
コンピテンシーとは?スキルとの違いや、モデル化などの導入方法、面接・評価などの活用シーンまでを解説
目次[非表示]
昨今、コンピテンシーという言葉に注目が集まっていることをご存知でしょうか?
コンピテンシーは後述するように、『高い業績を収めている従業員に共通して見られる「行動特性」のこと』を指しますが、デジタルトランスフォーメーション(DX)のデータ分析の一環で、以前に比べて専門家の手を借りずに簡易的にコンピテンシーを抽出できるようになったことが背景にあると考えられます。
とはいえ、昔聞いたことはあるけれど、実は何かよくわからない、、、という方も多いのではないでしょうか。ここでは、コンピテンシーの概要とともに、導入のための具体的な方法もご紹介していきます。
▼ -多くの職場が実践していエンゲージメント向上施策とは!記事はこちら
コンピテンシーとは?
まずはコンピテンシーの定義、能力やスキルとの違い、歴史背景についてご説明します。
■コンピテンシーとは?
コンピテンシーという言葉そのものには、「能力」という意味があります。
ただし、近年、人事界隈で注目を集めており、本記事でご説明する人事用語としての「コンピテンシー」は、高い業績を収めている従業員に共通して見られる「行動特性」のことを指します。
一概に「能力」といっても人によって様々なイメージを持つでしょう。ここで目線合わせのために、人材の持つ能力についての捉え方をご説明します。
(参考:人材の持つスキル・特性の捉え方)
人材の持つスキル・特性は上図のような捉え方をする事ができます。
・テクニカルスキル:業界・職種の専門能力やスキル
・ポータブルスキル:どの仕事でも共通して発揮されるスキル
・スタンス:ものごとに対する姿勢や指向
・ポテンシャル:そもそも持っている知的基礎能力や性格・個性
であり、下にあるものが上にあるスキル・能力を支えているイメージです。
この分け方で見た時に、「コンピテンシー」は下段にある「ポテンシャル」や「スタンス」にあたるものです。
そのため、コンピテンシーを探して、自社なりに定義する際には「どんな業務スキルがあるか?」だけではなく、成果につながる行動の元となる「性格」や「動機」「価値観」などの要素を洗い出して共通点を見つけ出すのが効果的です。
そうした要素を行動指針や評価基準に取り入れることで、従業員の望ましい行動を引き出し、組織全体の成果を上げるという狙いがあります。
ただし、従業員に期待される成果は業務や役割によって異なるため、コンピテンシーは業務や役割別に作成するのがよいでしょう。
ここからは、コンピテンシーの定義・背景についてさらに掘り下げたのち、コンピテンシーを採用や人材育成で活用する方法やコンピテンシー評価の導入メリットについて解説します。
■知識やスキルとの違い
一般的な「知識」といった言葉との違いについて疑問に思った方もいるかと思います。もう少し詳しくご説明すると、「コンピテンシー」と「知識」の違いは「思考・行動」にあります。
「スキル」「知識」は簡単に言えば、経理の専門知識のような「何を知っているか」というものです。一方で、「コンピテンシー」は、「知識」や「スキル」を持っていることを前提として、それらをどのように用いようとするか・用いるかという「思考・行動」のことを指します。
例えば、AさんとBさんは全く同じ知識やスキルを持っていたとします。Aさんはその知識やスキルを使って、周囲を巻き込んで成果をあげようとしますが、Bさんは自分自身が任されたことだけを実行したとします。
この二人の差を生んでいるのは、持っている「知識」「スキル」ではなく2人が持っている「思考・行動」と言えるのです。
■コア・コンピタンスとの違い
コア・コンピタンスとは、企業が有する独自の強みや技術のことです。たとえば、競合他社が模倣できない製品特性や国内初の開発技術などはコア・コンピタンスと言うことができます。一方、コンピテンシーは、優れたパフォーマンスを発揮している従業員に共通して見られる行動特性のことを言います。
コンピテンシーが主に個人に関する文脈で用いられる言葉であるのに対し、コア・コンピタンスは組織に関する文脈で使われる言葉であり、その点が大きな違いだと言えるでしょう。
コンピテンシーの歴史、注目されている背景
コンピテンシーの歴史は、1980年代のアメリカで生まれた考え方です。ハーバード大学のデイヴィッド・C・マクレランド氏は米国文化情報局からの依頼を受けて業績と関係のある従業員の特性についての調査を行いました。
その調査では一般的にイメージのある「学歴」と「業績」の相関は強くないという結果になりました。一方で、高い業績を挙げる従業員には共通した「行動パターン」やそれにつながる「性格」、「価値観」、「考え方」があることがわかりました。
この調査結果により、成果を挙げられる従業員の行動特性をモデル化し、評価基準などに組み込むことで従業員全体の行動の質を向上して測定する、コンピテンシーという手法が確立していき、アメリカでは1990年代初頭から起業に広がっていきました。
日本ではバブル崩壊後である1990年代後半に、それまで「ヒット商品が売れ続ける時代」から「一度ヒットしても早く廃れてしまう時代」へと移行しました。
その中で「成果主義」を重視して、従業員にも高いパフォーマンスを出し続けられる行動が求められるようになりました。
そのため、アメリカに続いて日本でも評価指標の1つとしてコンピテンシーを取り入れる動きが増えたのです。
■日本企業におけるコンピテンシーの必要性
日本において最初にコンピテンシーが注目されたのは、バブル崩壊以降のことです。バブル崩壊によって、企業の人事評価制度は年功序列から成果主義へとシフトしていきましたが、成果主義に基づいた評価基準の一つとしてコンピテンシーが導入されるようになりました。
時代が進み、昨今では労働人口の減少が深刻な社会課題となっています。労働力不足の問題を解決するためには、すべての従業員が行動の質を高め、組織として生産性の向上を図っていかなければいけません。そのための手段として、再びコンピテンシーに注目が集まっているのです。
コンピテンシーの5段階レベル
コンピテンシーを用いた評価は5段階のレベルに分かれています。このレベルイメージを元に評価対象の従業員が、どの段階の行動をしているかを評価していきます。
■①受動行動
受動行動は、いわゆる「指示待ち」の状態を指します。上司や周囲からの指示があるまで行動を起こさず、具体的な指示がないと行動し切れない従業員が当てはまります。評価としては、場当たり的や一貫性がないという評価ができます。
■②通常行動
通常行動とは、行うべきことを必要なタイミングで行うことを指します。任された業務を「ミスなく・確実にこなそう」という前向きな思考を持っていることがポイントですが、決められたこと以上のことを行う意欲はなく、決められたことをそのまま行う普通レベルの評価と言えます。
■③能動・主体行動
能動・主体行動とは、明確な目的や判断に基づき主体的に行動することを指します。
例えば、任された業務でより良い成果をおさめるために、自主的に情報収集やスキルアップのための学習をしたりなど、決められたルールの中で能動的に工夫をするような従業員のことです。
■④創造・課題解決行動
創造・課題解決行動は、自ら工夫をして現状の状況を変化させようという行動を指します。
例えば、社内で新たなプロジェクトが始まった際に、自主的に提案をしたり、アイデアを出すような行動が該当します。評価としては、PDCAサイクルを回し、高い成果を出すために考え行動できるなどという評価ができます。
■⑤パラダイム変換行動
パラダイム変換行動とは、新たな発想・アイデアで周囲の状況を変えるような行動のことを指します。新たなアイデアを提案し、イノベーションを起こすだけでなく、リーダーシップを発揮して周囲に好影響を与える点も評価されます。
コンピテンシーの活用シーン
ここではコンピテンシーがどのような場面で活用できるのか、「採用」「人材育成」の2つのシーンについてご説明していきます。
■採用面接におけるコンピテンシーの導入
コンピテンシーは採用面接で活用することができます。採用面接でコンピテンシー評価を行うことによって、自社が求める行動ができる人物なのか、入社後成果を出すことができる人物であるのかを見極めることができます。
コンピテンシー評価を採用面接で実施する場合は、「直近で最も成果を上げたエピソードがなんですか」「その際にどんな工夫をしましたか」など、具体的な行動をとったのかを質問することが重要です。
また、採用面接でコンピテンシーを活用するメリットは、下記のようなことが主に挙げられます。
①評価のバラつきが少なくなる
主観的な「印象」や「感覚」も大切ですが、それに偏り過ぎると面接官・採用担当者ごとに基準や評価軸のズレが生じやすくなります。
事前に自社、募集職種に合ったコンピテンシーを採用に関わる従業員同士で共通認識を持っておくことでより効果的に望ましい人材の採用に繋がります。
②求職者・応募者の満足に繋がる
①のような客観的な評価やフィードバックが得られることは求職者・応募者側にとってもありがたいものです。「なんで受かったのか/落とされたのかあまり分からない」という状態では、落選者の不満が大きくなったり、通過者の辞退増加や入社前後で感じるギャップが大きくなる可能性があります。
③面接・採用担当者の負荷が減る
面接・採用担当者の「目利き」に任せ過ぎると、人間は判断すべきことが多いと選ぶのに大きな労力を割かなければならないため、当人達の負荷が大きくなる傾向があります。
あらかじめコンピテンシーという共通の指標で見るべきポイントを絞って任せる事でより担当者のパフォーマンスの向上にもつながるでしょう。
一方でデメリットとしては、評価基準を作成するには事前に時間を要する場合が多いため、計画的なコンピテンシーの策定、運用が必要な点が挙げられます。
■人材育成におけるコンピテンシーの導入
人材育成にコンピテンシーを導入することも、一般的な活用シーンの一つです。
ハイパフォーマーを育成する研修内で、コンピテンシーの要件を伝え、浸透させていくことで、従業員が成果を上げる行動を取ることを促します。
そのためには、事前にコンピテンシーモデルを定め、研修内で「どのように考え、行動すればパフォーマンスを出すことができるか」を伝えていきます。
また、研修をするだけではなく、コンピテンシーに基づいて個人の成長目標を設定することで、従業員の積極的な行動を促します。従業員が成果創出に向けて何をすればいいのかを明確にすることができ、達成可能性を高めることができるので、従業員のモチベーション向上も期待ができます。
■人事評価におけるコンピテンシーの導入
コンピテンシーを人事業化に導入することのメリットとして、評価のブレををへらすことができる点があります。コンピテンシー評価を行うために、ハイパフォーマーにヒアリングを行い、評価項目を作成し、その評価項目に基づいて従業員の思考や行動度合いを測ります。
また、副次的なメリットとして、評価基準にハイパフォーマーのノウハウやコツが反映されているため、パフォーマンスを上げるための望ましい行動や思考が従業員に共有され、会社全体としての生産性向上も期待できます。
■コンピテンシーの運用ポイント
このようにコンピテンシーは採用、育成、評価など様々な場面に応用して導入することが可能ですが、導入しただけで上手く運用されないというケースも珍しくありません。
では成功のコツは何でしょうか。ポイントは「仕組み化」です。
採用面接や社内研修、評価面談の際に使用している既存システムやフォーマットにコンピテンシーを組み込むことで、必然的にコンピテンシーを基に思考や行動をせざるを得ない環境をつくり、モノサシを当て続けることが非常に重要です。
また、今は会社に眠るデータを活用し、営業や品質管理といった職種ごとだけでなく、職種×会社ごとのカスタマイズされた「理想とされる行動」を明文化し、各現場で活用されているようですが、これも原理はコンピテンシーの考え方と近しいと思います。DXの活性化によって、一層このような活用方法は増えていくでしょう。
コンピテンシーと関連する用語との違い
コンピテンシーと混同されがちな用語について、その意味を分かりやすく解説します。
コンピテンシーとケイパビリティの違い
ケイパビリティ(capability)とは、直訳すると「能力」「才能」「素質」という意味を持つ言葉ですが、ビジネスシーンで使われるときは「企業が持っている組織的な能力・強み」「他社と比較したときの組織的な優位性」といった意味になります。これに対してコンピテンシーはハイパフォーマー(個人)に見られる行動特性のことを言い、組織的な能力・強みのことを言うケイパビリティとはまったく異なる概念です。
この2つの言葉よりもややこしいのが、ケイパビリティとコア・コンピタンスの違いです。いずれも「組織の優位性」という意味を持つ言葉ですが、ケイパビリティが組織全体で発揮される能力であるのに対し、コア・コンピタンスは事業プロセスの一部において発揮される技術的な優位性のことです。言い換えるなら、ケイパビリティは「組織力」であり、コア・コンピタンスは「中核をなす技術的な強み」です。
たとえば、ある企業が独自の新技術を使って新しい製品を生み出し、その生産から品質管理、販売に至るまでのオペレーション体制を構築して市場のニーズに応えたとしましょう。この場合、独自の新技術がコア・コンピタンスで、オペレーション体制がケイパビリティだと言えます。
コンピテンシーとスキルの違い
スキル(skill)とは、ある人が有する能力や専門知識のことを言います。一方、コンピテンシーはその人が持っている能力や専門知識を使って行動を起こす「行動特性」のことを言います。
まったく同じレベルのスキルを持っている人でも、コンピテンシーが違えば仕事の成果には大きな差が生まれます。スキルがあることは成果をあげるための大前提であり、より高い成果をあげるためにはスキルに加えてコンピテンシーが重要になってきます。
コンピテンシーとアビリティの違い
アビリティ(ability)とは、「能力」や「技量」という意味を持つ言葉です。上述した「スキル」に極めて近い意味を持ちますが、スキルほど高度なものではなく、専門性と言うよりは「持っている力」くらいのニュアンスです。また、どちらかと言うとスキルは後天的に習得した能力のことを言いますが、アビリティは生まれつき備えている能力も含まれます。
アビリティとコンピテンシーの違いは、スキルとコンピテンシーの違いと同様に、「能力そのものなのか、能力を発揮するための思考・行動なのか」という違いです。アビリティはスキルと同じく能力そのものですが、コンピテンシーは能力を発揮するための思考・行動です。
コンピテンシー評価導入のメリット・デメリット
コンピテンシーを導入した際のメリットとデメリットを紹介します。
■コンピテンシー評価導入のメリット
コンピテンシー評価導入のメリットは大きく下記の4つがあります。
①優秀な人材の獲得、育成ができる
採用面接や人事評価にコンピテンシーを活用することによって、自社の事業や業務にあった特性を持っている、パフォーマンスを出しやすい人物を獲得、育成することができます。
たとえ現時点ではスキルが不足していても、成果をあげるために必要なコンピテンシーを持ち合わせていることが分かれば、育成後の活躍を期待できます。
一方で、スキルは十分にあるけれども、コンピテンシーを持っていない場合は、自社が求めているような働きが望めない可能性が高まるため、採用しないという判断が先んじてできるのです。
②従業員全体のパフォーマンス向上が期待できる
採用面接、人事評価、研修にコンピテンシーを活用することで、従業員にとってコンピテンシーは自分自身の評価や成長にも関わる重要な指標となります。
そのため、コンピテンシーを従業員の間で普及することができ、従業員がパフォーマンスの出し方を理解し、PDCAを回し、努力することで、会社全体としての生産性向上が期待できるでしょう。
③納得感のある評価ができる
コンピテンシーを人事評価に取り入れることで、これまでは絶対的なKGIやKPIの達成率などの定量的な指標でしか評価できなかったものを、コンピテンシーによって成果を出すまでの過程の行動を評価することができるようになります。
また、コンピテンシー評価では、評価に値する行動が明確に示されているため、これまで上司からみた印象や感覚で評価されていた定性的な部分を、公平に評価することができるようになります。これによって、評価を受ける従業員の納得感も高まるのです。
④人事評価の負担が減る
③にも繋がりますが、定性的な要素を評価して優劣を付けることは大変難しく、特に人事・評価担当者が悩みやすいポイントです。
コンピテンシーを活用することで従業員の納得感を生むと共に、評価者の運用コストも低減させて、より効果的な人事評価の運用を行う事ができます。
■コンピテンシー評価導入のデメリット・課題
コンピテンシー評価導入のデメリットは3つあります。
①コンピテンシー策定のコストが高い
コンピテンシー評価は、全企業共通のテンプレートがあるのではなく、個社ごとにコンピテンシーを作成する必要があります。さらに、一企業に一つのコンピテンシーがあればいいというわけではなく、部署や業務によって異なる行動特性が存在しているため、個別にコンピテンシーを作成する必要があるのです。
また、コンピテンシーを策定するためには、ハイパフォーマーの行動分析やヒアリング、コンピテンシーモデルの作成、人事評価などの運用面の整備など、導入までにかかるコストが大きいということがデメリットと言えます。
「せっかくコンピテンシーを作ったのに、運用に乗らずに忘れられてしまった」などといったことがないよう、導入までのステップを具体的に描くことが必要です。
②「正しい」コンピテンシーの作成は難しい
策定したコンピテンシーが、必ず成果を生むとは限りません。
一度コンピテンシーを策定して完了するのではなく、実際に運用し、何度も修正を加えながら、精緻なコンピテンシーにブラッシュアップしていくことが必要なのです。
こういったコンピテンシー策定・運用に対する正しい理解がないと、コンピテンシーを運用した現場から不満の声が生まれてしまうでしょう。
③柔軟な環境変化への対応が難しい
コンピテンシーは、部署や業務によって細分化して決めれられている分、事業内容や業務内容の変更などに柔軟に対応することが困難です。
企業の成長にともなった、事業の変化、業務の変化、組織編成の変化などに合わせてコンピテンシーを修正するためのコストは大きいと言えるでしょう。さらに、頻繁にコンピテンシーが変更されることによって、従業員は何を目指すべきなのか分からなくなってしまうという懸念もあります。
④定期的な改善が必要である
コンピテンシー評価は導入して終わりではなく、定期的な振り返りや改善が欠かせません。運用中にメンテナンスが必要になるのはコンピテンシー評価のデメリットだと言えるでしょう。
当初はうまく機能していたコンピテンシー評価も、自社の変化や市場・時代の変化によって機能しなくなるケースがあります。新型コロナウイルスの感染拡大は良い例で、テレワークが普及したことでコンピテンシー評価の見直しを迫られた企業は多かったはずです。自社で定義したコンピテンシーが業績アップのために機能しているかどうかの検証を重ね、うまく機能していないようであれば、より的確なコンピテンシーを再定義しなければいけません。
コンピテンシーの導入方法と活用ポイント
コンピテンシーの導入までの方法と、代表的なコンピテンシーモデルについて解説します。
■モデル化のポイント
コンピテンシーモデルを作成するには、まず「目指す人物像」を明確にします。
例えば「好業績を上げる」「作業効率がよい」などの目標に対するコンピテンシーを把握し、それぞれに適した評価を整理していきます。
以下では、コンピテンシーモデルのベースとなる三つの型について解説します。
<実在型モデル>
コンピテンシーモデルを作成する手法として最も一般的に用いられる手法です。
実際に高い成果をあげているハイパフォーマーをモデルとしてコンピテンシーを策定するため、現実に即したコンピテンシーモデルを作成することができ、比較的実用的です。
しかし、作成したコンピテンシーがモデルとしたハイパフォーマー個人の特性に偏ってしまっていないか、他の従業員でも獲得しうるものであるかは確認をする必要があります。
<理想形モデル>
理想形モデルは、企業が理想とする人物像を策定し、その理想人材からコンピテンシーを抽出するという方法です。企業理念や事業戦略などから逆算して策定するので、実在の人物から考える実在型モデルよりも策定の難易度が下がります。
事業が始まったばかりでハイパフォーマーがまだ生まれていない業務などにおいても、理想形モデルであればコンピテンシーを策定することができます。
しかし、理想を追い求めすぎてコンピテンシーのハードルが高すぎ、現場の従業員の意欲をそいでしまう懸念もあるので、レベルの調整は要注意です。
<ハイブリッド型モデル>
実在型モデルと理想形モデルの良い部分を組み合わせたモデルが、ハイブリッド型モデルです。
実在のハイパフォーマーから抽出したコンピテンシーの中で、企業理念などの理想から逆算した際に不足している部分も盛り込んでコンピテンシーを作成することができるため、より実用がしやすいモデルを策定することができる方法です。
コンピテンシー定義の一覧
コンピテンシーの研究を行っているSpencer & Spencerからは下記のように「コンピテンシーの定義」が発表されているので抽出→整理の参考にしてください。
出典:Spencer & Spencer「コンピテンシー・ディクショナリー」(1993)
■コンピテンシー評価導入の手順
ここでは、一般的なコンピテンシー評価導入までの手順を解説していきます。
①ハイパフォーマーの調査・インタビューを実施する
ハイパフォーマーにインタビューを行い、他の社員との違いを抽出し、成果につながっている行動特性を洗い出していきます。
インタビューだけでなく、ハイパフォーマーの周囲の同僚にインタビューを行ったり、ハイパフォーマー自身の日々の仕事の様子を観察したりなどして、ハイパフォーマー自身が気づいていない行動特性を見つけるのも有効でしょう。
②コンピテンシーを抽出する
ハイパフォーマーへの調査から導き出した行動特性を、コンピテンシー・ディクショナリーの要素と照らしわせ、コンピテンシーの候補を選定します。
コンピテンシー・ディクショナリーとは、ライル・M.スペンサー とシグネ・M.スペンサーが1990年代に発表した、「さまざまな職務に通じ得るコンピテンシーリスト」のことです。
「コンピテンシーの評価項目群」と、それを細分化する「コンピテンシーの評価項目」、評価するための行動が体系的にリスト化されているため、このリストの中からインタビューをもとに抽出した行動特性を洗い出すことで網羅性を担保することに役立ちます。
ただ、コンピテンシー・ディクショナリーもあくまで例ですので、自社特有の行動特性があれば残してもよいでしょう。
③企業のビジョン・ミッション、戦略とのすり合わせをする
洗い出したコンピテンシー候補の中で、企業理念やビジョン・ミッションにそぐわないものがあれば排除してきます。こうすることで、現実と理想のバランスを調整していきます。
④評価に取り入れるコンピテンシーの選定
コンピテンシーの中で、評価に取り入れるコンピテンシーを選定します。
すべてのコンピテンシーを評価に取り入れてしまうと項目が多すぎて運用の負担がかかってしまいます。
コンピテンシーの中でも特に影響力が強いものとそうでないものがあるため、
成果への影響が大きく、継続的に従業員の能力育成に使うことができるコンピテンシーを選ぶと良いでしょう。
⑤コンピテンシーのレベル分けをする
各コンピテンシーに3~5段階程度のレベルを設け、人事評価に活用しやすいようにします。公平性を保つためにも、レベルごとの達成度や習熟状態の判断がはっきり分かるよう、基準を明確化しましょう。
⑥テストして調整をする
コンピテンシー評価のたたき台ができたら、評価基準が適正かどうかテスト運用をします。
テストでは自社のハイパフォーマーを評価基準に照らし合わせ、実際に高い評価になるかどうか確認しましょう。中程度の業績の社員についても、評価をし、ハイパフォーマーより高評価にならないか確認をします。
複数回にわたって複数人を評価すると、より精度の高いコンピテンシー評価基準を策定できます。
【参考資料のご紹介】
エンゲージメント向上に成功した企業・部署のトップが実際に語った事例資料「日本一働きがいのある会社~部署が変われば企業が変わる~」はこちらからダウンロードいただけます。
記事まとめ
いかがでしたでしょうか。コンピテンシーという言葉の意味、活用シーン、導入方法などを解説してきました。
成果だけではなく、コンピテンシーを使った評価を取り入れることで、人材の獲得、育成をより効果的に行うことができるようになるとご理解いただけたのではないでしょうか。
組織経営にとって重要な要素である人材マネジメントに、コンピテンシーを取り入れてみてはいかがでしょうか。
▼コンピテンシーに関する記事はコチラ
コンピテンシー評価とは?導入メリット・デメリットや必要性、導入の手順について解説
コンピテンシーに関するよくある質問
Q:コンピテンシー評価と職能資格制度の違いとは?
コンピテンシー評価とよく比較されるのが、多くの日本企業において採用されてきた職務遂行能力評価(職能資格制度)です。コンピテンシー評価では、行動に結びつく性格や思考パターンを含めた総合的な能力を評価します。一方、職能資格制度では、能力やスキル・知識など単独の能力を評価します。
コンピテンシー評価は「従業員が評価に納得しやすい」「適材適所のマネジメントがしやすい」「能力開発がしやすい」といった利点がありますが、導入・運用の負担が大きい点などはデメリットだと言われます。一方、職能資格制度は「中長期的な人材育成がしやすい」「ゼネラリストの育成に向いている」といった利点がありますが、年功序列の評価になりやすく、人件費が高額になりがちなのがデメリットだと言われます。
Q:コンピテンシー評価を導入している企業は?
従来の日本企業にはコンピテンシー評価が馴染まず、導入が進みませんでした。しかし、90年代以降に多くの研究が発表されてコンピテンシー評価のメリットが次第に認識されるようになり、導入企業が増えていきました。
代表的なところでは、ソニーが1995年から新卒採用にコンピテンシー評価を導入しており、アサヒビールは1999年に人材育成・任用を目的としてコンピテンシー評価を導入しています。ユニチャームは役員候補者の育成のために、NECや味の素、JTBや東京電力などは人事評価のために導入しています。