
選ばれる組織へ〜採用編~ 採りたい人材を口説くポイント
近年、公務員志望者の減少が顕著になっている。ただ、応募者の減少だけでなく、応募者からの辞退も課題となっているのが現状だ。実際に「地方公務員の勤務条件等に関する調査」によると、7都道府県では最終面接合格者の4割以上が入庁を辞退している。ある自治体の関係者は「より規模の大きな行政機関や民間企業へ人材が流れている」と課題感を示している。
そもそも初めて社会に出る学生は「本当にここで働き続けられるのか?」「もっと自分に合った職場があるのではないか?」といった不安や迷いを抱え、揺れ動きながら就職活動を行っている。そのため、民間企業ではリクルーター制度を設けて、応募者の意思決定を促進したり、入社後のキャリアパスや仕事の意義などを伝えることで、内定付与後の辞退を防ぐためのフォローを行っている。
一方、自治体では選考段階でのフォローを行っていることは少ない。結果、自治体と民間企業で並行している応募者が、リクルーターを通じて民間企業のキャリアパスや働きがいなどに触れる機会が増加し、「自治体よりも寄り添ってくれるし、職場としての魅力がある」と感じて、選考離脱や内定辞退に至ることも少なくない。
■待つだけでなく、ドアの前まで連れてくる
自治体が最終的に選ばれるためには、採りたい人材が「来てくれるのを待つ」という姿勢を改め、「入庁するまで魅力を伝え続ける」ことが重要だ。具体的には「個別」と「集団」の2つのフォローで、応募者との積極的なコミュニケーションを図る姿勢が求められる。
個別フォローとは、一人ひとりと丁寧にコミュニケーションを重ね、「ここで働きたい」という共感を創造しながら、「自分の選択は正しかった」と感じられるよう、迷いを解消するプロセスのことである。期間としては、民間企業の内定式がおこなわれる10月頃まで、取り組むことが効果的だ。
応募者と向き合う際には、本人の選択肢や就労観、組織選びの基準を正しく把握し、すり合わせることが重要だ。もし、本人が「自治体で働く理由」を明確にできていない場合は、対話を重ね、その理由を一緒に整理していきたい。
そして、合格した後は「個人の実現したいこと」と「組織として実現したいこと」が重なるように、自分の強みや成長課題を言語化し、自己理解を深めるような個別フォローが大切だ。
かつてのような「受け身」の採用活動では、人材獲得競争において民間企業の後塵を拝するだけである。優秀な人材を確実に入庁へと導くためには、自治体ならではの使命や魅力を存分に伝え続け、ドアの前まで連れてくる姿勢が必要だ。
次回は「集団フォロー」のポイントについてお伝えしたい。
※本稿は、『都政新報』2025年5月2日付「選ばれる組織へ 実践編 〜自治体の『人材確保・育成』改革〜」に寄稿した記事を再編集したものです。
※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。

