キングダム名シーン
組織の去り方・送り方と、ビジョンが人を動かす。
キングダム名シーンが教えてくれる最強の組織のつくり方
伊藤羊一×麻野耕司

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大ヒット書籍『キングダム 最強のチームと自分をつくる』の著者でありヤフー株式会社コーポレートエバンジェリスト・Yahoo!アカデミア学長である伊藤羊一氏を迎え、キングダムの大ファンであるリンクアンドモチベーション執行役員 組織改善クラウド「モチベーションクラウド」事業責任者の麻野耕司が、組織づくりという観点からキングダムの名シーンを語り合った。

【プロフィール】
ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト
Yahoo!アカデミア 学長 伊藤羊一 氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野耕司 

組織の去り方・送り方 『羌瘣(きょうかい)が飛信隊を離れる』

進行:HR領域のトップランナーであるお二人に、組織づくりという観点からキングダムの名シーンを3つずつ挙げて解説して頂く今回の対談。前回までに、渕(えん)さんの川渡りと王騎(おうき)将軍の馬から見える景色のシーン、政が民に語りかけるシーンのオフィシャルな場、カジュアルな場をそれぞれ挙げて頂きました。今回が最後ということで、それぞれ1つずつお願いします。

伊藤氏:はい。僕がぐっとくるシーンということで、23巻です。飛信隊の副長である羌瘣(きょうかい)が飛信隊を去るシーンです。羌瘣は特殊な彼女の生い立ちから、様々な事情を抱えています。戦いがひと段落した段階で、仇打ちをするために隊を離れることを決心する。誰に打ち明けるわけでもなく、夜明け前に隊を離れてあるくのですが、隊長の信をはじめ、みんなが見送りにきていたというシーンです。

麻野:こっそり暗い内に出発したのに、みんなで見送りにきていたシーンですね。

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伊藤氏:そうです。このシーン、すごく好きなんです。チームワークというか、絆を感じます。羌瘣は、1回いなくなるんだけれど、また戻ってくる。飛信隊を去っても、また戻ってくるということは、こういうシーンを通じて、やっぱり仲間だということを感じているんでしょうね。

麻野:別れる時にやってもらったことが忘れられなかったんでしょうね。

伊藤氏:そうそう、そうなんですよ。だから戻ってくるというのはあると思うんですよ。

麻野:それで言うと、これからの時代は人材の流動化とかも進んで、人の出入りっていうのも増えてきたりする中で、辞める人の送りだし方とかも大事なんでしょうね。

伊藤氏:絶対そうだと思いますね。辞める側も、いつ、どこで、どう繋がりがあるか分かんないし、流動化が進めば進むほど近いところで仕事をすることも多いわけだから、辞める時にみんなから送り出されるような辞め方をしなきゃいけないと思うし。そして、送り出す方もいつでも戻っておいでよっていう状況を作っておくことって、すごく大事。

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麻野:そうですよね。また戻ってきたいなって思えるような、最後の送りだし方ができるかってすごく大事ですね。辞めて他の会社にいってしまったとしても、自社では経験できないことを経験して戻ってきてくれるなら、ものすごい戦力になるかもしれないですし。

伊藤氏:そうそう、そうなんですよ。それは絶対そうですね。
僕今、Yahoo!アカデミアっていう企業内大学を運営しているんですけれど、その中で「自分に気付け」「自分の人生を自分でドライブしていこうね」と伝えているんです。僕は別にヤフーのために働けとかって一切言ってないんです。「どんどん覚醒していこうぜ」って。すると、目が覚めた結果、ヤフーじゃなかったっていう人が一定数出てくるんですよ。どうするかっていうと、僕らはいつかまた何かあったら一緒に働こうよって言って送り出します。終身雇用の時代ではなくなってきていますから。それでいい。出て行くこともあれば、戻ってくることもある。

麻野:そういう意味では、この飛信隊が羌瘣を見送ったのは、最高の送りだし方ですよね。一生忘れられないですよね。また戻ってきたいな、と思う。

伊藤氏:僕自身も、今回この本を書いて、前職であるプラス株式会社のオーナーに送ったわけですよ。そしたらオーナーからものすごく優しいメールが届きまして。

「君の生きざまそのものだよね」って。
「懐かしいと思いながら読んだ。これからも相談よろしくな」っていただいて。
そのメール見ながら涙が出て。めちゃくちゃ嬉しかったです。そういう関係でいられるっていうのはすごい幸せだなって思っていて。

麻野:素敵なエピソードですね。

 

ビジョンが人を動かす 『政が中華統一のビジョンを語る』

進行:ありがとうございます。それでは麻野さんの選ぶ名シーン、お願いします。

麻野:僕は、最近なんですけど、斉の国の王が、政と会って「あなたに託す」っていうシーン。僕むちゃくちゃグッときました。

伊藤氏:なるほど。45巻ですね。
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麻野:斉王、王建(おうけん)と政が話すシーンなんですけれど、王建が政に問うわけです。政が思い描く「中華統一」のビジョンを。それに対して政が真正面から答えていくわけです。

伊藤氏:これは、なかなか緊張感のあるシーンでしたね。

麻野:ネタバレになってしまうので、政の話は詳しくお伝えしませんが、政の話を聞いて王建は心を動かされるわけです。
「この中華はもううんざりするほど血を流してきたが、泥沼からの出口が見つからぬまま、これからもずっと血を流すのだろうと。儂はもはや出口はないものと思っていた…。が、ひょっとしたら出口の光を今見つけたのやもしれぬ。秦王よ、そなたにならこの全中華の舵取りを任せてもよいぞ。」

これすごいですよね。政のビジョンが斉の王を動かした、という。斉と戦っていたらもう何万人・何十万人が死んでいたわけじゃないですか。それをこのビジョンで、血を流さずに動かすっていうのはすごいなって思って。

伊藤氏:そうですね。政にしても、兵として戦っている人にしても、民にしても、戦いをなくして平和になった方がいいじゃん、ってみんな思っている。それを政が新たな枠組みのビジョンを掲げて、大目的で繋げていくという感じですよね。

麻野:仕事に置き換えたときにも、やっぱりすごいリーダーっていうのは仕事を「行動」のレベルだけで語らず、その上の「目的」のレベルだけでもなく、「意義」のレベルで語れるリーダーだと思います。キングダムという漫画の中でやっぱり政だけが、「何のために戦争するのか」「何のために中華を統一するのか」ということをはっきりと話していると思います。

行動レベルが「戦争する」ということ、目的レベルが「中華統一」、その先にある意義が「戦のない世界」であって、政が考える統治の仕方があるわけです。抽象度を上げ下げして物事を捉えるという思考を「ラダー効果」というのですが、ラダーの一番上を政は語っている。こういう意義や意味を語れる人が、真のリーダーなんだと思いますね。モチベーションクラウドでも全体のエンゲージメントスコアに影響を最も与えるファクターは「理念戦略」だというデータが出ています。やはりみんな意味を求めて働いているんですよね。

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伊藤氏:おっしゃるとおりですね。
政ってもうずっと最初のころから「戦争をなくす」って言ってるんですよね。5巻とか6巻とか、それくらいから。39、40あたりもそうですし、ここでもそう。

麻野:だから政のビジョンに惹かれて仲間が増えていくんですよね。もともとは敵側だったあの人やあの人も。

伊藤氏:政はもうかなり初めから明確にビジョンを語っているわけですが、現実の社会においてビジョンっていろいろとぐるぐる回しながら雪だるまみたいに大きくなっていくんじゃないかなっていうふうに思うんですけど。麻野さんは数々の起業家や経営者に会われてきて、そのあたりどう感じられますか。

麻野:僕もまさにその通りだと思いますよ。やっぱり起業家の人も、最初は「なんか会社作って、経営者って肩書きとかかっこいいかな」くらいで始める人もいると思います。けれど、応募者だったり社員だったり投資家だったりに「なぜこの会社を経営しているのか」「これからどうしていくんだ」と問われながら、考えて、答えて、問われて、考えて、答えていく中で、研ぎ澄まされていくんだと思います。

経営者は、問われる回数が圧倒的に多いので、例えば成長企業なんかでも、トップとナンバー2以降の力の差が開いていくことが多いのだと思います。「何のために」を問われるということは、大事なことですね。

伊藤氏:問われて、考えて、答えてということを繰り返して、ぐるぐるぐるぐる回していく。そうやってビジョンを大きくしていく、研ぎ澄ましていくっていのは大事ですね。そういう意味では、経営者じゃなくても、やっぱりとにかく何か自分のことを話す場に出るとか、矢面に立つ経験をしていくと、何かをせざるを得ないので、考えが深まっていくというのはありますよね。

逆に言うと、最初から「今おれはビジョンがあんまりないからちょっといまいちだな」とか思わなくていい。やっぱりちょっとしたことにわくわくしたりとか、褒められてありがとうって言われて喜んだりとか、なんかそういうところに出発点があって。そこからじわじわじわじわ育ててくっていうことがすごく大事かなと思います。

麻野:そうですね。キングダムで言うと信はそうやって成長してきている感じがしますよね。最初の頃は、「強い敵倒す!」くらいしか考えなかったんですけど、だんだんと自分はこんなチームを作りたいという気持ちが出てきたり。桓騎(かんき)という独特なリーダーシップを発揮する将軍の近くで戦うことで、その相対化の中で、自分が大切にしたいこととかリーダーとしてのポリシーみたいなものが育まれていっている気がしますよね。

伊藤氏:そうそう。だから僕は信が好き。そういう人や気持ちを育てたいと思って今の仕事をしているから。

進行:ありがとうございました。盛り上がっているところ恐縮ですが、そろそろお時間になりました。

麻野:あっという間でした。これ永遠に話せますね(笑)

伊藤氏:本当に。また話しましょう!

麻野:ありがとうございました!

第1回目の記事「キングダム、名シーンから学ぶ最強のチームと自分のつくり方 one for all, all for oneの体現と、トップが見る視界」はこちらから

第2回目の記事「キングダム、名シーンから学ぶ最強のチームと自分のつくり方 トップが直接語りかける、オフィシャルとカジュアル」はこちらから

 

伊藤羊一氏の著書『キングダム 最強のチームと自分をつくる』はこちらから

 

INTERVIEW・TEXT/ SHINICHI HAYASHI(Manazasu.INC)

PHOTO /MAO YAMAMOTO

ILLUSTRATION/NATSUKO OSHIMA

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