
ストックオプション仕組みとは?メリットや注意点を解説
ストックオプションとは、あらかじめ定められた価格で株式を購入する権利を付与する制度です。特にベンチャー企業においては、インセンティブ制度や福利厚生としてストックオプションを導入している企業が多いでしょう。ストックオプションは、上手く活用することで従業員の会社を成長させることに対する意欲を向上させることができます。本記事では、ストックオプションの基本的な仕組みやメリット、注意点などをご紹介します。
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ストックオプションとは?
ストックオプションとは、株式会社に勤めている従業員があらかじめ定められた価格(権利行使価格)で自社株を取得する権利のことを指しています。ストックオプションを利用することで、従業員は自社が上場した際に権利行使により自社株の取得や、売却などを行うことで資産を形成したり利益を獲得したりすることができます。
例えば、ストックオプションの付与により、権利行使価格100円で自社株を取得する権利を得ることができた場合を考えます。その後自社が上場した際に株価が200円になったとしても、ストックオプションを付与されている従業員は100円で株式を取得することができます。更に、株価が上昇して250円のタイミングで売却することで、150円の利益を得ることができます。
ストックオプションの仕組みは?
発行・付与
ストックオプションを付与する際には、「発行価額」を設定します。発行価額とは、ストックオプション1個あたりの価値のことであり、下記の順番で算定されます。
①公正価格の算定
現在の株価から将来の株価を予測して公正価格を算定します。予測方法としては、「モンテカルロ・シミュレーション」による事業計画のシミュレーションや、「ブラックショールズ式」による株価のボラティリティからの予測などがあります。一般的に公正価格は株価の4割〜6割程度になります。
②発行価額の引き下げ
業績の達成条件や権利行使に対する制限をつけるなど、条件づけにより発行価額を公正価格よりも引き下げることができます。条件づけは発行価額を引き下げて取得をしやすくすることができますが、ストックオプションの行使が制限されるという面もあります。
(参考:ストックオプションの発行・付与)
行使
ストックオプションの権利を付与されている従業員は、行使価額を支払うことでその権利を行使して自社株を取得することができます。ここで、発行価額と行使価額は下記のような違いがあります。
・発行価額:ストックオプション1個あたりの価格
・行使価額:ストックオプションの権利を行使するために支払う価格
行使価額は一般的に現在の株価よりも多い金額が設定されますが、上場・未上場など企業の状況によって算定方法が異なるため注意しましょう。
キャピタルゲイン
キャピタルゲインとは、株式を取得した時の金額と売却時の金額の差で得ることができる利益のことを指しています。ストックオプションにおいても、権利の行使を行った時の価格よりも売却時の株価が高い場合には、キャピタルゲインによる利益を得ることができます。
(参考:キャピタルゲイン)
例えば、上図のように行使価額が100円の際にストックオプションが付与された場合を考えます。上場やM&Aなどにより株価が200円になっている時にストックオプションの権利を行使することで、200円の自社株を100円で取得することができます。ここで、ストックオプションの権利を行使した段階では株式を売却ではなく保有している段階であるため、キャピタルゲインは得られないことに注意しましょう。その後売却をした段階で初めて利益が報酬として支払われます。
ストックオプションの対象は?
では、どのような人がストックオプションの付与対象になるのでしょうか。ストックオプションは従業員や取締役はもちろん、入社の予定がある人や社外のアドバイザーなどに対しても付与することができます。ストックオプションを利用することで、社内外の人に対して自社の魅力を伝えて協力関係を築くことができるでしょう。
ストックオプションの種類
有償ストックオプション
ストックオプションが付与される際にお金がかかるものを、「有償ストックオプション」と呼びます。定められた発行価額を支払うことで従業員はストックオプションの権利を付与されます。有償ストックオプションでは、最大20%の譲渡課税のみがかかるため、後述する無償税制非適格ストックオプションよりも税率を抑えることができます。
信託型ストックオプション
信託型ストックオプションは有償ストックオプションの活用形として利用されています。信託型ストックオプションは、発行された全員分のストックオプションをまとめて信託に預けて満了期間まで保管する形式をとっています。保管されたストックオプションは、その後に付与されるポイントなどに応じて割り当てられることになります。
無償税制適格ストックオプション
「税制適格」とは、税制上の要件を満たすことを指しています。税制適格の要件を満たすことで、課税に対する優遇措置を受けることができるため、退職金や組織再編税などで活用されています。
無償税制適格ストックオプションとは、ストックオプションの付与対象者が要件を満たすことで権利行使を行う時に課税に対する優遇措置を受けることができるようにしたものです。
無償税制非適格ストックオプション
無償税制非適格ストックオプションとは、先述した無償税制適格ストックオプションとは異なり無償かつ要件がないものを指しています。無償税制非適格ストックオプションでは、利益を得た際に累進課税により最大で55%の給与課税が適用されるため、手元に入る金額が少なくなる可能性があります。
1円ストックオプション
1円ストックオプションとは、無償税制非適格ストックオプションの活用形として利用されているものです。1円ストックオプションとは、行使価格を1円に設定したストックオプションであり、権利行使を行う際にその時点での株価と同程度の利益を得ることができるようになります。また、無償税制非適格ストックオプションとは異なり、課税が最大25%であることから負担する金額が少なく、退職金制度としても活用されています。
ストックオプションのメリット
資金の負担が少なく優秀な人材の確保を狙える
ストックオプションのメリットとして、企業側の資金的な負担を少なくして優秀な人材の確保を狙えることが挙げられます。ストックオプションは現在の利益ではなく、未来の企業価値を基にした利益を得るという特徴があります。そのため、「会社を成長させる」「事業計画を成功させる」といった中長期的な目線や意欲がある優秀な人材に対して魅力をアピールすることができるでしょう。
従業員のモチベーションになる
ストックオプションを活用することで、従業員のモチベーションを上げることもできます。自社の成長や業績の向上などは、従業員からすると身近に感じにくいことがあります。しかし、会社が対外的に評価されて株価が上昇することで、ストックオプションで得られる利益が大きくなる過程が感じられるため、より会社の価値向上を自分事として捉えやすくなるでしょう。
従業員側にリスクがない
自己資金で行う株式投資では、株価の下落によって損失が生じることがあります。しかし、ストックオプションではあくまで「自社株を取得する権利」が付与されるだけであり、万が一自社の株価が下落した場合にはストックオプションの権利を行使しなければ損失は発生しません。従業員にとってリスクがなく、資産運用を狙えることはストックオプションの大きなメリットだと言えるでしょう。
ストックオプションのデメリット
業績が悪化すると従業員のモチベーションに影響がでる
ストックオプションによる利益を目的として入社した従業員にとって、業績の悪化や株価の下落はそのモチベーションに影響する原因になるでしょう。従業員に対して、ストックオプションで得られる利益だけではなく、将来的な成長などで魅力づけを行う必要があります。
社内で不和が生じる
ストックオプションの権利が付与されている従業員と付与されていない従業員がいる場合には、待遇の格差と認識されて社内での不和に繋がる可能性があります。会社への貢献度合いや勤続年数など、ストックオプションの権利を付与する際の基準や理由を明確にして、共通認識をとっておくことが重要です。
既存株主の株式価値の低下につながる
大量のストックオプションを発行すると、現在の株式価値の低下に繋がる可能性があります。既に自社の株式を保有している株主がいる状態で株式価値が低下すると、株主は保有している株式を売却して自社から離れていってしまいかねません。
権利行使後には社員が離れる可能性も
ストックオプションの権利を行使して利益を得た後に社員が離れてしまうことも、ストックオプションのデメリットとして挙げられます。特に、ストックオプションによる利益を期待して入社した社員が多い場合には、利益を得た後に仕事に対する熱量が低くなってしまう可能性があります。
ストックオプションの導入に向いている企業
ストックオプションの大きなメリットとして、取得した自社株の株価上昇によるキャピタルゲインの増加が挙げられます。一方で、株式を売却することができない場合にはそのメリットを受けることができません。そのため、ストックオプションを有効活用できる可能性が高いのは、上場を目指している企業や既に上場している企業になります。
特に、ストックオプションは「ストックオプションによって負担を少なくしつつ、株価の上昇による利益を得られる」ことに魅力があります。「現在は高い給与を支払うことはできないが、会社の成長に期待できる人材を集めたい」といったベンチャー企業などはストックオプションの導入に向いていると言えるでしょう。
ストックオプションを活用するときの注意点
株価が安いうちに発行する
ストックオプションの公正価額や発行価額、行使価額は発行時点での株価がベースになります。つまり、株価が安いタイミングでストックオプションを発行することで従業員はより多くの利益をえることができるようになります。そのため、ストックオプションを有効活用するためには、株価が安いうちに発行することが大切です。
特に、資金調達により増資を行うことで、株価が増資前後で何倍もの変動が生じる可能性があります。その場合にはストックオプションで得られる利益が少なくなり、魅力も低減してしまうため、増資を計画している場合にはその前にストックオプションを発行しましょう。
発行数の上限に注意する
一般的に、ストックオプションの発行数は発行済株式数の10%〜15%程度が上限として設けられています。また、大量のストックオプションを発行することは、既存株主に対して株式価値の低下を引き起こす原因になることもあるため、一度に大量のストックオプションを発行する際に生じるデメリットも念頭に置いておくことが大切です。
また、ストックオプションは従業員の資産形成や、自社への魅力づけに大きな影響を与えることになるため、上場に向けて計画的な発行が必要です。
1回で発行することを意識する
ストックオプションの発行を理由なく複数回に分けることは、税制上で問題が発生することに繋がる場合があります。税制適格ストックオプションが適用される要件の確認は、「ストックオプションの発行ごと」に行われます。
例えば1年間で3回のストックオプションの発行を行う場合を考えます。1度目の発行時点では株価が100円が、2回目3回目の発行前に増資などにより200円になったとすると、権利行使価額として参照するべき株価が変動していることになります。税制適格ストックオプションの要件の1つとして、「権利行使価額が契約締結時の株価以上であること」があります。そのため、税制非適格ストックオプションとして判断されてしまい、課税額が増えてしまう可能性があります。
権利行使後の離脱を防ぐ方法
ストックオプションのデメリットの1つとして、「ストックオプションの権利行使をした後に、会社から離脱をしてしまう」ことをご紹介しました。そのような事態を防ぐために、「ベスティング条項」を設けることが手段として挙げられます。ベスティングとは、「権利の行使のために一定の期間を設ける」という契約条件のことを指しています。
例えば、100株のストックオプションを付与した場合を考えます。特に条件がない場合には、ストックオプションの付与から2年の経過後10年以内に権利を行使してもらうことになります。ベスティング条項を設けた場合には、下記のように権利行使に対する条件をつけることができます。
・会社が上場したタイミングでは50株のストックオプションの権利行使ができる
・1回目の権利行使後、1年の勤続後に残りの内25株のストックオプションの権利行使ができる
・更にその後1年の勤続後に残りの25株のストックオプションの権利行使ができる
段階的な権利行使をしてもらうことで、その間に自社の成長を感じてもらったり他の目的を強くしてもらったりすることができます。
ストックオプションと従業員持株会の比較
ストックオプションと共に、自社の株式を基にした制度として「従業員持株会」といった制度があります。従業員持株会とは、従業員が所属している会社の株式を取得できる制度であり、下記のように通常の「従業員持株会」と「拡大従業員持株会」があります。
・従業員持株会
従業員が所属している企業の株式を積立購入する制度
・拡大従業員持株会
自社の親会社の株式を積立購入する制度
従業員持株会はストックオプションと似ている制度ですが、ストックオプションが「自社株を取得する権利を付与し、発行価額や行使価額で取得できるもの」であるのに対して、従業員持株会は「設定した購入数に応じて、毎月の給与から天引きされて自社株を取得するもの」です。そのため、ストックオプションとは違い、従業員持株会はその時の株価で株式を購入することになります。
ストックオプション |
従業員持株会 |
|
説明 |
株式会社に勤めている従業員があらかじめ定められた価格(権利行使価格)で自社株を取得する権利 |
従業員が所属している会社の株式を取得数や株価に応じて毎月の給与から天引きされて取得できる制度 |
メリット |
■資金の負担が少なく優秀な人材の確保を狙える ■従業員のモチベーションになる ■従業員側にリスクがない |
■福利厚生の充実度が増す ■奨励金が活用できる ■資産形成がしやすくなる |
デメリット |
■業績が悪化すると従業員のモチベーションに影響がでる ■社内で不和が生じる ■既存株主の株式価値の低下につながる ■権利行使後には社員が離れる可能性がある |
■議決権の問題が発生する ■配当の負担がある ■担当者の負担が増える |
(参考:ストックオプションと従業員持株会の比較)
上記のように、ストックオプションと従業員持株会にはそれぞれメリットとデメリットがあります。ストックオプションとは異なり、従業員持株会は毎月お金がかかり、株主としての権利が発生することになるため、自社の目的に合わせて選択することが重要です。
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まとめ
企業が設けるインセンティブ制度や福利厚生の1つが、ストックオプションです。ストックオプションとは、あらかじめ定められた価格で株式を購入する権利のことであり、上場後などにキャピタルゲインを受けることが期待できます。ストックオプションを活用することで、従業員は利益を得ることができると共に、企業は資金を少なくして優秀な人材を確保することができます。ストックオプションには種類があり、課税のされ方が異なるものもあるため、自社で活用するものを要件と共に検討しましょう。
ストックオプションに関するよくある質問
Q1:ストックオプションと新株予約権は何が違う?
A1:企業が新しく発行する株式に対して、あらかじめ定めた条件で購入できる権利のことを「新株予約権」と言います。新株予約権を活用することで、資金調達や敵対的買収の防止を行うことができます。ストックオプションは新株予約権のうち、社内向けの発行に該当するため、ストックオプションは新株予約権の1つだと覚えておくと良いでしょう。
Q2:ストックオプションのメリットが発揮しやすいのはどんな企業?
A2:ストックオプションの大きなメリットとして、取得した自社株の株価上昇によるキャピタルゲインの増加が挙げられます。一方で、株式を売却することができない場合にはそのメリットを受けることができません。そのため、ストックオプションを有効活用できる可能性が高いのは、上場を目指している企業や既に上場している企業になります。
特に、ストックオプションは「ストックオプションによって負担を少なくしつつ、株価の上昇による利益を得られる」ことに魅力があります。「現在は高い給与を支払うことはできないが、会社の成長に期待できる人材を集めたい」といったベンチャー企業などはストックオプションの導入に向いていると言えるでしょう。