サイバーエージェント曽山氏と語る組織論。「エンゲージメントを高めるのは、言行一致の経営」

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日本を代表するCHRO(最高人事責任者)のひとりが、サイバーエージェント取締役の曽山哲人氏だ。自社用に開発した従業員のコンディション把握ツール「GEPPO」が多くの会社に導入されるなど、同社の仕掛ける人事施策は注目を集める。国内初の組織改善システム「モチベーションクラウド」を立ち上げた、リンクアンドモチベーション取締役の麻野耕司と語るのは「組織を変えた具体的施策」について。全2回シリーズの後編。

【プロフィール】
株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括 曽山哲人氏
株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 / 株式会社ヴォーカーズ 取締役副社長 麻野耕司

エンプロイーエンゲージメントが高い会社は、魅力要因が滲み出る

麻野耕司(以下、麻野):「エンプロイーエンゲージメントの高め方」について、サイバーエージェントさんの事例をお伺いしていきますが、その前に、「4P」という概念をお伝えしたいと思います。顧客と会社や商品の結びつきを強める、マーケティングの4P(Program・Price・Place・Promotion)という概念は、皆さんご存知だと思います。

従業員と会社の結びつきを強めるためには、Philosophy・Profession・People・Privilegeの4Pが必要です。

「エンプロイーエンゲージメントを高める=会社が従業員に優しくすること」という誤解もありますが、それは関係ないですね。従業員エンゲージメントが高いサイバーエージェントさんだって、仕事には厳しいはずです。それから、サイバーエージェントさんは様々な魅力を持っている会社さんですが、外から見ていると中、特にPeopleが強いように見えます。

こんな風に、エンプロイーエンゲージメントが高い会社さんというのは、4Pのどれが魅力要因なのか滲み出て、外部からもわかるほどですよね。ちなみにリンクアンドモチベーションはPhilosophyです。「私たちは モチベーションエンジニアリングによって 組織と個人に変革の機会を提供し 意味のあふれる社会を実現する」という理念があるので、ここから外れた事業はやりません。

曽山哲人(以下、曽山氏):なるほど。リンクさんはそうかもしれません。そして、今麻野さんがおっしゃったように、サイバーエージェントだとPeopleが挙がってくると思います。一方で、Privilegeが課題だとも感じています。評価制度などは、市場環境も変わるので常に満点ということはなく、やはり課題はあります。

麻野:4Pそれぞれ、束ねるときのポイントがあると思っています。例えばPeopleであれば、メリットは事業の方向転換がしやすいことです。インターネット系の会社は、Peopleで束ねることができれば、事業が変わってもメンバーがついてきてくれます。

ただ、Peopleで束ねるリスクもあります。それは相当コミュニケーションコストをかけなければいけないということ。表彰式や飲み会、それらのコストを抱える覚悟は必要です。

また、Professionで束ねていると、プロ意識が高いメンバーのため、業務効率が上がりやすい一方で、自分の成長が失われると感じた途端、会社を辞めてしまうリスクがあります。

曽山氏:自己成長欲求が強くなりがちですね。

麻野:そうですね。良いタイミングで異動させないと辞めてしまうことも多いし、会社の成長が傾いてくると辞めてしまうこともあります。他にはPhilosophyのメリットは、事業が傾いて業績が思わしくなくても、中長期的な目標の実現に向けて頑張れる集団だということです。

うちの会社はこれで束ねるという要素を決めて、採用時に応募者に語ることで、入社後のマネジメントコストを低くすることができるので、メリット・デメリットを踏まえてマネジメントしていくことが大事です。ではここからようやく、サイバーエージェントさんの仕掛けについて、具体的にお伺いしていきましょう。

30社/売上1,000億円を輩出した、大当たり施策「あした会議」

曽山氏:「あした会議」と「CA8」というふたつの施策をご紹介したいと思います。あした会議とは、経営幹部が新規事業をつくることを目的にした施策です。経営陣が主体になるので、すぐに導入するのは難しいと思われる方も多いかもしれませんが、大手企業・ベンチャー企業にかかわらず、参考にしてくださる企業さんが増えているので、ぜひご紹介できればと思います。

結果も社内外に公表する、役員対抗の決議案バトルなのですが、スタートは2006年です。そして、あした会議で生まれた会社は30社になりました。この30社によってつくられた売上は1,000億円以上になります。営業利益も100億円以上あるので、日本における新規事業プログラムの中でも、かなり良い結果が出ているものだと思います。

現在のサイバーエージェントの売上や利益の柱になっているゲーム事業も、2009年のあした会議から生まれたものです。事業創出の観点から言っても素晴らしいのですが、社内の交流が進むという意味でも良い施策です。1役員につき4名の従業員がチームに参加した上で行われるのですが、ルールがあって、自部署の提案をしてはいけないことと、集めるメンバーは他部署に所属していること。

私の場合であれば、人事担当役員なので、他部署の課題を見つけて、他部署からメンバーを募って、健全に明日につながるような提案をしないといけないわけです。メンバーたちにとっても、他部署の経営陣の判断を直に仰げるので、非常に良い勉強の機会になっているようです。

麻野:写真の右端に写っているのは藤田さん(株式会社サイバーエージェント代表取締役社長 藤田晋氏)ですか。

曽山氏:そうです。出てきたすべての案に対して、藤田がひとりで点数をつけるのですが、ちょうどその写真ですね。1案につき3分でプレゼンをして、藤田から質疑応答があって、点数がつきます。10案あったとしても30分程度で終わります。その後何をやるかというと、5〜6時間をかけて案をブラッシュアップするんです。

点数が低かったチームから順番に藤田が入り、付けた点数の理由や問題点を伝えた上で、メンバーと一緒に再度議論を深めます。そして、夜に再度、電話で藤田へプレゼンテーションをして、案が良くなっていれば、決議されることもある。そんなイメージでしょうか。

2年に一度降格者が発生する、業務執行取締役交代制度「CA8」

(※このパネルディスカッションは2018年7月25日に実施されました。CA8は現在は廃止しております。)

麻野:具体的な、決議されるプロセスまで共有いただきありがとうございます。もうひとつの施策「CA8」についてもお聞かせください。

曽山氏:2年に一度、取締役がふたり入れ替わるという仕組みです。サイバーエージェントの8名という意味で、「CA8」と名付けています。

あくまでもこの2年間の事業戦略に合わせて布陣を決めるという考えが、前提にあります。サッカーのように対戦国に合わせて布陣を変える。例えば、新規事業重視なのか法人営業中心なのかによって、布陣は変わるはずです。

僕自身も役員ですが、役員って、辞めてもらうときが大変じゃないですか。「退任は降格ではない」と明確に定義した上で、2年に一度、8名を発表するときに藤田が話すのは「サイバーエージェントの役員というポジションは、あがりではなくキャリアステップの一貫である」ということ。

役員になって上場企業の経営をして、その後また子会社を経営する、新規事業をつくる、そしてまた役員をする。様々なキャリアがあって良いということで、定義を変えましたが、これが非常に良かったんです。私自身も、6年間取締役をやった後、2年間退任して執行役員になった経験があります。藤田からも、「もっとチャレンジした方が良い」というフィードバックがありましたが、まさにこの2年間は成長実感がありましたね。出戻り取締役になったというわけです。

麻野:これは本当にすごい。実際に機能させていることがすごいですよね。役員に限らず、降格ではないといっても、ポジションが下がることが退職につながるケースは多いと思います。役員ならば、尚更ですよね。

曽山氏:もちろん例外もあります。VOYAGE GROUPの宇佐美さん(株式会社VOYAGE GROUP代表取締役社長兼CEO 宇佐美進典氏)は、MBOして上場するために、グループを離れました。こういった例もあります。

経営陣自らが挑戦を続ける姿勢で得られる、従業員からの信頼

麻野:「あした会議」と「CA8」というふたつの施策についてお話しいただきましたが、まさに、サイバーエージェントの組織力を生む源泉ですね。モチベーションクラウドは組織状態を可視化するサーベイなので、様々な項目が見れるんですが、最も全体スコアに影響を与えるのは、経営陣の信頼なんです。ここが高ければ、戦略を共有しても納得しやすいし、評価をつけても納得しやすい。

サイバーエージェントでは、なぜ経営陣の信頼のスコアが高いのかと考えると、経営陣が成長しようとしているからなんでしょうね。成長しようとしている様子が従業員に伝わるのだろうと思います。

曽山氏:そうですね。

麻野:エンゲージメントが高い会社は、経営陣が必死に成長しようとする姿を、従業員に見せているんですね。従業員に順位をつける会社は多いですが、役員に順位をつける会社ってどれくらいあるのかと、今改めて思いました。

リンクアンドモチベーションも、年に一度LMテストという施策があるんです。「ミッションを正確に書きなさい」など、会社のDNAについての試験を会長の小笹がつくるんですが、1位から最下位まで、全従業員の順位が張り出されるんですね。

ただ、いつからか役員は受けなくてもよくなり、従業員だけの施策になっていて。僕は取締役になってすぐ、「僕、LMテスト受けますよ」と言いました。テストを受けないというワンアクションだけで、従業員は、「役員になったらテストも受けないし、あがりなんだ」という印象を持ってしまう。それは絶対に良くないと思ったんです。

曽山氏:なるほど、素晴らしいですね。

麻野:伸びている会社は必ず、経営陣が成長しようとしていて、一番積極的にフィードバックをもらおうとしている。そういう意味では、サイバーエージェントさんはお手本ですね。仕組み自体は複雑ではないけれど、実行するには非常に勇気がいる。「あした会議」も「CA8」も、尊敬と信頼を集めてエンゲージメントを高めている、非常に素晴らしい施策だと思いました。最後に会場からの質問にお答えしたいと思います。いかがでしょうか。

人事施策において大切なことは、「事業と組織の紐づけ」と「効果検証」

質問者:サイバーエージェントではいろいろな制度をつくってこられたと思います。中にはうまくいくものもあれば、うまくいかないものもあったのではないかと思うのですが、うまくいかなかった時の撤退ルールなどは設定されているのでしょうか。

曽山氏:ありがとうございます。サイバーエージェントの場合は、人事制度をやると決めた時の成功ラインと失敗ラインを先に決めます。だから例えば応募形式の新規事業プランだったら、10件しかなければ失敗だねとか、20件いったらまあ成功って言えるんじゃないとか、30件いったら大成功だねみたいなことを、先に決めておきます。成功ラインまでいかなかった場合は、「ほんとにすみません」ということでさっさと撤退するという感じです。

質問者:実際に人事制度をつくるとき、どんな流れで設計から実装まで進められますか。

曽山氏:私たち一つ必ず考えていることがあって、経営陣と議論した経営課題を決める、ということを大事にしています。人事の課題って、理想を高く持てばずっと常にあると思うんです。採用でも育成でも。人事から見ると、たくさんあるんですよ。そうなんですけれど、経営陣が例えば3年後の業績目標を考えた時に、これがないと絶対にいかないよね、というのを僕は経営課題と呼んでいます。経営の人事課題と言ってもいいかもしれません。それを決めて、それを解決できる制度をつくる、ということをしています。

なので、例えばこれが流行ってるからやろう、他社がやってるからやろう、は絶対やらないようにしています。社員からはなんで◯◯っていう制度入れないんですか、とすごい僕らも言われますし、もちろんそうした声に耳は傾けますが、大事なことは「今の経営課題は何か」ということだと思います。経営と人事が経営課題の議論ができてない場合は、施策が成功する確率はとても低いはずなんですよ。人事の自己満足になっちゃうので、経営陣が応援してくれないとか、社員の評判が悪いとか。最先端の制度を入れたのに、と嘆いても意味がないので、経営と人事課題を決めてそれを解決するために進めるということを大事にしています。

麻野さん顧客先や投資先の会社でも、人事制度がうまくいく会社といかない会社ってありますよね?

麻野:そうですね。特にさっきお話したモチベーションクラウドに通ずると思います。良くないのは「組織診断の結果、社員がこういうこと言ってるから、それに全て対応しよう」と。これはうまくいかないですね。

曽山氏:あっ、駄目なんですか?

麻野:やっぱりまず経営戦略があり、経営課題があり、組織戦略があり、組織課題があり、そして組織施策があって、それがうまくいってるかを検証するために組織を診断する、というような流れが大事です。経営という軸がない状態で、「社員がこう言ってるからこうやろう」というのはあまりうまくいきません。仮にそれで組織状態が良くなったからといって、じゃあ最終的に事業がうまくいくのか、ということがピンとこないので、経営陣からすると「やる意味あるの?」となることが多いです。

逆に言うと人事施策で大事なのは、事業と組織を紐づけることと、効果検証することです。事業の領域で施策の効果検証しないことって絶対ないんですよ。新しい商品を作ったらその商品の売上って絶対見るじゃないですか。で、売れてなかったらやめる。でも組織の世界ってそれやらないですよね。人事施策をやるといっても、定量的に効果検証をしたりしないんですよ。だから施策をやって満足というところで終わってしまう。組織施策がうまくいっている会社は、経営課題と組織施策を紐づけて、短スパンで実施します。例えば「戦略目標の納得感」ということが大事だとなれば、毎月のキックオフの後にその1問だけについてはサーベイを取る。そうするとキックオフで戦略が社員に浸透したのかどうかが分かります。「今月のキックオフ駄目だったんだね、来月からやり方を変えよう」という、組織施策の効果検証ができます。そのPDCAサイクルを回すということと、経営課題との人事施策とのリンクという、この二つが僕はとても大事だと思っています。

曽山氏:なるほど。ありがとうございます。

言行一致の経営が、社員からの信頼をつくる

麻野:他の質問はいかがでしょうか。

質問者:経営陣への信頼が大事、というお話がありましたが、それはなかなか一つの要素で定義できるものではないとも感じます。経営陣への信頼って、どうやってつくられていくのかということについて、サイバーエージェントやリンクアンドモチベーションのお話を聞かせて下さい。

曽山氏:これは、僕の中で明確なものが一つありまして。

麻野:聞きたいです。

曽山氏:これは何かと言うと、言行一致です。経営と現場の信頼をつくるのは言行一致。人事は言行一致力だと思っています。経営が、「俺らはこういう会社をつくりたい」「こういう組織でやりたい」という話があって、経営と人事が一緒に考える場合もあれば、経営が推進するケースもあると思うんですけれど、「言っていることとやっていること違うから信頼関係がない」というのが昔のサイバーエージェントでした。サイバーエージェントって、かつてはビジョンがたくさんあったんです。今は「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンですが、昔は「時価総額10兆円企業をつくろう」とか「世界最高のマーケティングカンパニーをつくろう」とかいろいろあって。役員それぞれも、みんな違うことを言うんです。言っていることがバラバラ、やっていることもそこに向かえているか不安になるという感じだったので、そりゃ社員も怒るわ、と。

私が人事本部長になってからやったのは、バリューの浸透度合いの確認です。10項目ほどあったものを全社員に配っているのですが、その項目それぞれについて質問をしたんです。例えば、「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを。」っていういい言葉があったんですよ。これが「浸透している」と答えた社員はわずか23%でした。8割近くの社員が、実態はそうではない、と感じていたということです。僕はその結果を見て、大きなショックを受けました。とにかくセカンドチャンスがあるとみんなが言ってくれる会社を創ろうと決めました。

何をやろうかすごく悩みました。当時の社員に話を聞くと「セカンドチャンスによる生き残りが少ないですよね」「新規事業に挑戦して撤退すると、みんな辞めてるじゃないですか」と言うんですね。「だったらやりたくないです」と思っている社員が多かったんです。なので、挑戦者を会社に残したいと思って、チャレンジして失敗する人と徹底的に面談をしました。じっくり話をして、その人たちが惨めな思いをしないように、異動先も考えて。でも、異動したけれどやっぱり撤退したという恥ずかしさが残るので数カ月後に辞めたいってもう一回なるんですよ。「大丈夫だから」と面談してフォローをして。ようやく、復活をして結果を出すメンバーが1人出てくる。それが何人か出てくると、「うちの会社にはセカンドチャンスがある」とみんなに伝わってくるんです。それが言行一致ということだと思っていて、言っていることとやっていることを同じにする。そこに尽きると思っています。

麻野:めちゃくちゃ分かります。リンクアンドモチベーションでも言行一致ということは経営においてとても大切にしています。うちでは信頼というものを公式で定義しています。「信頼=約束×実行」という公式です。

曽山氏:なるほど。

麻野:信頼とは約束をすること、約束したことを実行したことでつくられる、という意味です。経営として大事なことは、「何を約束するのか」と同時に「何を約束しないのか」をはっきりとさせることです。エンゲージメントという概念についても、私たちは「満足」だけが大事とは考えていません。「期待」と「満足」が合致していることが大事だと考えています。

DeNAの南場さんは「DeNAは万人にとって良い会社ではありません」とはっきりと伝えていらっしゃいました。「思考の独立性」「逃げずにやり抜く力」を持った人には最高の環境である。けれど、権威におもねるような人や最後までやり抜く力がそこそこの人には向いていない、と。自分は違う方向を向いていると思った人は、別の方向を探すことを勧めたい、とメッセージされています。

これはエンゲージメントにとても繋がると思っていて、経営陣が約束をしているんですね。そして約束したことを何が何でも実行するというスタンスが、経営への信頼を生んでいるのだと思います。なので、他社がどんなことをやっているか、とか全然真似をする必要なんてないんです。あくまで自社はどうしたいか、ということをメッセージして、それを実行しきることが経営陣への信頼に繋がるんだと思います。

はい。それではお時間になりましたので、この辺りで終了とさせて頂きます。曽山さん、本日は本当にありがとうございました。

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