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【前編】産業医 大室 正志氏 × リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野 耕司 「経営から『甘え』をなくす」

Cutting Edge な人やテーマを取り上げていく「Cutting Edge_働き方改革」。
今回は、産業医として 30 社以上を担当すると同時に『働き方』や『メンタルヘルス』についての深い知見から、テレビ・雑誌をはじめとするメディアに引っ張りだこの大室正志氏と、株式会社リンクアンドモチベーション執行役員の麻野耕司の対談をお送りします。産業医とコンサルタントの立場から見た「働き方改革」実現の鍵とは何か。
公私ともに親交のある2人だからこそ飛び出した、トークの行方にも注目です。

【プロフィール】
医療法人社団同友会 産業医室 産業医 大室 正志氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野 耕司 

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人間が一番疲れるのは、気を使うこと

麻野 耕司(以下、麻野):長時間労働の是正をはじめとした「働き方改革」が人事のホットテーマになっています。これから、企業や組織がどう変わっていかなければいけないのか、大室さんとお話ししていきたいと思います。

大室 正志氏(以下、大室氏):長時間労働っていうのは日本企業のお得意芸なんですよね。長い時間職場にいることが、会社への忠誠心や仕事へのコミットメントの高さを示してきたという、紛れもない事実があるわけで。

人間って、長時間集中して働くことなんて出来るわけないんですが、そういった中で、長時間「いるだけ力」が高くなってしまった人が今、年齢や役職が上の世代に多いんですよね。その場には「いる」けど、脳内はスクリーンセーバー状態になっているというか。

麻野:「集中力が持続できる時間」というのは、医学的に証明されていたりするんですか?

大室氏:集中力が持つ・持たないというのは、個体差の問題であって、実はよく分かっていないんですよ。その上での持論なんですが、日本電産社長の永守さんって、疲れにくい人じゃないかと思いますね。

麻野:どういう意味ですか?

大室氏:基本的に人間が一番疲れるのは、頭を使うことでも身体を使うことでもなくて、気を使うことなんですね。そういう意味で、永守さんは疲れてない。つまりは気を使ってないってことです。やりたいことしかやっていない。大抵の人は、会社にいるだけで気を使っているものなんですけどね。

会議中に、上司が部下に対して「もうすこし頭使えよ!」みたいなことを言うシーンって、そう珍しくないですよね。ただ、産業医の私から言わせると「気を使わせてるから頭使えないんですよ!」って話なんですよね。頭を使わせたいのなら、気を使わせてはいけないんです。

それに、人間は睡眠時間を5時間を切ったあたりから、急激に突然死の割合が増えていくんですね。労働時間に換算すると、月の残業時間が80時間~100時間超が目安です。それが恒常的になって睡眠時間が減ってくると、突然死の割合が増えてきます。

あと、人間ってリラックスしているときと何かに集中しているときの血圧が違うんですよ。集中して緊張感が高まっているときの方が、血圧が高くなります。その状態を続けすぎると、血管がどんどん硬くなる、つまりは動脈硬化と呼ばれる状態になるんですね。

血圧の問題と睡眠時間の問題を踏まえて、毎日7~8時間働くのだとしたら、例えばゲームとか自分の好きなことだけをやって、ストレスのかからない状態であれば可能でしょう。

ですが、会社で仕事をすると考えれば、普通は無理ですから。永守さんくらいに自由に振る舞えるんだったら、いいんでしょうけど。「皆アホばっかや!」とか言ったりして(笑)。

経営者よりもマネジャー層よりも、若手社員が実は一番疲れている

麻野:面白いですね(笑)。労働時間が長くなって睡眠時間が減ることと、緊張感高く気を使い続けることで、血圧が高まり身体に相当な負荷がかかっているということですね。

時間という点でいうと、長時間労働っていうのは日本企業のお得意芸で、長い時間職場にいることが、会社への忠誠心や仕事へのコミットメントの高さを示してきたという話がありましたが、なぜそうなってしまったんでしょうね。

大室氏:板前さんの世界が最たるものだと思いますが、下っ端は一番早く来て、一番最後に帰ることが良しとされるじゃないですか。そこにいた時間=貢献した時間っていう考え方は、昔からあるんですよね。

でも本来的には、若手社員が気を使っていて、実は一番疲れている可能性が高いので、労働時間は短くする方がいいんです。ある程度ポジションが上がると、労働時間が長くなるというケースは外資系企業に多いですが、理に叶ってるんですよね。裁量権があると疲れにくいので。

その心技体のバランスが取れるのが30~40代くらいなので、その年代ではある程度の労働時間の長さは許容できるんですが、50代に入ってくるとそういう働き方はよくないです。睡眠時間の影響で突然死の確率が急激に上がるのが、50代からなので。

麻野:なるほど。労働時間の問題について、さらに聞いてみたいんですが。成長企業などでは、社員が猛烈に働いているという実態があると思うんですよね。そういった中で、労働時間を短くしないといけないとなると、業績が落ちるんじゃないかという不安がついて回ると思うんですよ。

大室氏:そもそもで言うと、仕事の終わり・完成って、明確にないと思いませんか。どこで完成とするのかは、自分で決めるしかないわけですよ。例えばモネの絵だって、みんなが勝手に完成品として観ているだけで、もしかしたら本人にとったら途中だったかもしれないですよ。

ここで大事なことは、経営者側が、どのレベルの仕事を求めているのか、どこにこだわって・こだわらなくていいのか、どこで終わらせるのかといった、方針みたいなものを示さないといけないってことなんですよね。

方針をしっかり示してもらえないと、メンバーはどこで仕事を終わらせればいいかわからず、仕事が無駄に長くなって、その分気を使ってる時間も増えることになるので、疲れるんですよね。

業務における方針を明確に示すことで、非常に時間を使っていた、気使いの部分である摩擦係数が減って、みんな集中して目の前の業務に取り組めるようになりますよ。なので、労働時間を短縮した分、業績が落ちるというよりも、短い時間でこれまでと同じ業績を維持する可能性が大きいでしょうね。

マネジメントスキルが育まれているマネジャーが少ない

麻野:長時間労働を強いる経営というのは、社員の時間は無限にあるという前提に立っていると思うんですよね。そして、それに甘えて、マネジメントスキルが育まれていないのかもしれないですね。

大室氏:上に立つ人が、リソースの適正配分を示さないといけないですよね。でも基本的に日本のほとんどの会社は、どの業務にどれだけ時間を使えというマネジメントができていないですよ。適性配分を考えると、時には「それでは無理です」とはっきり進言できることが重要なわけです。

でも、そういう部下は「かわいくない」と評価されず「ハイ喜んで!」とばかりにNOと言わない部下が評価される。そして、無理な仕事を受けてきて部下にはさらにしわ寄せがくる・・・。どうみても健康的な職場とは言えませんよね。

麻野:リンクアンドモチベーションでは、プロジェクトを成功させるために事前に6つの項目を定める必要があると言っています。具体的には、目的・対象・役割・方法・基準・納期の6つが関係者でしっかりすり合っていると、業務の効率や効果が高まると考えているんです。

ですが、そういった観点もないままに、上司が部下に仕事を丸投げしてしまってるのかもしれないですよね。しかし、リソースの適正配分を示すマネジメントを行うようになるという意味での、マネジメントレベルの引き上げはもう待ったなしの状況ですよね。

政府の働き方改革はもちろん、今回の電通事件(社員が過労自殺した事件)で、労働基準監督署の目も、より一層厳しくなると思います。

大室氏:電通事件のこともあり、長時間労働是正への追い風は吹いているものの、マネジャーのスキルを評価できる人がほとんどいないから、難しいんですよね。プレイングマネジャーが増えているということもあります。

プレイヤーとしての働きぶりや成果を見せた方が、上司にとっても分かりやすいですしね。何より自分自身がプレイヤーとしてトップだったからマネジャーになったという自負があると、プレイヤーとして仕事をする部分から抜け出せなくなってしまうんですよね。

麻野:ありがちなケースですね。そして、そのマネジャー層のプレイヤー時代の成果の出し方も、長時間労働に加えて、最後は徹夜で何とかするというようなやり方だったりすることが、散見されます。

なので、メンバーに対して、時間面でも業務面でもマネジメントが上手くできていない。方針を明確にせずに業務を与えたのちに、納期に間に合わないからといって、最後は結局自分が仕事を巻き取って、徹夜で仕上げていくみたいなパターンですね。

大室氏:それってまさに、マネジャーにマネジメントスキルがない象徴なんですよね。


 【後編】産業医 大室 正志氏 × リンクアンドモチベーション 麻野 耕司 「経営から『甘え』をなくす」はこちら

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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

 

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