「Apple・Googleを超えていく」。独自のカルチャーで目指す未来。

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ビール市場が縮小の一途を辿る中、新カテゴリとして注目を集めているのが、クラフトビールだ。ヤッホーブルーイングは、12年連続増収増益を続け、クラフトビール界のトップメーカーとなった。同社の看板製品である「よなよなエール」はもはや、クラフトビールの代名詞とも言える知名度を誇り、コンビニエンスストアで手に取ることができる。しかし、ヤッホーブルーイングに注目が集まるのは、売り上げやブランドだけが理由ではない。自らが熱狂するだけにとどまらず、そしてファンをも巻き込むその独自のカルチャーはどのようにして生まれ、どのように進化しようとしているのか。
「ヤッホーブルーイングはただのビール会社ではなかった」。その言葉の真意を解き明かす。全2回で構成された、井手社長へのインタビューの後編。

【プロフィール】
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手直行 氏

成果=行動+運/不運。一人ひとりの成果をディレクター全員で見る。

-井手さんが社長に就任される前後に、未来を信じられないと会社を辞めていった人たちがいたということでしたが、近い将来すら信じられないという状態から、壮大な未来を信じられる状態にまで変化できているのはどうしてでしょうか。

井手直行氏(以下、井手氏):評価制度と業務を通じてミッションが果たされているということを感じられているからだと思います。ここでは評価制度についてお話しできればと思います。評価項目は「先読み改善行動」とか「達成志向性」「チーム行動」など9項目あります。ハイパフォーマンスをあげるメンバーの要素分析をしたことから抽出された項目です。ただ、素晴らしいパフォーマンスを発揮する人が、すべてにおいて特別だとは思っていません。

というのも、「成果=行動+運/不運」だと考えているからです。営業職で説明するとわかりやすいですが、通常、営業職は実績評価といって、売り上げに応じて給料が決まったりします。その売り上げが営業の成果だと言う人がいますが、実は違っていて。成果というのは、取った行動に対して、運や不運が働くわけです。

ビールメーカーで言えば、どれだけ質も量もいい行動をしていたとしても、今年の夏が長雨で、軽井沢が寒かったら、売り上げには繋がりにくいんです。でも来年の夏は暑くて、ビールがよく飲まれる季節になったとしたら、同じ行動を取っていても、倍以上売れたりするんです。行動の部分は見るべきですが、運や不運はどうしようもない。この不安定な要素を加味して成果と呼ぶのはおかしいという考え方を持っています。

評価という点では、9つの評価項目に対して、ディレクターが自分のチームメンバーに対して5段階評価をつけていきます。ただ、ディレクターの目線が合わないとチームが変わったら同じ行動を取っても評価が変わってしまうので、ディレクターになった段階で、評価の目線合わせの研修を受けます。その上で、評価の時期になると、ディレクター全員で評価を持ち寄って、目線を合わせるミーティングを行います。

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自分のメンバーの仕事ぶりを知っている他のディレクターからも、「彼女のあの一連の行動を考えたら、Bの評価でいいんじゃないか」といった意見が出たり、他のディレクターからは、「この行動が安定的にとれるんだったらBじゃないの」といった意見が出たり。そういったやりとりを、全員分やるんです。これまでは年に二回、2日がかりで全員分をやっていましたね。

ただこれができるのは、小チームだから。100名部下を抱えるディレクターはどうしても細かく見ることができないので、5~10名ほどの小規模チームを理想として、メンバーの発言や行動をきちんと把握できて面談で話せるようなチーム編成にしています。

-評価を通じて信頼関係をつくるというのは、ひとつのやり方だとも思いますが、そこに対してかけるコストからコミットメントの高さが伝わってきます。

井手氏:半端じゃないですよね。その「目線合わせをしている時間があったら、現場でビールを売りたいです」といって、面談をないがしろにすることは許さないと言うか、この場が大切だと思っているんです。

今は更に組織が大きくなって、その目線合わせ委員会だけでも3日かかるようになってきたんですよ。僕たちのこのやり方は大切にしたいし、きっともうすぐ200名・500名規模の組織になるから、これを機会に形を変えようとしているところです。今回からディレクターの集まる目線合わせ委員会を2チーム制に分けて実施することにして、僕は入らないことにしました。今回分割してしっかり運用ができたら、永続的にできるからとチャレンジしているところです。

社員は家族。その言葉の本気度。

-ありがとうございます。周囲に任せることも増やしながら、井手さんが今最も時間を割いていることは何でしょうか。

井手氏:そうですね。すべての業務を置いたとしても、最優先でやることは人にかかわることですね。以前は何でも自分が真っ先にと対応していたんですが、今は、ディレクターや人事の責任者に任せるようにしながら。でも僕も入っていきます。すべての仕事の中で最も優先度高く、24時間対応するテーマですね。 

「休職したい」「退職を考えている」と聞けば、必ず直接話します。納得できる理由であれば、頑張れと言いたいんですが、もったいないなと思う理由ならば、とことん話しをして。それをする根本は、社員は家族だと思っているから。綺麗事じゃなく社員って、自分の弟や妹、息子や娘のような存在。だから、力になりたいと思います。以前は、人がいなくなったらまた採用しないといけないし、育てないといけないしという、採用コストにかかわるというビジネス的な発想もありましたけど、今はなくなりました。

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悩みの内容は仕事からプライベートまで様々ですが、例えば、奥さんも含めた家族の問題を抱えているということなら、家に来てもらって、うちの奥さんも一緒に話をしたりもしますね。仕事の悩みだけならば解決できることがほとんどですが、プライベートの悩みは難しい。僕ではいい知恵が出してあげられないことは、「お母さんと話してみたら」とか「同期の方がフォローできるかもしれない」といったアドバイスをすることもあります。誰かの悩みがなくなっても、誰かは悩んでいるので、常に継続していることですね。社員の相談に乗るということは。

今の自分たちなら、組織の成長を阻む壁を超えて、もっとすごいカルチャーをつくれる。

-最後の質問です。先ほど、200名・500名の規模になったときを想定されたお話が出ましたが、50名の壁・100名の壁といったように、組織が大きくなることで生じる問題があると思います。そのあたりの乗り越え方はどうお考えですか。

井手氏:そうですね、その壁についてはずっと考えていることですが、その壁は破れると思っています。例えば、AppleやGoogleって、一風変わった文化を持つ企業だと思っています。日本の大手企業と比較すべきではないかもしれませんが、雰囲気が違いすぎるわけですよ。従業員規模や売り上げをはじめとして、世界のトップを争うスケールの会社であっても、その文化を失わずにいられる。スティーブ・ジョブズもラリー・ペイジも、企業文化をつくり落とし込むことに力を注いできたと思うんです。

だったら、ヤッホーブルーイングにだって、できないはずがないと思うわけです。僕はカルチャーの大切さを心底わかっている。いきなり1万名規模の会社経営を任されているわけではなくて、僕は創業メンバーだから。従業員が20名の頃から、このカルチャーをつくることを一生懸命やってきて、今150名の段階で手応えがある。そのカルチャーを維持するどころか、もっとすごいカルチャーにしていこうと思っているんです。

その時々に乗り越えるべき壁はあるけれど、それはもう、そのときに打破していけばいいから。AppleやGoogleとは、規模も何もかも全然違うし、遥かにすごいスピードで急成長しているけれど、両社にはカルチャーがきちんとある。ならば、カルチャーを何よりも大事にし、それと共に成長している僕たちにも必ずできると思います。

-ヤッホーブルーイングという会社が、戦略的につくられていることが、お話の端々から伝わっています。一方で、意地の悪い見方をして、「お客様は大事な友人」「社員は家族」なんて綺麗事だと言う人もいると思います。

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井手氏:そうですよね。だけど、僕たちと接触してくださる人たちは僕たちの強みを見抜いてくれる。醸造所の見学ツアーに来てくださる3000人のお客さま・超宴をはじめとしたイベントに来てくださる数千人のお客さまはもちろん、協力会社さんもそう。綺麗事の建前ではなく、本質がきちんと伝わって広まっていることを実感しています。

耳障りのいい言葉を覚えるだけのような、上辺だけ塗り固めたメッキは、すぐに剥がれてしまいます。でも本質が分かっていれば、例えば言葉で上手に表現ができなくても、笑顔がぎこちなくても、絶対に伝わる。僕たちが多くの皆さんとかかわる際にも、特別な感情ではなくいつも通り普通に接していて、伝わっているということは、僕たちのカルチャーが根付いている証。

自分たちが楽しく仕事をしているからこそ、それが周囲にも伝わる。お客さまだけではなくて、自分たちの製品を扱ってくれる流通の問屋さんや小売店さんにも、分け隔てなく大切に対応することで、かかわる人たちがファンになってくださる。

 本質の部分は時間がかかるし簡単じゃないけれど、僕たちはカルチャーを大切に、挑戦し続けたいと思っています。

 

前編となる、
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