社会保険料控除って?計算方法や年末調整について解説!
毎月の給与からは健康保険料や年金保険料といった「社会保険料」が天引きされています。社会保険料を納めていることを証明し、社会保険料控除を受けることによって所得税や住民税の金額を抑えることができます。
一方で、控除を受けない場合には翌年に納める税の金額が高くなってしまうため、負担が大きくなってしまいます。人事や経理の担当者だけではなく、1人1人が自分のお金がどのような仕組みの中で動いていくのかを知っておくことは重要です。本記事で基本的な社会保険料控除についての知識を確認しましょう。
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社会保険料控除って?
そもそも社会保険料とは、大きく
・健康保険料
・介護保険料
・厚生年金保険料
・雇用保険料
・労災保険料
の5つをまとめたものを指します。社会保険料は、個人が病気や怪我、介護、失業などに伴って生活が困難な状況になった際にサポートをするための財源として徴収されています。社会保険は強制加入の制度であるため、給与・手取りが少なくなってしまうものだと感じる場合もありますが、もしもの時には非常に心強い制度になります。
そのような社会保険料を所得から控除する(差し引く)制度が「社会保険料控除」です。この制度は個人が実際に受け取っている金額以上の税額を負担しないようにするためのものです。
例えば、年収が400万円である場合でも実際には健康保険料や雇用保険料などを支払っているため、手元に残る金額は低くなります。この場合、「400万円」に対する課税を行ってしまうと個人の負担が大きくなり、生活に影響が出てしまいますが、控除を行うことで「差し引かれた後の所得」に対して課税を行って適切な税額を設定することができます。
このような背景で、社会保険料控除によって1月〜12月に支払った社会保険料を全額所得から差し引くことができます。給与所得者だけではなく個人事業主も控除を受けることができ、扶養者の支払っている社会保険料についても控除の対象になるためしっかりと活用しましょう。
社会保険料控除を受けるには?
給与所得者は「年末調整」を行うことによって社会保険料控除を受けることができるため、本人が手続きを行う必要は基本的にはありません。個人事業主については確定申告を行うことで社会保険料控除を受けることができます。しかし、給与所得者であっても下記に当てはまる場合は確定申告を行う必要があります。(参照:国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」)
1 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
2 1か所から給与の支払を受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人
3 2か所以上から給与の支払を受けている人のうち、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整されなかった給与の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える人
4 同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている人
5 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
6 源泉徴収義務のない者から給与等の支払を受けている人
7 退職所得について正規の方法で税額を計算した場合に、その税額が源泉徴収された金額よりも多くなる人
控除の対象となる社会保険料
健康保険料
健康保険料は、病気や怪我をして医療機関を一定の負担額で利用するために支払っている保険料です。「健康保険」「船員保険」「共済組合」「国民健康保険」というように年代や職種、地域によって種類があります。報酬に応じて保険料が設定されており、事業主と従業員で折半して支払っています。
年末調整や確定申告では、納付の証明書は必要ありませんが支払った金額の申告は必要です。
年金保険料
年金保険料は、定められた年齢になった際に、生活を保障する金額を受けるために支払っている保険料です。「厚生年金」「国民年金」のそれぞれがあり、
・厚生年金:70歳未満の会社員や公務員が支払い対象
・国民年金:20歳以上60歳未満の全国民が支払い対象
となっています。健康保険料と同様に報酬に応じた保険料が設定されており、事業主と従業員で折半して支払っています。
国民年金については年金機構から送られて来る控除証明書が必要です。また、年の途中で転職や退職をした場合は前職の源泉徴収票が必要になります。
後期高齢者医療保険料
後期高齢者保険料は、後期高齢者向けの医療費負担を受けるために支払っている保険料です。基本的には75歳以上の高齢者が加入する制度ですが、一定の障害を持っている場合は65歳から加入することになります。
保険料は個人で支払うようになっていますが、公的年金を受け取っている場合には「特別徴収」として支給金額から天引きされているため、社会保険料の控除対象にはなりません。一方で、特別徴収の対象でない場合には社会保険料控除を受けることができます。
労働保険料
労働保険料とは、「労災保険料」と「雇用保険料」をまとめたものであり、それぞれ下記の目的で徴収されています。
・労災保険料:業務による傷病に対して必要な保険を受け取るため
・雇用保険料:失業した際に最低限の生活の保障や安定した雇用を受けるため
労災保険は全額事業主が負担するため、従業員は社会保険料控除を受けることはできません。雇用保険料については事業主と従業員の双方が負担しているため、従業員は負担分で控除を受けることができます。
介護保険料
介護保険料は、
・65歳以上で要介護、要支援が認められた場合
・40歳以上で末期がんなどの特定の疾病があり要介護、要支援が認められた場合
に介護を受けるために支払っている保険料です。健康保険に加入している65歳以上の人と40歳〜64歳の人が支払いの対象となっており、
・65歳以上:年金からの天引き
・40歳〜64歳:報酬に応じた保険料を事業主と折半して支払い
の2種類の支払い方法があります。特に、65歳以上でも社会保険料控除を受けることができるため、忘れないようにしましょう。
年金基金の掛金
年金基金の掛金とは、老後に受け取る年金の金額を増やすために支払っている保険料です。会社員や公務員向けの「厚生年金基金」と自営業やフリーランス向けの「国民年金基金」のそれぞれがあります。特に厚生年金基金については企業年金の形で採用されている場合は事業主と従業員の負担額は変わりますが、支払っている金額に対して社会保険料控除を受けることができます。
社会保険料控除と年末調整
先述した通り、給与所得者は年末調整によって社会保険料控除を受けることができます。1年間で得た給与所得と支払った社会保険料を改めて算出した上で、事業主が社会保険料控除を行うため基本的に従業員は自身で手続きを行う必要がありません。
ただし、家族の年金保険料や健康保険料を支払っている場合にはその金額分の控除も受けることができます。両親や家族の分の社会保険料を支払っている場合は、年末調整の際に提出を求められる「保険料控除申告書」に必要な項目を記入すると共に、「社会保険料控除証明書」を添付する必要があります。
社会保険料控除の必要書類
社会保険料控除を受けるためには、必要な書類を添付して申告を行う必要があります。また、年末調整と確定申告のそれぞれで必要なものが異なるため確認しておきましょう。
■年末調整(給与所得者)
・生命保険料、地震保険料及び小規模企業共済等掛金の支払い金額を証明する書類
・社会保険料のうち国民年金保険料の支払い額を証明する書類
※国民年金保険料等以外の社会保険料については、添付の必要なし
■確定申告(自営業やフリーランスなど)
・社会保険料控除を受ける年の確定申告書
・社会保険料の支払い金額を証明する書類
年末調整は、概ね11月末から12月で申告書を事業主が交付して控除証明書と共に提出してもらいます。給与所得者で確定申告の必要がある場合は、事業主が源泉徴収票を発行して翌年の2月16日〜3月15日までの期間中に各自で申告します。
(参考:「給与所得者の保険料控除の申告」)
(参考:「No.1130 社会保険料控除」)
社会保険料控除証明書がない場合
社会保険料控除を受けるためには、社会保険料控除証明書が必要ですが、場合によっては紛失や手元に届かなかったなどの理由で手元にないこともあります。その際には管轄の年金事務所に連絡をすることで、納付の事実を確認した後に1週間ほどで再発行してもらうことができます。
また、年末調整タイミングで手元に証明書がない場合でも翌年の1月31日までに提出することを条件として申告を行うことができます。それまでに提出ができない場合には、控除前の所得金額に応じて2月分の給与から税徴収されることになります。
社会保険料控除の計算方法
では、実際に社会保険料控除の計算はどのように行われるのでしょうか。
社会保険料は報酬に応じた「標準報酬月額」を基に算出されています。標準報酬月額とは、従業員の給与に合わせて設定されている「等級」で表されるものです。標準報酬月額は複数の月の給与の平均を基に算出され、「算定(さんてい)」「月変(げっぺん)」の手続きを経て決定されます。
・算定
事業主は4月〜6月までの給与額を健康保険組合や年金事務所に届け出ます。この届出により算出された平均給与額に基づいて標準報酬月額が決定されます。
・月変
「月額変更届」の略称です。昇給や昇格などで、従業員の給与が大きく変動したときは、標準報酬月額を改定します。随時改定とも呼ばれています。
社会保険料控除表の見方
標準報酬月額は下図のように等級で区分されており、等級に応じて社会保険料が決定されています。
(出典:全国協会けんぽ「令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」)
例えば、標準報酬月額が110,000円の場合は「107,000〜114,000」の間である「7等級」に分類されます。そのため、「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」では
・全額:10,791円
・折半額:5,395.5円
となっているため、事業主と従業員はそれぞれ5,395.5円を保険料として月々に支払うことが分かります。
年末調整における社会保険料控除確認のポイント
年末調整による社会保険料控除は従業員の課税に大きく関わるものであるため、年末調整の処理を担当する方は十分にミスがないように注意しなければいけません。社会保険料控除を受けられないことによって従業員の税負担が増してしまいます。
また、正しく社会保険料が申告できていない場合には後々の徴収や支払い命令も行われるため、思わぬ出費・負担を従業員に強いると共に、通常の業務に加えて申告に必要な作業を増やすことになってしまうため、自社に対する信頼や安心感が損なわれてしまう可能性があります。
このような事態を避けてスムーズに社会保険料控除を申告するために、年末調整を担当する方は、特に下記でご紹介するポイントについてはしっかりと確認するようにしましょう。
ポイント①:「社会保険料控除申告書」を確認する
自社の給与のみを所得としている従業員に関しては、月々の給与から既に社会保険料が控除されているため年末調整で改めて申告をする必要はありません。しかし、従業員が給与から控除される以外の社会保険料を支払っている場合については、年末調整で控除の申告を行う必要があります。
この際には先述した通り、
・社会保険料控除申告書
・社会保険料控除証明書
を提出してもらい、申告されたものが社会保険料控除の対象になるかを確認しなければいけません。特に、「従業員の父親が自身の年金から天引きされた社会保険料」などについては社会保険料控除の対象とはならないため、「従業員自身が支払ったものか」についてはしっかりと確認する必要があります。
ポイント②:社会保険料控除の対象となるものの確認
年末調整の担当者は「何が社会保険料控除の対象となるのか」についてしっかりと知識を身につけておく必要があります。社会保険料控除の対象となるものは国税庁が公表しているため基本的なものは確認しておきましょう。
■社会保険料控除の対象となるもの
1 健康保険、国民年金、厚生年金保険および船員保険の保険料で被保険者として負担するもの
2 国民健康保険の保険料または国民健康保険税
3 高齢者の医療の確保に関する法律の規定による保険料
4 介護保険法の規定による介護保険料
5 雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
6 国民年金基金の加入員として負担する掛金
7 独立行政法人農業者年金基金法の規定により被保険者として負担する農業者年金の保険料
8 存続厚生年金基金の加入員として負担する掛金
9 国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法、恩給法等の規定による掛金または納金等
10 労働者災害補償保険の特別加入者の規定により負担する保険料
11 地方公共団体の職員が条例の規定によって組織する互助会の行う職員の相互扶助に関する制度で、一定の要件を備えているものとして所轄税務署長の承認を受けた制度に基づきその職員が負担する掛金
12 国家公務員共済組合法等の一部を改正する法律の公庫等の復帰希望職員に関する経過措置の規定による掛金
13 健康保険法附則または船員保険法附則の規定により被保険者が承認法人等に支払う負担金
14 租税条約の規定により、当該租税条約の相手国の社会保障制度に対して支払われるもの(我が国の社会保障制度に対して支払われる当該租税条約に規定する強制保険料と同様の方法ならびに類似の条件および制限に従って取り扱うこととされているものに限ります。)のうち一定額
(出典:国税庁「No.1130 社会保険料控除」)
ポイント③:社会保険料控除の対象とならないものの確認
社会保険料控除の対象とならないものについても同時に確認しておきましょう。
■社会保険料控除の対象とならないもの
・企業内で任意で設立された共済制度などに支払っている費用
・病気や怪我の治療に対して給付を受けた従業員が負担した費用
・事業主が負担した社会保険料
・特定の地域の生活水準や生活環境、為替状況などで決定される非課税の在外手当に対する社会保険料
ポイント④:社会保険料の集計
従業員が1年間で支払った社会保険料の金額を集計する際にも注意が必要です。
特に1年の途中で入社した従業員については、「前職で支払っていた社会保険料」についても集計するため、前職での「源泉徴収票」を発行・提出してもらう必要があります。これに加えて、
・給与から差し引かれているもの以外で社会保険料を支払っている従業員
・通常は給与から控除されるものを直接徴収することがあった従業員
・退職手当から社会保険料を差し引いた従業員
・非課税所得から社会保険料を差し引いた従業員
などに該当する場合には、集計や申告の漏れがないように社会保険料の支払い内容を改めて確認すると良いでしょう。
ポイント⑤:本年中に支払った社会保険料かを確認する
「本人が本年中に支払ったもの」が社会保険料控除の対象となるため、その点についても確認する必要があります。例えば、支払日が過ぎているにも関わらず支払っていない金額については、「支払っている事実」が無いため社会保険料控除を受けることができません。
また、保険料を複数回の納付を一括で支払う「前納」を行った場合には、
・保険料の割引制度が適用される
・前納した保険料の内、本年の支払い回数に応じた金額
(「社会保険料」=「割引を含んだ納保険料の総額」×「本年中の納付期日の回数÷「納付期日の総回数」で算出します。)
社会保険料控除はモチベーションを上げる一つの要素
ここまで、社会保険料控除について説明をしてきました。従業員にとっては働く理由やモチベーションアップのきっかけにもなる、社会保険料控除の仕組みを適切に運用することは、従業員のパフォーマンスにもつながる重要なポイントと言えるでしょう。
一方で、最後にお伝えしたいのは、従業員のモチベーションを高める要因には、社会保険料や賃金などの「経済的報酬」だけではないということです。
「経済的報酬」ではなく、従業員のモチベーションの源泉になりうるもの、それは「感情報酬」です。感情報酬とは、仕事のやりがい、獲得できるスキル、一緒に働く仲間との関係性、ミッションへの共感など、個々人にとって、意味や価値が大きく異なる性質を持っています。
例えばAさんにとっては魅力的でも、Bさんにとっては全く気にならないこともあります。
この「意味報酬」を上手く会社がコントロールし、従業員の心をつかむことができれば、経済的な報酬の何倍もの魅力を提供できます。いうなれば、「原価ゼロの報酬」とも考えられるでしょう。
従業員のモチベーションを上げるためには、給与、昇給といった経済的報酬と、無形な「感情的報酬」の両面を設計し、戦略的にアプローチをすることが重要です。
今後の日本経済が持続的に発展し、一人ひとりがモチベーション高く生き生きと仕事に取り組めるような社会を実現させていきましょう。
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記事まとめ
社会保険料は私たちの生活を保障する制度を利用するために支払っている金額です。そして社会保険料控除は支払っている金額を所得から差し引くことで、かかる税額を適切なものに調整するための仕組みです。年末調整や確定申告によって控除を受けることができるようになりますが、控除の対象や必要な書類は複数あるため、全体像やポイントを理解しておきましょう。
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社会保険に関するよくある質問
Q1:家族の社会保険料を控除するには?
A1:家族の社会保険料を自身で支払っている場合には、「社会保険料控除証明書」を年末調整や確定申告の際に提出することで控除を受けることができます。実際に自身で支払っていない社会保険料は控除の対象にはならないため、それぞれ申告する必要があります。
Q2:控除額の上限は?
A2:社会保険料控除は支払った全額に適用されるため、「控除の上限」自体はありません。しかし、健康保険料、厚生年金保険料はそれぞれ等級によって保険料の上限が定められているため、実質的には「等級の上限に対応する保険料」が控除の上限金額になります。
(参考:全国協会けんぽ「令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」)
Q3:配偶者扶養時の保険料は?
A3:配偶者の社会保険料を支払っている場合にはその金額も控除の対象となります。年末調整や確定申告の際に「社会保険料控除証明書」と共に金額を申告します。