メガメニューを一時的に格納するセクション(消さないでください)

catch-img

ノーマライゼーションとは?理念や考え方、企業の成功事例を解説!

社会福祉を充実させるにあたって、「ノーマライゼーション」というキーワードが注目されています。現在は世界中でノーマライゼーションの考え方に基づいた雇用促進や人材育成などが進められており、日本国内でも企業の障がい者雇用への対応や変化が求められています。

活用の仕方によって企業や社会の成長エンジンとなるものでもあるため、しっかりとした知識獲得や現状把握が重要です。

本記事ではそのようなノーマライゼーションの歴史や理念から、どのような取り組みが行われているかについてご紹介します。

従業員エンゲージメントを可視化・改善するモチベーションクラウドはこちら

目次[非表示]

  1. 1.ノーマライゼーションって?その理念は?
  2. 2.ノーマライゼーションの起源とその歴史
  3. 3.ノーマライゼーションの8つの原理
  4. 4.日本におけるノーマライゼーションの取り組み
  5. 5.企業がノーマライゼーションに取り組む際の考え方・ポイント
  6. 6.ノーマライゼーションの取り組みの成功事例3選
  7. 7.記事まとめ
  8. 8.ノーマライゼーションに関するよくある質問

ノーマライゼーションって?その理念は?

ノーマライゼーションは、英語では「normalization」と表記され、「標準化」や「正常化」といった意味があります。それまでは「普通ではない」と思われていた状態や出来事を当たり前のものにしていくという使われ方をしています。

ノーマライゼーションは主に社会福祉の分野で使われている言葉であり、「障がい者や社会的なマイノリティを特別視・特異視するのではなく、障害がない人たちと同じように社会で暮らしていくこと」を目指している考え方です。

また、厚生労働省の理念では「障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指す」ことを掲げており、やはり「違い」や「特徴」を広く受け入れて活かし合える社会を目指していると言えるでしょう。

(出典:厚生労働省傷害保険福祉部「障害者の自立と社会参加を目指して」)

従来は障がい者や社会的マイノリティである人々に対しては、隔離や保護といった「特別対応」や「障がい者や社会的マイノリティ側のみが社会に合わせる」などの対応が多く見受けられました。

これに対してノーマライゼーションは、「日常生活の条件」や「仕事での役割の持ち方」などを極力障害がない人と近づけるための取り組みに注力したものになっています。

バリアフリーやユニバーサルデザインとの違い

ノーマライゼーションとイメージが似ている言葉として、「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」が挙げられます。特に日本国内ではバリアフリーが一般的にもよく使われるようになっていますが、それぞれ下記のような意味合いがあります。

・バリアフリー:障がい者だけではなく、子供や高齢者といった身体的に弱い立場の人にとって日常の中で感じる「障壁(バリア)」を無くすための工夫や取り組み

・ユニバーサルデザイン:障がい者だけではなく、性別や年齢、人種などに依らず、全ての人が使いやすい・扱いやすいデザイン

上記から分かるように、バリアフリーは「現在ある障壁を無くす」、ユニバーサルデザインは「そもそも障壁がないものを作る」といった特徴があります。元々は建物の設備や道具の機能などに対して使われていましたが、現在は街づくりや制度など広い範囲で活用されている考え方です。

バリアフリーやユニバーサルデザインは、ノーマライゼーションの具体的な取り組みの1つだと言えるでしょう。

バリアフリーとの違い

ノーマライゼーションとバリアフリーは、どちらも社会福祉の分野で重要な概念ですが、その焦点とアプローチには違いがあります。

ノーマライゼーションは、障害のある人々が可能な限り普通の生活を送ることができるように、社会全体で支援する理念です。これは、住居、教育、雇用、社会参加など、生活のあらゆる側面において、障害のない人々と同じような機会と経験を提供することを目指します。

ノーマライゼーションは、単に物理的なバリアを取り除くことだけでなく、社会的な偏見や差別をなくし、障害のある人々が社会の一員として尊重され、受け入れられることを重視します。

一方、バリアフリーは、障害のある人々が生活する上で障害となる物理的な障壁を取り除くことを指します。

例えば、段差をなくしたり、手すりを設置したり、車椅子でも利用しやすいトイレを設置したりすることがバリアフリーの具体的な例です。バリアフリーは、物理的な環境を改善することで、障害のある人々の自立を支援し、社会参加を促進することを目的としています。

ユニバーサルデザインとの違い

ノーマライゼーションとユニバーサルデザインは、どちらも社会における多様性を尊重し、すべての人々が平等に参加できる社会を目指す概念ですが、その焦点とアプローチには違いがあります。

ユニバーサルデザインは、障害の有無、年齢、性別、文化、言語などに関わらず、できる限り多くの人々が利用しやすいように、製品、建物、環境などをデザインするという概念です。

これは、最初からすべての人々が利用できることを目指し、後から修正を加えるのではなく、最初から包括的なデザインを追求します。例えば、スロープや手すりの設置だけでなく、誰でも理解しやすい情報提供、使いやすいインターフェースのデザインなどもユニバーサルデザインの例です。

インクルージョンとの違い

ノーマライゼーションとインクルージョンは、どちらも社会における多様性を尊重し、すべての人々が平等に参加できる社会を目指す概念ですが、その焦点とアプローチには違いがあります。

インクルージョンは、すべての人々が社会に受け入れられ、尊重され、参加できる包括的な社会を目指す概念です。インクルージョンは、障害の有無だけでなく、人種、性別、年齢、性的指向、宗教、文化など、あらゆる違いを尊重し、多様性を積極的に受け入れることを重視します。

インクルージョンは、単に社会に「含める」だけでなく、すべての人々が社会の中で自分の居場所を見つけ、主体的に参加できることを目指します。

ノーマライゼーションは障害のある人々の社会参加に焦点を当てているのに対し、インクルージョンはより広範な多様性を包括し、すべての人々が社会の中で尊重され、参加できることを目指すという点で異なります。

関連記事:
インクルージョンとは?ダイバーシティとの違いや企業事例について解説 | 組織改善ならモチベーションクラウド

ノーマライゼーションの起源とその歴史

ノーマライゼーションは、デンマークの社会省担当官だったニルス・エリク・バンクーミケルセンにより提唱されました。同氏は当時決して良いとは言えない環境に置かれていた知的障害児の存在を問題視しており、知的障がい者も一般的な人々のような生活を送るべきだと考えていました。

「障がいの有無に関わらず、人々にはより快適に当たり前の生活をする権利があり、社会全体でそれを実現していく必要がある」という考え方は徐々に社会的な運動へと発展していきました。

その結果、1959年にデンマークで「知的障害者福祉法」が制定され、世界で初めてノーマライゼーションの理念が法律に導入されることとなりました。

その結果、欧米諸国を中心にノーマライゼーションの考え方が広がっていき、特にスウェーデンの知的障害児者連盟のベンクト・ニィリエ は、ニルス・エリク・バンクーミケルセンが提唱したノーマライゼーションの理念を世界に広めるために尽力しました。

その後は1971年の「国連知的障害者権利宣言」や、1975年の「国連障害者権利宣言」でもノーマライゼーションの理念は導入されており、1981年には「国際障害者年行動計画」ではテーマを「完全参加と平等」として、日本でもこの年を境にしてノーマライゼーションへの取り組みが注目されるようになりました。

ノーマライゼーションの8つの原理

ベンクト・ニィリエ によってノーマライゼーションを実現するために必要な考え方が「ノーマライゼーションの8つの原理」としてまとめられています。

当時はまだ性的マイノリティなどへの認知が薄く、知的障がい者に注目した内容になっていますが、ノーマライゼーションの基本的な考え方として確認しておきましょう。

一日のノーマルなリズム

朝ベッドから起きること。たとえ重い知的障害があり身体障害者であっても、洋服を着て家を出て学校か勤めに行く。

ずっと家にいるだけではなく普通の人のように、朝はこれからの1日に思いを馳せて、夕方は君はその日自分のやり遂げたことを振り返る。1日は終わりのない単調な24時間ではない。

ベッドの上ではなく、きちんとテーブルについて食事をする。幼児でない限りは、スプーンだけで食べずにフォークやナイフを使う。普通の人と同じような時間に食事をとり、職員の都合でまだ夕食を食べないような日の暮れない時間で食事を済ませることはない。

一週間のノーマルなリズム

平日には家から学校や職場に行く。もちろん別の場所に遊びにも行く。週末には友人と楽しい時間を送り、月曜日が来たらまた学校や職場に行く。

一年間のノーマルなリズム

いつも送っている日々とは違うことをする長い休日や休暇もある。1年の中で訪れる様々な季節で食事や仕事、行事の変化を楽しんで、豊かに育てられる。スポーツや旅行のような余暇を過ごす活動も楽しむことができる。

ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験

子供の頃は夏が来たらキャンプに行く。青年になったらおしゃれをして、髪型や音楽にこだわったり、異性の友人に興味を持ったりする。

大人になると、人生は仕事や責任がたくさんある。歳をとった後には、懐かしい思い出に浸ることもあり、それまで経験してきたことから生まれた知恵に溢れている。

ノーマルな個人の尊厳と自己決定権

誰でも持っているように、自由や希望を持って生きる。周りの人々もその権利を認めて、障がいを持っている人を尊重する。大人になったら自分の希望する場所に住んで、自分に合った仕事を自分自身で見つけて決める。家にいるだけではなく、友人と趣味を楽しむ。

ノーマルな性的関係

子供でも大人でも、異性と良い関係を築いていく。青年になったら異性との交際に興味を持つ。恋に落ちて、愛することを覚えて自分も愛される。大人になって適切なタイミングになったら結婚することを考える。

ノーマルな経済水準とそれを得る権利

障がいの有無に関わらず、誰しもが公的な財政援助を受けることができ、それに対する責任も果たすことになる。児童手当や年金、最低賃金の保障を受けることで経済的に安定することができる。自分で自由に使うお金を持っていて、欲しいものや必要なものを自分で購入することができる。

ノーマルな環境形態と水準

知的障がい者であっても、大勢の他人と一緒に大きな施設で生活することを強制されることで社会から孤立することはない。普通の人と同じように、普通の場所で、普通の大きさの家に住んで、地域の人々と交流をすることができる。

日本における障がい者の現状

では、日本では障がい者にまつわることとしてどのような状況にあるのでしょうか。内閣府が発表している「障害者の状況」では、「身体障害者」「知的障害者」「精神障害」の3つの区分においてそれぞれ下記のような人数がいることが示されています。

・身体障害者:436万人

・知的障害者:109万4千人

・精神障害者:419万3千人

人口あたりで見ると、身体障害者は1000人に34人、知的障害者は1000人に9人、精神障害者は1000人に33人だと計算できます。それぞれ単一の障害ではなく、複数の障害を持っている人もいるため単純に合計人数にはなりませんが、およそ7.6%が何らかの障害を持っていると考えられます。

日本におけるノーマライゼーションの取り組み

政府による取り組み

政府は平成8年から平成14年の間で「ノーマライゼーション7か年戦略」を掲げて、具体的な目標値を基に「障害者が社会的に自立するための支援」や「バリアフリーの促進」などの取り組みを実施してきました。

また、「障害者基本法」という法律も制定されており、ノーマライゼーションの理念に基づいた法整備や施策の促進も行われています。障害者基本法に基づいて「障害者政策委員会」が内閣府に設置され、

・ノーマライゼーションへの計画作成

・国民がノーマライゼーションへの理解を深めるための視点や方向性の提示

などを推進しています。

厚生労働省による取り組み

厚生労働省は、ノーマライゼーションの理念に基づいて「障がい者の社会的な自立」と「社会活動への参加」を促進するために施策の推進や支援体制の整備に取り組んでいます。

平成15年度には「支援費制度」を導入しています。支援費制度は障害福祉サービスを利用する障がい者が自分でサービス提供者を選んで直接契約を行うことができる制度です。支援費制度により、

・障がい者が自身で行う決定の尊重

・サービス提供者との間で対等な関係を確立する

ことを目指して利用の促進を行っていましたが、利用者数の増加や安定的な生活を支える重要な制度になりました。その後は、

・障がい者の福祉サービスの一元化

・障がい者の更なる就労支援

・地域の社会資源利用への規制緩和

・公平なサービス利用のための手続きや基準の明確化

・福祉サービスの公平な負担

を強化するために「障害者自立支援法」として改正が行われました。(出典:厚生労働省「障害者自立支援法の概要」)

加えて、「精神医療の確保」や「自立と社会経済活動への参加の促進」を目的として精神障がい者を対象とした制度の整備も進められており、入院している患者の処遇改善や生活支援が行われています。

また、手話や点訳といったコミュニケーションに対するサポートも行われており、障がい者の社会的な孤立を減らすための取り組みも推奨しています。

各地方自治体による取り組み

政府だけではなく、各地方自治体でもノーマライゼーションに対する取り組みは積極的に行われています。

例えば神奈川県川崎市では、「障害のある人もない人も、お互いを尊重しながら共に支え合う、自立と共生の地域社会の実現」を目指して、「第5次かわさきノーマライゼーションプラン」を令和3年度から令和8年度にかけた6ヵ年計画を掲げて下記のような取り組みを推進しています。

■第5次かわさきノーマライゼーションプランの施策

基本方針Ⅰ 育ち、学び、働き、暮らす~多様なニーズに対応するための包括的な支援体制(地域リハビリテーション)の構築~

施策1 相談支援体制の充実

施策2 地域生活支援の充実

施策3 子どもの育ちに応じた切れ目のない支援体制の充実

施策4 多様な住まい方と場の確保

施策5 保健・医療分野等との連携強化

施策6 人材の確保・育成と多様な主体による支え合い

施策7 雇用・就労・経済的自立の促進

基本方針Ⅱ 地域とかかわる~地域の中でいきいきと暮らしていける「心のバリアフリー都市川崎」の実現~

施策8 権利を守る取組の推進

施策9 心のバリアフリー

施策10 社会参加の促進

基本方針Ⅲ やさしいまちづくり~誰もが安心・安全で生活しやすいまちづくりの推進~

施策11 バリアフリー化の推進

施策12 災害・緊急時対策の強化

企業による取り組み

ノーマライゼーションの必要性が高まる中で、企業でも様々な取り組みが行われています。例としてりそなグループの「ノーマライゼーションへの取り組み」をご紹介します。

・「優先ATM」「優先シート」の設置

障がい者や高齢者、妊娠している人が優先的に利用できるATMや優先シートの設置

・視覚障がい者対応ATMの設置

プッシュボタン付きの受話器を備えた視覚障がい者対応ATMの設置

・障がいのある方が使いやすい店舗づくり

車イス利用者専用の「現金封筒入れ」の作成と設置

・点字による「預金取引通知サービス」

視覚障がい者向けに取引内容を点字で通知

・コミュニケーションボードの設置

ボードのアイコンを指し示すことで目的を伝えられるツールを設置

・簡易筆談器・無線式振動呼出器

店頭窓口に「簡易筆談器」や窓口の順番が来たことを振動で知らせる「無線式振動呼出器」を設置

・認知症サポーターの配置

認知症の人とのコミュニケーションをサポートする認知症サポーターを各営業店に配置

・AEDの設置

AEDの使用方法を始めとする救命措置の講習を受講した社員を配置

・点字カレンダーの制作・贈呈

視覚障がい者向けに展示カレンダーを毎年製作

教育現場での取り組み

教育の現場でも、「どのような特性や背景がある人でも学ぶことができる」ことを目指して、教育環境や教育システムの整備が進められています。特に「インクルーシブ教育システム」は世界的に注目されており、日本でも活用されています。

インクルーシブ教育システムとは、「障がいのある子どもへの配慮や選択肢を増やすことで、可能な限り教育を受ける」ためのシステムです。例えば、

・保育現場に障がい者教育の専門家が訪問する

・障がいのある子どもに向けた指導を支援する

といった取り組みがインクルーシブ教育システムとして挙げられます。

また、世界では障がい児のみではなく、何かに特化した才能を持っているこどもや労働をしている子ども、ストリートチルドレン、地域的にマイノリティとなっている集団の子どもなどに対しても教育の機会を提供する取り組みが進められています。

福祉現場での取り組み

福祉の現場では、先述した「ノーマライゼーション7か年戦略」が開始された当時から、下記のようなノーマライゼーションへの取り組みが広まりました。

・看護師の国家試験でノーマライゼーションに関する出題が行われている

・医療現場でノーマライゼーションに関する教育が行われている

・大型の老人ホームではなく、少数の老人ホームである「グループホーム」が増加している

・障がい者や高齢者が日常の仕事をしながら施設で共同生活をするスタイルが導入されている

・障がい者が働く場所や機会を提供する企業やNPO法人と施設の提携が進められている

私たちでやれる取り組み

政府や自治体、企業などで推進されているノーマライゼーションですが、社会全体でより推進するためには1人1人がノーマライゼーションへ積極的に関わることが重要です。もちろん専門的な知識がない場合が多いため、障がい者と関わることに不安や懸念を感じることもあるかもしれません。

しかし、イメージや間違った情報でコミュニケーションに踏み出せないままの状態では、社会全体のノーマライゼーションは進んでいかないのも事実です。

まずはコミュニケーションの取り方を「受信」と「発信」に分けてポイントを理解しましょう。

■受信

・相手から言葉が出てくるまで待つ

・言葉だけではなく、リアクションや身振りなどからも感情や情報を得る

・相手からの言葉を受け止めている姿勢を見せる

■発信

・平易でわかりやすい言葉で伝える

・相手の理解している部分・そうでない部分を聞いて確かめる

・言葉だけではなく、イラストや画像なども活用して伝える

「障がい者とのコミュニケーション」と捉えると、漠然として難しいものに感じるかもしれませんが、こうして見ると普段他の人と話す時にも大切なことが多く感じられるのではないでしょうか。

状況や対象の違いがあっても、必要な知識を身につけつつ、基本的なことを丁寧に行うことが1人1人のノーマライゼーションの大切な1歩です。

企業がノーマライゼーションに取り組む際の考え方・ポイント

企業においては、多様性を受け入れた職場環境の構築や合理的配慮の実施などが、ノーマライゼーションの実践につながります。この取り組みは、CSR(企業の社会的責任)の一環としてだけでなく、人材確保やイノベーションの創出にもつながる重要な経営戦略でもあります。

多様性の理解と尊重

ノーマライゼーションの第一歩は、「違いを受け入れる」という価値観を組織全体で共有することです。

障害の有無、年齢、性別、国籍、宗教、性的指向といった多様なバックグラウンドを持つ人々が働く現代において、すべての従業員が自分らしく働ける環境をつくることは、組織の力を最大限に引き出すために不可欠です。

企業は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の方針を明文化し、従業員研修を通じてその重要性を浸透させる必要があります。

さらに、社内で差別や偏見が発生した際には速やかに対応し、当事者の声に耳を傾ける姿勢も重要です。こうした環境整備は、企業文化の質を高め、従業員のエンゲージメントや生産性の向上にもつながります。

職場環境の整備と合理的配慮

ノーマライゼーションを実現するうえで、実際の職場環境の整備は非常に重要です。たとえば、車椅子利用者のためのバリアフリー設備や、視覚・聴覚障害を持つ社員向けの支援ツール、静かな環境を必要とする発達障害者への配慮など、多様なニーズに応える設備や体制が求められます。

合理的配慮とは、障害のある社員が能力を発揮できるようにするための“過度でない調整”を意味し、企業にはこれを提供する法的義務があります。具体的には、勤務時間の調整や業務内容の分担変更、IT機器の導入支援などがあります。

これらを整えることで、障害者だけでなく、育児や介護といったライフステージに応じた働き方にも柔軟に対応できるようになり、組織全体の労働環境改善にもつながります。

採用・育成の戦略的アプローチ

ノーマライゼーションを実践するには、採用段階からの戦略的な取り組みが必要です。障害者雇用は法的義務である一方、表面的な採用だけで終わってしまうケースも少なくありません。重要なのは「雇用すること」ではなく、「活躍できるよう支援すること」です。

採用時には個々の特性や希望を把握し、適材適所の配置を行うとともに、配属先のメンバーにも障害特性への理解を促す研修を実施することで、スムーズな受け入れが可能になります。

また、定期的な面談やメンター制度を通じて本人の成長や課題を把握し、継続的にサポートする体制を整えることも不可欠です。キャリア開発の機会も平等に提供し、能力に応じた昇進や異動が可能な制度を整備することで、社員のモチベーション向上にも寄与します。

社会とのつながりと情報発信

ノーマライゼーションは、企業内部の取り組みにとどまらず、地域社会や関係機関との連携、外部への情報発信も大切な要素です。企業は、障害者支援団体や自治体、教育機関などと協力し、雇用の受け皿としての役割を果たすとともに、地域全体の理解促進にも貢献することが求められます。

たとえば、職場体験や就労移行支援の受け入れ、講演・イベントの共催など、社会参加の機会を提供することで、企業の信頼性と地域の共生意識を高めることができます。

また、社内での取り組みをWebサイトやSNSなどで発信することで、他企業への波及効果も生まれ、業界全体の意識改革にもつながります。透明性の高い情報公開は、株主や取引先などのステークホルダーからの評価にも直結し、企業の持続可能性を支える基盤となります。

ノーマライゼーションの今後の課題

多様な人々が活躍できる環境をつくるためのノーマライゼーションですが、日本においては今後も課題があります。政府や社会福祉を推進する団体の活動によって徐々に広まってきたノーマライゼーションですが、まだまだ国内での認知や土台が整っているとは言えません。

・そもそもの障がい者に対するイメージを変えていく

・地域で障がい者を受け入れられる仕組みをつくる

・企業が障がい者を雇用できるようなルールや制度を整備する

・助成金の活用への認知や活用を促進する

・障がい者に対する心理的な壁を無くしていく

といった課題が国内全体でまだまだ残っているため、わたしたちの取り組み1つ1つで解消していくことが重要です。

ノーマライゼーションの取り組みの成功事例3選

日本国内の企業におけるノーマライゼーションの成功事例を3つご紹介します。これらの事例は、障害の有無にかかわらず、すべての人が平等に働ける環境を整備し、組織の活性化や社会的評価の向上につなげた好例です。各事例の取り組み内容とその成果を詳しく解説します。​

ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社では、「障害の有無で仕事上の区別はしないこと」をポリシーに掲げ、ノーマライゼーションの実現に取り組んでいます。

​具体的には、業務内容や雇用形態、昇進・昇格の人事評価において、障害の有無を問わず同じ条件を適用しています。​また、障害のある社員が働きやすいよう、職場環境や制度面の整備も進めています。​

制度面では、定期的な通院が必要な社員に対して月1日・年間12日取得できる「ノーマライゼーション休暇」を導入。​また、各社員が業務の状況などに応じて始業時刻・終業時刻を変更できる「スーパーフレックス制度」も整備しています。​

さらに、下肢に障害のある社員のために移動しやすい職場環境を整えたり、耳が聞こえづらい社員には文字で伝えるなど、個々のニーズに応じた配慮を行っています。​

これらの取り組みにより、ソフトバンクでは管理職として活躍する障害のある社員も誕生。​また、障害のある社員の声に応える形で、キャリアプランを考えたい社員に向けたキャリアセミナーなども開催しています。​

このように、障害の有無に関係なく、すべての社員が平等に働ける環境を整備することで、組織全体の活性化と多様性の尊重を実現しています。

セブン&アイ・ホールディングス

セブンイレブンやイトーヨーカドーなどを展開するセブン&アイ・ホールディングスでは、誰もが活躍できる職場作りを理念に掲げ、ノーマライゼーションの推進に取り組んでいます。

​同社では、法定雇用率2.3%に対し、グループ全体での障害者雇用率を2.98%(2022年6月時点)と高い水準で維持しています。​

障害者雇用やノーマライゼーションを推進する専門部署・人権啓発センターを常設し、障害のある社員の職場定着支援を目的に、「障害者職業生活相談員」や「企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)」の資格取得も積極的に推進。

​2022年2月末時点では、「障害者職業生活相談員」の認定を96人、「ジョブコーチ」の認定を15人の社員が受けるなど、障害のある社員に向けたサポート体制を整えています。​

また、採用にあたっては、行政と連携して特別支援学校の生徒向けに就労支援研修を全国各地で実施。​障害者雇用に関して、多角的に取り組みを展開しています。​これらの取り組みにより、障害のある社員が安心して働ける環境を整備し、組織全体の多様性と包摂性を高めています。

藤田観光株式会社

藤田観光株式会社では、2010年から手話講習会やノーマライゼーション研修等の従業員教育を継続し、ダイバーシティ推進に積極的に取り組んでいます。​​この取り組みが評価され、東京都の「心のバリアフリー」サポート企業に認定されました。

具体的には、様々なお客さまとのコミュニケーション手段の一つとして、平成22年より手話講習会を毎年実施。​手話通訳士とろう者の講師による指導を通じて、手話の技術だけでなく、聴覚障害者の立場に立ったサービスを考えるマインドも育成しています。​

また、年に1度行われる「藤田観光グループ技能コンクール」に手話部門を設け、手話の普及活動も実施しています。

さらに、補助犬同伴のお客さまへの対応として、身体障害者補助犬法の主旨に則り、補助犬や訓練中の犬を受け入れています。支援・普及活動として、全事業所に介助犬の育成・普及に対する支援として募金箱を設置し、従業員教育も実施しています。

これらの取り組みにより、施設整備だけでなく、従業員の「心のバリアフリー」教育を推進し、誰もが安心して利用できるサービスの提供を実現しています。

組織改善ならリンクアンドモチベーション

リンクアンドモチベーションでは人材開発・組織開発・人材採用の3領域において基幹技術であるモチベーションエンジニアリング(https://www.lmi.ne.jp/about/me/)を用いて研修・コンサルティングサービスを提供しています。

更に、創業以来20年以上、様々な規模・業態の上場企業500社を含む2000社以上の企業を支援してきた実績を活かして、組織改善の習慣化を実現するモチベーションクラウドも提供しており、ワンストップで企業の組織改善をサポートしています。

・経営方針や戦略が現場に浸透せず、行動に結びつかない
・組織全体の連携が弱く、成果に結びついていない
・優秀な人材の採用・育成が思うように進まない
・従業員の給与・待遇に対する不満が高まり、離職リスクが懸念される

といったお悩みをお持ちの企業様へ最適なサービスを提供しています。

記事まとめ

障がい者や社会的マイノリティが、普通の社会的な活動や立場を得られることを目指しているのが「ノーマライゼーション」です。

ノーマライゼーションにはベンクト・ニィリエによる「ノーマライゼーションの8つの原理」が提唱されており、そこから世界中でノーマライゼーションへの取り組みが行われています。

しかし、まだまだ課題はあるため、政府や自治体、企業などの取り組み以外にも、わたしたち1人1人の取り組みを続けていくことも重要だと言えるでしょう。

従業員エンゲージメントを可視化・改善する​​​​​​​モチベーションクラウドはこちら

ノーマライゼーションに関するよくある質問

Q1:企業内で取り組む際の注意点は?

A1:企業内でノーマライゼーションへの取り組みをする際には「特別扱いしない」ということに注意が必要です。一般的な生活や特性に合わない業務を押し付けることで「普通の生活になった」とすることは効果的ではなく、ノーマライゼーションではありません。

あくまで1人1人がどのような希望があり、どうしたらスムーズに働けるかを対話の中で見つけて、選択肢を作ることが大切です。

Q2:企業が取り組みを実施する際、助成金が出るって本当?

A2:障がい者を雇用すると、社内の各施設や整備を変更する必要があります。そのため、障がい者を雇用する企業には

・トライアル雇用奨励金

・精神障害者等ステップアップ雇用奨励金

・特定就業困難者雇用開発助成金

・障害者初回雇用奨励金

・発達障害者雇用開発助成金

​​​​​​​などが適用されます。

 

執筆者:LM編集部
執筆者:LM編集部
理念・採用・風土・制度など組織人事のトレンドを発信しています。 基本的な用語解説から、多くの企業で陥っている実態、 弊社が培ってきた組織変革技術の知見を踏まえたポイント解説まで 皆様のお役に立ち情報をお届けします。

組織改善のお役立ち資料が無料ダウンロードできます

3分でわかる
モチベーションクラウド

マネジメント育成の
手引き

マネジメント育成の手引き

従業員エンゲージメントが
企業経営にもたらす効果

従業員エンゲージメントと企業経営

この記事を読んだ人は、こんな記事にも興味を持っています

あなたの組織にも、課題はありませんか?

組織改善ならモチベーションクラウド