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労災保険とは?給付条件や保証内容、申請の仕方について解説

 業務時間中や業務が原因として生じた怪我や病気などは「労災」と言われています。「仕事中にした怪我は労災」という言葉は聞いたことはあっても、具体的にどのような条件が労災になり、どういう対処をすれば良いのかまでは知らない方も多いのではないでしょうか。労災は起こるべきではないものではありませんが、もしもの時に適切な対応ができるようにその内容を知っておくことは大切です。

 本記事では労災の対象になる条件や、労災の際に活用できる労災保険の給付などについてご紹介します。

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目次[非表示]

  1. 1.労災って?
  2. 2.労災に当たる場合
  3. 3.給付内容の種類と給付額
  4. 4.労災発生時から保険給付までの流れ
  5. 5.会社が労災を認めない場合
  6. 6.労働基準監督署の決定に不服がある場合
  7. 7.会社を訴えることができる場合もある
  8. 8.労災保険給付における注意点
  9. 9.労災保険はモチベーションを上げる一つの要素
  10. 10.組織改善ならリンクアンドモチベーション
  11. 11.記事まとめ
  12. 12.労災に関するよくある質問


労災って?


 労災とは、労働災害の略称であり、業務時間内や通勤中に生じた怪我や病気、障害、死亡などのことを指しています。


 よく労災としてイメージされるシーンは「建設作業中に高所から落下して怪我をする」「工場で大型の機械に巻き込まれて負傷する」などですが、「職場で起こったパワハラやセクハラのようなハラスメントによる精神的な疾患」や「業務過多の過労による死亡」なども労災として認められる可能性があります。そのため、業務内容や職種に関わらず業務時間中や通勤中に生じた怪我や病気などはいずれも労災に該当する可能性があると理解しておくと良いでしょう。


 また、「正社員でないと労災にはならないのか」「企業規模が大きい会社ではないと労災を保証されないのではないか」といった疑問が挙がることもありますが、労災には企業規模や雇用形態などは関係がありません。


 企業は正社員やパート・アルバイトの雇用形態に依らず、1人でも従業員として雇用している限りは労災を保障することが求められます。この保障のための保険を「労災保険(労働災害補償保険)」と言います。


 健康保険の保険料は事業主と従業員が折半をして支払っていますが、労災保険の保険料は事業主が全額負担しています。一般的に労災保険は健康保険による保障よりも手厚いサポートになっているため、もしもの場合は利用できるかを確認しましょう。


労災に当たる場合


 では、どのようなものが労災として該当し、労災保険の給付対象になるのでしょうか。厚生労働省は下図のように労災を仕事によるものが原因となる「業務災害」と、通勤によるものが原因となる「通勤災害」の2種類に大別しています。

出典:厚生労働省「労災保険給付の概要」


(出典:厚生労働省「労災保険給付の概要」)

 業務災害と通勤災害のそれぞれについて、その定義や事例などを確認していきましょう。


業務災害について


 「業務災害」は、労働者が業務を原因として受けた負傷や病気、障害または死亡のことを指しています。業務災害として認められるものは下記の3つのケースに分類されています。

・事業主の支配・管理下で業務に従事している場合

 業務時間内や残業時間内で、職場で業務に従事している場合です。業務上必要な行動や施設・設備の管理状況などが原因となった時が該当します。

・事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合

 昼休みや業務時間前後に、職場や事業場施設にいて業務に従事していない場合です。休憩時間や業務時間前後に、私的な理由で行った行動で発生した災害は労災とは認められません。しかし、施設・設備の管理状況が原因となった場合や、トイレのような生理現象に伴って発生した災害は「事業主の支配・管理下にある」と見なされるため、業務災害となります。

・事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合

 出張や外出などで職場を離れて業務に従事している場合です。事業主の命令を受けて仕事をしている時に発生した災害は、私的な行動のような特別な事情がない限りは、業務災害として認められます。

通勤災害について


 「通勤災害」とは、労働者が通勤によって受けた負傷や病気、障害または死亡のことを指しています。「通勤」とは、就業に関する下記の移動が該当します。

・住居と就業の場所との間の往復

・就業の場所から他の就業の場所への移動

・単身赴任先と帰省先住居との間の移動

 また、業務のために移動をしている場合でも、下記に該当する場合に発生した災害は通勤災害として認められません。

・業務の性質を有するもの(業務中に発生した災害は「業務災害」に該当します)

・合理的な経路および方法を逸脱、中断した場合

 ここで、「合理的な経路」は最短距離という意味ではなく、交通状況や生理現象、日常生活上で必要な行為なども加味されます。下記の行為は厚生労働省が「合理的な経路からの逸脱・中断ではない」としているものであるため、通勤災害の原因として認められる場合があります。

・日用品の購入やその他これに準ずる行為

・職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育、その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為

・選挙権の行使その他これに準ずる行為

・病院または診療所において診察または治療を受けること、その他これに準ずる行為

・要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護


給付内容の種類と給付額

 業務災害や通勤災害として認められた場合には、補償の給付を受けることができます。給付内容には「療養補償給付」や「休業補償給付」など複数の種類があり、それぞれ条件や給付される金額が異なります。それぞれの内容や給付金額を確認していきましょう。

 また、給付を受けるために必要な申請書類については、厚生労働省の「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」のページからダウンロードすることができます。

1.療養補償給付・療養給付・複数事業労働者療養給付


 「療養補償給付・療養給付・複数事業労働者療養給付」は、業務中や通勤中に生じた怪我や病気などの治療にかかる費用を補償する給付です。

・指定された医療機関での無償の医療サービス

・医療サービスにかかった費用への現金給付

を受けることができます。自分で最寄りの医療機関を選んで受診する場合には、自身の健康保険は使用せずに、必ず労災であることを伝えましょう。医療機関で受診をした後には、下記の費用請求書を労働基準監督署に提出します。


共通
・検査に要した費用等請求書(非指定医療機関用)(診機様式第1号の3)
業務災害

・療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書 業務災害用・複数業務要因災害用(様式第7号(1))

・療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(薬局)業務災害用・複数業務要因災害用(様式第7号(2))

・療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(柔整)業務災害用・複数業務要因災害用(様式第7号(3))

・療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(はり・きゅう)業務災害用・複数業務要因災害用(様式第7号(4))

・療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(訪看)業務災害用・複数業務要因災害用(様式第7号(5))

通勤災害

・療養給付たる療養の費用請求書 通勤災害用(様式第16号の5(1)) 

・療養給付たる療養の費用請求書(薬局)通勤災害用(様式第16号の5(2))

・療養給付たる療養の費用請求書(柔整)通勤災害用(様式第16号の5(3))

・療養給付たる療養の費用請求書(はり・きゅう)通勤災害用(様式第16号の5(4))

・療養給付たる療養の費用請求書(訪看)通勤災害用(様式第16号の5(5))

(出典:厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」)

2.休業補償給付・休業給付・複数事業労働者休業給付


 業務や通勤が原因となった怪我や病気を治療するために、ある程度の期間働くことができないこともあります。その場合には賃金を受けることができずに生活が困難になってしまうこともあるため、「休業補償給付・休業給付・複数事業労働者休業給付」による補償を受けることができます。

 給付条件や給付金額、提出書類は下記の通りです。(出典:厚生労働省「休業(補償)等給付について」)

■給付条件(3つの要件全てを満たす場合に給付の対象となります)

・業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため

・労働することができないため

・賃金を受けていない

■給付金額

・「休業補償給付・休業給付の金額」=「1日あたりの賃金(給付基礎日額)」×60%×「休業日数」

・「休業特別支給金の金額」=「1日あたりの賃金」×20%×「休業日数」

■提出書類


業務災害
・休業補償給付支給請求書 複数事業労働者休業給付支給請求書 業務災害用・複数業務要因災害用(様式第8号) 
通勤災害
・休業給付支給請求書 通勤災害用(様式第16号の6)

(出典:厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」)

3.障害補償給付・障害給付・複数事業労働者障害給付


 業務や通勤が原因となった怪我や病気について、治療しても後遺障害が残った場合には「障害補償給付・障害給付・複数事業労働者障害給付」を受けることができます。

給付の形態は障害等級によって、

・障害等級の第1級〜第7級

障害補償年金:賃金の131日〜313日分

障害特別支給金:159万円〜342万円

・障害等級の第8級〜第14級

障害補償一時金:賃金の56日〜503日分

障害特別支給金:8万円〜65万円

に分類されています。

 また、申請書類は下記の通りです。


共通

・障害補償年金 障害年金 前払一時金請求書(年金申請様式第10号)

・障害(補償)等年金差額一時金支給請求書 障害特別年金差額一時金支給申請書(様式第37号の2)

業務災害
・障害補償給付 複数事業労働者障害給付 支給請求書 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金 支給申請書 業務災害・複数業務要因災害用(様式第10号)
通勤災害

・障害給付支給請求書 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金 支給申請書 通勤災害用(様式第16号の7) 

・通勤災害に関する事項(様式第16号の7(別紙))

(出典:厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」)

4.遺族補償給付・遺族給付・複数事業労働者遺族給付


 労災により労働者が死亡した場合に遺族に給付される年金や一時金のことを、「遺族補償給付・遺族給付・複数事業労働者遺族給付」と呼びます。被災した労働者の配偶者や子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹が給付の対象となりますが、基本的に妻以外の遺族については、一定の高齢または年少であるか一定の障害があることが条件となります。(出典:厚生労働省「遺族(補償)年金」)

 給付の内容は遺族数などに応じており、下記のように分類されています。ここで、

・給付基礎日額:1日分の賃金

・算定基礎日額:ボーナスや賞与などの給与とは別に定期的に支払われたもの

を意味しています。



遺族数       
遺族(補償)年金

遺族特別支給金

(一時金)                    

遺族特別年金
1人
給付基礎日額の153日分(ただし、その遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分)
300万円
算定基礎日額の153日分(ただし、その遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は算定基礎日額の175日分)
2人
給付基礎日額の201日分
300万円
算定基礎日額の201日分
3人
給付基礎日額の223日分
300万円
算定基礎日額の223日分
4人以上 
給付基礎日額の245日分
300万円
算定基礎日額の245日分

 また、申請書類は下記の通りです。


共通 

・遺族補償年金・遺族年金 前払一時金請求書(年金申請様式第1号)

・遺族補償年金・複数事業労働者遺族年金・遺族年金転給等請求書 遺族特別年金転給等申請書(様式第13号)

業務災害  

・遺族補償年金 複数事業労働者遺族年金 支給請求書 遺族特別支給金支給申請書

 遺族特別年金支給申請書 業務災害・複数業務要因災害用(様式第12号) 

・遺族補償一時金 複数事業労働者遺族一時金 支給請求書 業務災害・複数業務要因災害用(様式第15号)

通勤災害

・遺族年金支給請求書 通勤災害用(様式第16号の8)

・通勤災害に関する事項(様式第16号の8(別紙)) 

・遺族一時金支給請求書 通勤災害用(様式第16号の9) 

(出典:厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」)


5.葬祭料・葬祭給付・複数事業労働者葬祭給付


 また、労災により死亡した労働者の葬祭料も「葬祭料・葬祭給付・複数事業労働者葬祭給付」として給付され、給付額は下記のように算出されます。

「給付金額」=31.5万円+「1日分の賃金」×30日分

(算出した金額が「60日分の賃金」に満たない場合は、「60日分の賃金」を支給)

また、申請書類は下記の通りです。


共通   

・葬祭料 複数事業労働者葬祭給付請求書 業務災害・複数業務要因災害用(様式第16号)   

・葬祭給付請求書 通勤災害用(様式第16号の10) 

(出典:厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」)

6.傷病補償年金・傷病年金・複数事業労働者傷病年金


 業務や通勤によって発生した怪我や病気が、治療を開始してから1年6ヶ月以上経過しても治らない場合には、「傷病補償年金・傷病年金・複数事業労働者傷病年金」が給付されます。給付の形態は下記のように傷病等級に応じて定められています。(出典:厚生労働省「傷病(補償)年金について」)


傷病等級
傷病(補償)等年金
傷病特別支給金(一時金)
傷病特別年金
障害の状態
第1級
当該障害の状態が継続している期間1年につき給付基礎日額313日分
114万円
算定基礎日額313日分

・神経系統の機能または精神に著しい障害を有し、常に介護を必要とするもの

・胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に介護を要するもの

・両眼が失明しているもの

・そしゃく及び言語の機能を廃しているもの

・両上肢をひじ関節以上で失ったもの

・両上肢の用を全廃しているもの

・両下肢をひざ関節以上で失ったもの

・両下肢の用を全廃しているもの

・前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの

第2級
同 277日分
107万円
同 277日分

・神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、随時介護を要するもの

・胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、随時介護を要するもの

・両眼の視力が0.02以下になっているもの

・両上肢を腕関節以上で失ったもの

・両下肢を足関節以上で失ったもの

・前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの

第3級
同 245日分
100万円
同 245日分

・神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの

・胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの

・一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になっているもの

・そしゃく又は言語の機能を廃しているもの

・両手の手指の全部を失ったもの

・第1号及び第2号に定めるもののほか、常に労務に服することができないものその他前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの

また、申請書類は下記の通りです。


共通

・障害補償年金 障害年金 前払一時金請求書(年金申請様式第10号)

・障害(補償)等年金差額一時金支給請求書 障害特別年金差額一時金支給申請書(様式第37号の2)

(出典:厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」)

​​7.介護補償給付・介護給付・複数事業労働者介護給付


 労災によって生じた障害が理由で介護を受ける場合には、「介護補償給付・介護給付・複数事業労働者介護給付」が給付されます。ただし、対象となるのは障害等級が第1級の人や、第2級で「精神・神経障害」か「胸腹部臓器障害」がある人のように、重度の障害がある人に限られています。

 また、介護補償給付は「十分な介護サービスが受けられていない」場合に給付されるため、病院に入院している場合や特別養護老人ホームに入所している場合などは、「十分な介護サービスが提供されている」と判断されて給付の対象にはなりません。

 給付金額は、常時介護と随時介護でそれぞれ下記のように上限金額が設定されています。

・常時介護が必要である場合:上限17万1,650円

・随時介護が必要である場合:上限8万5,780円

 また、申請書類は下記の通りです。


共通

・介護補償給付 複数事業労働者介護給付 介護給付支給請求書(様式第16号の2の2)

・介護に要した費用の額の証明書

(出典:厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」)

8.二次健康診断等給付


 職場の定期健康診断(一次健康診断)で異常があった場合に、二次健康診断として追加の検査を受けるための費用が労災保険から給付される場合があります。給付の要件は下記の通りです。(出典:厚生労働省「労災保険二次健康診断等給付」)

■二次健康診断給付要件

・一次健康診断の結果、異常の所見が認められること

次のすべての検査項目について、「異常の所見」があると診断されたときは二次健康診断等給付を受けることができます。

 ー血圧検査

 ー血中脂質検査

 ー血糖検査

 ー腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定

・脳・心臓疾患の症状を有していないこと

・労災保険の特別加入者でないこと

また、申請書類は下記の通りです。


共通
・二次健康診断等給付請求書(様式第16号10の2)

(出典:厚生労働省「https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/03.html」)


労災発生時から保険給付までの流れ


病院で受診を受ける


 業務中または通勤中に怪我や病気などが発生した場合には、まず病院で受診をする必要があります。後遺症の発生や症状の深刻化を避けるために速やかに受診する必要がありますが、受診までに出来る限りの範囲で会社に労災の発生を報告しましょう。

報告の際には、

・労災に遭った労働者の氏名

・労災が発生した場所と日時

・労災の発生状況

・労災に遭った従業員の状態や症状

を報告できると情報が正しく伝わるでしょう。また、労災に対しては健康保険が適用できません。そのため、一般の医療機関で受診や入院を行った場合には一度全額を自己負担する必要があります。できるだけ労災病院や労災指定病院で受診をすると良いでしょう。

請求書に会社から証明を記載してもらう


 労災に対する給付の申請書を作成し、所轄の労働基準監督署に提出します。申請書は労働基準監督署や厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。

 一般的には会社に労災の発生を申告した場合には、申告書の作成や申告の手続きは会社が代行します。しかし、会社労災の事実を認めない場合や、退職した後であるため手続きをしてくれない場合などは自身で直接労働基準監督署に申請する必要があります。


 労災は発生して時間が経ってからも給付の申請ができますが、補償の種類ごとに下記のように時効期間が定められています。できるだけ早い段階で申請するようにしましょう。


・時効2年:療養給付、休業給付、葬祭給付、介護給付、二次健康診断等給付

・時効5年:障害給付、遺族給付


労災事故の調査・保険給付


 労災事故が発生し、申請があった場合には労働基準監督署がその調査を行います。労災に遭った労働者本人やその関係者に対して、必要に応じて状況の確認や書類の提出が求められる場合があります。調査の結果、労災として認定された後に指定の口座に給付金が振り込まれることになります。

 ある程度労災の発生・申請から給付金の振り込みまで時間がかかるため、できるだけ早く会社または労働基準監督署に報告を行うことが大切です。


会社が労災を認めない場合


労働基準監督署に直接申請する


 調査結果によっては行政処分を受けることや、会社の評判が下がることなどを理由にして会社が労災を認めない場合もあります。その場合は労災保険の申請に必要な「事業主証明欄」を記入・捺印もしてもらえず、申請が滞ってしまうことがあります。


 そのような場合には、会社を通さずに自身で直接労働基準監督署に労災保険の申請を行うことができます。あくまで申請者は労働者本人であり、会社が申請する場合も「代行」をしているに過ぎません。「拒否されたから労災として認められない」と思わずに、しっかりと申請をしましょう。


 また、会社から事業主証明欄の内容記入を拒否されたとしても白紙で提出し、労働基準監督署に対しては「会社から記入を拒否された旨」を伝えましょう。後日労働基準監督署から会社に対して「証明拒否の理由」を求める書類が送付されます。

 労働者本人の申請と会社からの情報などを元にして調査が行われ、労災として認められた場合には保険給付を受けることができます。

労働基準監督署に相談する


 労働基準監督署では労災保険の申請だけではなく、労災全般に関しての相談を行うことができます。労災に遭ったにも関わらず会社がその事実を認めてくれない場合や、自身で申請をする必要があるが手続きが分からない場合などは、連絡・相談をすると良いでしょう。

 必要に応じて労働基準監督署から会社に対して勧告が行われることもあります。しかし、基本的に法令違反でない限りは会社に対する強制力はありません。そのため、相談だけではなく申請をしっかりと行うことが重要です。

社会保険労務士に相談する


怪我や病気の状態によっては、自身で申請を行うことが困難な場合もあります。そのような場合には、社会保険労務士に

・会社が労災を認めてくれない

・自身では申請が難しい

といった旨を伝えて相談や申請の代行依頼を行うことができます。労災に遭った際には心身の状態が不安定になることも珍しくはないため、自身にとってやりやすい方法から実行すると良いでしょう。

労働基準監督署の決定に不服がある場合


 労災が発生し、労働基準監督署に労災保険の申請を行った後は、労働基準監督署が申請書を受理して事実関係の調査を行います。労災発生の状況や会社の管理状況、関係者からの情報などを加味した結果、場合によっては労災として認められない場合もあります。もしも労働基準監督署の決定に不服がある場合には、次の方法で対策をとることができます。

労働局に審査請求を行う


 労働基準監督署の上位組織として、労働局が存在します。労働基準監督署は「労働基準法を基にして、企業が違反を行っていないかを判断する」という「判断機能」が主な役割を持っているのに対して、労働局は「企業と労働者の間で生じたトラブルを解決するために、話し合いの斡旋や助言などを行う」という「仲介サポート」を主な役割としています。

 労働基準監督署の判断や決定に不服がある場合には、まずこの労働局に対して審査請求を行いましょう。審査請求は「労働保険審査請求書」を各都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して提出します。審査請求は労働基準監督署の決定や処分があった日から3ヶ月以内に行う必要があるため、注意しましょう。

労働保険審査会に再審査請求を行う


労働局(労働者災害補償保険審査官)に対して審査請求をしても、

・労災として認められない

・審査請求をしても3ヶ月以内に判断が出ない

 場合については、「労働保険審査会」に再審査請求を行うことができます。労働保険審査会は厚生労働省の本省に設置されており、第二審の審査を行う機関です。再審査請求は、審査請求による決定が出た日から2ヶ月以内に手続きを行う必要があります。

 再審査請求書を提出した後、適用要件が確認された後には「労働保険審査会」による審理が行われます。基本的には人定質問や請求人・代理人の陳述、原処分庁の意見陳述などが公開により行われます。

弁護士に相談する


 現実的には、労災によって怪我や病気を負っている状態の中で審査請求や再審査請求を行うことは簡単ではありません。労働基準監督署に対する「不支給決定に関する情報の開示請求」や各種申請書の作成と提出など、慣れない作業を行うことで治療の妨げになる場合もあります。

 弁護士に相談することで、上記の審査請求・再審査請求の中での手続きに対するサポートを受けることができます。労災に関する判断や決定で不服がある場合には、弁護士への相談も選択肢として持っておくと良いでしょう。


会社を訴えることができる場合もある


 労災が発生した場合に、その補償内容や会社の認める内容について不服がある場合には、会社に対して訴訟を起こすことができます。民事責任だけではなく、刑事責任を問える場合があるため、それぞれどのような内容かを確認しましょう。

民事責任の場合


 労災保険で給付されるお金で治療を受けたり、生活をすることはできますが、労災が関係した損害の全てに対して補償をしてもらえないこともあります。労災保険の給付金額を超えて発生した損害に対して、その費用を請求することができることがあります。

 会社に対して民事責任を問う場合には、法律に即して会社が損害賠償を行う責任があると判断される必要があります。

・会社が故意ないしは過失により労災が発生した

・労働者が危険に晒される状況で業務の命令をした

といった不法行為や安全配慮義務違反がある場合には、損害賠償責任があると判断されます。損害賠償として請求できる場合には、下記のような費用が支払われることになります。

・怪我や病気の治療費

・入院にかかった費用

・付添看護の費用

・休業により生じた損害

・後遺障害によって失った利益

・死亡により失った利益

・治療や入院に伴う慰謝料

・後遺障害に対する慰謝料

・死亡慰謝料

刑事責任の場合


 民事責任と共に、「労働安全衛生法違反」や「業務上過失致死」といった刑事責任を会社に対して問うことができます。会社は労働者の安全を守る義務があるため、それに違反していると判断された場合には、

・従業員や会社への罰金刑

・安全管理を怠った役員や従業員への懲役刑

が適用される可能性があります。

 民事責任、刑事責任共に該当する条件や法律は、労災の形態によっても様々です。個人で判断することは難しく、手続きを進めるのは簡単ではありません。会社に対して訴訟を起こすことを検討している場合には、まずは労働問題に詳しい弁護士に相談すると良いでしょう。


労災保険給付における注意点


公的年金と同時に支給される場合には金額が調整される


 労災保険による給付は、公的年金からの遺族年金や障害年金などと同時に受け取ることができます。しかし、その際には受け取る年金の1年間の合計金額が働いている時の賃金よりも高くならないように、労災保険の給付金額が調整されることになります。

 ただし、減額はされますが労災保険による給付を受けていない場合と比較すると、多くの生活補償を受けることができます。「基本的には元々の賃金がベースとなって補償される」と覚えておくと良いでしょう。


フリーランスも特別加入ができる


 一般的にフリーランスや自営業は企業に雇用されていないため、労災の対象にはなりません。しかし、職種や業務内容によっては雇用されている労働者と同様の保護が必要であると判断され、労災への特別加入が認められることがあります。

 主に対象となる職業は、

・タクシーの運転手

・運送業の運転手

・大工や鳶職人のような職人

・漁業従事者

・林業従事者

など、業務において生じうる危険が労働者ごとに分けられないものが挙げられます。万が一労災に遭った場合にはその後の生活を補償するためにも、加入ができるかを確認すると良いでしょう。


労災保険はモチベーションを上げる一つの要素


 ここまで、労災保険について説明をしてきました。

 従業員が、日々の業務の中で安心して働くためにも、こうした制度を利用すること、会社として適切に運用することは非常に重要な観点です。従業員のパフォーマンスにもつながる重要なポイントと言えるでしょう。

 一方で、最後にお伝えしたいのは、従業員のモチベーションを高める要因には、労災保険で補填される「経済的報酬」だけではないということです。

 「経済的報酬」ではなく、従業員のモチベーションの源泉になりうるもの、それは「感情報酬」です。感情報酬とは、仕事のやりがい、獲得できるスキル、一緒に働く仲間との関係性、ミッションへの共感など、個々人にとって、意味や価値が大きく異なる性質を持っています。

 例えばAさんにとっては魅力的でも、Bさんにとっては全く気にならないこともあります。

 この「意味報酬」を上手く会社がコントロールし、従業員の心をつかむことができれば、経済的な報酬の何倍もの魅力を提供できます。いうなれば、「原価ゼロの報酬」とも考えられるでしょう。

 従業員のモチベーションを上げるためには、給与、昇給といった経済的報酬と、無形な「感情的報酬」の両面を設計し、戦略的にアプローチをすることが重要です。

 会社として労災保険を始めとしたベースの制度を整えるだけでなく、「感情的報酬」の提供も忘れず行っていくことが大切です。


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記事まとめ


​​​​​​​ 労災は業務や通勤によって生じた怪我や病気のことを指します。労災により治療や休業が必要になった場合や、障害や後遺症が残った場合などは労災保険による給付を受けることができます。労災保険には複数の種類があり、それぞれ給付の条件や給付金額に違いがあるため、申請の際にはしっかりと確認することが大切です。原則としては労災保険の請求は労働者本人が行うものであるため、会社が労災を認めない場合には弁護士や社会保険労務士などのサポートを受けながら申請をしましょう。

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労災に関するよくある質問


Q1:労災で受診する際、保険証はいる?


A1:労災で受診をする際には健康保険は適用できないため、保険証は不要です。また、医療機関の窓口では保険証は提示せずに、労災による受診である旨を伝えて労災の申請に必要な書類を受け取れるようにする必要があります。


Q2:受診を受ける際の病院のおすすめについて


A2:労災で受診をする場合には健康保険は適用できず、治療費や入院費などは一度全額自己負担をする必要があります。そのため、多額の費用がかかる場合があるため、労災病院や労災指定病院で受診することをおすすめします。

 

執筆者:LM編集部
執筆者:LM編集部
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