オルビス株式会社
過去慣性を乗り越えた、大手企業再生の物語

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2018年の化粧品出荷額は前年比3%増、3年連続で過去最高を更新。インバウンド(訪日外国人)消費により、日本の化粧品業界は活況を呈しています。中でも国内市場の8割を占めるのが“4強”の化粧品メーカー。資生堂、花王、コーセー、ポーラ・オルビスHDの4社です。

そして中でも、安定した化粧品市場で攻勢をかけるのが、ポーラ・オルビスHDです。組織改革とリブランディングを掲げ動き出した基幹ブランドORBIS(オルビス)では、2018年10月にリニューアルした「オルビスユー」が爆発的にヒット。そのオルビス株式会社の代表取締役を務めるのが、小林琢磨氏です。

現在は好調に見えるオルビス社ですが、元々は10年以上売上が低迷。小林氏は、その経営者として抜擢を受け、その後見事に衰退期の組織を蘇らせました。今回は、その復活劇の裏側にあったストーリーについてお伺いします。

【プロフィール】
オルビス株式会社代表取締役社長 小林琢磨氏

【インタビュアー】
株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションクラウド事業マーケティンググループ マネジャー 山中麻衣

【ライター】
株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションクラウド事業マーケティンググループ 沖田慧祐

ポーラ時代に経営者としての礎を築いた

リンクアンドモチベーション 山中:まずは、小林さんの入社から現在社長になるまでの簡単なご経歴を教えていただけますか。

オルビス 小林氏:2002年、ポーラに入社しました。最初はBtoBの事業に携わり、ホテルアメニティや美容室のシャンプー、トリートメントなどの法人営業担当をしていました。ポーラは元々訪問販売が本流です。当時1,000億円の売上のうち900億円は訪問販売でした。私は新規事業として、新しい流通を開拓しようという目的で法人営業を担当していました。

本流側には商品企画部や宣伝部などがあるんですが、当時は全く関わりがありませんでした。私がいた部署は、他部署から独立してBtoBに関わる一連のマーケティングから営業までのすべてを担う小さい部署だったので、宣伝や商品開発も全て事業部に一任されていました。30人の部署で、一つのカンパニーのようでした。そこで法人営業や、商品企画、広告やマーケティング、物流も全部やりました。

その中で、次第にPLなども見るようになりました。大きい会社の一部の部署だと、普通はPLとかまでは見ないと思うのですが、自分はPLやBSも見て、在庫管理までやっていました。そこが自分のビジネス人生の始まりですね。

当時は2002年なので、有効求人倍率でいうと0.41程度で、リーマンショック直後よりも下くらいの水準で景気が本当に悪かったです。ホテルや旅館などのレジャー業界企業の営業を担当していたのですが、取引先が次々に倒産していきました。すごく仲良くなって、何度も提案させてもらい自社の商品を導入していただいた取引先でも、倒産ということになってしまうと、私は債権回収をしに行かなければいけない。そういうことを20代前半で経験していたので、経営への意識はそのあたりから少し持つようになっていたと思います。

一生懸命やっても苦しんで倒産していくお客様や取引先を頻繁に目の当たりにしながら、その部署で7年くらい過ごしました。その後、社内ベンチャー制度ができ、ディセンシアという会社が立ち上がり、そこへジョインしました。ディセンシアでは8年を過ごしましたが、売上0の状態から50億円弱、営業利益率20%近くまで伸ばすことができました。

オルビス株式会社 過去慣性を乗り越えた、大手企業再生の物語(1)

当時低迷していたオルビス社の立て直しに抜擢

オルビス 小林氏:その後、オルビスが10年以上低迷してる状況だったので、その経営の変革をやることになりました。一番最初に40分くらいHDのトップと話をして、あとは任せるという感じでした。

リンクアンドモチベーション 山中:オルビス社に入って、どんなことから変革の手をつけていったのでしょうか。

オルビス 小林氏:ミッション・ビジョンがしっかりと定まっていない状態だったので、まずは創るところから始め、それに基づいて、マーケティングの戦略を考えました。事業会社の経営というのは、ほぼマーケティングだと思います。だから、ミッション・ビジョンを創って、マーケティング戦略を創って、そこからPDCAを回していこうと。それまでは売上目標しか見ていないという状態で、何が良いのか悪いのかがよくわからないという状態でしたね。

ミッション・ビジョンがしっかりと定まっていないというのは、具体的に言うと、4年連続でミッションが変わるような状態でした。部門長たちが「ミッションは毎年変わるので、気にしなくていいです」と言ってしまっている。存在意義が毎年変わってしまうのも良くないのですが、何より部門長が「ミッション・ビジョンなんてそんなものだよ」と思ってしまっていたのではないでしょうか。それまでオルビスは年功序列の体制だったため、立場や役割が変わるタイミングにおいても、部門長たちは経営やマネジメントの訓練をあまり受けていなかったのかもしれません。

経営をするとなった時、私であれば、例えばビジネスとしての利益構造をすぐに調べます。そのため、役員と面談しながら「今、うちの会社の限界利益率は何%でしたっけ?」と普通に聞くのですが、全然出てこない。「ちょっとそれは確認しないと…」となってしまう。役員面談でそのような状態でした。ただ、逆になぜそうなってしまっていたのかと言うと、創業経営陣たちが強烈な仕組みを作っていたからだと思います。完全分業制で、隣のチームが何をしているのか把握していなくても問題ない、自部門のオペレーションだけを見て、その生産性を上げれば良いだけということになっていました。さらにその状態で営業利益率は15%ほど出ており、メーカーの中では非常に高かった。だから、危機感はわきづらかったのだと思いますね。

オルビス株式会社 過去慣性を乗り越えた、大手企業再生の物語(2)

縦割りの構造だったため、横のコミュニケーションが希薄化していた

リンクアンドモチベーション 山中:そのような中で、どのように変革を進められたのでしょうか。

オルビス 小林氏:アプローチはオーソドックスだと思いますよ。アプローチの正解はありませんが、成功確率の高いアプローチ方法はあると思っています。

私がまず取り組んだのは、組織の体制変更です。それまで事業は縦割り制(チャネル別)だったのですが、横割り制(機能別)に変更しました。店舗か通販かというチャネルの分類は企業論理の話であり、お客様にとっては関係ありませんよね。店舗でサンプルを触っていただいて、BA(※ビューティアドバイザー。オルビス店舗の美容部員の名称)と話してもらい、お客様に帰りの電車の中でスマートフォンで買ってもらえればいいのです。特に、化粧品という商品は重量があるので、店舗で買うよりも通販で届けてもらいたいとお客様も考えやすい。店舗か通販かを分断して考えること自体がお客様視点ではないので、組織体制は大きく変えました。

組織体制の変更に伴って、本質的なマネジメント能力が求められるようになりました。それまでは完全な分業だったので、仕事のやり方が決まっており、マネジャーは自分のやっていることをメンバーに伝承するだけである程度うまくいきました。しかし、組織編成を変えたことで、求められることが一気に変わりました。現場のマネジャーたちの役割は「仕事のやり方をメンバーに伝承すること」から、「マネジメントをすること」になりました。その時に大事になるのは、ミッションとビジョンです。会社としてどういう方向に進みたいのかを明確にして、各マネジャー・メンバーが自分で判断できるようにしなければいけません。

ただし、そこからも大混乱が起きましたね。マネジャー陣は、マネジメントをしたことはありませんでしたし、これまで20年以上店舗系と通販系は分かれており、部長も役員も業務上の交流はほとんどなかったので、お互いの役割期待や現状の課題感などを深く理解し合えている状態ではありませんでした。

オルビス株式会社 過去慣性を乗り越えた、大手企業再生の物語(3)

組織変革を急ぐあまり、ミドルから不満が溢れた

リンクアンドモチベーション 山中:それは大きな組織変更でしたね。

オルビス 小林氏:そうですね。そして、この組織編成に加えて、若手にスポットを当てているように見えていたので、さらに組織内に不満を生んでしまいました。どういうことかと言うと、従来のカタログ通販のビジネスだけではこれからうまくいかないと考え、デジタル化を推進し始めたのですが、結果的にデジタル化をうまく推進できる人が若い人ばかりになってしまったんです。そうすると、年功序列が強い組織の中でスポットライトが当たりづらくなったミドル層や部長クラスから、経営者である私や若手への風当たりが強くなってしまいました。

今から思うと、自分もいきなり社長になって、やっぱり焦りもあるし、このタイミングは逃せないというのがあったんだと思います。いきなり大きな変革からやってしまいました。

リンクアンドモチベーション 山中:そうだったんですね。ちなみに、リンクアンドモチベーションでは、組織が変わるときには3つのステップ(Unfreeze・Change・Refreeze)があるという話をよくしています。氷の形が変わるのをイメージしてもらえればと思うんですが、四角い氷をいきなり丸い氷に変えようとすると割れてしまうじゃないですか。四角い氷を一旦溶かす。これが解凍、Unfreezeですね。それで、溶かした水を丸い型にはめる。これが変化、Changeです。そして最後、その丸い水を凍らせる。これが再凍結、Refreezeです。氷の形の変化と同じように、人の気持ちも、溶かしてから変えて固めるという順で進めないといけない。なぜならば、人間には過去慣性や相互不信があるからです。今回の小林さんの例でいうと、いきなりChangeから入ってしまったようなイメージですか。

オルビス 小林氏:そうですね。その後、ちゃんと組織の状態を見たいと思ってモチベーションクラウドを入れさせていただきました。

モチベーションクラウドでミドルとの“認識の齟齬”がなくなった

リンクアンドモチベーション 山中:モチベーションクラウドを導入いただいた背景も教えていただけますか。

オルビス 小林氏:モチベーションクラウドは、組織の状態が非常にわかりやすくなるという点も良かったのですが、何から手をつければ良いかが分かるのが他の組織診断サーベイと一番違う点だと思っています。期待値が高いところから対応していく。これが大事だと思っています。何でもそうですが、リソースは限られています。「今のタイミングであれば、この項目の満足度を上げて、逆にこちらの項目の期待度を下げにいこう」という風に、戦略的に考えながら使っています。

あと、実際に使ってみて良かったこととしては、ミドルとの認識のばらつきを少なくすることができた点です。例えば、全体のエンゲージメントスコアとの相関性が比較的高い項目って、事業戦略の納得性だったりするんですよね。ということは、組織風土とかの変革ばっかりじゃなくて、そもそも事業戦略の腹落ち感を上げていかないと、全体のエンゲージメントスコアは上がらない。

そうなったときに、事業戦略とは何かという、経営リテラシーの話しから社員に理解してもらわなければいけないとわかったんです。どういうことかと言うと、現場から「戦略がおりてこないので、動けないんです」「このカタログのクリエイティブの方向性をどうしたらいいか、戦略がおりてこないからわからない」という声が上がってくるのですが、私からすればそれは戦略ではありません。「カタログのクリエイティブの方向性は戦術だから、それは君たちが考えて提案するものだ」と伝えます。経営が示す戦略というのは何か、という言葉の定義をすり合わせることができました。

正直それまでは、社内でミーティングをしていても、言葉のキャッチボールになっていませんでした。でも、そういった認識合わせができたことで、生産性の高い議論ができるようになり、意思決定がしやすくなりました。

オルビス株式会社 過去慣性を乗り越えた、大手企業再生の物語(4)

一人ひとりに対して、期待を直接伝えていった

リンクアンドモチベーション 山中:ありがとうございます。それでは話を戻しますが、モチベーションクラウドを使いながら、どのように組織変革に取り組まれたのかお伺いできますか。

オルビス 小林氏:最初にモチベーションクラウドを実施したのは2017年12月でしたが、その時のスコアは48.9のBランク。2回目のサーベイは2018年6月で、51.8と少し上がったのですが、2018年12月には42.8に下がってしまいました。正直この時期は組織状況がよくわかっていなかったというのが本音です。

一番辛かったのは、やはりスコアが一番下がった時ですね。2回目のサーベイスコアが上昇しているのは、私が社長に就任したことへの期待によるものだったと思いますが、その後にここまでお話したような大改革を行ったので、それまでにいたミドルの人たちから不満がどんどん出てくるようになりサーベイスコアは下がりました。当時の状態としては、ミドルの人たちは不満がありながらも、一定の年収を既に得ているので会社にしがみつくようになる一方で、若い優秀なメンバーが会社に既決感を感じて辞めて、スタートアップに行ってしまうということが出てきていました。そうして、私が抜擢したり、プロジェクトに呼んだメンバーに辞められてしまうと、不満を言っていた人たちから、「ほれ、みたことか」と思われるようになりました。

リンクアンドモチベーション 山中:それは大変でしたね…。モチベーションクラウドを使いながら組織状態の悪さに気づいたと。その後はどのように対応を進めたんでしょうか。

オルビス 小林氏:かなり組織に不満が溜まってしまっていた状態だったので、私が「全員面談するぞ」という指示をうかつに出してしまうと「社長なんかと話したくないんだよ」「いやー、この後社長と面談だよ。忙しいのに面倒くさい」という言葉が、一部社員からどんどん出てきてしまうのではないかと思いました。なので、3日間くらい私のスケジュールを全て空け、「良いことだけ言わなくてもいい。オルビスを良くしたいと思っていて、私に伝えたいことがある、聞いてみたいことがあるというのならいつでも何でも言ってきて欲しい」と社員に伝えました。

これは先程話していたUnfreezeに近いと思いますが、やっぱりとにかくコミュニケーションを取ることが大事だと思います。一人ひとりに対して、期待をちゃんと伝えることが大事。これを徐々にやっていったのが2019年でしたね。

そして、それと並行して、私が何を組織に約束するのかを、「小林コミット」と名付けて、全体に示しました。先程話した、私に直接何でも言ってほしいという時間をつくることを始めとして、皆さんにメッセージの発信を決められたペースで必ず行う、などです。そこからは、次第にミドルマネジメントとの関係も良くなり、現在は少しずつ良くなっているように思います。

オルビス株式会社 過去慣性を乗り越えた、大手企業再生の物語(5)

過去慣性を払拭するために、未来を見ているキーマンを握れ

リンクアンドモチベーション 山中:過去慣性に囚われてしまった企業内で、何か変革を起こしたいと思う方もいらっしゃると思います。ご自身の体験を改めて振り返ってみて、何がポイントだと思われますか?

オルビス 小林氏:私が身に染みて感じたのは、やっぱりミドルマネジメントが本当に肝だということです。かつ、相当に強い心を持って臨まなくてはいけません。そして、どんな組織でも未来を見ているキーマンが社内にはいるので、その人を見極めて、しっかり押さえておくことが大事。あとは、どうアプローチすべきかは決まっているので、それをちゃんとやっていく。社内の組織変革と事業変革を、正しいアプローチ方法で進めることが重要です。

リンクアンドモチベーション 山中:社内にいる、変革を起こしたいと思っている人たちをちゃんと見極めて、一緒に変革する仲間にしていくようなイメージですか。

オルビス 小林氏:そうですね。やっぱり社内には表向きでは賛同して、裏側では何もやらず、何もやらないならまだしも、「社長が言っていることはやらなくていいよ」と陰口を言ってしまう人も一定います。しかし、会社を成長させようとか、このミッションで世の中を変えていこう、良くしていこうと本当に思っている人も必ずいるので、その人たちを見極めて握らなければいけないと思います。

そして変革の時、主体者は極限の孤独状態になりやすいので、ある程度覚悟しておきながらも、やる気になっている人にマメに話をして、そのやる気の火を消さないようにする。その一方で、変革に対する抵抗勢力を抑えるアプローチも同時に行っておくということも、リアルな話として大事ですね。

自己否定と自己変革を繰り返せる人材を育てる

リンクアンドモチベーション 山中:ありがとうございます。今後はどのような組織像を目指されていくのでしょうか。またそれに対しての現在地を教えてください。

オルビス 小林氏:恥ずかしながら、1合目ですよね。まだまだ全然です。目指したいのは、自走できる組織。自走というのはデジタルシフトなどの手段の話ではありません。組織に属している一人ひとりが経営している意識を持つということです。

変革の経営という言葉はありますが、結局経営は変革の連続です。今後経済状態はますます変わっていきます。その中では、一人ひとりが自己否定して自己変革しながらやっていかなければなりません。私以外にもそういったことを考えられる人材が出てこなければいけないと思いますし、自分こそがそういった人材を育てなくてはいけないと思っています。

リンクアンドモチベーション 山中:本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

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公開日:2020.07.06

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