
選ばれる組織へ〜オンボーディング編~ 若手の定着率を高めるオンボーディング
採用活動で優秀な人材を獲得できたら、その人材が活躍し続けられるよう、今度は「オンボーディング」に力を入れていく必要がある。オンボーディングをおろそかにしていると、早期の離職につながりかねない。
厚生労働省の調査では、民間企業の新卒入社者の約3割が3年以内に離職していることが明らかになっているが、自治体においても早期離職者の増加が顕著になっている。特に自治体では、新規採用者のエンゲージメントは入庁3年で民間企業以上に大きく低下する傾向が見られる。
たとえば、「活気ある街づくりに貢献したい」という思いで自治体に入庁したAさん。最初に配属されたのは住民窓口で、住民票の発行や婚姻届の受付に携わる業務だった。3年後、Aさんは「思っていた仕事と違った」「仕事がつまらない」と感じるようになり、エンゲージメントが低下した結果、民間企業への転職を決意する。
Aさんのような離職は決して珍しくない。しかし、Aさんが仕事の意義を実感できていたら、早期の離職には至らない可能性は高い。そのために、自治体のビジョンと日々の業務のつながりを明確にし、職員が共感を持って働ける環境づくりが重要である。
■目の前の業務の「意義」を伝える
新入社員の共感を育み、定着を促すために民間企業が力を入れているのが「オンボーディング」である。オンボーディングとは、新入社員が業務や組織風土に早く馴染めるようにサポートする取り組みの総称で、定着率の向上や早期の戦力化を目的としている。自治体においても、若手職員の定着を図るうえで欠かせない取り組みだと言えるだろう。
オンボーディングで重要なのは、目の前の業務への動機づけである。業務に対する認識を「行動レベル」から「目的レベル」へ、さらには「意義レベル」へと引き上げるのが動機づけのポイントだ。
たとえば、「住民票を発行する」という行動レベルの認識も、目的レベルでは、「住民がスムーズに行政サービスを受けられる環境を整える」という認識になる。意義レベルでは、「住民が教育・医療・福祉などのサービスを安心して利用できるよう支えることで、暮らしやすい地域社会をつくる」と捉えることができるだろう。
若手職員は、どうしても目の前の業務を行動レベルで捉えがちだ。管理職が目的や意義を伝えることで、「自分の業務を通じて何を実現できるのか」を理解してもらうことが重要である。
仕事の目的・意義を理解してもらうためのコミュニケーションも、管理職と若手職員との「信頼関係」が前提である。
次回は若手職員と信頼関係を築くための4つのステップについてお伝えしたい。
※本稿は、『都政新報』2025年5月16日付「選ばれる組織へ 実践編 〜自治体の『人材確保・育成』改革〜」に寄稿した記事を再編集したものです。
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