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激動HR TechでのGoogleは誰か? 日本での勝ち筋は? 今 HR Techが美味しい ~全てが数値化される時代の人生スゴロクは? ーPost AI時代のHR Techとは、管理者にとって働く人にとっての環境変化~

マッキンゼー、Google、楽天…13職を経て、気鋭のIT批評家として知られる尾原和啓氏。新著『モチベーション革命』はKindle版DL初日でAmazonランキング1位に。今回、尾原氏に寄稿頂いた短期連載では、世界最大の人事イベント「HR Tech Conference 2017」の総括を元に、これからのHRテック事情について、押さえておくべきポイントについてレポートしていきます。

【執筆者】IT批評家、藤原投資顧問シニアアドバイザー 尾原 和啓氏

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※今年20年目となるHR Technology Conference 写真は元グーグル人事担当責任者で「ワーク ルールズ」の著者 ラズロ・ボック

第1回目第2回目では、HRテックの最新トレンドや、その前提となる文化的背景などについてお話ししてきました。

ラストは、これから2〜3年後にHRテック業界で起こるであろう未来について、アドテクノロジー(通称:アドテク。インターネット広告やそのテクノロジー技術)の歴史や、AIの進化をおさらいしつつ、探っていきたいと思います。

AIの時代はデータを握るプレーヤーが勝つ

まず前提として、HRテックが今後技術的にどう進化していくのか、実例を元に見ていきましょう。AIはあらゆる作業や計算を自動化してくれるものですが、昨今では未来予測までできるようになってきています。

そのためには膨大な学習データが必要です。そしてこの「データ」を巡って、GoogleやFacebook、マイクロソフト社などのあらゆる大企業が凌ぎを削ってきました。

そして今、そのスポットライトはHR業界にも向けられています。

そもそも、AIによる未来予測とはどういうことか?例えばGoogle Mapsを見てみましょう。ドライブ中、Google Mapsの渋滞情報を使った最短距離のルート検索をしたことはありませんか? このシステムは、もともとGoogleの外部から入手した最新の渋滞データによって行われているものでした。

しかしこの時点で、Google Mapsは他社サービスより精度が優れていたため、次第に多くのユーザーとデータを集めるようになっていきます。

2番目の進化は、ユーザーのデータが集まることによって起きました。ユーザーが許可さえすれば、スマホのGoogle Mapsで、ユーザーが実際に利用している場所と移動速度を、匿名のままでもデータとして利用できるようになったのです。

これによって、リアルタイムで起きている事故や渋滞も感知できるようになり、渋滞情報を提供していない地域でも正確なルート情報を提供することができるようになったのです。こうなれば、もはやGoogle Maps一強ですよね。

3番目の進化は、ユーザーのデータが集まることによって予測される「未来の渋滞情報」です。つまり、Google Mapsだけが、数十分後の渋滞を予測できる。

さらに、一定数のドライバーがある抜け道に集中することを考慮し、さらに別の抜け道や、そろそろ空いてくる本道へと案内してくれるようになる。

やがて、最も効率的な渋滞情報を握っているのはGoogle Mapsだけ、ということになるのです。

これらのシステム的な進化については僕の推測ではありますが、少なくとも、HRテックはGoogle Mapsと同じような進化を遂げていくと言えます。

なぜなら、第1回目第2回目でもお話してきた、個人の「人生すごろく」、つまり生涯のキャリアプランについての“未来予測”システムを開発していくべく、あらゆる企業がその準備を初めているからです。

アドテクの歴史が指し示すもの

さらにインターネットの歴史から考察してみましょう。今後、HRテックで起こるであろうことは、アドテクの変遷を参照すると非常にわかりやすいです。

そもそも、昔はとにかくたくさんの人に広告を見てもらえればよかった。

でも、テクノロジーの進化によって、ユーザーの解析システムができるようになり、特にeコマースなどが進んでくると、長期的に見てどの媒体がもっとも効果的にお客さんを呼べるかがわかるようになってきた。

つまり、「この商品ならこの媒体に広告を出すのが効果的」というようなことがデジタルで一目瞭然になったのです。

HRテックもおそらく同じ道をたどるでしょう。つまり、今後HRテックの技術進化によってデータが一気に集まったとき、どの社員が、本当に会社に貢献してくれるかが、全て可視化されるようになるのです。

何より、これまでHRテックでは「採用」にもっとも比重が置かれてきたけど、これからは「評価」や「育成」に焦点が当てられていく。

なぜなら、これまで第1回目第2回目でもお話ししたように、これからは、AIやデジタルHRの技術によって、個人の成長をより詳細に、効率的に促せるようになるからです。

AIによる富は「育成データ」に集中?

今後、育成システムがどんどん開発され、Google Mapsのように「育成」についてのデータが溜まってくると、どのような人材を探せばいいのかが明晰になるので、採用プロセスも非常に細かくなります。

すると、育成のデータを持っている人が、採用を担当した方がずっと効率がよくなる。

今までは、採用担当者は採用データしか持っていないから、その後どうやって成長していくかが見えないために、ひとまず高学歴だったり大企業だったり、営業ナンバー1の成績をとったことのある人だったりを採用するしかなかった。

しかしこれからは、肩書きを持たない人でも、ある環境では非常に成長して、能力が開花していく、という伸びしろまでわかってくる。

端から見れば優秀には見えない人材でも、能力を理解したり、伸ばすことができる、もしくはそういう人を採用する会社が圧倒的に強くなっていくのです。

つまり、一見役に立つのかわからない能力を持った人でも、膨大な育成データによって、どう育成すれば化けるか、という方法論まで見えてくるようになる。

だからこそ「育成」についてのデータを握っている人こそが、他社よりも有利な採用をすることができるようになるわけです。

少なくとも、現状のアドテクは上記のような状況になっています。つまり、どんなユーザーがお金を払ってくれて、かつ他のユーザーを巻き込んでくれるか、ということがデータでわかっているから、どの層に向けて広告を出せばいいのか、細かな方法論まで見えているんですね。

HRテック業界のベンチャー事情は

今は、採用システムに力を注ぐプレーヤー(企業)が最も強い状況です。しかし前述したように、「育成」のデータを持っている人が採用の場に乗り出した方が強くなる。

すると、今後は採用プレーヤーが、育成のデータを掌握したビッグプレーヤーにどんどん買収されていくようになる。実はこれも、アドテクですでに起こったことなんです。

例えばこれまでも、広告メディアをもつプレーヤーは、ユーザーのコード分析ができて、かつユーザのデータを大量に握っているプレーヤーに、どんどん買収されていった。

結果、蓋を開けてみると、GoogleとFacebookの2強になった。なぜなら、両者は他社よりもユーザーのデータを持っているからです。

だからオラクルやIBM、SAPなどのプレーヤーは、まずユーザーのデータを手に入れるために非常に多くのお金をかけていますし、今後HR業界において、採用プレーヤーを買収していくでしょう。

逆に言えば、今の段階で、業界内の”育成投資ゲーム”に参入しても勝ちいくい。むしろ採用システムで、何かキラリと光る個性や独自のやり方を打ち出せるような、専門性に特化したプレーヤーの方が買収されやすくなると思います。

企業と個人のテクノロジー進化によって何が起きるか?

今は企業側のテクノロジーばかりがフォーカスされていますが、今後は個人側のテクノロジー進化が加速します。この流れも、すでにアドテクで起こったことです。

アドテクでは、広告を買う側のテクノロジーから先に進化したのですが、やがて売る側、つまりメディア側のテクノロジーも進化した。すると、広告を買う側と売る側のテクノロジーの基盤が同じになって、綺麗にマッチングできるようになった。

つまり、広告を売る側、買う側それぞれのプレーヤーが、一つのプレイに集約されていくようになる。それが今のGoogleであり、Facebookがその後を追いかけている状況です。

HRテックでも、時間はかかれど同じ状況になっていくでしょう。個人側のデータを掌握するプレーヤーが出始めているからです。

個人側のキャリアプラットフォームとして最強なのが、ビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービスの「LinkedIn(リンクトイン)」です。

既に個人側のキャリア指向性のデータだけではなく、個人がキャリアに関してのプレセンテーションを共有するSlideShareなど、第2回目で書いた営業マンのGitHubというアウトプットの可視化プラットフォームやLynda.com というオンライントレーニングサイトも傘下にもっています。

リンクトインはマイクロソフトに2016年12月262億ドル〔2兆9800億円〕で買収されました。マイクロソフトは企業内利用ソフトではいわずとしれた巨人です。

彼らは既に Outlookなど企業内での個人のスケジュールやメールのやりとりという今後の活用されうる行動データを山ほど持つソフトの大手ですし、Power BIやSharepointといった企業の経営・組織マネジメントツールをもっています。

そのマイクロソフトが2兆円をかけてLinkedinを買収したとなると彼らはHRテック業界に間違いなく参入してくる。

そうすると、必ず企業側の情報と個人側の情報をマッチングするプラットフォームが産まれ、企業側の情報と個人側の情報を買収することで1社が統合管理するところが産まれてくれる。この辺りが、この先の未来の面白いところですね。

すでにHRテックに参入している採用プレーヤーからすると、ここ1、2年で頑張って専門性を上げていけば、オラクルやIBM、SAP、マイクロソフトまでもが買収してくれる。

ベンチャーから見れば、こんなにエキサイティングなタイミングを楽しまない手はないでしょう。なぜなら、買収側が競ってくれた方が、買収額がうんと高くなるから。

それにたとえ1位、2位になれなくても、4位までに入れば買ってくれる。ベンチャーからしてみるとこんなに安全なマーケットはない訳です。

こういった現状を含めて、HRテックの未来は、アドテクの歴史からなぞることができるのです。ちなみにアドテクの時は、GoogleとFacebookに加え、当時はまだYahoo!にも勢いがあったし、AOLも元気だった。そしてマイクロソフト、この5社のどれかが買ってくれた。

だから当時のベンチャー企業は、この5社を目指していたし、中には5番目でもいいから勝ち逃げに走るプレーヤーもいたくらいでした。

以上が、アドテクの歴史と、AIの進化から推測するHRテックの近未来の様相です。

最後に

アドテクの歴史がそうだったように、そしてAIの進化が指し示すように、テクノロジーは、社会や個人の選択肢を広がる方向に進化していくものです。それなら、進化していく方向を個人として選択していくのか、それとも選択そのものをしないのか。

今後、HRテックが進化していけばいくほど、働き手である私たちは、常に「自分がどうしたいか」を問われるようになるのかもしれません。

技術の進化と同時に私たちも、進化を続けていけるよう、うまく使いこなしていければです。

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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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