【後編】池田純氏
「株式会社横浜DeNAベイスターズを変えた男の『しがみつかない経営』」

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挑戦を続ける人に迫る「Challenge」。
今回は、株式会社横浜DeNAベイスターズの前代表取締役社長である池田純氏をお迎えします。球団発足と同時に社長に就任して以来5年間の間、経営と組織の再建・再生に邁進。池田氏は一体どのようにして、不可能を可能にする組織づくりを実現できたのか。
インタビュアーは、当時、コンサルタントとして同社のサポートにあたった経験を持つ株式会社リンクアンドモチベーション執行役員の麻野耕司氏。

【プロフィール】
池田純 氏
【インタビュアー】
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野耕司 氏

「1対1」のコミュニケーションで、相手の話に耳を傾ける

麻野耕司氏(以下、麻野氏):前半で、観客動員増という成果を出したことにより、組織の風向きが変わってきたというお話がありましたが、成果を出すために、11のコミュニケーションを非常に大事にされていたそうですね。

池田純氏(以下、池田氏): 1対多数は、その人に最適化した個別の伝え方ができない。でも、11は伝わるじゃないですか、時間はかかりますけどね。それから、ともかく相手の話を聴きますね。一方的に意見を押し付けようとする相手って、鬱陶しいじゃないですか。相手の話を聞いた上で、その人の考え方やリズムに沿う方が、圧倒的に会話がスムーズに進むんですね。

麻野氏:リンクアンドモチベーションが大事にしているセオリーのひとつに「態度変容の3ステップ」があります。相手に自発的に動いてもらいたい場合「Unfreeze」→「Change」→「Refreeze」というステップを踏みましょうというものです。

四角い氷を丸い形に変えようとした場合「Change」から入るということは、いきなり形を変えようとして割れてしまうイメージですね。別名で解凍とも呼びますが「Unfreeze」で、四角い氷を溶かして水にします。そして「Change」では、その水を丸い型に流し込む。最後に、再凍結と呼ぶ「Refreeze」のステップで凍らせると、四角い氷が丸い形に変わるというものです。

人間の気持ちも同じで「Change」から入ると反発するものなので、まずは「Unfreeze」、溶かすことが大事だということです。その、溶かすときに一番有効な手段が聞くことなんですね。人間は自分のことを理解してくれてる人の話を聞きたくなって、自然と「Change」に向かうものなので、その後の話が伝わりやすくなるんです。

池田さんはそれを分かって「聴く」を実践されているのがすごいなと思います。しかし、よく我慢できますね。自分のことを棚上げしますが、経営者ってせっかちな人が多くないですか(笑)。部下の話を最後まで聞くどころか、部下が話し始めて2秒くらいで「それ違うよね」とか口を挟んで、会話を終わらせてしまう人。

池田氏:私も相当せっかちなんですよ。今では随分我慢できるようになったと思いますが、昔はひどかったですね(笑)。ただ、過去に企業再建の仕事もしていたんですが、仕事のスタイルとして、異業種・異文化の中に突然ぽんと入って行くんですね。そこで突然自分のペースで物事を進めたら、ハレーションしか起こらない。

やはり、入っていく先の文化をはじめとした、スピード感とか生活感みたいなものまでを理解しないといけない。そうでないと、無駄に揉めるだけになってしまいます。なので自分自身の経験からすれば「異業種・異文化に入っていく=傾聴しようという意識が高まる」んだと思いますね。

特にベイスターズなんて、直前に在籍していたIT業界からしたら、何もかもが真逆だったので、まさに傾聴しようという意識は高まっていたと思います。

「簡単には伝わらないもの」という前提に立って、伝え続ける

麻野氏:池田さんは、聴くというスタイルに特徴がある一方で、伝えるということも徹底されていますよね。

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池田氏:そうですね、経営方針なんてものはもう、伝えても伝えても伝わらないものだと思っているんですね。なので、経営会議やミーティング、それに合宿や全員での全社会など、頻繁に実施しています。そういった場でいつも、自分の考え方を根底から全部伝えていくようにしているんですよ、しつこいくらいに。

麻野氏:当社の組織サーベイ(モチベーションサーベイ)の結果で「戦略や方針の伝達」「使命や目標の明示」といった伝達系の項目のスコアが低く出た場合「伝えたのになんで分かってないんだ」「十分伝えているのに」と言う経営者の方が多いんですね。なかなか伝わらないという前提を持って、そこまで伝えることにこだわれる理由は何でしょうか。

池田氏:リンクさんのモチベーションサーベイには、お世話になりましたよね。元々マーケティング畑で仕事をしてきたので、伝えようとしても伝わらないということを実感してきたつもりでした。例えば、商品サービスの認知度を100%にするなんてことは、とんでもないコストも労力もかかる作業です。

ですが、実際にサーベイを実施してみて、自分が思っている以上に、組織にはメッセージは伝わっていないという経験をしたということは、非常に大きかったですね。どんな仕事も自分一人ではできないからこそ、メンバーたちが会社に対してどういう不満を持ってるのか、経営者である私に対してどういう思いを持ってるのか。

本音を言えば、見たくもないですけど、知らないと経営はできないので、伝わっているのかを知るバロメーターとして、参考にするようになりました。

「自分にしかできないこと」をする

麻野氏:そろそろ最後の質問になります。事業環境の変化に組織の変化が追いつかないという課題を抱えている会社が多いです。そういった変化の中で、経営者としてやるべきことは何だとお考えでしょうか。

池田氏:そうですね。「自分にしかできないことをする」だと思います。部下ができる仕事なのであれば、どんどん任せていく。そして、自分の時間を確保して、自分にしかできない仕事をやる。

仕事ってついつい抱え込んでしまうじゃないですか。慣れてくると楽になるし、心地よくなるし。同じことをやり続けていれば、楽ですから。ただそうすると、会社は成長しないですよね。会社のトップである経営者が同じことを続けているとしたら、もはや会社は全く成長しないですよね。

ベイスターズ時代もそうでしたが、自分で立ち上げた・できるようになったと思ったら、どんどん部下にその仕事を引き渡していきます。周囲からは「興味なくなるの早いですよね」と言われたりしていましたけど、そうじゃない。人よりも早く、先に目を向けていないといけない立場なのだから。経営者である以上、仕方ないんですよね。

麻野氏:なるほど。経営者自身が、自分にしかできないことをする。しがみつかないということですね。池田さんの経営哲学が詰まったメッセージを最後に受け取りました。ありがとうございました。

 

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