エア・ブラウン株式会社
数字を追うな、人を見つめろ、理念経営で老舗が再生

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1889年に英・グラスゴーで誕生した貿易会社「エ・ア・ブラウン・マクファレン株式会社」は明治維新後、急速に近代化を進める日本の海運事業の発展に貢献した会社です。当時の社長アルバート・リチャード・ブラウンは「キャプテン・ブラウン」と皆から愛情を持って呼ばれた海の男。その孫にあたるリチャード・ブラウンが1949年に東京に作った日本支社が現在の「エア・ブラウン株式会社」のルーツになります。以来、70年に及ぶ歴史の中で、ケミカルから自動車産業、エレクトロニクス産業まで総合貿易商社として独自の道を歩んできました。

現在相談役を務める安田隆氏は2006年の社長就任後、「商品力ではなく人間力こそが企業のエネルギーになる」という信念で、企業理念を中心とした組織作りを推進。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災など幾度となく訪れた経営危機を乗り越え、初めて年商100億円突破を実現した立役者です。就任以来注力してこられた理念経営の本質とは何かをお伺いします。 

【プロフィール】
エア・ブラウン株式会社 取締役相談役 安田隆氏

【インタビュアー】
株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションクラウド事業マーケティンググループ 山中麻衣、沖田慧祐

強すぎる商品力によって大事な人間力が軽視されていた

リンクアンドモチベーション 山中:商品力ではなく社員の人間力をエア・ブラウンの成長エンジンだと捉えた最初のきっかけは何ですか?

エア・ブラウン 安田氏:前の社長の口癖は「商社とは商権の塊である」でした。自分たちに商材があるわけではない、あくまでメーカーが私たちに売らせてくれるから成り立つビジネスなわけで、質の高い商権をいくつ持っているかが生命線だとよく言っていました。例を挙げると振動衝撃試験機というのを日本で最初に輸入したのがエア・ブラウンなんですが、とても優れた商品だった上に、国内ではうちしか取り扱っていないわけですから圧倒的に勝てたわけです。だから社長に言わせれば、社員というのはとにかくそれをハンドリングすればいいんだ、ちゃんと売ってさえいればいいんだよ、ということだったわけですね。

他にも、やはりとてもいい商材を扱えることになった時、そのメーカーの社長とうちの社長が仲良かったことから「俺とあいつの仲だから商談もうまくいくはずなので営業はいらないよ」と、つい発言したりするわけです。

こんなこと面と向かって言われたらモチベーションが上がるわけはありません。社長はトップ営業だった人で、自分がいつも先頭に立って開拓していくタイプで、とても優秀で力のあるいわゆる剛腕社長でした。力があるからこそ、時折こうした現場の人材を軽視するような発言をついしてしまうようなところがありました。

そんなある日、私に「次の社長をやれ」という声がかかったんです。私は経営者タイプではありません。なので、参謀のような立場で会社を支えますと固辞したのですが、当時離職率もどんどん上がっており、誰かが何かを変えないとこの伝統ある会社がダメになるのではという危機感に突き動かされたこともあり、最終的に引き受けることにしました。

私が引き受けた後、最初にやったのは判断の中心となる企業理念を定めることです。A4サイズの紙に自分が考える理念とビジョンとは何かというのを一気に書き上げました。それが新社長としての方針の軸になり、それが「商品の強さで勝負するのではなく、社員の人間力で勝負する会社に変える」きっかけとなりました。

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数字は見ない。人を見ていれば成果は後からついてくる

リンクアンドモチベーション 沖田:具体的に、それまでの経営と大きく変えたことは何ですか?

エア・ブラウン 安田氏:まず、経営とは数字を追うものではないと定義づけました。具体的には、社員にも「数字目標の強制はしない」「目標達成の恐怖感を与えない」ことを発信し、目標とか予算というのは自分で決めて自分で達成を目指すものとしました。それまでが営業畑出身の社長で数字や目標の達成を強く追い求めるタイプでしたからガラッと変わったわけですね。

そして、そういう「不安感を与えず、自主性を重んじる」という方針を明確に打ち出したのと同時に、ビジョンにもある「冒険家精神」の体現を強く求めました。

たとえば当時、海外出張は経費がかさむので簡単に認めない風土がありました。しかし、海外に行くということは視野も広がるし、会社にとっても本人にとってもプラスになることも多い。何よりも、そういった「冒険家精神」が大切なのではないか。そう考え、申請があれば原則認めることにしたのです。

そうすると、今まで遠慮していた層から本当はこういうところに行きたい、こういう商談をまとめたい、という積極的な声が上がるようになりました。小さなことのようですが、こういうこともモチベーションを上げる一つの方法だなと思います。このように「数字で責任を問わない」「海外にどんどん出す」というシンプルなことから始めたというのが、私が社長に就任した当初の状態です。

数字のことをとやかく言わなくても、社員がイキイキさえしてれば大丈夫だろうと確信的に思ってました。それでも、2008年のリーマンショックの時などは、現場から「これだけやります!」と宣言があったのですが、むしろ私から「実際に市場が何割も縮小しているのに無理でしょ?目標を下げなさい」と言いましたね。私が社長になってからは、昨対がいくらとか一切言わないし、数字だけで評価するということはしませんでしたね。

リンクアンドモチベーション 沖田:普通業績が良くない時に社長を引き受けると、「まずは数字」と考えてしまいそうですが、組織風土変革や理念、ビジョンの策定から入ったというのが驚きます。

エア・ブラウン 安田氏:私が変えたというよりは、もともとイギリスの貿易会社がルーツである会社の文化を再建したいと思ったんです。

創業者の「キャプテン・ブラウン」は明治時代に、世界でも無名な極東の国日本で新しい海運事業を推進した、まさに「冒険者」だったわけで、会社のルーツとして「自由闊達な精神」というのは潜在的に持っていたはずなんです。それが時代とともに、いつの間にか希薄化してしまっていた。私はそれを復活させたかったんです。

自由闊達な精神、つまり「人は信頼されて自由を与えられれば、必ず応えてくれる」ということは私が社長に就任する前から大事なことだと感じていました。

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リンクアンドモチベーション 沖田:社長就任当時からの、実際の業績の変化はどうでしたか。

エア・ブラウン 安田氏:実は社長就任当時、社員69人で売上70億円程度の会社だったのですが、いきなり「社員100人で100億いくぞ」と宣言したんです。その時は社内でも一部から笑われましたが、その後右肩上がりで2013年には本当に売上100億円を突破することができました。皆びっくりしていましたね。

最初のうちは一部の社員から「理念経営と言いながらなんで目標100億円なんですか。いきなり方針を変えるんですか」と言われたりもしました。でも私の考えは違います。こういうわかりやすい目標が実現できると、自分たちのやってきたことは間違っていなかったと思えますし、求心力も高まり強い会社をつくることができるんです。会社の風土を変えるためには必要なことだと思っています。

当時、リンクアンドモチベーションの坂下社長から業績とエンゲージメントの相関関係のデータを見せてもらったことがあったのですが、その話を聞いたこともあり、社員のモチベーションを上げれば利益も必ず上がると信じて、愚直に実行してきましたね。

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トップがやりすぎないことが若い力が伸びる機会をつくる

リンクアンドモチベーション 沖田:逆に、理念経営に切り替えたことで大変だったことはありましたか?

エア・ブラウン 安田氏:経営方針を変えたときの社内からの反発には苦労しました。例えば、現場の営業などは忙しい中で理念研修とかに付き合わされるのでイライラするわけです。「これ、何のためですか?」と。それに加えて、研修の実施自体が組織の雰囲気を悪くしてしまうようなこともありました。元々、若い社員がベテラン社員のアドバイスや経験を聞いてなにか新たな気づきを得てくれるのではないかと期待して、研修は階層をシャッフルして実施したのですが、実際は40〜50代のベテラン社員たちが若手に「こんなの時間の無駄だ」などとネガティブな発信をしてしまい、逆効果になったこともあります。

ただそのあと、運営を任せていた中堅社員たちが私のところに来て「申し訳ありません」と言うから、自分が出ようかと話すと、「それは結構です。自分達に最後までやらせてください」と言ってくれたんですよね。この研修がどれくらい大事か、私の想いや覚悟が彼らミドル層には伝わっていたんですね。こういう機会を通じて人が成長するのだという実感をもてた事象でもありました。

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経営者が誰よりも自分の変化を信じ、社員の変化を信じる

リンクアンドモチベーション 沖田:ありがとうございます。これまでに色々な経営者の方に話をお伺いしてきましたが、とはいえ経営者として理念より数字について強く言いたくなるような時もあるかと思います。ここまで安田さんが一貫して理念を大事にした経営ができている理由について教えてください。

エア・ブラウン 安田氏:当初、会社を変えたい、社員を変えたいと思っていたけど、1番変わったのは私自身でした。新方針発表を全社員参加の全社会議で行ったときに、「この方針についてこれない人はこの組織から離れてもらって構わないから。そのくらいの覚悟で進めます」と言ったんです。性格的にそんな強いことを言えるタイプじゃないのですが、その時は自然と口から出たんですよね。

経営者自身が変わらなければ皆変わる訳がないと、何となく思っていたんだと思います。自分が変化することを信じ、社員一人ひとりが変化してくれることも信じる。社員のことを信じて、生命力に満ちて働ける会社基盤や意欲が高まる環境を揃えることができれば、数字なんて自然についてくると思っています。

リンクアンドモチベーション 沖田:最後に。安田さんの考える理想の組織像とは何でしょうか?

エア・ブラウン 安田氏:渡り鳥って決まったリーダーがいないそうですね。飛びながら先頭はどんどん変わっていく、でも目指す方向は絶対に間違わないそうです。そんな組織が理想です。上からいちいち目標をおろさなくても、1人1人があるべき姿や進むべき道を理解し、自分の役割を果たす。そうすれば、社員のモチベーションも高く、常にミッションやビジョンに向けて走り続けられる会社になるんだと思います。

リンクアンドモチベーション 山中・沖田:貴重なお話、どうもありがとうございました。

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