「人事はテクノロジーで進化する」
リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野耕司

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あらゆる業界において第一線で活躍するプロフェッショナルを「先生」として迎え、オンライン授業を届けるSchoo。株式会社リンクアンドモチベーション執行役員の麻野耕司による4回シリーズの共通テーマは「人事はテクノロジーによって進化する」。

シリーズの初回は、麻野耕司単独での、HR Techにおけるイントロダクション。日本のHR Tech領域におけるトップランナーが、HR Techの全貌を解き明かした第1回は、授業で公開されたスライドも加えた特別版です。第2回目以降、多彩なゲストを迎えて展開していきます。4回シリーズ全てを、HR2048が独占レポートします。

【放送日】
2017年1月31日

【プロフィール】
株式会社リンクアンドモチベーション
執行役員 麻野 耕司(あさの こうじ)

慶應義塾大学法学部卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。
2010年、中小ベンチャー企業向け組織変革コンサルティング部門の執行役員に当時最年少で着任。同社最大の事業へと成長させる。
2013年には成長ベンチャー企業向け投資事業を立ち上げ、自らも複数の投資先企業の社外取締役、アドバイザーを務める。
2016年、新規事業として国内初の組織開発クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げ。
2017年、大手・中小ベンチャー問わず、経営者向けに組織変革コンサルティングを提供する部門の責任者に着任。
著書に「すべての組織は変えられる~好調な企業はなぜ『ヒト』に投資するのか~」(PHPビジネス新書)。

企業経営において人事が進化しなければならない

本日のテーマは「人事はテクノロジーで進化する」ということで、HR Techについてお話をします。HR TechとはHRとTechnologyを組み合わせた造語で、HRはヒューマンリソース、つまりは人材・人事のことを指します。そしてHR Techとは、クラウド・ビッグデータ・AIといったテクノロジーの進化によって、人事を良くしていこうという動きです。HR Techという言葉自体、日本ではここ1〜2年でよく聞かれるようになったものです。私自身も勉強し始めてまだ1年ほどですので、全4回の授業を通じて、皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。HR Techの具体的な内容に入る前に、今日は全4回シリーズの初回でもあるので、そもそもの部分からお話ししていきます。

企業は、商品市場と労働市場という2つの市場から選ばれなければいけないと言われています。商品市場とは、事業が展開される市場で、顧客から選ばれることが求められます。そしてもうひとつの労働市場は、組織や人事が展開される市場で、人材から選ばれることが求められます。

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そして、商品市場では大きな変化が起きています。日本の産業が製造業からサービス業中心の産業に変化したことにより発生しているものです。現在、日本全体のGDPの75パーセントを、第三次産業つまりはサービス業が占めるようになっているのですが、これが意味することは商品のソフト化です。製造業が中心だった第二次産業に必要とされたのは設備投資で、そのためには金融機関や株主・投資家から選ばれ資金を得なければなりませんでした。

ですが、第三次産業の商品のほとんどがソフトのため、人材さえいれば様々なサービスが提供できる。つまり、商品市場で事業を成功させるにあたっては、労働市場で人材から選ばれる必要があります。人材から選ばれる組織をつくる・人事を行うということが、非常に重要な時代になってきていると言えます。

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なぜ今、人事は変わらないといけないのか

これまでの人事は、高度経済成長時代の下、新卒一括採用・年功序列・終身雇用という固定化されたシステムを運用していれば上手くいっていたのですが、今は違います。例えば人材採用ひとつをとっても、ほとんどの企業が新卒採用と中途採用を実施しています。中途採用は、人材紹介会社・求人広告会社を活用するだけではなく、ダイレクトリクルーティングが出てくるなど、多様化しているのです。

そして、人事制度も複雑化しています。正社員だけではなく契約社員・派遣社員といったように雇用形態が様々であり、高齢者や外国人など雇用対象の幅も広がっています。環境変化に合わせて、各社毎の人事戦略が必要になっていると言えます。

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オペレーションをしているだけでは通用しない時代に入っている一方で、多くの人事が効率性に欠けた状況に陥っています。業務の多様化が起こる中で業務量も多くなり、作業に埋没してしまい、戦略的人事など考える時間は無いということが、人事の皆さんの本音でしょう。

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さらには、どの企業においても、事業面の意思決定の際にはデータを用いて戦略的に行っているはずですが、人事面の意思決定にはデータを用いることはほとんどなく、経験や勘を頼りに進んできてしまったという事実があります。

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人事の重要性が高まり戦略的人事が求められている一方で、効率性や戦略性に欠くような現状を、どう打破するのかが期待されていると言えます。

テクノロジーで人事はどう変わるのか

現在、様々なテクノロジーの進化が起きています。まずクラウド化により、低コストで多くのデータを扱うことができるようになりました。ビッグデータについては、様々なデバイスができ、多様なデータをリアルタイムに扱えるようになっています。そしてAI。いわゆる人工知能ですが、データ解析が人間からAIにとって代わることにより、データの処理が非常に速くなっています。これらの変化によって、人事の問題を解決しようしている動きがHR Techです。

s1shinkaこの、クラウド・ビッグデータ・AIの3つの進化によって、人事に欠けている効率性を補う。そして、オペレーションの効率化を行うことで、時間が生み出される。生み出された時間でデータ活用することで、戦略が生まれるという状況が実現されるのではないかという仮説を、私は立てています。

次に具体的にどんな領域にテクノロジーが活用されているかをお話しします。これまでの歴史を振り返ってみますと、3つの領域においてテクノロジーが活用されてきました。まずは「オペレーションの効率化」という領域です。プロセスオートメーションといわれる労務管理と給与計算です。次に「個人データの活用」です。採用、育成、評価、配置といった部分です。最後が「組織データの活用」です。チーム、職場、部門といった組織領域において、データが活用されてきています。それぞれ詳しく見ていきましょう。

s1kawarujinji「オペレーションの効率化」という領域でのテクノロジー活用です。労務管理や給与計算という仕事においては、無数の書類に人事が対応しなければいけない現実がありました。膨大な量のタスクに手動で対応しなければいけなかったところを、テクノロジーによる自動化・効率化が進んでいます。この領域が、現段階では最もテクノロジーによって進化している領域です。

効率化が進むと、次にデータの活用です。データを活用した人事施策の未来ということで、主な人事施策について詳しく説明をしていきたいと思います。まずは「採用」です。これまでは、かなり主観で面接が行われてきており、面接による選別は、その精度が昔から疑問視されてきました。

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ある調査によると「学生がおべっかを使うと、面接官からの評価が高まり合格率が上がる」という結果も報告されています。「本当に自社に必要な人材はどんな能力を持った人か」「それを見極めるにはどんな質問が有効か」「優秀な人材はどんな回答をするのか」という分析にテクノロジーを活用していくことで、できるだけ主観を排した客観的な選別に進化していけるのではないか、と考えられています。

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「評価」においても同じことが言えます。評価者の勘や経験という主観的な情報によって属人的に行われているものを、データ活用によってより客観的に行えると考えられています。

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続いて「育成」です。これまでは個人データが蓄えられていなかったため、研修を実施する際にも、「年次」や「階層」というような大まかな括りで行われてきました。個人データが活用されることで、「タイプ」や「スキル」等による分類ができ、より個人にマッチしたきめ細やかな育成が行うことが可能になると考えられています。

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そして「配置」です。人事や経営に携わる皆さんは実感があると思いますが、「何となくあの部署で活躍するんじゃないか」と感覚で行われていることが多いですね。個人の能力と業務とのマッチングや他の情報を分析することによって、より精度を高めていけると考えられています。

ある会社で若手ハイパフォーマーの分析を行ったところ、共通していたのは「学歴」でも「採用時の評価」でもなく、「最初の上司が誰か」ということでした。入社時にAさんの部下だった人は、他の部署に異動しても活躍をしていた。Bさんの部下だった人は、他の部署に異動しても活躍できていなかった、という結果が出たということです。あくまで一例ですが、データ分析をしてみなければ気づけなかったことです。

様々な個人データを蓄積し、分析していくことで、勘や経験という主観的な情報による判断ではなく、客観的・効率的・合理的な人事施策に取り組めるという未来が予想されます。

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最後に「組織データの活用」です。組織改善ということに人事が取り組む際には、現場社員からの声という定性的な情報によって、場当たり的に手探りで改善施策が行われてきました。そこにテクノロジーが活用されることによって、社員の意識調査などの定量的なデータが収集・分析されていきます。そうすることで、業種・業態による比較、企業の成長ステージによる比較などが行えます。その場しのぎの場当たり的な施策ではなく、中長期的な観点に立って、これから起こる問題を予測した上で組織改善施策を実施していくことができるようになっていきます。

まとめると「テクノロジーで人事はどう変わるのか」という問いですが、大きな2つの変化が起こる、すでに起こっているということです。それは「オペレーションの効率化」と「データの活用」です。

日本はアメリカの1.4%。圧倒的な日米のHRTechの違い

日本はアメリカの1.4%。これは何の数字でしょうか。これは、日本のHR Techへの投資額がアメリカの投資額の何%かということを示したものです。圧倒的に少ないですね。s11.4

アメリカはこの20年ほどの間、主に金融やITという産業で、国全体を成長させてきました。金融・ITは人材による成果の差が非常に大きい業態です。例えば金融業界において優秀なディーラーは、そうではないディーラーに対して千倍・一万倍という成果の差をつけたりするわけです。「どんな人材が自社にいるか」ということが、経営を大きく左右します。ですので、優秀な人たちを自社にどうやって惹きつけ続けるのか・どうやって採用するのかという課題に対する意識が非常に高い。アメリカのHR Techに対する投資は、日本よりも格段に進んでいます。

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日本は、広大な国土があるわけでもなく豊富な天然資源があるわけでもなく、人材こそが最大・最強の資源のはずなのですが、テクノロジーを使って人事をよくしていこうという動きが、今のところ非常に少ない状況です。

ここから、私が昨年10月にシカゴで開催されたHR Techカンファレンスというイベントに参加してきた際に感じた、日米のHR Techの違いに注目しながらお話しできればと思います。

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アメリカでは先ほど述べたような個人データや組織データの活用が既にかなり普及しており、より直接的に個人や組織のパフォーマンスを向上させていこうというフェーズに入っています。

例えば多くの企業で、グリント社が提供する「パルスサーベイ」が導入されています。パルスサーベイというのは、心臓の鼓動のこと。日本でもESサーベイ(従業員満足度調査)やエンゲージメントサーベイを、1年に1回実施する企業は増えてきましたが、アメリカでは、ESサーベイやエンゲージメントサーベイを実施した上でさらに、パルスサーベイに取り組んでいるのです。

パルスサーベイについてご説明すると、金曜日の帰り道に社員が、職場の現状の満足・不満足についてスマートフォンで回答するイメージです。すると、月曜日の朝出社したマネージャーの元に、結果データが届く。メンバーたちがどんなことを感じながら仕事しているのかについての最新データを見ながら、新しい1週間をマネージメントできるのです。しかも、結果データを元に、人工知能がアクションプランまで教えてくれます。

【画像】注目のHRTechサービス

他に、延べ400社ほどがHR Techカンファレンスに出展していました。私は、出展数・内容からアメリカのHR Techの現状に感心すると同時に、日本は相当な遅れをとっているという危機感も、持ち帰ってきました。本日お話しながら改めて思うことですが、私個人としてはもちろんのことながら、日本の人事全体としても、アメリカに負けずにHR Techに積極的に取り組んでいきたいですね。

日本でもこの1年ほどの間に、当社リンクアンドモチベーションが開発したモチベーションクラウドをはじめ、様々なHRTechに関わるプロダクトがリリースされていますので、そちらにも是非ご注目ください。

最後に、HR Techとの向き合い方という点で、今後人事に求められることをお話したいと思います。まず1つは「サービスを共に創り、育てること」。これはアメリカでもよく言われていることなのですが、HR Techはまだまだ完成したサービスではない、という認識を持つということだと思います。使いながら、サービスベンダーにフィードバックをしながら、よりよいサービスへと進化させていくことが重要です。ベンダーサイドは当然甘えてはいけないですが、共に創っていくという視点で人事が活用することで、HR Techや日本全体の人事領域の発展に繋がっていくと思います。

もう1つは「実験できる人事であること」です。実験できるためには、時間や予算が必要となります。それを確保していくためには、やはり経営者を巻き込んで進めていくことが必要です。アメリカの企業では、非常に経営層が人事施策に対しての関心・意欲が高いです。経営における最重要課題として人事を捉えています。そういう状態を、日本全体としてもつくっていかないといけないな、と感じます。

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初回の本日は全体像をお話ししましたが、日本でも様々な企業でHR Techの取り組みがスタートしているので、第2回から第4回のゲストの皆さんには、それぞれのテーマで掘り下げてお話を聞いていきたいと思っています。ぜひ次回以降もご期待ください。

 

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