【後編】永久ベンチャーDeNA大解剖 「社員を信じ、事業も人も大きく動かす」
様々な企業の中で閉じられていた組織人事のナレッジをシェアし、日本のべンチャー企業の発展に貢献していくことを狙いとしてスタートした「Strategic HR Summit」の第2回。事業の成長について注目を集め続けるだけではなく、人材の宝庫としても知られる、株式会社ディー・エヌ・エーより、執行役員経営企画本部長小林氏と、ヒューマンリソース本部長の對馬氏を迎えた。トークテーマは『DeNA大解剖』。
【イベント実施日】
2016年9月13日
【登壇者】
株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員経営企画本部長 小林 賢治 氏
株式会社ディー・エヌ・エー ヒューマンリソース本部長 對馬(つしま) 誠英 氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野 耕司
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人の持つポテンシャルを、心底信じている
麻野耕司(以下、麻野):「なぜ、DeNAは多角化に成功しているのか?」という質問へのお答えのひとつは「事業のトレンドをしっかり読んで、過信しないこと」とのことでした。
小林賢治氏(以下、小林氏):はい。それに加えて、大胆な人事異動もそうですね。例えば、以前の人事の執行役員は現在、子会社の営業部門トップだったりします。世間では、この人事異動を左遷と捉えかねないかもしれませんが、全くそうではありません。最も成長するところに一番能力がある人を投入するというのは、DeNAでは当たり前なんですよね。社内ではその異動を、降格とも左遷とも受け取る人はおらず、むしろ「ばっちりはまった異動ですよね!」という反応です。ポジションを気にしない人が多いとも言えるかもしれません。
對馬誠英氏(以下、對馬氏): 制度の話をすると、DeNAは役職給がないので、異動の判断がしやすいんですよね。
麻野:人事であれば人事系領域で、営業であれば営業系領域でパフォーマンスを求めることが一般な組織マネジメントだと思いますが、以前の職種と全く異なる職種へ異動しても尚、パフォーマンスが出せているということが凄いですよね。採用時に見ているポイントはあるのでしょうか。
小林氏:「人は、思った以上にポテンシャルがある」ということです。今日一緒に登壇している對馬だって、営業だけをずっと続けていたら、相応の成果を絶対に出していたと思います。でも、組織に関心を持っているなら人事もいけるんじゃない?営業だけしているのはもったいない!という発想ですね。DeNAという会社は、よく人を見ている。営業はできるけど人事はできない、なんてことはないんですよね。人は、ポテンシャルを秘めています。
對馬氏:何かひとつをずっとやっていきたいというタイプではなく、色々なことを積み上げていきたいと思っているメンバーを集めているということはあるかもしれませんね。ある事業領域から全然別の領域に人を動かさないといけないということがあっても、人材に困ることはありません。
麻野:新しいことにチャレンジしたい・新しいことが好きだという素養を持っている人が多いので、異動は厭わないということですね。「事業の中身の前に、変化する市場をきちんと捉える」「ターゲットとすべき市場に対して、変化対応力がある優秀な人材をアサインする」「給与は役職につけるのではなく、能力につける」。そして「経営者が“任せる”器を持っている」。これら全てが重なり合って、過去〜現在のDeNAの成長があるんですね。
いい時も悪い時もいつでも、覚悟を持って「大きく動かす」
麻野:次が最後の質問です。「なぜ、DeNAとライバル企業に差はついたのか?」。ライバル企業とは、過去には時価総額が同じくらいの時代があったにもかかわらず、今や4倍近くの大差がついています。
小林氏:正直な感覚としては、そこまで差がついたとは思っていません。時価総額約4倍と言っても、今のこの瞬間を切り取っているだけのこと。DeNAがGEくらい大きい会社になっているなら別の話ですが、これくらいでは一瞬でひっくり返されます。DeNAは事業の多角化の芽があるという状態なだけで、まだ完全に多角化し切ってはいない。それが大前提です。
その上で、苦しくなってきたときにどういう取り組みをしてきたか、ということでお話ししてみたいと思います。2012年、業績でいうとピークが見えて以降のDeNAは、周囲からはオワコン(終わったコンテンツ)だと見られていた雰囲気がありました。「今はパズドラですよね!」「DeNA、ちょっと古いですね」と思われていたと言えば、分かりやすいでしょうか。例えば、いっときヤフーも苦労していたじゃないですか。だけど、爆速経営を掲げ始めてから、がらっと雰囲気が変わりましたよね。みなさんもお感じになっていたと思いますが。
DeNAも、変わらないといけないという状況だった。ちょうどその頃に、スクウェア・エニックスさんと一緒にやったファイナルファンタジーレコードキーパーがアプリでヒットしたことはとても大きかったです。さらに同時期、キュレーションメディアのMERY(株式会社ペロリが運営)とiemo(iemo株式会社が運営)の買収も行いました。実際のところ「買収したとして伸びるのか」という疑いの声は社内でありましたし、株主からは「高すぎるんじゃないか」という懸念がありました。また、任天堂との提携も、全くもって簡単な道のりではありませんでした。何年もかけて、ひたすら模索していたんです。諦めないDeNAの、粘り強さの象徴のような提携だったと思いますね。
共通しているのは「大きく動かす」という意識ですね。苦しんでいた2013年に「60本ゲームを作るぞ!」という号令が出た。それまでの取り組みからすると規模感が大きく違いますから「本気か!?」というような反応もありましたが、それは、ちまちまやらずに圧倒的にやるという覚悟を持った決断だったんですよね。結局翌年の途中でその計画は見直しましたが、その時、社内で数十名規模の人材を動かしたし、大規模な宣伝も行いました。
對馬氏:あれは、当時のエースを集めた大異動でした。役職者という点で言えば20名はいましたしね。船頭が多すぎるという見方もあるかと思いますが、かなりの優秀層を集結させて、勝負するんだ!という機運を作っていました。
小林氏:改めて「大きく動かす」というのは、失敗してきたものを含めてずっとやってきたことですね。毎回ヒットする訳じゃないですから。DeNAの文化として「大黒柱を引っこ抜く」ということがあるんですけどね。大黒柱を抜かれた側からも、俺らのところは注力されてないなぁみたいなひがみが出ないんです。それは「大きく動かす」覚悟が、トップだけではなく現場にもあることの表れだと思います。
DeNAへの入社要件は「能力が高いこと」<「ちゃんとしていること」
麻野:事業内容や置かれているステージの差はあれども、オワコンと言われるタイミングは必ずあります。中長期的に見たときに、本当に終わるのか、持ち上がってくるのかの差。オワコンという見られ方になって人が離れていくことも多くあるはずですから、その時に踏ん張れる組織って何でしょうか。そして、DeNAが踏ん張れたのだとしたら、何が理由だったんでしょうか。
對馬氏:DeNAの価値観・組織風土・人に行き着くと思います。何にコミットするのかは、人それぞれですが。
小林氏:事業トレンドに乗ってDeNAに居たという人がいるのも事実ですが、そういう人ほど、事業の風向きが悪くなったら離れていくんです。そういう人が一定量いるのは仕方がないとも思っています。どんな苦境があっても、残る人はいます。DeNAは「ちゃんとしている」と表現されることが多いのですが、それは南場さん流に言えば「ワークエシック」、つまりは職業倫理感が高いということだと思います。手を抜いている人間がいない集団なんですよね。これって案外すごいことだし、働いていてとても気持ちがいいんですよ。
對馬氏:ちゃんとしていない人は、DeNAには居られないですね。ちゃんとしていない人が入社してくると、組織風土は変わってしまうんです。例えば、チームワークを乱したり、ハレーションの種になったり。
小林氏:言ってみれば、能力が高いけれども文化が合わない人が一番きつい。あとは、他責的な人。面接で、過去の難しい経験について聞いた時に「上が・・・」とか「会社が・・・」という発言をする人。スペックが高い人と面接する際に、一定数出会うこともあります。
麻野:業績や報酬で人を束ねると、事業が下降気味の時に、そういう人たちは離れていく。DeNAの場合は「ちゃんとした人」という表現をされていますが「こんな人と一緒に働きたい!」ってとても大事なことですよね。文化が強い会社が生き残るというのは、名著ビジョナリーカンパニー(ジェームズ・C・コリンズ著)にも書かれていることですが、実際は難しいんです。
私も色々な会社でバリューやクレドを作りましたが、それらがきちんと浸透している会社というのは、これを実践したらビジネスが上手くいく!と、トップからメンバーまで信じています。そして、言葉だけではなく、ビジネスが成功したエピソードと共に浸透している。「ちゃんとしている」という言葉から、南場さんがDeNA Qualityを信じていることが伝わりましたし、その魂から出てきた言葉たちはきちんとDeNAの生業とつながっていて、その言葉を実践したからこその成功体験が社内に流通している。そして、多くの成功体験の中から伝説と呼ばれるエピソードが生まれているんですね。
【前編】永久ベンチャーDeNA大解剖
「全社員のよりどころ“DeNA Quality”が生み出した力」
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。