
ハインリッヒの法則とは?ヒヤリハットとの関係をわかりやすく解説
職場における安全管理の基本として広く知られている「ハインリッヒの法則」は、1930年代にアメリカの安全技師ハーバート・W・ハインリッヒによって提唱されました。
1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故、さらにその背後には300件のヒヤリ・ハットが存在するとされるこの法則は、「大事故は突然起こるのではなく、小さな異常の積み重ねによって発生する」という重要な教訓を私たちに示しています。
現代の労働安全対策においても、この考え方は根本的な指針となっており、日々の安全意識を高めるための礎とされています。
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ハインリッヒの法則とは?
ハインリッヒの法則は、1930年代にアメリカの安全技師ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒによって提唱された労働災害に関する経験則であり、「1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、その背後には300件のヒヤリ・ハット(危うく事故になりそうだった事例)が存在する」とされる「1:29:300の法則」として知られています。
これは、重大な災害が突発的に発生するのではなく、多くの小さな異常やミスが積み重なった結果として生じるという考え方を示しています。
この法則の実践として、現場ではヒヤリ・ハットの報告を促進し、共有・対策を講じることが重要視されています。
参考:よく似た「バードの法則」
バードの法則は、ハインリッヒの法則を基にして1966年にフランク・バード(Frank E. Bird)が提唱した災害発生に関する経験則です。
バードは約170万件の労働災害データを分析し、「1件の重大事故の背後には10件の軽微な事故、30件の物損事故、600件の異常(ヒヤリ・ハット)が存在する」という比率を示しました。これは「1:10:30:600の法則」とも呼ばれ、より多様なリスクの形態(物損事故など)を含んでいる点が特徴です。
両者の違いは、まず統計対象の規模と範囲にあります。バードの法則はより多くのデータに基づき、物損事故や無傷の異常(ノンインジュリー・インシデント)も含むことで、リスクマネジメントの対象を拡大しています。
ハインリッヒの法則が生まれた経緯
ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ(Herbert William Heinrich)は、アメリカの保険会社「トラベラーズ保険会社」に勤務していた安全技師であり、20世紀初頭の産業現場における労働災害の分析と安全対策の研究に尽力しました。
ハインリッヒの法則の背景には、彼が関与していた保険会社の業務を通じて、多くの労働災害のパターンや共通点を体系的に整理する必要があったことがあります。ハインリッヒは特に人的要因、すなわち「不安全行動」が事故原因の大半を占めると考え、労働者の行動改善と職場の安全教育の重要性を強調しました。
ハインリッヒの法則が示す教訓
ハインリッヒの法則が私たちに教えている最も重要な教訓は、「重大な事故は突発的に起こるものではなく、その背景には多くの軽微な事故や異常が存在する」という点です。
すなわち、日常の中で見過ごされがちな「ヒヤリ・ハット」や軽微なミスを軽視せず、早い段階で原因を把握し、対策を講じることが、大事故を未然に防ぐ最も効果的な方法とされています。
この教訓に基づき、大事故への備えとしては、まず現場で起きたヒヤリ・ハットや小さなトラブルを積極的に報告・共有する体制を整えることが重要です。
そのためには、従業員が安心してミスや異常を報告できる「報告しやすい職場風土」を作ることが求められます。また、集めた情報を分析し、傾向やリスクを見える化して、安全対策を講じるリスクアセスメントの実施も不可欠です。
設備の改善、作業手順の見直し、定期的な点検も効果的です。つまり、ヒヤリ・ハットの段階から真剣に向き合い、全体としての安全文化を高めていくことで、重大事故のリスクを大幅に減らすことができるのです。
ハインリッヒの法則の活用法
ハインリッヒの法則に基づけば、小さな異常の積み重ねがやがて重大な事故に発展する可能性があるため、現場での気づきを制度的に捉え、組織として対応していく取り組みが求められます。以下では、ヒヤリ・ハットを活用した安全対策の実践方法について、具体的に紹介します。
ヒヤリハットの報告制度の導入
ヒヤリ・ハットを確実に把握し、事故の芽を摘むためには、報告制度の導入が不可欠です。従業員が気軽に「ヒヤリとした」「危なかった」と感じた瞬間を記録できるよう、簡潔な報告フォームや匿名投稿の仕組みを整えるとよいでしょう。
また、報告者が責められたり評価を下げられたりしないという安心感のある職場文化を醸成することが、報告件数の増加と制度の定着につながります。定期的なフィードバックも制度の活性化に役立ちます。
ヒヤリハット事例に関する従業員同士での議論
報告されたヒヤリ・ハットを単に記録するだけでなく、職場内での共有と議論の場を設けることが重要です。朝礼やミーティングなどのタイミングで、具体的な事例をもとに「なぜそのような事態が起きたのか」「自分ならどう対応するか」を話し合うことで、従業員一人ひとりのリスク感度が高まります。
多様な視点からの意見交換は、潜在的な危険要因の洗い出しにもつながり、職場全体の安全意識向上に寄与します。
ヒヤリハット事例の社内共有
ヒヤリ・ハットの情報は、現場や部署を越えて全社的に共有されることで、同じミスの再発を防ぐ有効な手段となります。社内掲示板やイントラネット、定期的な安全通信などを活用して、発生事例や対策を分かりやすく周知しましょう。
また、同業種の他部署の事例を知ることで、自部署では気づかなかったリスクへの意識が高まり、組織全体の安全レベル向上にもつながります。誰もが学び合える仕組みづくりがカギです。
ハインリッヒの法則を用いた安全研修
ハインリッヒの法則をテーマにした安全研修は、従業員の安全意識を体系的に高める手段として有効です。研修では、重大事故の背後にある軽微な事象やヒヤリ・ハットの重要性を理論的に理解し、日常業務に潜むリスクへの感度を高めます。
実際の事例を交えて学ぶことで、自分の行動が事故防止に直結するという自覚が育まれます。座学に加えてグループワークを取り入れると、より実践的な理解とチームでの安全意識の共有が進みます。
実際のヒヤリハットの事例
転倒や墜落、落下、交通事故といった日常的に起こり得るリスクは、身近であるがゆえに軽視されがちです。以下では、実際の現場で起こり得るオリジナルのヒヤリ・ハット事例を4つ紹介し、それぞれの危険性と予防のポイントについて説明します。
【転倒】通路の清掃後に滑りかけた事例
倉庫内での朝の作業開始直後、清掃スタッフが床をモップで清掃した直後に別の作業員が通路を歩いていたところ、足元が滑って転倒しかけるというヒヤリ・ハットが発生しました。清掃後に床が濡れていたにもかかわらず、「滑りやすい」などの注意喚起がされておらず、作業員はそのまま通常の速度で歩行していました。
幸いにも手すりに手をついたことで転倒は免れましたが、もしバランスを崩していたら、荷物や機材にぶつかって二次災害が発生していた可能性もありました。この事例からは、清掃後の注意表示の徹底と、現場での声かけによる情報共有の重要性が分かります。
また、作業員自身が通路の状況に常に注意を払う習慣も、安全意識を高めるうえで必要です。
【墜落】脚立使用中のバランス崩し
製造現場で照明交換を行っていた作業員が、2段式の脚立に乗って作業していた際、工具を片手に持ちながら体を伸ばしたところ、バランスを崩して脚立ごと後方へ倒れかけました。
幸い、同僚が近くにいて支えたため墜落には至らず、大事には至りませんでしたが、もし一人で作業していた場合、頭部を打つなどの重大な事故につながっていた可能性があります。
このヒヤリ・ハットは、「工具の持ち方」「作業姿勢」「脚立の安定性確認」「補助者の有無」といった複数の要素が関係しており、事前のリスクアセスメントとチーム作業の徹底が求められます。また、適切な高さの作業台や昇降機器の選定も事故防止に有効です。
【落下】高所に仮置きした工具の落下未遂
建設現場にて、足場作業中の作業員が使っていたスパナを一時的に手すり部分に置いたまま移動しようとした際、工具が手すりから滑り落ちかけ、下で作業していた別の作業員の近くに落ちるところでした。
幸い、声をかけたことで下にいた作業員がとっさに避けたため、怪我には至りませんでしたが、頭上からの落下物は最悪の場合、致命傷を負う危険があります。
このヒヤリ・ハットは、工具や資材の仮置き場所の安全性、落下防止処置(ストラップの使用など)、作業中の声かけや周囲確認の徹底といった基本的な安全行動が徹底されていれば防げたものです。作業者同士のコミュニケーション強化とルール遵守が求められます。
【交通事故】構内でのフォークリフト接触未遂
物流センター構内で、フォークリフトが資材を運搬中、同じ通路を歩いていた作業員がフォークリフトの死角に入り、接触しそうになるというヒヤリ・ハットが発生しました。フォークリフトの運転者は、周囲に注意を払っていたものの、荷物が大きく視界が遮られていたため、歩行者に気づいたのはごく直前でした。
一方、歩行者も通路の左側を歩いていたものの、後方から接近する車両への注意が不十分でした。この事例では、運転者・歩行者双方にリスク意識の不足が見られます。構内の交通ルールを再確認し、専用歩行レーンの設置や警告音付き車両の導入、運搬中の合図徹底といった対策が有効です。
交通動線の見直しと安全教育の強化も事故防止に不可欠です。
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まとめ
ハインリッヒの法則は、事故の発生メカニズムを体系的に捉え、重大事故を未然に防ぐために小さな異常やヒヤリ・ハットへの対応がいかに重要かを教えてくれる理論です。現場での報告制度の整備、従業員間の情報共有、安全教育の徹底といった日常的な取り組みが、重大な災害を防ぐ第一歩となります。
この法則に基づいた安全活動を継続的に実施することで、組織全体のリスク管理能力が高まり、安全文化の定着にもつながります。ハインリッヒの法則は、現代社会における職場安全の基本原則として、今なお多くの企業で活用されています。