株式会社フロムスクラッチ 「組織偏差値70の企業が実践する組織マネジメント」
2017年6月7日、神戸にて開催された「IVS 2017 Spring Kobe」。デジタル時代に加えライフシフトが起きる中、企業としてこれからの働き方をどう設計していくべきか。
ユニークな人事制度を取り入れている企業に伺ったこれからのあるべき働き方や組織づくりにおける哲学を、HR2048独自編集にてお届けするシリーズ。今回は、株式会社フロムスクラッチに迫ります。
【イベント実施日】
2017年6月7日(水)
【プロフィール】
株式会社フロムスクラッチ 代表取締役社長 安部 泰洋氏
神戸市 市長 久元 喜造氏
ヤフー株式会社 上級執行役員 コーポレートグループ長 本間 浩輔氏
株式会社カヤック 代表取締役CEO 柳澤 大輔氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野 耕司
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45億円を調達したスタートアップ最強の採用力
麻野耕司(以下、麻野):それではセッション、「ユニーク人事組織に学ぶこれからの働き方とは?」を始めてまいります。モデレータを担当します、リンクアンドモチベーションの麻野と申します。
私は、ずっと成長企業の組織・人事コンサルティングをしてまいりました。直近ではモチベーションクラウドという国内初の組織改善クラウドサービスを立ち上げております。
本日の趣旨ですけれども、今 経営の中で組織や人材が非常に重要であるということは多くの経営層の方々が認識されているということで、こういうカンファレンスでも組織や人事のセッションが非常に増えています。
ただ「結構似たような話も多いな」と思われる方もおられると思いますので、今日は独自性が際立つ施策に光を当てて、組織、人事、これからの働き方を掘り下げていくようなセッションにしたいと思っております。
早速ですがフロムスクラッチの安部さんからよろしくお願いします。
安部泰洋氏(以下、安部氏):フロムスクラッチ安部と申します。
人事施策のご紹介をさせていただく前に、簡単に会社の紹介をさせていただきます。2010年に設立をして現在8年目を迎えている会社です。
従業員は、福岡やアジア地区の開発拠点を含めると約150名です。事業としてはマーケティングプラットフォーム「b→dash」という、BtoB・SaaSプロダクトをエンタープライズ向けに開発・提供しています。
「b→dash」は、企業が保有するビジネス・マーケティングデータを一元的に取得・統合・管理できるプロダクトであり、世になかなか見られないコンセプト・機能を評価いただき、たくさんの大手企業様にご導入頂いております。
トピックでは、2017年5月にシリーズCラウンドで約32億円の資金調達をしました。このラウンドを合わせると、これまでに合計で約45億円の調達となり、国内のBtoB・エンタープライズ領域では最大規模の資金調達をさせていただきました。ここまでが会社概要のトピックです。
麻野:2〜3年前までくらいは従業員数は10人強でしたよね。
安部氏:そうですね。3年くらい前は12〜13人くらいの会社でした。
今でこそ比較的、大手企業や外資のコンサル企業・投資銀行からの転職が増えていますが、設立当時は全くそういう流れがなかった中で、どのような形で採用活動をやっていたのかということを当社のユニークな施策としてお話ができればと思っております。
中途採用においては、いわゆる外資の戦略系コンサルやテクノロジーベンチャー、大手事業会社のマネージャー・執行役員クラスの人材を採用してきました。
現在流行っている言葉を使えば、「リファラルリクルーティング」「ダイレクトリクルーティング」のような手法ですが、比較的早い段階から、そういった手法を導入しながら幹部層を採用してきました。
また、新卒採用にも非常に力を入れてきました。2010年に設立した会社なのですが、その翌年2011年から新卒採用を開始しています。
10年後20年後の会社のことを考えると、組織の幹になるのは新卒であろうという思いで、多額のコストと工数を投下しながら、新卒採用市場でのブランド構築をしてきました。結果、一般的にハイキャリア・ハイスペックと呼ばれる層の学生を採用できています。
彼ら自身、就職活動において誰もが羨むような外資の戦略系コンサルや投資銀行、総合商社や広告代理店などの内定を辞退して、我々のような“知名度は低いもののビジョンに共感し、その伊達と酔狂の世界に賭けてみたいという熱い思い”で入社してきてくれています。
麻野:私も色んな企業を見てきましたけれども、採用力でいくとフロムスクラッチはスタートアップの中ではトップクラスだと思います。組織力についてはいかがでしょうか。
組織偏差値70。急成長ベンチャー企業の組織マネジメント
安部氏:組織力という意味では、リンクアンドモチベーション社が組織の状態や従業員のモチベーションを数値化する、エンゲージメントスコアという指標を計測してくれるのですが、当社の偏差値は73です。
麻野:エンゲージメントスコアは偏差値なので、平均は50くらいだと思っていただけるとイメージしやすいかと思います。
安部氏:2,000社以上導入されている中で上位5%をなんとかキープしている状態です。
組織が10人~30人、30人~50人、50人~100人と増えていくにつれ、組織に今までとは違う様々な情報が入ることによってスコアが下がりやすいと言われている中で、弊社のスコアは上がり続けています。
これからお話させていただく施策が、功を奏しているのではなかろうかと考えています。
我々の業界では、離職率がおおよそ15%~20%と言われています。ですがフロムスクラッチの直近1年は、6%と非常に低い離職率を保っています。
決して社員に迎合しているわけではなく、どちらかというと会社が方針や向かう方向を示して、社員がそれと同じ方向を向いて進んでいます。その中でもこの離職率をキープしているのは、エントリーマネジメントをやせ我慢しながらやってきた結果かなと思っています。
麻野:スタートアップの企業がどう人を採用するのか、また入社してきてから様々なバックボーンを持ったメンバーをどう束ねていくかが、経営上のポイントになるかと思います。そのために工夫している施策をご紹介いただけますか?
資格制度を設けることで、社員の採用力を高める
安部氏:様々な施策をトライアンドエラーでやってきたのですが、その中で良い成果があった施策は「CREW」というものです。Commitment of Recruiting Elites to be World-classという言葉の略で、無理矢理CREWにしています(笑)。
簡単に言うと、社員のリクルーティング活動の貢献を評価する制度です。自分の会社に新たな仲間を連れてくることができる人間は、会社として評価に値すると考えており、この制度を数年前から導入しています。
背景としては、労働市場が非常に流動化してきていることが挙げられます。ビズリーチさんやウォンテッドリーさんに代表されるようなダイレクトリクルーティング、リファラルリクルーティングのサービスが出てきています。
やはり優秀な人材は、なかなか転職市場に出てきません。それならば自分たちが採りに行かないといけません。言い方を換えれば自社の人間も、他社からするとターゲットになっているということでもあります。
それであれば一人ひとりが採用担当であるという認識を持つために、そこに企業としての資格を設けたり一定の報酬を乗せることによって、自社に対するオーナーシップを発揮してもらったり、自分自身がなぜこの会社に入ったのかを常に外部に対して語れるような状況をつくろうというのが、この「CREW」という制度です。
麻野:更に具体的に教えてもらえますでしょうか。
安部氏:「CREW」にはEntryとBachelorとMasterとDoctorの4つのクラスがあります。それぞれに基準が設けられています。
例えばEntryというクラスの基準であれば、自分の会社が何を目指しているのか、なぜこの事業をやっているのか ということを含めて、会社の歴史やポリシーがきちんと語れるかどうかです。
基準値を満たしていたら、Entryというクラスとして認定して、月額5,000円のインセンティブが発生します。
Bachelorというクラスでは、それをアウトプットできているかどうか。そしてアウトプットすることで、メンバークラスの採用ができるという基準に達した人間には月額10,000円を支給しています。
Masterはマネージャークラスの採用、Doctorは幹部クラスの採用という形で、手当を設けています。
昇格は半年に一回、会社の理解のテストやプレゼンなど、貢献実績を見ながら決めます。大切にしているポイントは、新卒入社1年目であっても、5年間会社にいる役員であっても年次に関係なく、平場の勝負としているところです。
5年間いる役員がまだBachelorなのにも関わらず、新卒3年目の人間がMasterであるというような逆転現象が起きます。
自社のことや会社のことを外部の人に話す機会を多く持つことで、会社に対するロイヤリティが高まっていくという効果もあります。この流動化が激しい市場において、そういう機会を持たせるという意味でも非常に有効な施策だったと思っています。
麻野:社員の皆さんがこの資格を持っているんですか?
安部氏:持ってない社員も当然います。持ってない場合は、資格に合格してない社員ですね。こういう施策を行っていると、経営側として非常に面白いことが見えてきます。
前のめりに取り組む社員というのは、ビジネスのパフォーマンスも比例して上がっていく傾向にある一方で、施策に対してあまり前のめりでない社員は、ビジネスのパフォーマンスもそれほど上がらなかったりします。
このメンバーはあんまりこの施策に向き合っていないから、もしかしたらビジネスのパフォーマンスも高まっていかないかもね、というような想定があらかじめできたりするんですね。
実際にその通りの結果になることもあるので、社員のコミットメントを測れるとも言えるんじゃないでしょうか。エントリーマネジメントも大切ですし、その対にあるイグジットマネジメントの指標としても、こういう施策が我々の中では機能していると思います。
麻野:なるほど。この施策をやってよかったなぁって思うことってどんなことですか?
人事ではなく、社員が社員を採用する時代
安部氏:一番は、採用力が高まったことです。当社でいうと採用数の内、5割くらいがリファラル採用。つまり社員紹介です。
2割くらいがダイレクトリクルーティングで、残り3割がエージェント経由ですね。優秀な社員が引っ張ってきた社員は、パフォーマンスの高い社員が多いということが、データとしても出ています。
通常の採用ルートではなかなか出会えないような人材にリーチができるということが、この施策の直接的な効果だと思います。
間接的な効果だと、やはり社員の会社に対するオーナーシップやロイヤリティの醸成です。組織や会社を一緒につくっているんだという意識が高まっていると思います。
麻野:直接的には、人材紹介会社ではアプローチできないような潜在的な転職層に対して社員を通じてリーチできるということ。
間接的には、社員が採用に関わる中で会社のことを語り、その社員自身のコミットメントやモチベーションが上がっていくということ。その両輪を回すことで、先ほどのような採用や組織状態を実現しているということですね。
これからの時代は、労働市場が流動化する中で、人事が人を連れてくるのではなく、社員が社員を連れてくる、そんなことが求められるということですね。
安部氏:そうですね。人事という部門は当然ありますが、”自部門の採用に関しては自部門が担う”というポリシーでやっているので、「人が足りないから人事に人を採用してきてくれ」という会話は、当社では無いですね。
麻野:なるほど。15年程前に、「これからは人事が採用する時代じゃなくて社員全員が採用する時代なんだ」というメッセージの、「ウォー・フォー・タレント」という本が出版されています。
読んだ当時は、私も全然ピンとこなかったんですが、フロムスクラッチ社のお話を改めてお伺いして、まさにそういうことを実践している会社が出てきているんだと感じました。
実際に効果が出ているという施策内容を惜しみなくご披露いただき、ありがとうございました。
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。