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若者の公務員離れが進む今、自治体に求められる採用戦略とは?―「選ぶ」から「口説く」へ

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執筆者:依光宏太
執筆者:依光宏太
【プロフィール】 2013年、新卒で株式会社リンクアンドモチベーションに入社。 中小・ベンチャー企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。 全社アワード受賞後、プロジェクトマネジャーとして顧客の上場支援や組織変革を担当。 2021年からは地方展開を担う部門を立ち上げ、現在は官公庁のエンゲージメント向上にも取り組む。

目次[非表示]

  1. 1.手法を増やす前に「戦略の土台」を固める
  2. 2.学歴や専攻ではなく「価値観」で見極める
  3. 3.「公務員業界」の土俵を変える
  4. 4.早期に出会い、内定承諾まで心を離さない
  5. 5.おわりに

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手法を増やす前に「戦略の土台」を固める

前回は、自治体を襲う「採用難」の深刻な実態と、従来の「待ち、選ぶ」姿勢から、欲しい人材を自ら「口説く」姿勢への転換が必要であることを述べました。「口説く」ために重要なのは、具体的なアクションを起こす前に、確固たる「戦略」を描くことです。今回は、採用活動の成否を握るこの「戦略」に焦点を当て、その実践的な設計図を提示します。

「攻め」の採用において、相手を口説くために不可欠なのは、「誰を」「どの土俵で」「いつ」口説くのかを定めることです。

採用戦略を構成するのは、ターゲット、ポジショニング、タイミング、コンテンツ、そしてオペレーションという5つの要素です。採用がうまくいかないケースの多くは、戦略の根幹である前半のプロセスを飛ばし、いきなりコンテンツやオペレーションの議論に入ってしまうことに起因します。そこで今回は、採用戦略の土台となる戦略、すなわちターゲット、ポジショニング、タイミングの3点に焦点を当て、自治体がとるべき具体的な戦略について解説します。

学歴や専攻ではなく「価値観」で見極める

口説ききる採用活動のために、まずはターゲットを明確にする必要があります。

これまでの公務員採用では、学歴などの「スペック(属性)」でターゲットを捉えがちでした。しかし、偏差値や専攻だけでは人材の質や組織への適合性は測れません。

重要なのは、その人材が仕事に何を求めているかという「価値観」です。例えば、「相手の困りごとや悩みに寄り添い、問題解決の手助けをするような仕事がしたい」のか、あるいは「前例のないことであったとしても、果敢に挑戦する仕事がしたい」という価値観を持っているのか。

「高学歴」や「法学部卒」といったスペックに頼ってターゲットを設定しても、個人の志向や適性は測れません。「価値観」を基準に定義したターゲットを起点に据えてこそ、組織が真に求める人材を引き寄せることができます。

■待つ採用ではなく、ターゲットがいる場所へ自ら出向く

ターゲットが定まったら、次はその人材とどう出会うかです。多くの自治体は、ホームページや広報誌で募集をかけ、説明会の案内を出して「待つ」スタイルにとどまっています。しかし、本当に欲しい人材、特に民間企業とも競合するような優秀層は、待っているだけでは現れません。こちらから彼らのいる場所へ出向き、振り向かせ、口説き落とす「攻め」の姿勢が必要です。

例えば、「困りごとを抱える人を助けたい」という貢献意欲の高い人材は、社会福祉や心理学、教育学部などの対人援助を学ぶ学科や、ボランティアサークルに多くいる可能性が高いと言えます。こうした場所に絞って職員を派遣し、「行政だからこそ救える暮らしがある」と訴求しましょう。一方で、「果敢に挑戦し、変革を起こしたい」という挑戦意欲の高い人材は、起業家育成プログラムや、社会課題をデータで解く情報科学系の学部、あるいはビジネスコンテスト運営団体や体育会系の部活などに身を置いている可能性があります。「自治体こそ最大の社会実験の場だ」という切り口で、このような層の懐へ自ら飛び込むのです。

「公務員業界」の土俵を変える

次はそのターゲットに対して、自組織をどのような立ち位置で認知させるかを設計します。

■学生が本当に比較している採用競合を把握

採用活動とは、数ある選択肢の中から選ばれるための、他企業や他自治体との激しい人材の奪い合いです。しかし、多くの自治体は、公務員業界内での狭い範囲の比較に終始しがちです。

ターゲットとなる優秀な人材の多くは、大手民間企業や急成長ベンチャー企業も有力な就職先として検討しています。「公務員」という狭い世界の中での違いをアピールしても、中々彼らの選択肢には入りません。

まずは昨年度の採用において、実際にどんな企業や自治体と競合して採用できたのか、あるいはどんな企業や自治体を選択して辞退されたのかを正確に把握することから始めましょう。具体的な「採用競合」を明確にした上で、彼らに勝ち切るための戦略を練る必要があります。

■差別化の前に、民間企業との同質化を図る

では、どうすれば彼らの選択肢に入ることができるのでしょうか。重要なのは、いきなり他との違いをアピールする(差別化)のではなく、まずターゲットが憧れている民間企業群、例えば地銀や地元との優良企業、まちづくり系企業などと同じ土俵に並ぶ「同質化」を図ることです。ターゲットが持っている「第一志望の企業グループ」という「同じ選択肢の箱」に、民間企業と肩を並べて入ることを目指します。

そのためには、「公務員」という一つのカテゴリー内で戦うのではなく、「社会課題解決のプロフェッショナル」や「地域経営の担い手」といった、より高い次元の役割や機能で自らを定義し直す必要があります。「君が志望している地銀やまちづくり系企業と同じように、私たちもこの地域を経営し、経済や暮らしを動かすメインプレイヤーだ」と訴求し、比較検討されるポジションを確立するのです。

そして、同じ土俵に乗った上で初めて、行政ならではの魅力で差別化を図ります。「利益にとらわれず公益を追求できる」「数十年単位の規模でまちづくりに関われる」といった独自の強みは、民間企業と比較検討される土台があってこそ、強力な武器として機能します。

早期に出会い、内定承諾まで心を離さない

ターゲットと土俵が決まれば、次は「いつ」仕掛けるかです。ここでの鉄則は、採用競合よりも「先に」接触し、かつ「接触し続ける」ことです。

■接触のタイミングで先手を打つ

誰もが知っているようなブランド力がない組織は、人気のある競合と同じタイミングで戦っても勝ち目はありません。重要なのは、ターゲットが競合他社に接触する「少し前」に最初の接点を持つことです。競合の動きを徹底的にリサーチし、彼らが動く前に学生の意識に入り込む、先手のスケジュールを組む必要があります。

■「学生に役立つ学び」をフックに早期接触

しかし、早期に動く、意識の高い学生に来てもらうためには、参加する明確なメリットが必要です。そこで提供すべきは、学生にとっての「学び」です。「業界研究」「自己分析」「社会課題の構造理解」など、就職活動全体に役立つ学びを提供することで、集客のハードルを下げます。自組織の魅力を伝えるのは、彼らが会場に足を運び、関係性ができてからで十分です。

例えば、東京都庁が開催した「都庁 ONLINE SESSION」です。このイベントでは、若手職員との交流だけでなく、都の最上位計画である「未来の東京戦略」を題材にしたグループワークを実施しています。社会課題の解決のための論理的思考が学べることは、公務員志望でない学生にとっても魅力的です。

■競合に「上書き」させない

早期接触後も、魅力的な民間企業のイベントに参加すれば、記憶は上書きされてしまいます。競合のイベントの直後に説明会や座談会をぶつけるなど、しつこいくらいに接触頻度を高める工夫が必要です。このとき、接触するたびに同じ説明を繰り返すのではなく、常に新しい魅力を発見してもらい、記憶を常にリフレッシュさせることが、内定承諾まで学生の心を繋ぎ止める唯一の方法です。

おわりに

今回は、採用難を突破する「戦略」として、ターゲット・ポジショニング・タイミングの3点を解説しました。「待ち」から「攻め」へ転換し、欲しい人材を口説き落とすには、手法の前の戦略設計こそが鍵となります。次回のテーマは「コンテンツ・オペレーション」です。ターゲットに刺さるメッセージをどう作り、それをどう効率的に届けるか。戦略を実行へ移すための具体的な手法を解説します。

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