『年輪経営』伊那食品工業 取締役会長 塚越寛氏【1/3】
「いい会社のつくり方」

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経営者に読み継がれる名著「リストラなしの年輪経営」、そしてグッドカンパニー大賞グランプリ受賞(2007年)をはじめとした数々の受賞。そして塚越寛会長個人としては旭日小綬章(2011年)を受賞。長きに渡って経営者からの関心を集め続ける、長野県に本社を構える寒天のトップメーカー伊那食品工業株式会社。
手入れの行き届いた樹木と美しい苔に囲まれた広大な敷地は、自由に地域住民が出入りする。この開かれた場所で営まれ続けている「年輪経営」とは何か。短期の利益追求を迫られる現代社会とは一線を画し、社員だけではなく取引先・得意先など自社にかかわるすべての人たちとともに、着実に成長し続けることができる理由は何なのか。
伊那食品工業株式会社の塚越寛会長の信念の宿る経営論を全3回シリーズでお送りする、第1回目。

【プロフィール】
伊那食品工業株式会社 取締役会長 塚越寛 氏

いい会社とは何か?を問われている時代

現代は哲学なき時代です。哲学と言うと難しく聞こえるだけで「利益とは何だろうか?」「会社とは何を目的にして、何のために存在するんだろうか?」ということへの、自分なりの考え方を持つということです。利益や成長といった、ありふれた言葉をきちんと解釈して、深い意味を捉える。

利益を重視する経営者は多い。ですが私は「利益は最後に残ったカスみたいなものだ」と思っています。もっと極端な表現をすると「利益はウンチ」です。人間だって、ウンチを出すことを目的として生活しているわけではなく、結果として自然と出てくるもの。それと同じことです。健康な会社であれば、利益は自然と出るものなのです。出すこと自体を目的にしたり、無理をして出すものではない。

日本資本主義の父と言われる渋沢栄一氏が「成功など、人として為すべきことを果たした結果生まれるカスにすぎない」とおっしゃっていたことを、後に知りました。まさにその通りで、自分の考えを後押しされたような気持ちでした。

我が社も世間では、48年連続増収・増益と言われていますが、これはマスコミが言っているだけのこと。私自身は、1958年の会社設立以来、58年間右肩上がりでずっと成長していると思っています。世間は、利益が少しでも減ったら成長とは呼ばないですが、それは安直な考え方です。私が考える成長とは数値面における拡大ではなく「以前よりも会社がよくなったと社員が感じること」です。そして会社とは、社員を幸せにするためにあるのです。

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「遠きをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す」

社員を幸せにし続ける会社であるために、経営はどうあるべきか。それは「遠きをはかる」ことです。二宮尊徳の「遠きをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す」という言葉に出会って、気づいたことです。具体的には、研究開発に力を入れること。メーカー・流通、どんなビジネスであっても、技術革新があって変化をし続けるはずです。今上手くいっている形があったとしても、それが生涯続く保証はありません。人間の価値観も、社会の仕組みも変化する。そういった中で、自分たちのビジネスはどう変化するのかを考えて、ただ「いいものをつくろう」という思いを持って、研究開発にお金も人も投資するのです。

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研究開発はもちろん、成功ばかりではありません。過去には、しっかり固まりきらない、通常では失敗と言える柔らかい寒天ができてしまったこともありました。ただ、このソフトさが、食が細く固形物が喉を通りにくい方へ提供できるのではということで、介護食用の「ウルトラ寒天」という商品が誕生するきっかけになったのです。

さらには、今ある市場で他社と競争しても、価格競争になるだけなので、市場調査はほぼしません。過去がどうか・市場がどうかではなく、自分たちがいいと思うものをつくり続けること。いい商品は、いつか必ず受け入れられるとわかっているのです。

塚越寛会長唯一の野心

om_image_20170304_02社員を幸せにし続ける会社であるために、もうひとつ大切なことがあると思っています。それは「ファンづくり」です。ファンというのは、その会社のことを好きだと言ってくれる人・尊敬してくれる人のこと。私は、商品を支持してくれる人たちはもちろん、地元の人たちや得意先・仕入れ先の皆さんにもファンになってもらいたいと思っています。

安く仕入れて高く売ろうという考えで、仕入先を叩くようなことをしていては、仕入先からは尊敬されません。そもそも、安いものの裏には理由があると思っています。色々なものを犠牲にして、誰かが泣いているから安くできるのです。本来は当然かけるべきコストであるにもかかわらず、経費節約という名の下に、無駄を省くと言って削った経営者が出てきてしまったわけです。冒頭に成長の定義についての話をしましたが、これもまったく同じで「無駄とは何だろうか?」ということなのです。「自社にとっての無駄」をきちんと定義する必要があるだろうと思います。

ですから、伊那食品工業では仕入れ先はほぼ変えていません。より安い仕入れ先を求めるようなことはしないし、安いことを理由に取引を始めることもしません。信頼できる相手と、継続して繁栄できる関係でありたいのです。

社員に対しても同様で、一度も経費節約を求めたことはありません。無駄遣いはよくないですが、まだ使えるからといって我慢しているのであれば、新調しようと話しています。そうしないと、世の中回っていきませんから。あとは、買うときはできるだけ地元の店から買うこと。多少の高い・安いよりも、いつもお世話になっている地元のお店から買うことが大切なのです。

これまでお話ししてきた通り、会社経営において特に奇をてらったっことはしておらず、教科書通りに大切なことを大切にしているだけです。経営者の野心は会社を大きくすることだと思われがちですが、そうではありません。社員の幸せのために、あるべき姿を守っても経営はできるということを、伊那食品工業が成長し続けることで証明するのが、私の野心です。

 

 ・『年輪経営』伊那食品工業株式会社 取締役会長 塚越寛氏 【2/3】「社員とともに、苔むす会社を目指す」はこちら      

・ 『年輪経営』伊那食品工業株式会社 取締役会長 塚越寛氏 【3/3】「社員の幸せのために経営する」はこちら