【後編】佐竹食品・U&S 代表取締役社長 梅原一嘉氏
「伝説の講演 商売人がつくる日本一楽しいスーパー」

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関西を中心に「satake」「業務スーパーTAKENOKO」を36店舗展開する佐竹食品株式会社・株式会社U&S。代表取締役社長梅原一嘉氏が、2014年にリンクアンドモチベーション主催のイベントで経営者向けに行った伝説の講演を特別記事として配信。スーパーマーケット業界の中でオンリーワンのポジションを確立した企業を率いるリーダーの経営哲学、組織づくりにおける戦略的で実践的なアプローチを、人情味溢れる語り口で梅原氏が語る。※当時の講演内容をもとに、一部現在の内容を加筆して編集しています。

【イベント実施日】
2014年6月

【登壇者】
佐竹食品株式会社・株式会社U&S 代表取締役社長 梅原一嘉 氏 

1億円の売上よりも大切なこと

「チーム力で勝負する組織をつくる」と決め、最初に取り組んだのがモチベーションサーベイという従業員満足度調査でした。社員だけの調査をすることが一般的なようですが、当社の場合は一緒に働く仲間ということでアルバイトさん、パートさんにも実施しました。結果どうだったかというと、従業員の気持ちがダイレクトに伝わってくる結果でした。自分が組織に対して不安に思っていたことが、そのままサーベイの結果として出ていました。様々な項目について、期待度と満足度を答えるのですが、ギャップがあるところにはついては経営者として納得感がありました。また、階層別や店舗別の結果を見ても、階層ごとの隔たりや、元気のある店舗・そうじゃない店舗など、僕がなんとなく感じていた不安が、数値となって示されました。サーベイの結果を受けて、組織改善施策の方向性を定め、具体的な施策へと取りかかりました。

次に取り組んだのが「理念の策定・浸透」です。言葉をつくるのは非常に大変でしたが、この時につくったものが結果的に全ての土台になりました。役員全員8人で、4ヶ月間かけて作りました。最初は、うちの役員はマニュアルと理念の違いもわかっていないんです。正直、僕もわかっていなかったです。「肉切るのに大切なことは?魚さばくのに大切なことは?」を普段一生懸命考えているから仕方がないことです。そうじゃなくて、うちの会社がこれまで大切にしてきたもの、これからも大切にしていかなあかんものって何や、ということを徹底的に議論しました。昔からずっと一緒にやってきたメンバーですが、現場の商売以外のことをあんなに長いこと一生懸命一緒に考えたことはなかったですね。そうして出来上がったのが、ありがとうの理念です。

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佐竹食品株式会社ホームページ 企業理念

http://www.satake.cc/company/philosophy/

理念が出来上がった後に取り組んだことは、理念の浸透です。店舗を全部1日休みにして、全従業員を集めて「ありがとう総会」を行いました。なぜこの理念が出来上がったのか、どんな思いが込められているのか、これからはこういうことをしようと思っているんだ、ということを全従業員に伝えました。実際、店舗を全部1日休みにすることは、会社経営にとって至難の技でした。1億円の売上が減るわけですから。ただ、僕が驚いたのは、1日営業を止めたにも関わらず、この月の利益は過去最高でした。これにはなかなか痺れました。理念を伝えていくことで、現場の一人ひとりの動きにこれほどまでに影響があるのか、と。会長は「こんな利益でるんやったら毎月やろうか」と言ってましたが(笑)。

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「あの兄ちゃん、嫁さんいるの?」って言われる人になろう

その次にやったのが「日本一楽しいスーパーってどんなところ」ということを考えるプロジェクトでした。お客様とのコミュニケーションを大切にしている私たちにとっては、お客様からどんな言葉を頂けるかが大事やという結論に至りました。実際、店舗ではどんな言葉が頂けているんだろう、ということでお客様から頂いた言葉を集め39の「ありがとうワード」として整理しました。どんな言葉をもらえているのが「楽しいスーパー」なのかということをできるだけ明確にしていこうとしたのです。一番レベルの高い言葉が「あの兄ちゃん、嫁さんいるの?」です。これは実際にあったことなのですが、お客様であるおじいちゃんが、お孫さんのお見合い写真を持って来たんです。「ちょっと話がある」と店の奥に呼ばれて、店員がお客様に店の奥に呼ばれる時点でもはやおかしいんですけどね(笑)。「うちの孫どうや?」という話だったんです。店長は結婚していたので丁重にお断りしたのですが、大事なのはそのお客様と店員の関係性の深さです。そこまで思ってくれたということは、とてもいい関係を築くことができていたということです。きっとそんな風に思ってくださったお客様は、うちの店を日本一楽しいスーパーやと思って下さっているんじゃないか、と。そんな風に、お客様から頂く「ありがとうワード」を整理して目指す姿を明確にしていきました。

苦労したのは研修ですね。階層別に理念に基づいた行動などを理解してもらう研修を実施していくのですが、もともと立ち仕事ばっかりしているメンバーですから、座って受ける研修に慣れていない。座ったら寝てしまうんです(笑)。そして起きたらキレはじめる。「こんな研修受けて売上あがるんか!」と。昔の僕みたいな感じです。そういう意味では統一感のある会社かもしれません(笑)。研修にならないので、キレた人間を帰らします。何回もそんなことがありました。でも研修をやり続けました。これができなければ、うちの会社に未来はないと思ったからです。経営陣の思いが社員に伝わっていないから、研修でそういうことが起きてしまう。理念に込めた思いは階層を経るごとに薄まっていってしまっている。これをそのままにしておけば、規模が拡大していくにつれて、理念はどんどん薄まってしまう。それではこの会社は絶対に日本一楽しいスーパーにはなれない。だからこそ、何度も何度も研修をしました。従業員からのブーイングもありました。それが嫌で会社を離れていった者もいました。けれど、何度も言いますが、ここで理念を浸透させなければうちの会社に未来はないと考えていたので、徹底的にやりました。新卒採用を本格的に始めたのもこの時です。真っ新な新卒社員に僕たちの理念に共感して入社してもらうことで、会社全体としての理念浸透度合いは格段に高まっていきました。また新卒採用を5年間続けてきたので(2014年当時)、現在27・28歳の新卒がずらっと店長候補として「楽しい店」をつくることに燃えているわけです。さらにその下の世代、その下の世代もいます。理念をつくり、一気通貫して理念を伝えてきたことの効果を、5年も経つと強く実感します。

人事制度も変えました。理念をベースにして、どんな行動をとればよいか、どんな成果を出せばいいか、を明確にしました。それまでは、正直言って「あいつ、がんばってるやん」で給料が上がる仕組みでした。それを改め、全てが理念に帰結するようにしたのです。最も特徴的なことは「評価の回数が多い」ということです。年に3回の評価を行い、その度に給与が上がることもあれば下がることもあります。けれど、評価をタイムリーに行うことで、自分の目標や改善点が見えて来るので、モチベーションは高まります。

人が成長するから会社が成長する。何よりも人が大切。

モチベーションサーベイをスタートとして、様々な施策を行ってきましたが、最も大きな成果は、全ての階層において目的・目標・責任・役割が明確になったことです。「日本一楽しいスーパーをつくる」という目的が明確になったことで、一人ひとりがそこをブラさずに行動できるようになってきました。目的と目標はよく混同されてしまいます。数字の目標を達成することは当然大切ですが、それは「日本一楽しいスーパーをつくる」という目的のためにあるものです。もしもその目的をないがしろにして、お客様が悲しむようなことをして目標数字が達成されたとしても、それは何の意味もありません。会社としては当然評価しません。研修、現場の仕事、人事制度、全てにおいて理念という基盤があることで、一貫性が生まれ会社が強くなっていくのだと思います。

スーパーマーケットという業態で売上を上げることはそんなに難しいことではありません。店舗を出せば売上は上がるんです。でも魂のこもった店がつくれるかというと話は別です。会社を成長させるときに、一番大切なことは、人の成長です。「いつでも店舗を任せられる」という人が次々に育つ組織をつくることが、事業を伸ばす最大の鍵です。人が成長して、会社が成長し、それが拡大へと繋がっていく。会社がそれなりに大きくなると、楽して売上を上げるために店舗展開していきたくなってしまう。でもそれは絶対に違う。順番が違うんです。まずは人が成長しないといけない。うちの従業員が楽しく元気に働いて、うちに来てくれるお客様が本当に楽しいと言ってくれる。そんな店舗ができてはじめて、次の店舗へと挑戦ができる。そうやって一歩ずつ進んでいった先に「日本一楽しいスーパー」があるんやと思っています。

そのためには、社員だけではなくアルバイトさん、パートさんもその思いを持って働けるかどうかが大切です。「思い」という目に見えないもの、けれど一番大切なものを大切にするために、可視化し、状態を把握し、施策を実行し、効果を検証することが大切だと考えています。これからも「思い」を可視化するモチベーションサーベイを活用して、日本一楽しいスーパーをつくるという目標に向かっていきたいと思います。このスーパーという仕事は、本当に社会的意義の大きい、やりがいに満ちた仕事です。けれど、例えばドラマなどでは「スーパーでレジを打っている仕事」は価値の低い仕事のように描かれたりします。この状態を私たちが変えたい。例えばアメリカのWegmans(ウェグマンズ)というスーパーは、アメリカ経済誌フォーチュンの「最も働きたい企業100社」に常に上位にランキングされています。サービスレベルの高さから顧客に選ばれ、それが社員への待遇へと反映されています。簡単な道のりではありませんが、より価値の高いサービスをつくりだすためにも、最高の組織をつくることが、私たちの目指す場所へと続く道だと確信しています。人・組織への投資が事業へと反映され、それが更に人・組織へと還元されていく、そんな会社を仲間と一緒につくっていきたいと思っています。

こうやって話しをさせて頂きましたが、まだまだ道半ばです。「日本一楽しいスーパー」をつくるために、これからも頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。

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