことはよくあります。

進行:それではお二人が選ぶキングダム名シーン、伊藤さんからお願いします。

伊藤氏:今日は3つ選ぶということで、最初の1つを。自分が書いた本からではなく、いきなり自分が書いた本には書いてないところから(笑)。

麻野:本には書いていないところから(笑)。大サービスですね。

伊藤氏:そうなんです。僕の本ではひと段落する40巻までで書いていまして。キングダムっていう漫画は本当に面白くて、40巻から先もまだまだ面白い。チームという観点でいくと、ここですね。ここです、ここ。渕(えん)さん。

麻野:川を渡るシーン!これはほんといいですよね。

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one for all, all for oneがチームの理想の形 『渕さんが川を渡る』

伊藤氏:趙との戦いで、底が見えない程深く流れも速い川を、誰かが渡らないといけない、と。そこで抜擢されるのが古参の渕さん。「正しい人選」と語れるその理由は「武力でもなく知略でもなく、責任感」。新参者が懐疑的な意見を言う中で、「結成当初から7年副長を務めてんだ」と語り、周りをいさめる信。すごくチームの力を感じるシーンです。

麻野さんにほんとお伺いしたかったんですけど、僕はやっぱり強いチームというとラグビーで言うところの one for all, all for oneというのが究極だと思っているんです。まず個が立つ必要がある、と。飛信隊なんて、もうみんな個が立ってるわけですよね。その上で、みんなのために助け合う。みんなのために、一つの目的のためにっていう当たり前のことなんだけれど、それがチームの一番重要な要素なんじゃないかなと思って。キングダムにはそんなシーンがいろいろ出てくるんだけど、それがもう明確に出てくるのがここ。

麻野:本当にそうですね。

伊藤氏:渕さんが「責任感」というキャラで立つ。そしてそれを周りが認めるっていう、この感じがone for all, all for oneを表している気がして、とても好きなシーンです。

麻野:このシーンはもう震えますよね(笑)。

伊藤氏:震える、震える。

麻野:やっぱり成長企業でも、能力重視で人を集めがちなんです。会社が大きくなってくると、知名度やブランド力も高まってきて、結構有名な企業のそれなりの役職の人が入社をして来る。経歴を見て、いいんじゃないかと思って要職に登用したりするんですけど、失敗することも多い。能力は高いけれども、その会社の風土と合わなくてうまくいかないと。

よく言うのが、能力が低くて人格レベルの高い人っていうのは、どれだけ駄目でも会社に悪影響は与えない。能力が高くて人格レベルの低い人っていうのは、会社をマイナスにしてしまう。能力が高い分、周囲への影響力があるので。「この会社は駄目だよ」とか、「社長が駄目だよ」って、そういう能力の高い人が言ってしまうと、メンバーが引っ張られてしまってどんどん会社に対してネガティブになっていく。そうではなくて、仮に能力的にまだ物足りなくても会社の風土に合った人、人格レベルの高い人材を登用した方が組織はうまくいきやすい。渕さんはまさにそういう組織人格レベルの高い、組織のためにひと肌脱ごうっていう気持ちが強い人材ですよね。モチベーションクラウドでもスキルはあるけどマインドの合わないマネジャーの部署のエンゲージメントスコアは低下していることが多いですね。

伊藤氏:渕さんがやるなら俺もやらなきゃって、周囲の人間は思いますよね。そうやってこのシーンも盛り上がっていきます。 one for all, all for oneっていろんな解釈がありますよね。僕はfor allというのは仲間のため。for oneっていうのは会社の目的と思っていて。この二つが噛み合った状態っていうのは、スパイラル的に組織が良くなっていくのかな、って。

麻野:私たちも組織づくりをするときの根底はone for all, all for oneです。弊社リンクアンドモチベーションの創業者の小笹も元々ラグビー経験者でして。私たちの場合はfor allを組織の成果、for oneを個人の欲求と置いています。やっぱりfor allの精神で渕さんがやってくれたのは、それまで渕さんのことを尊重してきた周りの仲間とか、リーダーの信がいるからなんだろうと思うんです。まさにall for oneをしてくれた仲間に、渕さんがone for allで応えたシーンと言えますよね。

伊藤氏:そうですよね。渕さん自身も活躍してきたとは自分でも思えていない中で副長を務めて、コンプレックスみたいなものを感じていたんだけど、やっぱりそこで信とか河了貂(かりょうてん)がちゃんと見ていて。ちゃんと見てもらっているというのは、嬉しいことなんですよね。渕さん、燃えちゃうっていう。ちゃんと見ているっていうのはとても大事。

麻野:大事ですよね。昔のことわざで「士は己を知る者のために死す」っていう言葉があります。自分のことを分かってくれるっていうのは大きなモチベーションになりますよね。

伊藤氏:いきなりだいぶ語ってしまいました(笑)。麻野さんの選ぶ名シーン、お願いします。

トップにしか見えない景色がある  『王騎の馬に信が乗る』

麻野:はい。では、ちょっとベタですけれど、やっぱり王騎(おうき)将軍が、信を自分の馬に一緒に乗せるシーン。そしてその時のセリフが「これが将軍の見る景色です」。

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伊藤氏:17巻ですね。これは僕の本の帯にも載せた最高のシーンですね。

麻野:やっぱり外せませんでした。組織づくりのコンサルティングをしている中で、やはり階層間をどう繋いでいくか、ということは大きなテーマとして頂くことが多いです。経営者と管理職、管理職と現場をどう繋いでいくかということですね。多くの企業で階層間に溝があります。その要因の多くは「視界の違い」と言われるものです。やっぱり経営者は会社全体を中長期的に見て、全体最適で判断をする。管理職はやっぱり自分の担当領域を短期的に見て、個別最適で判断することが多く、そこでぶつかります。管理職の人が経営視点に立つというのは、本当に難しいことです。その中で、このシーンで描かれている信は、すごい経験をしたんじゃないかと思います。

伊藤氏:そうですね。

麻野:その時の信の立場からすると3段飛ばしぐらいで将軍の見ている景色、つまりトップしか見えない景色を見たっていうのは、これからの信にすごく大きな影響があるんじゃないかと。信は「いや、少しはなんか分かった気がする」っていうんですけど、これは言葉にはできないような経験をしたということだと思います。

伊藤氏:なるほど。

麻野:企業でも、結構2代目社長の方っていらっしゃるじゃないですか。場合によっては、2代目の方が社長になることって批判されたりします。全社員の中から一番優秀な人を選んだ方が、会社経営はうまくいくんじゃないかと。でも、意外と2代目社長を選んだことでうまくいったって企業はたくさんあると思うんですよね。いろんな理由があると思うんですが、僕はその中でもやっぱり、小さいときから将軍の見る景色みたいなものを、近くでちょっとずつ見ていることや、将軍が全体最適で判断することを見ていることによって、その習慣が身についているんじゃないかと思ったりするんです。

伊藤氏:なるほど。そういう要素はありそうですね。例えば麻野さん、2代目じゃなくても、普通のいち組織人が経営視点を持つために、1段飛ばし、2段飛ばしで経験させるということは効果が高いですか。

麻野:そうですね。やっぱり経営者の近くで仕事をしていると、全体最適や中長期の視点で会社を見るということはあると思います。現場だけで仕事をするのではなく、コーポレートデザインという仕事に行ってみて、その後また現場に戻ったりというのは有効だと思います。そういうふうに会社を見る視点を変えるというのは大切なことだと思いますね。

伊藤氏:僕が運営するYahoo!アカデミアのプレゼン大会というのがあって、予選から勝ち抜いた社員が300人の前でプレゼンするわけですよ。でも300人の社員の前でプレゼンなんて、なかなか経営層じゃないと経験できない。「うまくプレゼンできなかった」「すげー興奮した!」「死ぬほど緊張した」とかっていろんな感想を言っていました。いわばあれも将軍の見る景色なんだなって。

麻野:いいですね。

伊藤氏:そしてまた別の視点で、「今回とは全然違うけど、あの場で言いたいこと言える?というか持ってる?」って聞いてみたりするんです。

麻野:いいですね。うちの会社でもやりたいです。

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伊藤氏:当然、疑似体験でしかないんだけど、信が王騎の馬に乗せてもらったことも疑似体験です。その中で感じるものがあった、ということですよね。

麻野:そうですね。ロールスイッチ、役割を入れ替えてみるという思考法ですね。

進行:ありがとうございます。それぞれ1つずつでしたが、もう予定の時間を半分使ってしまいました(笑)。残り2つずつ、引き続きよろしくお願いします。

 

次回、キングダム 名シーンから学ぶ最強のチームと自分のつくり方 トップが直接語りかける。オフィシャルとカジュアル。は9月27日公開です。

伊藤羊一氏の著書『キングダム 最強のチームと自分をつくる』はこちらから

INTERVIEW・TEXT/ SHINICHI HAYASHI(Manazasu.INC)

PHOTO /MAO YAMAMOTO

ILLUSTRATION/NATSUKO OSHIMA