キングダムが教えてくれる最強の組織のつくり方
キングダム 6つの名シーンを語り合う
伊藤羊一×麻野耕司
トップが直接語りかける、オフィシャルとカジュアル。

SHARE

大ヒット書籍『キングダム 最強のチームと自分をつくる』の著者でありヤフー株式会社コーポレートエバンジェリスト・Yahoo!アカデミア学長である伊藤羊一氏を迎え、キングダムの大ファンであるリンクアンドモチベーション執行役員 組織改善クラウド「モチベーションクラウド」事業責任者の麻野耕司が、組織づくりという観点からキングダムの名シーンを語り合った。

【プロフィール】
ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト
Yahoo!アカデミア 学長 伊藤羊一 氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野耕司 

トップがオフィシャルに直接語ることの重要性
『政が民に語りかける』

進行:HR領域のトップランナーであるお二人に、組織づくりという観点からキングダムの名シーンを3つずつ挙げて解説して頂く今回の対談。前回は、渕(えん)さんの川渡りと王騎(おうき)将軍の馬から見える景色のシーンを挙げて頂きました。それでは次の名シーンをお願いしたいと思います。

麻野:はい。次は僕からいきますね。これ本当に大好きなシーンなんですけれど、合従軍と秦との戦いのクライマックスで、蕞(さい)という地で政が民に語りかけて鼓舞するシーンです。

伊藤氏:31巻ですね。

麻野:即答ですね(笑)。

伊藤氏:これ、読んだことない人からすると、なんでそんな巻数まで知ってんだ、みたいなね(笑)。ばかじゃないのお前ら、みたいな(笑)。

麻野:改めて、今回は本当にマニアックというか、キングダムを読んだことない人にはなんのこっちゃな対談をしてますね(笑)。ちょっとそのあたりは気にせずに、今回は進めていきましょう。
31巻のここです、「聞かせたい言葉がある」。いやぁ、痺れます。「聞かせたい言葉がある」。

HR2048_05

伊藤氏:相当好きなんですね(笑)。

麻野:はい(笑)。この「聞かせたい言葉がある」から「絶対に守り切るぞ」まで。ほんとすごいです。弊社の投資先にラクスルという会社があるんですけど、松本社長がここを読んだ後に「麻野さん、僕改めて、モチベーションの大切さが分かりました」って仰ってました(笑)。やっぱりトップ自らがメンバーに直接語り掛けるっていうことって、すごく大事なことだと思うんですよね。

伊藤氏:大事なことですね。

麻野:自分たちがどこに向かっているのかっていうのを話せるのは、やっぱり本当の意味ではトップだけだと思います。僕たちが提供しているモチベーションクラウドという組織を診断・改善するツールがあるんですけど、その中にいろんなデータがあるんです。エンゲージメントを測る64個の項目の中で、日本企業が一番低い項目って、「階層間の意思疎通」なんですよ。経営と現場の意思疎通ができてないということを、みんなが良くないと感じていて、やっぱりトップの考えがメンバーに届いてないことが多いんですよね。

今までは、トップの考えをそこまでメンバーに伝える必要もなくて、決まったことを決まったとおりにやっていればビジネスが進んでいくっていう会社も多かったかもしれない。けれど、環境変化が激しくなる中で、やっぱり今自分たちがどこに向かっているのかっていうのを、ちゃんと示していかないといけない。昔よりも今はトップがメンバーに語り掛けないといけない時代になってきていると感じます。

4月にシリコンバレーのFacebookに行ってきたんですけど、毎週金曜日の16時から17時は、マーク・ザッカーバーグが社員を食堂に集めて、セッションするらしいんですよ。質疑応答の時間を設けている。食堂はもういっぱいになるらしいです。Facebookは全社員で1.5万人程いるので、動画でつないで質疑応答して会社の今について話をするらしいんですね。そこにはシェリル・サンドバーグとかもいて、みんな自由に質問する。

「マークの給料はいくらなの?」とかも聞かれて。「そんなの聞くなよ(笑)」みたいな。「それはじゃあシェリルに答えてもらおう」って言うと、「それはやめてよ(笑)」みたいな。そんなカジュアルなやりとりまであるらしいんですけど、話しやすい雰囲気の中でトップがメンバーに対して会社が向かう道を示しているんですよね。日本企業ではそういう場面が少ないかもしれない。こういうことができるようなリーダーが求められてるんじゃないかなって思います。

om_image_20170913_11

伊藤氏:まさにそうですね。麻野さんが「日本企業ではトップが語る場面が少ない」と言われましたが、その背景には僕は二つあると思っていて。一つはそもそも、こう言っちゃ身も蓋もないんだけど、語るべきことがあんまりないっていうトップが意外と多いんじゃないかな、っていう。僕もスタートアップの人たちと付き合うことが多いのですが、彼らや彼女らがすごく魅力的だなって思うのが、「これで世界を変える」とか「これで世界を笑顔にするんだ」みたいな強い思いをすごく持ってるということ。だからやっぱり語るべき言葉があるなっていう感じがする。こう言ったらなんだけどやっぱそういう強い思いをあんまり持っていない雇われ社長が、比較的これまでの日本企業って多かったんじゃないかな、って。

麻野:なるほど。例えば社員総会で講和するときも、誰かに原稿を書かせてる、みたいな。

伊藤氏:そうそう。俺はこう思うんだよねっていうのがあまりないから、そもそもそういう場に立とうとしなかったり。

もう一つあるのは、社長が社員と同じフロアで席を並べてカジュアルに対話をするっていう機会って、本当に驚くほど少ないんじゃないかなと。もともと僕は銀行に務めていたので、銀行とかだったらありえないわけですよ。頭取がいらっしゃったら、ハハーみたいな感じですよ。

FacebookもそうですしGoogleとかの場合、やっぱりそういうことをやっている。ヤフーでも社長の宮坂は結構ラフにいろんなフロアを回っていて。今も一緒に、時に車座になって話をしています。

僕の選ぶ名シーンも政、まさにこの蕞(さい)という地での戦いの夜の出来事です。32巻から。政がオフィシャルな場で堂々と民に語った後、戦いの最中の夜に「少し邪魔するぞ」ってみんながいるところに入って話をするっていうシーンです。

トップがカジュアルに直接語ることの重要性
『政が民の中に入って、語りかける』

HR2048_04

麻野:なるほど。オフィシャルな場とセットでカジュアルな場でトップが語る、ということですね。

伊藤氏:そうなんです。これがまさにFacebookのマーク・ザッカーバーグがやっている感じですよね。みんなの中に入って労って、それで「明日の夜も語らうぞ」って言って帰ってくるっていう。オフィシャルな場とカジュアルな場がセットになって、トップのメッセージが伝わるのかなという感じがしますよね。カジュアルに話す時には肩に手をかけるし、手を握るし、そういうコミュニケーションになってくる。さっきの堂々としたオフィシャルな宣言の時とは、立ち振る舞いとか声の出し方も全然違いますよね。

om_image_20170913_04

麻野:モチベーション理論というのがありまして、モチベーションっていうものの多くは「目標の魅力」×「達成可能性」で構成されていると言われます。「目標の魅力」を民に対して伝えているのがこの全体の前で語っているシーンだと思います。要は、何のために戦うのかっていうことを政は伝えています。また、その手法としてタイムスイッチという方法で、時間観を変えながら歴史を語っているんです。

伊藤氏:WHYを語るんですよね。

麻野:そうです。
「そなたらの父も、またその父たちも同じように血と命を散らして今の秦国を作り上げた。今の生活はその上に成り立つ。降伏すれば敗れればそれらは全て無に帰し、秦の歴史はここで途絶える」っていう、この過去の歴史を語るんですよね。その上で未来、「秦人の多くは虐殺され、生き残った者は土地を奪われ、列国の奴隷に成り下がるであろう」っていう時間軸を使って語ることで、やっぱりそういう何のために戦うかっていうのを話していると思うんですよね。

オバマさんが大統領就任演説のときも、歴史を語っているんです。アメリカ合衆国は数ある困難に立ち向かってきたと。それは、かつての大恐慌とか、第二次世界大戦とか。で、今こういう苦しい状況にアメリカはあるけれど、みんなの力でそれを乗り越えるんだっていうスピーチをされました。みんなが思っているよりも長い時間軸の中で、今やっていることにどんな意味があるのかっていうのを語れるのは、やっぱりトップならではかなっていう感じがするんですよね。それを通じて、今頑張ることの目標の魅力を高めていくと。

そしてさっき伊藤さんがおっしゃっていたような、そのあと夜に民のもとへ行って「良くやっているな」っていうのは、「目標の魅力」に対して「達成可能性」ということにアプローチしているんじゃないかなと思います。俺たちはできるとか、みんなよく頑張ってくれたって伝えることで、みんなに自信や力が湧いてくる。

伊藤氏:たしかに。時間軸で話すというのは、人の心を動かすプレゼンテーションという意味で、とても大切な要素ですね。

次回、
キングダム、名シーンから学ぶ最強のチームと自分のつくり方
組織の去り方・送り方と、ビジョンが人を動かすは10月4日公開です。

前回の記事「キングダム、名シーンから学ぶ最強のチームと自分のつくり方 one for all, all for oneの体現と、トップが見る視界」はこちらから

伊藤羊一氏の著書『キングダム 最強のチームと自分をつくる』はこちらから

INTERVIEW・TEXT/ SHINICHI HAYASHI(Manazasu.INC)

PHOTO /MAO YAMAMOTO

ILLUSTRATION/NATSUKO OSHIMA