ラクスルが乗り越えた6つの組織の壁~「業務過多疲弊症」「長期視点欠落症」「組織ルール不足症」~
2009年創業以来、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンに掲げ、印刷・物流という“リアル”な業界に、“IT”で新たな仕組みを生み、成長拡大を続けてきたラクスル株式会社。
2018年5月31日に東京証券取引所マザーズ上場を果たした同社は、成長の過程で立ちはだかった組織の壁をどのように乗り越えて現在に至ったのか。
Forbes誌が選ぶ「日本の起業家ランキング2018」第1位にも選出された、代表取締役社長CEO 松本恭攝氏と、取締役CFO 永見世央氏が語る。全3回シリーズ、中編。
【プロフィール】
ラクスル株式会社 代表取締役社長CEO 松本恭攝氏
ラクスル株式会社 取締役CFO 永見世央氏
株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司
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採用は誰の仕事か
麻野:ありがとうございます。経営トップ依存症を脱するための経営ボードメンバーの採用や育成の仕組みについて伺いました。
続いて、業務過多疲弊症について伺っていきたいと思います。まさに成長企業が陥りやすい症例かと思いますが、特に採用にフォーカスして取り組まれたということですね。
永見氏:はい。2015年にリンクアンドモチベーションさんにサポートに入って頂いたタイミングから採用が変わっていきました。
まず一番大切なことは「採用って誰がやる仕事か」ということです。
「人事がやる仕事」と捉えられることも多いと思うのですが、私たちラクスルでは「全社で取り組む仕事」だと思っていますし、更に言えば「経営者の仕事」だと思っています。
経営者の方で「採用がうまくいかない」というお話をされる方がいると思うのですが、それは自己否定をしていると思っています。自分がやらなきゃいけないことを、自分がやれていないということだと思います。
永見氏:私たちは評価制度の中に「採用」という項目を入れています。
一定以上のグレードの人は、自分で採用して組織を作れなければその上のグレードには行けませんよ、と明確に伝えています。
取締役レベルであれば執行役員レベルを採用できないといけないし、執行役員レベルはマネージャーを採用できないといけない。明確に評価制度の中に組み込まれています。
また、採用手法としては、エージェントをあまり使っていなくて、ダイレクトリクルーティングをかなり使っています。各部門の組織長が自分でスカウティングする、ということを大事にしています。
一般的にダイレクトリクルーティングの方がエージェントよりも採用するまでに時間がかかります。
けれどラクスルではカルチャーフィットを重視して、業務体験などを選考プロセスにいれているので、採用スピードとカルチャーフィットはトレードオフだと思って、ダイレクトリクルーティングを重視しています。
半年後・1年後の組織図を描く
あと、組織長の採用へのコミットを高める取り組みとして、半年後・1年後の会社や自部署の組織図を書いてみる、というのをやっています。
私も決して得意ではないですが、将来の組織図を書けない事業部トップの人が多い。未来の組織図というのはシンプルで重要な問いだと思います。
書けないということは、会社のフェーズや今後の展開に対する理解が低いということなので、そこはちゃんと育成していかなくてはいけない、と思っています。
麻野:ありがとうございます。本当に全社で採用する会社になっているということですね。
グレード、いわゆる等級の定義の中に「採用ができること」というのが書いてあるというのは、これから世の中にどんどん広がっていくんじゃないかと思います。
外から人を採用できない人って、中でもメンバーを握れていなかったりすると思います。これだけダイレクトリクルーティングが発達しているということは、「外から採れる」ということと同時に「中の人を採られる」可能性があるということです。
常に中のメンバーを握り続けられる力がないと、マネジメントとしての評価が高まらないというのは、とても本質的なことだと思います。
永見氏:私たちで言うと、当時は印刷事業しか実施しておらず、「印刷屋」がタレントを採用すると考えると、結構難易度が高いと思います。
でも印刷屋ではなくて、ちゃんと自分たちのビジョン・ミッション・バリューを伝えて、採用の時に口説くというのがすごく大事です。
そのプロセスを通して、語る社員自体がビジョン・ミッション・バリューに対する意識を高く持つようになります。
麻野:ありがとうございます。続いて長期視点欠落症ですね。
こちらはモチベーションクラウドでも理念に対する期待が高いけれど、満足度が低かった。3年間かけて取り組まれたところですが、この時の状況と施策について教えて下さい。
永見氏:はい。まさに会社がスケールしていくタイミングだったのですが、ビジョン・ミッション・バリューに対する理解が低かったり、経営としての発信・伝達が弱かったという状況がありました。
2015年の2月にリンクアンドモチベーションに投資して頂き、そこから3ヶ月ぐらい、ビジョン・ミッション・バリューの再定義・見直しを行いました。
採用はビジョンとビジョンのせめぎ合い ビジョンを輝かせ続けられているか
永見氏:採用市場(労働市場)における競争は、会社と会社のビジョンのせめぎ合いだと思っています。輝いているビジョンの下に人が集まる。
だからこそビジョンを輝かせ続ける、伝え続けることが大切だと思っています。非常に当たり前のことを言ってしまっていますが、やりきれている会社は実はそんなに多くないと思います。
ラクスルだと、定期的にビジョン・ミッション・バリューのメンテナンスを行っています。ビジョンは変わっていないのですが、ミッション・バリューについては定期的に見直しを行っています。最近も松本主導で見直しを行いました。
松本氏:昔のラクスルには、確かに売上至上主義というような雰囲気がありました。
売上が上がれば、やっぱり社員のみんなが喜ぶ。ミーティングでも、売上や粗利などの数字がずらっと並ぶ。
私が思っていたのは、この売上の先に「世界を変えていく」という感覚をみんなが持てているだろうか、ということでした。
“仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる”というビジョンはこの会社をつくったDAY1から存在していて、何も変わっていない。ずっと言い続けてきていて、伝わっているものだろうと心の底から信じていたのですが、サーベイをとってみるとどうやら伝わりきっていない、と。
であれば、もっとちゃんと伝えるために、「ラクスルスタイル」という行動規範に落とし込んで、評価制度にも繋げて、伝え続ける必要があると感じました。
この時につくった「ラクスルスタイル」は「Reality」「System」「Cooperation」。非常にシンプルなものです。
「Reality」は解像度を上げて、もっとリアルを深くミクロに見ていこうということ。
「System」は仕組み。まずは手でやったものを仕組み化して、誰でもできるようにして、それをソフトウェアに落とし込んでいこうということ。
「Cooperation」は連携。私たちは非常にバリューチェーンの長いビジネスをしています。マーケターの横でエンジニアが仕事をしていて、60歳の元印刷機メーカーの社長や、元トラックのドライバーもいます。
この多様なメンバーがしっかりと連携しないと、最終的なユーザーエクスペリエンスに繋げられない。この3つを体現することが、ビジョンの実現に繋がる、という接続を行いました。
麻野:ここまでビジョンと行動規範が接続されると、普段の仕事の中でも納得感が生まれやすいですね。
永見氏:そうですね。ビジョン・ミッション・バリューと会社のビジネスモデル、もっと言えば創業者の人格も全て繋がった一つのものだと思っています。
そこが繋がっていないということは、何かを無理しているということなのかな、と思います。
ビジョンを要素分解して制度の要件に反映
麻野:ビジネスモデルとミッションやバリューが繋がっていない、ということって実はよくあったりしますね。ありがとうございます。続いて、組織ルール不足症について、教えて下さい。
永見氏:私たちは2015年の半ばまで明確な人事制度が無かったんですね。一応形としてはあったのですが、パッチワークのようになっていて。これは自分の反省でもあります。
ビジョン・ミッション・バリューとの連動みたいなところが弱く、モチベーションクラウドのスコアにも低く出ていました。ビジョン・ミッション・バリューをしっかりとルールとも紐づけていきましょうということで、評価制度を構築しました。
ビジョンを要素分解して、「それって組織とか人事の言葉で言うとどういうことなんだっけ」というのを1つずつ突き詰めて、その上で組織のポリシーをつくっていくということをやりました。これはかなり時間をかけましたね。
麻野:2ヶ月程かかったと思います。
永見氏:かかりましたね。
ここで大事なことは、外部のアドバイザーやコンサルタントの方に案を出してもらってそこから決めます、ということではなくて、私たち経営陣がちゃんと考えないといけないし、ちゃんと時間を使って自分たちの中で落とし込んでいく必要があると思っています。
また、「内容と設計」だけではなくて「背景と運用」が大事ですね。日々の行動に紐づけていくミッションツリーの作成や、1on1を定期的に実施するといった、運用部分を重視しています。
麻野:ミッションツリーというのは、全員の半期に1回設定した成果目標の内容が公開されていて、経営陣からミドルマネージャー、現場に至るまで、どのように目標が連鎖しているのかが、わかるようになっているものです。
どんな役割分担になっていて、どのように自分の仕事と会社のビジョンが繋がっているかがわかると、納得感を持ちやすいですよね。
手間はかかりますが、納得感が高ければ高いほど、現場の行動がしっかり促進されるので、効果が高いということですね。
永見氏:透明性って大事だと思っています。
報酬の話とか、秘匿性が高いものは別として、しっかりとそれぞれの目標や役割がオープンになっているということは、フェアネスにも繋がると思っています。可能な限り透明性を高くしたいと思っています。
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
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