
コンピテンシーとは?モデル化などの導入方法から、面接・評価などの活用シーンまでを解説
昨今、コンピテンシーという言葉に注目が集まっていることをご存知でしょうか?
聞いたことはあるけれど、実は何かよくわからない、、、という方も多いのではないでしょうか。ここでは、コンピテンシーの概要とともに、導入のための具体的な方法もご紹介していきます。
コンピテンシーとは?
まずはコンピテンシーの定義、能力やスキルとの違い、歴史背景についてご説明します。
コンピテンシーとは?
コンピテンシーという言葉そのものの意味は、「能力」という意味があります。近年、人事業界で注目を集めている人事用語としての「コンピテンシー」とは、高い業績を収めている従業員に共通して見られる「行動特性」のことを指します。
成果が上がっている従業員の共通点を洗い出し、成果につながる行動のもととなる「正確」や「動機」「価値観」などの要素を定義します。これらの要素を行動指針や評価基準に取り入れることで、従業員の望ましい行動を引き出し、組織全体の成果を上げるという狙いがあります。
高い業績を収めている従業員の共有点を抽出すして導き出すコンピテンシーですが、従業員に期待される成果は業務や役割によって異なるため、コンピテンシーは業務や役割別に作成するのがよいでしょう。
知識やスキルとの違い
ここまでの説明を受けて、一般的な「能力」や「スキル」といった言葉との違いについて疑問に思った方もいるかと思います。「コンピテンシー」と「能力」「スキル」との違いは、「思考・行動」にあります。
「スキル」「知識」は簡単に言えば、経理の専門知識のような「何を知っているか」というものです。一方で、「コンピテンシー」は、「知識」や「スキル」を持っていることを前提として、それらを用いて起こす「思考・行動」のことを指します。
例えば、AさんとBさんは全く同じ知識やスキルを持っていたとします。Aさんはその知識やスキルを使って、周囲を巻き込んで成果をあげようとしますが、Bさんは自分自身が任されたことだけを実行したとします。この二人の差を生んでいるのは、持っている「知識」「スキル」ではなく、二人が持っている「思考・行動」と言えるのです。
コンピテンシーの歴史、注目されている背景
コンピテンシーの歴史は、1980年代のアメリカで生まれた考え方です。
ハーバード大学のデイヴィッド・C・マクレランド氏が米国文化情報局からの依頼を受けて行った調査により、業績と学歴には相関性はなく、一方で高い業績を収める従業員は共通した行動パターンやそれにつながる性格、価値観、考え方を持っていることがわかりました。
この調査結果により、成果を挙げられる従業員の行動特性をモデル化し、評価基準などに組み込むことで、従業員全体の質の行動を測るコンピテンシーという手法が確立していきました。
アメリカ合衆国では1990年代に、日本では1990年代後半に人材育成やマネジメント領域で注目を集め、導入する企業が増えていきました。
日本でコンピテンシーの導入が進んだ背景には、バブル崩壊後に「成果主義」を重んじる企業が増え、評価指標の一つとして高いパフォーマンスを出し続ける従業員の行動プロセスを取り入れる動きが増えたのです。
コンピテンシーの5段階レベル
コンピテンシーを用いた評価には、5段階のレベルに分かれています。コンピテンシーの5段階レベルごとに、具体的な行動や評価について紹介していきます。
評価対象の従業員が、5段階レベルのうちのどのレベルの行動をしているかを評価していきます。
①受動行動
受動行動は、受身の姿勢で行動をとっている状態を指します。上司からの指示があるまで行動に移さず、指示がないと行動ができない従業員が当てはまります。評価としては、場当たり的や一貫性がないという評価ができます。
②通常行動
通常行動とは、行うべきことを必要なタイミングで行うことを指します。任された業務を「ミスなく・確実にこなそう」という前向きな思考を持っていることがポイントですが、決められたこと以上のことを行う意欲はなく、決められたことをそのまま行う普通レベルの評価と言えます。
③能動・主体行動
能動・主体行動とは、明確な目的や判断に基づき主体的に行動することを指します。例えば、任された業務でより良い成果をおさめるために、自主的に情報収集やスキルアップのための学習をしたりなど、決められたルールの中で能動的に工夫をするような従業員のことです。
④創造・課題解決行動
創造・課題解決行動は、自ら工夫をして現状の状況を変化させようという行動を指します。例えば、社内で新たなプロジェクトが始まった際に、自主的に提案をしたり、アイデアを出すような行動が該当します。評価としては、PDCAサイクルを回し、高い成果を出すために考え行動できるなどという評価ができます。
⑤パラダイム変換行動
パラダイム変換行動とは、新たな発想・アイデアで周囲の状況を変えるような行動のことを指します。新たなアイデアを提案し、イノベーションを起こすだけでなく、リーダーシップを発揮して周囲に好影響を与える点も評価されます。
コンピテンシーの活用シーン
ここではコンピテンシーがどのような場面で活用できるのか、「採用」「人材育成」の2つのシーンについてご説明していきます。
採用面接におけるコンピテンシーの導入
コンピテンシーは採用面接で活用することができます。採用面接でコンピテンシー評価を行うことによって、自社が求める行動ができる人物なのか、入社後成果を出すことができる人物であるのかを見極めることができます。
コンピテンシー評価を採用面接で実施する場合は、「直近で最も成果を上げたエピソードがなんですか」「その際にどんな工夫をしましたか」など、具体的な行動をとったのかを質問することが重要です。
採用面接でコンピテンシーを活用するメリットは、入社後に活躍する人物を見極めやすいため、成果により直結した採用ができる点です。一方でデメリットとしては、評価基準を作成するには時間を要する場合が多いため、計画的なコンピテンシーの策定、運用が必要な点が挙げられます。
人材育成におけるコンピテンシーの導入
人材育成にコンピテンシーを導入することも、一般的な活用シーンの一つです。
ハイパフォーマーを育成する研修内で、コンピテンシーの要件を伝え、浸透させていくことで、従業員が成果を上げる行動を取ることを促します。
そのためには、事前にコンピテンシーモデルを定め、研修内で「どのように考え、行動すればパフォーマンスを出すことができるか」を伝えていきます。
また、研修をするだけではなく、コンピテンシーに基づいて個人の成長目標を設定することで、従業員の積極的な行動を促します。従業員が成果創出に向けて何をすればいいのかを明確にすることができ、達成可能性を高めることができるので、従業員のモチベーション向上も期待ができます。
人事評価におけるコンピテンシーの導入
コンピテンシーを人事業化に導入することのメリットとして、評価のブレををへらすことができる点があります。コンピテンシー評価を行うために、ハイパフォーマーにヒアリングを行い、評価項目を作成し、その評価項目に基づいて従業員の思考や行動度合いを測ります。
また、副次的なメリットとして、評価基準にハイパフォーマーのノウハウやコツが反映されているため、パフォーマンスを上げるための望ましい行動や思考が従業員に共有され、会社全体としての生産性向上も期待できます。
コンピテンシー導入のメリット・デメリット
コンピテンシーを導入した際のメリットとデメリットを紹介します。
コンピテンシー導入のメリット
コンピテンシー評価のメリットは大きく3つあります。
①優秀な人材の獲得、育成ができる
採用面接や人事評価にコンピテンシーを活用することによって、自社の事業や業務にあった特性を持っている、パフォーマンスを出しやすい人物を獲得、育成することができます。
たとえ現時点ではスキルが不足していても、成果をあげるために必要なコンピテンシーを持ち合わせていることが分かれば、育成後の活躍を期待できます。一方で、スキルは十分にあるけれども、コンピテンシーを持っていない場合は、自社が求めているような働きが望めない可能性が高まるため、採用しないという判断が先んじてできるのです。
②従業員全体のパフォーマンス向上が期待できる
採用面接、人事評価、研修にコンピテンシーを活用することで、従業員にとってコンピテンシーは自分自身の評価や成長にも関わる重要な指標となります。
そのため、コンピテンシーを従業員の間で普及することができるため、従業員がパフォーマンスの出し方を理解し、PDCAを回し、努力することで、会社全体としての生産性向上が期待できるでしょう。
③納得感のある評価ができる
コンピテンシーを人事評価に取り入れることで、これまでは絶対的なKGIやKPIの達成率などの定量的な指標でしか評価できなかったものを、コンピテンシーによって成果を出すまでの過程の行動を評価することができるようになります。
また、コンピテンシー評価では、評価に値する行動が明確に示されているため、これまで上司からみた印象や感覚で評価されていた定性的な部分を、公平に評価することができるようになります。これによって、評価を受ける従業員の納得感も高まるのです。
コンピテンシー導入のデメリット
コンピテンシー導入のデメリットは3つあります。
①コンピテンシー策定のコストが高い
コンピテンシー評価は、全企業共通のテンプレートがあるのではなく、個社ごとにコンピテンシーを作成する必要があります。
さらに、一企業に一つのコンピテンシーがあればいいというわけではなく、部署や業務によって異なる行動特性が存在しているため、個別にコンピテンシーを作成する必要があるのです。
また、コンピテンシーを策定するためには、ハイパフォーマーの行動分析やヒアリング、コンピテンシーモデルの作成、人事評価などの運用面の整備など、導入までにかかるコストが大きいということがデメリットと言えます。
せっかくコンピテンシーを作ったのに、運用に乗らずに忘れられてしまった、、、などといったことがないよう、導入までのステップを具体的に描くことが必要です。
②「正しい」コンピテンシーの作成は難しい
策定したコンピテンシーが、必ず成果を生むとは限りません。
一度コンピテンシーを策定して完了するのではなく、実際に運用し、何度も修正を加えながら、精緻なコンピテンシーにブラッシュアップしていくことが必要なのです。
こういったコンピテンシー策定・運用に対する正しい理解がないと、コンピテンシーを運用した現場から不満の声が生まれてしまうでしょう。
③柔軟な環境変化への対応が難しい
コンピテンシーは、部署や業務によって細分化して決めれられている分、事業内容や業務内容の変更などに柔軟に対応することが困難です。
企業の成長にともなった、事業の変化、業務の変化、組織編成の変化などに合わせてコンピテンシーを修正するためのコストは大きいと言えるでしょう。さらに、頻繁にコンピテンシーが変更されることによって、従業員は何を目指すべきなのか分からなくなってしまうという懸念もあります。
コンピテンシーの導入方法と活用ポイント
コンピテンシーの導入までの方法と、代表的なコンピテンシーモデルについて解説します。
モデル化のポイント
コンピテンシーモデルを作成するには、まず「目指す人物像」を明確にします。
例えば「好業績を上げる」「作業効率がよい」などの目標に対するコンピテンシーを把握し、それぞれに適した評価を整理していきます。
以下では、コンピテンシーモデルのベースとなる三つの型について解説します。
<実在型モデル>
コンピテンシーモデルを作成する手法として最も一般的に用いられる手法です。
実際に高い成果をあげているハイパフォーマーをモデルとしてコンピテンシーを策定するため、現実に即したコンピテンシーモデルを作成することができ、比較的実用的です。
しかし、作成したコンピテンシーがモデルとしたハイパフォーマー個人の特性に偏ってしまっていないか、他の従業員でも獲得しうるものであるかは確認をする必要があります。
<理想形モデル>
理想形モデルは、企業が理想とする人物像を策定し、その理想人材からコンピテンシーを抽出するという方法です。企業理念や事業戦略などから逆算して策定するので、実在の人物から考える実在型モデルよりも策定の難易度が下がります。
事業が始まったばかりでハイパフォーマーがまだ生まれていない業務などにおいても、理想形モデルであればコンピテンシーを策定することができます。
しかし、理想を追い求めすぎてコンピテンシーのハードルが高すぎ、現場の従業員の意欲をそいでしまう懸念もあるので、レベルの調整は要注意です。
<ハイブリッド型モデル>
実在型モデルと理想形モデルの良い部分を組み合わせたモデルが、ハイブリッド型モデルです。
実在のハイパフォーマーから抽出したコンピテンシーの中で、企業理念などの理想から逆算した際に不足している部分も盛り込んでコンピテンシーを作成することができるため、より実用がしやすいモデルを策定することができる方法です。
コンピテンシー導入の手順
ここでは、一般的なコンピテンシー導入までの手順を解説していきます。
①ハイパフォーマーの調査・インタビューを実施する
ハイパフォーマーにインタビューを行い、他の社員との違いを抽出し、成果につながっている行動特性を洗い出していきます。
インタビューだけでなく、ハイパフォーマーの周囲の同僚にインタビューを行ったり、ハイパフォーマー自身の日々の仕事の様子を観察したりなどして、ハイパフォーマー自身が気づいていない行動特性を見つけるのも有効でしょう。
②コンピテンシーを抽出する
ハイパフォーマーへの調査から導き出した行動特性を、コンピテンシー・ディクショナリーの要素と照らしわせ、コンピテンシーの候補を選定します。
コンピテンシー・ディクショナリーとは、ライル・M.スペンサー とシグネ・M.スペンサーが1990年代に発表した、「さまざまな職務に通じ得るコンピテンシーリスト」のことです。
「コンピテンシーの評価項目群」と、それを細分化する「コンピテンシーの評価項目」、評価するための行動が体系的にリスト化されているため、このリストの中からインタビューをもとに抽出した行動特性を洗い出すことで網羅性を担保することに役立ちます。
ただ、コンピテンシー・ディクショナリーもあくまで例ですので、自社特有の行動特性があれば残してもよいでしょう。
③企業のビジョン・ミッション、戦略とのすり合わせをする
洗い出したコンピテンシー候補の中で、企業理念やビジョン・ミッションにそぐわないものがあれば排除してきます。こうすることで、現実と理想のバランスを調整していきます。
④評価に取り入れるコンピテンシーの選定
コンピテンシーの中で、評価に取り入れるコンピテンシーを選定します。すべてのコンピテンシーを評価に取り入れてしまうと項目が多すぎて運用の負担がかかってしまいます。
コンピテンシーの中でも特に影響力が強いものとそうでないものがあるため、成果への影響が大きく、継続的に従業員の能力育成に使うことができるコンピテンシーを選ぶと良いでしょう。
⑤コンピテンシーのレベル分けをする
各コンピテンシーに3~5段階程度のレベルを設け、人事評価に活用しやすいようにします。公平性を保つためにも、レベルごとの達成度や習熟状態の判断がはっきり分かるよう、基準を明確化しましょう。
⑥テストして調整をする
コンピテンシー評価のたたき台ができたら、評価基準が適正かどうかテスト運用をします。
テストでは自社のハイパフォーマーを評価基準に照らし合わせ、実際に高い評価になるかどうか確認しましょう。中程度の業績の社員についても、評価をし、ハイパフォーマーより高評価にならないか確認をします。
複数回にわたって複数人を評価すると、より精度の高いコンピテンシー評価基準を策定できます。
記事まとめ
いかがでしたでしょうか。コンピテンシーという言葉の意味、活用シーン、導入方法などを解説してきました。
成果だけではなく、コンピテンシーを使った評価を取り入れることで、人材の獲得、育成をより効果的に行うことができるようになるとご理解いただけたのではないでしょうか。組織経営にとって重要な要素である人材マネジメントに、コンピテンシーを取り入れてみてはいかがでしょうか。