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【後編】産業医 大室 正志氏 × リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野 耕司 「経営から『甘え』をなくす」

Cutting Edge な人やテーマを取り上げていく「Cutting Edge_働き方改革」。
今回は、産業医として 30 社以上を担当すると同時に『働き方』や『メンタルヘルス』についての深い知見から、テレビ・雑誌をはじめとするメディアに引っ張りだこの大室正志氏と、株式会社リンクアンドモチベーション執行役員の麻野耕司の対談をお送りします。産業医とコンサルタントの立場から見た「働き方改革」実現の鍵とは何か。
公私ともに親交のある2人だからこそ飛び出した、トークの行方にも注目です。

【プロフィール】
医療法人社団同友会 産業医室 産業医 大室 正志氏
株式会社リンクアンドモチベーション 麻野 耕司 

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行き過ぎた「ガンバリズム」プロセス評価が、労働時間を長くさせている

麻野:マネジャーにマネジメントスキルがないという話を受けて、メンバーサイドにも、仕事にかけた時間で評価がされるとか、最終アウトプットだけでなくプロセスを見て欲しいといった物差しがあるのかなと思います。日本人のメンタリティーに染み付いてしまってるレベルなのかもしれないですね。

大室氏:確かに、頑張っているところを誰かがいていてくれるみたいなね。少なくとも近代においては、お天道様は見てるよと思って生きてきた国民ですから、日本人は。

麻野:私自身は、労働時間の上限規制みたいなことは、どんどん推進したらいいと考えているんですね。一方で、労働時間を短縮したから生産性が上がるというような見方は、非常に甘いと思っています。生産性を高めるために、様々な取り組みを同時に進めなければ、むしろ逆効果になる可能性がある。

例えば、そもそも残業代みたいな概念をすべてのホワイトカラーに適用するべきなのだろうかと思います。ブルーカラーの仕事を例えにすると、サービス業の店舗で、6時間働いた成果を60とするじゃないですか。だとすると、8時間働いたら成果って80になることが大半だと思うので、非常に分かりやすいです。

一方で、情報産業や金融業系のホワイトカラーで考えると、6時間働いて100の成果を出せる人もいれば、8時間働いて10の成果しか出せない人もいる。そういう業態は成果だけを見るという風に変えていかないといけないんじゃないかと思います。残業代のような時間で評価されるスタイルが染みついたままだと、結局、労働時間が長くなる可能性もあると思います。

大室氏:確かに。人間も動物なので、医学的に見て、ここまでやると身体に良くないという上限は、絶対に決めるべきだと思うんですね。ただ、ホワイトカラーの残業の問題は難しい。残業代がつくから残るという人ももちろんいるだろうけれども、残業代がつかなくても、不安が多いから結局会社に居るというケースもあると思うんですよ。

残業代が法外に高くなったら、むしろ会社側が帰れと言うんじゃないかっていう話もありますけどね。タバコの話と同じで、禁煙しろと言うよりも、一箱2,000円とかにしたら、物理的に吸う本数が減るみたいなことですよね。

家族を「他人」だと分かっている人が、家族と良好な関係をつくれる

麻野:これまで労働時間の話をしてきたんですが、労働時間の短縮っていうのは、マネジメントスキルを磨くことになると思います。それに加えて、企業と個人の関係性が変わっていかないといけないんだなと思っています。

先日、シカゴで開催されたHR Technology Conference & Expoに参加してきたんですね。アメリカは個人主義が強い労働市場だと思っていたので、個人のキャリアを形成するためのタレントマネジメントみたいなものが主流だと思っていたら、組織と個人のリレーションを強化するためのエンゲージメントサーベイやシステムが多かったことに、驚いたんですよ。

これってなんでだろうと考えていたんですが、アメリカは国としても会社としても、人種の多様性を内包しています。だから、お互いのことを知らないという前提の中で、丁寧にコミュニケーションする文化があるのかなと感じました。同じ社内の人間同士であっても、家族のような近い存在としてではなく他人として接することに慣れているんですね。

何を考えているか分からない他人だからこそ、お互いの考えていることや思っていることはちゃんと聞いて理解しましょうという文脈がある。結果として、社員や部下の心情を数値化するようなエンゲージメントサーベイやシステムが発達しているのかもしれないですね。

大室氏:まさにその通りだと思いますね。日本の場合は「お母さんと自分」みたいな、自我の境界線が曖昧な、仏教的な考え方が根底にありますよね。一方でアメリカなんかは、宗教観をベースにした西欧文化圏の成り立ちから考えても、個人主義ですよ。

アメリカは夫婦であっても他人同士だから、常に愛が離れていかないように、誕生日に花を贈ったりしますよね。日本人から見ると、そういうやりとりって、上の世代ほど恥ずかしくてできないんですよ。

麻野:分かりやすいですね。

大室氏:釣った魚に餌はやらないなんて言葉もありますけど、家族になった瞬間に、自分と一心同体の存在で他人じゃなくなっているから、花束を買うなんてことも想像もつかないんですよね。だから、奥さんに素敵なサプライズができるというのは、ある意味で、家族は他人だと理解できている人なんです。

アメリカ人って、エレベーターの中で会ったりするとすぐに、ニコッとして挨拶したり話しかけてきたりしますよね。あれって要するに、密室に他人がいるわけだから怖いんですよ。相手が何をしてくるか分からないから、だからニコッとしてコミュニケーションをとるわけですよね。日本人は、みんな仲間だと思って安心感があるから、挨拶もしないですよね。

麻野:なるほど。

「自分と他人は違う」を認識することから、すべては始まる

 大室氏:20代のことが分かる50代なんているわけがないと思った方がよくて。もちろん逆もまた然りですけどね。もはや外国人くらい違う価値観や考え方を持っていると思った方がいいです。ですが、日本企業はこれまで、阿吽の呼吸で分かり合えるような人材ばかりを採用してきたんですよね。

自分たちと同じような育ち方をして、同じ文脈で生きてきた人。だとすると、自分と一心同体になっている人たちの集団なのだから、エンゲージメントサーベイみたいな、考えを確認することに抵抗があるのは当然です。簡単に言うとサーベイというコンセプト自体が、なんというか「しゃらくさい」んですよ(笑)

麻野:私たちが普段コンサルテーションする際に「何が一番モチベーションを下げる原因になっているのか」を突き詰めると、結局は「自分と他人は違うということを認識できていない」に起因することが多いですね。

自分と他人は違うということは、みんな当然のようにわかっているけれど、なぜか自分と同じような振る舞いを求めたりして。私自身が経験してきたマネジメントの失敗も、自分とメンバーの違いを分かっていなかったケースが大半ですね。

加えて、日本企業はこれまで新卒・男性・正社員という似た属性の社員を中心に働いてきましたが、働き方改革の実行を通じて、女性・高齢者・外国人などの登用が増えると、多様性が増してきますよね。「みんな一緒、家族だから阿吽の呼吸でわかる」と甘えてはいられなくなりますね。

大室氏:人種や性別って、視覚的にもまだ違いが分かりやすいですが、もはや、自分より若い世代が、自分と同じ音楽を聴いて本を読んで育ってきたっていう時代でもないですからね。無条件に共有できるものって、昔ほどないんですよ。だから「みんな違うんだ」という前提に立って経営をした方が、今のOSには適してると思いますよね。

コミュニケーションコストが高くなりますが、乗り込んだエレベーターで、ニコッと笑顔をつくって挨拶の一つもできるようにならないと。今後はそういった、他者との摩擦係数を減らすようなスキルが求められてくるでしょうね。

そう考えると、相手がどう考えているかを知ることができるツールである「モチベーションクラウド」は違いに立つ経営の一助を担えるんだと思いますよね。でも逆に言うと、照れがある経営者はダメでしょうね。奥さんが自分のことをどう思っているのかを確かめるようなツールですからね(笑)。

社員のことを家族・奥さんみたいに思っていると絶対にできない。でも家族ですら他人なんだから、社員にはちゃんと聞かないとダメですよ。照れない勇気が必要です。

週末に家で暇を持て余して充電完了している上司は、週明け月曜の朝早くから勉強会をしたがったりしますけど(苦笑)。メンバーはみんなプライベートも忙しいはずなので、自分と同じように、早く会社行って仕事したいなと誰もが思っているとは限らないっていうことですよね(笑)。

麻野:それは私のことでしょうか(笑)。耳が痛いですね。そうですね、自分と他人は違いますよね。今回の大室さんとのお話を通じて、そもそも全員が違うんだから、違いに基づいたコミュケーションを取り、マネジメントをしていかないと、これからの時代の経営はできないということを、ひしひしと感じました。「経営から甘えをなくせ」というメッセージ、私自身にも深く刺さりました。

 【前編】産業医 大室 正志氏 × リンクアンドモチベーション 麻野 耕司「経営から『甘え』をなくす」はこちら

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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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