労働者派遣法とは?改正のポイントや歴史・問題点について解説!
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労働者派遣法は、1986年に施行されてから改正を繰り返してきました。当初は、産業界の要請から規制緩和の方向で改正が進められてきましたが、近年は派遣労働者の保護を図るための改正が主になっています。
近いところで言えば、2020年には「同一労働同一賃金」の実現に向けた改正がおこなわれ、2021年にも2回の改正がおこなわれています。
今回は、労働者派遣法の趣旨、および改正の歴史や近年の改正ポイントなどについてわかりやすく解説していきます。
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労働者派遣法とは?
労働者派遣法は1986年に施行されてから数回の改正を経て、現在の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」という正式名称になっています。正式名称のとおり、労働者派遣事業を適切におこなうとともに、派遣労働者を保護することを目的とした法律です。
1986年に労働者派遣法が施行されるまでは、民間で労働者派遣事業をおこなうことは職業安定法第44条によって禁止されていました。これは、労働者と使用者の間に入って仲介をおこない、報酬を得るのは中間搾取に当たり、健全な労使関係が機能しなくなると考えられていたからです。
しかし、高度成長期を経て経済社会が成熟すると、企業による人材活用のニーズが高まるとともに、失業者への就業機会の提供が要請されるなど、人材派遣の必要性が高まっていきました。こうした背景があり、1986年の労働者派遣法の成立・施行に至ったわけです。
労働者派遣法の歴史
労働者派遣法は1986年に施行されてから、度々の改正や省令・指針の制定がありました。労働者派遣法の歴史を簡単に振り返っていきましょう。
■1986年
労働者派遣事業の適切な運営と、派遣労働者の保護のために労働者派遣法が施行されました。このとき、労働者派遣の対象とされたのは専門知識を要する13業務でしたが、施行後、政令で定める3業務が追加されました。なお、派遣労働者の受入期間は1年間とされていました。
当初、労働者派遣の対象とされていた13業務
ソフトウェア開発、事務用機器操作、通訳・翻訳・速記、秘書、ファイリング、調査、財務処理、取引文書作成、デモンストレーション、添乗、案内・受付・駐車場管理など、建築物清掃、建設設備運転・点検・整備
追加された3業務
機械設計、放送機器等操作、放送番組など演出
■1996年
1996年には労働者派遣の対象業務が拡大され、新たに10業務が追加されました。追加された10業務を含む26業務は「政令26業務」と呼ばれています。
新たに追加された10業務
研究開発、事業の実施体制の企画・立案、書籍などの制作・編集、広告デザイン、インテリアコーディネーター、アナウンサー、OAインストラクション、セールスエンジニアの営業、放送番組などにおける大道具・小道具、テレマーケティングの営業
■1999年
1999年には、労働者派遣の対象業務がネガティブリスト化され、原則自由化されました。ネガティブリスト化とは、労働者派遣の対象にならない業務・職種のみを指定する方式です。非対象業務として指定されたのは、建設、港湾運送、警備、医療、士業、製造業です。
■2000年
2000年には、派遣労働者の直接雇用の促進を目的として、紹介予定派遣が解禁になりました。
紹介予定派遣とは、労働者派遣と職業紹介を融合した制度で、労働者派遣の終了後に派遣会社が派遣先企業に職業紹介をすることを予定しておこなう労働者派遣のことです。派遣先企業は、派遣期間中に派遣労働者の能力や適性を考慮して採用するか否かを決定します。
■2004年
2004年には、ネガティブリストによって禁止されていた製造業における労働者派遣が上限1年という条件付きで解禁されました。また、1999年に自由化されていたその他の業務に関する派遣期間が1年から3年に延長され、政令26業務に関する派遣期間は無制限とされました。
■2006年
2006年には、ネガティブリストによって禁止されていた医療における労働者派遣も、一部が解禁されました。
■2007年
2007年には、2004年に解禁された製造業における労働者派遣の期間が最長3年に延長されました。
■2008年
2008年当時は、「ネットカフェ難民」やリーマンショックの影響による「派遣切り」が問題視されていました。このような背景から、日雇派遣指針(日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針)が制定されました。
日雇派遣指針は、日々、または30日以内の期間を定めて派遣会社に雇用される者に対して、派遣会社と派遣先企業は、労働者派遣契約を締結する前に互いに就業条件をよく確認することや、協力して雇用契約期間を長くすることなどを定めています。
2012年の労働者派遣法改正
2012年は、それまでの規制緩和から規制強化へと舵が切られ、派遣労働者の権利保護を主とした改正がおこなわれました。改正のポイントは以下のとおりです。
日雇派遣の原則禁止
日雇派遣は、派遣会社、派遣先企業のそれぞれで雇用管理責任が果たされておらず、労働災害の発生の原因にもなっていました。そのため、雇用期間が30日以内の日雇派遣は原則禁止になりました。
グループ企業派遣の8割規制
派遣会社と同一グループ内の事業主が派遣先の大半を占める場合、派遣会社が本来果たすべき労働力需給調整機能としての役割が果たされません。そのため、派遣会社がそのグループ企業に派遣する割合が全体の8割以下に制限されることになりました。
離職後1年以内の人を元の勤務先に派遣することの禁止
本来、直接雇用とすべき労働者を派遣労働者に置き換えることで、労働条件が切り下げられることのないよう、派遣会社が離職後1年以内の人と労働契約を結び、元の勤務先に派遣することが禁止されました。
マージン率などの情報提供派遣料金の明示
労働者や派遣先企業がより適切な派遣会社を選択できるよう、インターネットなどにより派遣会社のマージン率や教育訓練に関する取り組み状況などの情報提供をおこなうことが義務化されました。また、雇入時、派遣開始時、派遣料金額の変更時には、派遣労働者に対して派遣料金を明示することが義務化されました。
待遇に関する事項などの説明
派遣会社は、労働契約締結前に、派遣労働者として雇用しようとする労働者に対して、以下の3点を説明することが義務付けられました。
- 雇用された場合の賃金の見込み額や待遇に関すること
- 派遣会社の事業運営に関すること
- 労働者派遣制度の概要
派遣先企業の都合で派遣契約を解除するときに講ずべき措置
労働者派遣契約の中途解除によって、派遣労働者の雇用が失われることを防ぐため、派遣先企業の都合によって派遣契約を解除する場合は、「派遣労働者の新たな就業機会の確保」「休業手当などの支払いに要する費用の負担」などの措置をとることが、派遣先企業に義務付けられました。
有期雇用派遣労働者の無期雇用への転換推進措置
派遣労働者が無期雇用になるための機会が少ないことなどから、派遣会社は、有期雇用の派遣労働者(雇用期間が通算1年以上)の希望に応じ、以下のいずれかの措置をとるよう努めなければならなくなりました。
- 無期雇用の労働者として雇用する機会の提供
- 紹介予定派遣の対象とすることで、派遣先企業での直接雇用を推進
- 無期雇用の労働者への転換を推進するための教育訓練などの実施
均衡待遇の確保
派遣会社は、派遣労働者の賃金を決定する際、派遣先企業において同種の業務に従事する労働者の賃金水準や、派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力、経験などに配慮しなければならなくなりました。
2015年の労働者派遣法改正
2015年には、派遣労働者の保護や雇用の安定、キャリアアップの推進、労働者と雇用者双方に分かりやすい制度づくりなどを目的として労働者派遣法の改正がおこなわれました。改正のポイントは以下のとおりです。
労働者派遣事業の許可制への一本化
特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業の区別は廃止され、すべての労働者派遣事業は、新たな許可基準に基づく許可制となりました。
労働者派遣の期間制限の見直し(派遣期間の上限を3年に統一)
政令26業務の労働者派遣には期間制限を設けないこととされていましたが、労働者派遣契約に基づく労働者派遣には、すべての業務において以下2つの期間制限が適用されることになりました。
①派遣先事業所単位の期間制限
派遣先の同一の事業所に対して派遣できる期間(派遣可能期間)は、原則3年が限度とされました。
②派遣労働者個人単位の期間制限
同一の派遣労働者を、派遣先の事業所における同一の組織単位に対して派遣できる期間は3年が限度とされました。
キャリアアップ措置
派遣会社は、雇用している派遣労働者のキャリアアップを図るため、段階的かつ体系的な教育訓練、および希望者に対するキャリアコンサルティングを実施することが義務付けられました。
均衡待遇の推進
派遣労働者と、派遣先企業において同種の業務に従事する労働者の待遇の均衡を図るため、以下のとおり、派遣会社と派遣先企業にそれぞれ新たな責務が課されました。
派遣会社が講ずべき措置
▼均衡を考慮した待遇の確保
派遣会社は、派遣先企業において同種の業務に従事する労働者との均衡を考慮しながら、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生の実施をおこなうように配慮しなければいけません。
▼待遇に関する事項等の説明
派遣労働者が希望する場合には、派遣会社は、上記の待遇の確保のために考慮した内容を本人に説明しなければいけません。
派遣先企業が講ずべき措置①
▼賃金水準の情報提供の配慮義務
派遣先企業は、派遣会社が派遣労働者の賃金を適切に決定できるよう、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先企業の労働者の賃金水準など、必要な情報を提供するよう配慮しなければなりません。
▼教育訓練の実施に関する配慮義務
派遣先企業は、派遣先企業の労働者に対して業務と密接に関連した教育訓練を実施する場合、派遣会社から求めがあったときは、派遣労働者に対してもこれを実施するよう配慮しなければなりません。
▼福利厚生施設の利用に関する配慮義務
派遣先企業は、派遣先企業の労働者が利用する福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)について、派遣労働者に対しても利用の機会を与えるよう配慮しなければなりません。
▼派遣料金の額の決定に関する努力義務
派遣先企業は、派遣料金の額の決定にあたっては、派遣労働者の就業実態や労働市場の状況などを勘案し、派遣労働者の賃金水準が、派遣先企業において同種の業務に従事する労働者の賃金水準と均衡の図られたものとなるよう努めなければなりません。
派遣先企業が講ずべき措置②
また、上記以外にも、派遣先企業は派遣労働者の「労働生産性」を高める為の措置を講ずるべきです。派遣労働者の労働生産性を高める上で、「金銭報酬」だけでなく、「感情報酬」を提供することが重要になります。「感情報酬」の前提となる考え方とその提供方法について紹介します。
「感情報酬」を説明する上での前提として、⼈間は「完全合理的な経済⼈」ではなく「限定合理的な感情⼈」という考え方があります。⼈間の振る舞いは、限られた場⾯では合理的ですが、決して完全ではなく、また⼈間の判断や⾏動には、経済的利得だけではなく、感情的な側⾯が果たす役割が⼤きいと⾔えます。
このような「⼈間観」を前提にしているため、派遣社員の労働生産性を高める為には、企業は「⾦銭報酬」に加えて「感情報酬」を提供することが重要になります。
「感情報酬」は大きく4種類あります。1つ目は「貢献欲求」を満たすことです。感謝の言葉を伝えることなどが重要になります。2つ目は、「承認欲求」を満たすことです。成果に対し、承認や賞賛をすることなどが重要になります。3つ目は、「親和欲求」を満たすことです。職場で良好なチームワークを築くことが重要になります。4つ目は、「成長欲求」です。知識や技術が向上できる環境を築くことが重要になります。
以上のように、「感情報酬」を提供することによって、派遣労働者の労働生産性は高まっていきます。
労働契約申込みみなし制度
派遣先企業が以下の違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先企業が派遣労働者に対して、その派遣労働者の派遣会社における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます。
- 労働者派遣の禁止業務に従事させた場合
- 無許可の事業主から労働者派遣を受け入れた場合
- 期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合
- いわゆる「偽装請負」の場合
2020年の労働者派遣法改正
2018年の働き方改革関連法の成立を受けて、2020年に労働者派遣法も改正されました。2020年改正の大きな柱になったのが、派遣労働者の不合理な待遇差を解消すること、いわゆる「同一労働同一賃金」の実現です。
派遣労働者の就業場所は派遣先企業であり、待遇に関する派遣労働者の納得感を考慮するためには、派遣先企業の労働者との均等(差別的な取扱いをしないこと)、均衡(不合理な待遇差を禁止すること)が重要な観点となります。
そこで、派遣先企業で雇用されている労働者と派遣労働者との間の不合理な待遇差を解消すべく、労働者派遣法の改正がおこなわれました。なお、ここで言う「待遇」には、賃金のほか、利用できる福利厚生施設や教育訓練の機会なども含まれます。
2020年改正のポイントは以下のとおりです。
公正な待遇確保のための2種の待遇決定方式
派遣労働者の待遇について、派遣会社は以下のいずれかの方式を選択して賃金を決めることが義務付けられました。
派遣先均等・均衡方式 |
労使協定方式 |
派遣先企業の通常の従業員と比較して派遣労働者の待遇を決定する方法です。派遣先企業は派遣会社に、従業員の待遇に関する情報を提供することが義務付けられました。 |
一定の要件を満たす派遣会社の労使協定で賃金を決定する方法です。その際、一般の労働者の平均的な賃金と比較して同等以上の賃金となるように制定しなければいけません。 |
派遣会社から関係者への待遇決定方式の情報提供
派遣会社は、派遣労働者の数、派遣先企業の数、マージン率、教育訓練に関する事項などに加え、以下の事項に関し、関係者(派遣労働者、派遣先企業など)に情報提供すべきことが義務付けられました。
①労使協定を締結しているか否か
②労使協定を締結している場合は「労使協定の対象となる派遣労働者の範囲」「労使協定の有効期間の終期」
①②の事項に関する情報提供にあたっては、常時、インターネットの利用によって広く関係者、とりわけ派遣労働者に必要な情報を提供する必要があります。厚生労働省の「人材サービス総合サイト」に掲載することも可能です。
>> 人材サービス総合サイト - トップページ|厚生労働省職業安定局
派遣先企業から派遣会社への比較対象
労働者の待遇情報の提供待遇決定方式が「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」のいずれの場合も、派遣先企業は、労働者派遣契約を締結するにあたり、あらかじめ派遣会社に対し、派遣労働者が従事する業務ごとに「比較対象労働者」の賃金など「待遇に関する情報」を提供しなければいけません(労使協定方式の場合、比較対象労働者の選定は不要)。
派遣会社は、派遣先企業からの情報提供がない場合、派遣先企業との間で労働者派遣契約を締結してはいけません。
▼「比較対象労働者」とは?
派遣先企業は、以下の①~⑥の優先順位により比較対象労働者を選定します。
①「職務の内容」と「職務の内容および配置の変更の範囲」が同じ通常の労働者
②「職務の内容」が同じ通常の労働者
③「業務の内容」または「責任の程度」が同じ通常の労働者
④「職務の内容および配置の変更の範囲」が同じ通常の労働者
⑤①~④に相当するパート・有期雇用労働者
⑥派遣労働者と同一の職務に従事させるために新たに通常の労働者を雇い入れたと仮定した場合における当該労働者
▼「待遇に関する情報」とは?
・派遣先均等・均衡方式の場合
派遣先企業は、次の①~⑤の情報を提供する必要があります。
①比較対象労働者の職務の内容、職務の内容、および配置の変更の範囲、ならびに雇用形態
②比較対象労働者を選定した理由
③比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容(昇給、賞与その他の主な待遇がない場合には、その旨を含む)
④比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質および当該待遇をおこなう目的
⑤比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するにあたって考慮した事項
・労使協定方式の場合
派遣先企業は、次の①②の情報を提供する必要があります。
①派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先企業の労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練
②給食施設、休憩室、更衣室
派遣労働者に対する説明義務の強化
「雇入れ時」「派遣時」「派遣労働者から求めがあった場合」の派遣労働者への待遇に関する説明義務が強化されました。たとえば、派遣労働者の「雇入れ時」であれば、派遣会社は派遣労働者に、あらかじめ労働条件に関する以下の事項を明示しなければいけません。
①昇給の有無
②退職手当の有無
③賞与の有無
④労使協定の対象となる派遣労働者であるか否(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期)
⑤派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
また、不合理な待遇差を解消するために講ずる措置として、次の事項を説明しなければいけません。
- 派遣先均等・均衡方式により、どのような措置を講ずるか
- 労使協定方式により、どのような措置を講ずるか
- 職務の内容、職務の成果、意欲、能力、または経験、その他の就業の実態に関する事項を勘案してどのように賃金を決定するか
裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備
派遣労働者にとって、訴訟を提起することは大変重い負担をともないます。派遣労働者に関するトラブルの早期解決を図るとともに、派遣労働者がより救済を求めやすくなるよう、事業主と労働者との間の紛争を、裁判をせずに解決する手続き「行政による裁判外紛争解決手続(行政ADR)」が整備されました。
2021年1月の労働者派遣法改正
2021年は2回にわたって労働者派遣法の改正がおこなわれています。1回目(2021年1月)におこなわれた改正のポイントは以下の4点です。
①派遣労働者の雇入れ時の説明の義務付け
2021年以前も、派遣会社から派遣労働者に対する業務内容や待遇などの説明は義務付けられていましたが、2021年1月の改正によって、より強化が図られました。派遣会社が実施する教育訓練、および希望者に対して実施するキャリアコンサルティングの内容について、派遣労働者の雇入れ時に説明することが義務付けられました。
②労働者派遣契約に係る事項の電磁的記録による作成(e-文書法)
派遣会社と派遣先企業は、労働者派遣契約の締結にともない、労働者派遣法26条1項に定める事項を書面に記載する必要があります。
これまで、派遣会社と派遣先企業が交わす労働者派遣契約は書面での作成・保管が必要とされていましたが、2021年1月の改正にともない、e-文書省令が改正されたことから、書面での作成に代えて電磁的記録で作成できることになりました。
③派遣先企業における派遣労働者からの苦情の処理
派遣先企業に課されている労働関係法令上の義務に関する苦情については、誠実かつ主体的に対応すべきことが派遣先指針によって明らかにされました。従来、派遣労働者から寄せられる苦情は派遣会社が対応する必要がありました。しかし、2021年1月の改正によって、派遣労働者の受入先である派遣先企業も主体的に対応するように変更されています。
派遣先指針(派遣先が講ずべき措置に関する指針)は以下からご確認いただけます。
>> 派遣先指針(派遣先が講ずべき措置に関する指針) - 厚生労働省
④日雇派遣について
日雇派遣契約の中途解除がおこなわれた場合、派遣会社は、新たな就業機会の確保ができない場合であっても、休業などにより雇用の維持を図るとともに、休業手当の支払など、労働基準法に基づく責任を果たすべきことが明らかにされました。
日雇派遣の契約解除時の措置は、派遣労働者の雇用安定化を目的としています。契約期間中に日雇派遣の契約解除がなされた場合、派遣会社は新たな派遣先企業を見つける必要があります。新たな派遣先企業を見つけられない場合は、休業手当の支給などが必要になります。
2021年4月の労働者派遣法改正
2021年には2回にわたって労働者派遣法の改正がおこなわれています。2回目(2021年4月)におこなわれた改正のポイントは以下の2点です。
①雇用安定措置に係る派遣労働者の希望の聴取
派遣会社は、有期雇用の派遣労働者に対して雇用の安定化についての希望を聴取することが義務付けられました。また、聴取結果を派遣元管理台帳に記載すべきことが義務付けられました。雇用安定措置としては、派遣先企業への直接雇用について依頼することや、新たな派遣先企業の紹介などが挙げられます。
②常時インターネットでの情報提供
派遣会社に情報提供義務があるすべての情報について、常時インターネットの利用、その他の適切な方法によって情報提供をすべきことが義務付けられました。
派遣会社に情報提供の義務がある情報は以下の4つです。
- 労働者派遣事業をおこなう事業所ごとの当該事業に係る派遣労働者の数
- 労働者派遣の役務の提供を受けた者の数
- 労働者派遣に関する料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合として厚生労働省令で定めるところにより算定した割合(マージン率)
- 教育訓練に関する事項、その他当該労働者派遣事業の業務
2021年の労働者派遣法改正の影響は?
2021年の労働者派遣法改正によって、派遣会社はもちろん、派遣労働者を受け入れる派遣先企業も対応を検討すべき事項があります。派遣先企業が対応すべきこととしては、主に以下が挙げられます。
電子契約への対応
コロナ禍の要請からリモートワークが急速に拡大し、オンラインで契約を締結する「電子契約」も一般的なものになりつつあります。そのようななか、労働者派遣契約に関しても電子化が解禁されました。
労働者派遣契約は3ヶ月単位で更新されるケースも多く、契約更新管理には決して少なくない手間・労力がかかっていました。もちろん、従来どおり書面の契約書などを使っても構いませんが、電子契約に対応することによって、契約書の印刷や製本、押印や郵送でのやり取りなど、手間や労力を大幅に削減できます。
電子契約を締結するためには、電子契約に対応したシステム・ツールの導入が必要になることもありますし、会社として制度やフローの見直しをする必要もあります。
苦情処理体制の整備
2021年1月の労働者派遣法改正によって、派遣先企業は、派遣労働者からの苦情の処理にあたり、特に派遣先企業に課されている労働関係法令上の義務に関する苦情については、誠実かつ主体的に対応すべき旨が派遣先指針に明記されました。
そのため、派遣先企業は苦情対応の窓口や責任者や、派遣会社との連携体制について決定し、労働者派遣契約に定めておく必要があります。また、派遣労働者を受け入れる際に説明会などをおこない、派遣労働者が苦情を訴えたい場合の対応やフローについて周知しなければいけません。
労働者派遣法に違反するとどうなる?
労働者派遣法は改正が繰り返されています。そのため、改正点を含めしっかりと内容を把握していないと、知らず知らずのうちに法令違反をしてしまうかもしれません。派遣労働者を受け入れる企業が労働者派遣法に違反した場合、以下のようなリスクが考えられます。
- 罰則を科せられる可能性がある
- 労働局から刑事告発される可能性がある
- 行政処分を受ける可能性がある(指導・助言、改善命令・事業停止命令、勧告・公表、許可の取り消しなど)
罰則の内容は以下のように定められており、どのような違反があったかによって変わってきます。
- 1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金
- 1年以下の懲役、または100万円以下の罰金
- 6月以下の懲役、または30万円以下の罰金
- 30万円以下の罰金
罰則を受けるのは当然、企業にとって痛手になりますが、それ以上に深刻なのが労働者派遣法に違反したことを公表されることによるダメージです。顧客や取引先からの信頼を失い、社会的信用や、企業価値そのものが失墜することになりかねません。派遣労働者を受け入れる企業は十分に労働者派遣法を理解し、遵守に努めなければいけません。
特に、派遣先企業が注意したい違反事項としては、以下のようなものがあります。
- 派遣契約に記載のない業務の指示
- 3年を超える派遣労働者の受け入れ
- 日雇い派遣の受け入れ
- 妊娠・出産などを理由とする不利益取扱い
- 二重派遣
- 偽装請負
なかでも、よくある事例が二重派遣です。二重派遣について簡単にご説明します。
二重派遣とは?
労働者派遣の正しい形は、派遣会社と派遣労働者が雇用契約を結び、派遣労働者が派遣先企業で指揮命令を受けて仕事をする形です。これに対して、二重派遣とは、派遣会社と派遣契約を結んだ派遣先企業が、受け入れた派遣労働者を別の企業に再派遣することを言います。このような二重派遣は違反行為であり、具体的には以下の2つの法律に抵触します。
職業安定法
二重派遣は、職業安定法第44条で禁止されている「労働者供給事業」に該当する行為です。派遣労働者の再派遣をおこなった派遣先企業、および再派遣を受け入れた企業は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が科されます。
労働基準法
二重派遣は、労働基準法第6条で規定されている「中間搾取の排除」に該当する行為です。派遣労働者の再派遣をおこなった派遣先企業は、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科されます。
まとめ
2020年に続き、2021年にも労働者派遣法が改正されています。いずれも、派遣労働者を保護することを主な目的とした改正です。
少子高齢化による労働人口の減少が深刻な日本において、企業には、派遣労働者も含めたすべての人材が働きやすい環境を整えることが求められています。労働者派遣法の改正点をしっかりと把握し、然るべき対策を講じていきましょう。
従業員エンゲージメントを可視化・改善するモチベーションクラウドはこちら