組織を襲う病に打ち勝ち、成長を遂げた組織改革 全国に約270店舗を展開するタビオ株式会社
1968年創業。昨年に創業50年を迎えたタビオ株式会社。
「靴下は消耗品」という固定観念を打ち破るべく、世界最高峰の技術と言われる日本の靴下製造技術を駆使し、 本物の靴下の素晴らしさや楽しさを、日本国内に留まらず世界中に届けています。
「靴下屋」「タビオ」「タビオメン」等の靴下専門店ブランドを日本全国に展開する他、
イギリス、フランスなど海外にも拠点を持ち、計273店舗(2018年7月末時点)を展開しています。
しかし、成長を続ける一方で、創業から50年経ち、組織には成熟期の企業が陥る病が蔓延。
タビオ株式会社はどのようにしてその病を乗り越えようとしているのか。
創業50年を迎える成熟期企業の変革ストーリー、前編。
【セミナー実施日】
2018年7月26日(木)
【プロフィール】
タビオ株式会社 代表取締役社長 越智 勝寛(おち かつひろ)氏
株式会社リンクアンドモチベーション
WESTカンパニー カンパニー長 梅原 英哉
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成功体験を引きずり、ルーティン化する現場業務
梅原:リンクアンドモチベーションには、組織を見るメガネとして、「企業が直面する3つのモード」と「組織を捉える5つのM」があります。
事業の立ち上げに成功した企業には、「拡大モード」「多角モード」「再生モード」という3つのモードを順に辿ることになりますが、今回のタビオ社は創業から50年を迎え、これまでの成功体験から脱却すべき、再生モードだったと言えるでしょう。
これらの組織モードには、それぞれ起きる組織課題と対策は決まっており、それを説明するために必要なのが、「組織を捉える5つのM」です。
5Mの1つ目の「Message(事業戦略)」では、事業が発信するメッセージの明確化を図り、メッセージを反映した商品・サービス開発が行われているのかを見ます。
2つ目の「Motivation (動機形成)」では、従業員のエンゲージメントファクターを把握し、事業戦略の実現に向けた意欲喚起が図れているかを見ます。
経営をしていると、必ず「Message(事業戦略)」と「Motivation(動機形成)」に何らかの問題が発生します。この問題を解決するための要素が残り3つのMです。
「Mission (役割設計)」では、職掌や権限など組織内の分業設計、機能間連携を促す調整システムの設計を行います。
「Membering(人材開発)」では、外部からの人材採用と内部の人材育成、戦略的な人材登用と配置。
「Monitoring(管理制度)」では、業績の予実管理を行う管理会計を行い、等級・評価・報酬などの人事制度、重点経営指標の設定を行います。
先程、各組織モードで起きる問題と対策はある程度決まっているとお伝えしましたが、MessageとMotivationで起きる問題、そしてMission、Membering、Monitoringで講じる対策が決まっているということです。
タビオ社は創業50周年を迎えた成熟期の企業、つまり再生モードの企業です。まず最初はタビオ社の組織において、実際に何が起きていたのかお伺いできればと思います。
まず、組織の5Mの中の、Message(事業戦略)では、「差別化不全症」と「商品陳腐化症」が起きていたということですが、実際に起きていたことをお伺いできますでしょうか。
越智氏: そうですね。自社で次のシーズンの新商品を考えるときに、自社基準での事業運営になってしまっていたということがあります。
例えば、次のシーズンの新商品をつくらないといけないときに、そもそも花柄の靴下がいるのかどうかを検討せずに、花柄担当のデザイナーさんがいるので花柄の靴下をつくる、
ボーダーの靴下をつくっている提携企業の担当者さんから、「黒色×白色のボーダー靴下は必ず作らなければいけない」という提案を受けて、そのままつくる、等が横行していました。
こういったことを進めると、もうほとんど去年と同じ色・同じ素材で、品番だけ違うという商品が溢れていくようになるんです。同じようなものばかり、合計でかなりの数の商品が存在している、という状況になりました。
また、売れてない商品を販売停止するとか、今までやっていた素材を変えるということなどは、デザイナーさんの気持ちを傷つけないように、ということで誰もやらない。そういったことが続き、
「タビオと靴下屋、どう違うの?」となって、ブランドごとの違いもわからなくなってしまっていました。
これによって、シーズンが変わっても同じような商品ばかりで、売上がどんどん下がってきていたというのが、当時の状況です。
梅原:ありがとうございます。再生モードでは、これまでの成功体験を引きずり、何かを変えることを怖がってしまう時期でもあるので、文字通りそういった状況が顕著に現れていたのかなと思います。
もう少し、なんでこういうことが起こるのかというのを、組織の方に目を向けて解説していきます。
縄張り意識の横行 「セクショナリズム横行症」
梅原:Motivation(動機形成)の部分では、まず「セクショナリズム横行症」が起きていました。
非常に個別最適で内部思考ということで、自己防衛が凄いんですね。私も実際、インタビューに伺った時に、かなり自己防衛意識が強い部門長の方々が多いように感じました。全社視点がなかなか持てなくなってしまっていました。
そうすると、縄張り意識が非常に強くなり、スムーズなコミュニケーションが取れない、ということが起こります。具体的にはどうでしたか?
越智氏:例えば、本来であれば密接に連携しなければならないはずである2つの部門が、それぞれの立場でそれぞれに都合のよい主張を繰り返すだけで、責任を擦り付け合う場面が日常的に繰り返されていました。
「そんな話は聞いていなかった」「こんなんじゃやってられない」と、事あるごとにまるで言い争いみたいになっていたのですが、そうした挙句、最後には話し合いすらできないような雰囲気になってしまっていました。
梅原:ありがとうございます。縄張り意識が強くなってしまっていたのが、この「セクショナリズム横行症」ですね。
現場に伝わらない経営方針 「マネジメント閉塞症」
梅原:続いて、マネジメント層ですね。「マネジメント閉塞症」。管理職層も非常に内向きになってしまい、なかなか経営の方針が現場に伝わらない、という状態だったのではないかと思いますが、実際どうでしょうか?
越智氏:会社の方針があるんですが、それに基本的に反対しているという部署が存在していました。独自の方針を出し、真っ向から会社の方針に反対していたりするのです。
そういった部署では、ミドル層が、会社の方針を下に落とさないようにしていました。会社としての方針発表会はあるんですけども、ミドル層が「メンバークラスには聞かせてはならない」という風にしていたんです。
なので、ミドル層より下のメンバーはそもそも会社の方針や部署の目標を知らなかった。ミドル層が独自の方針に従わせるということが横行していました。
またそれに加えて他の部署とも連携しないので、結果的に縦も横もコミュニケーションが閉塞した状態になってしまっていました。
不満を感じても声を上げない現場 「既決感疲弊症」
梅原:ありがとうございます。次は「既決感疲弊症」です。
ここまで色々な問題を取り上げてはきましたが、やはりそうはいってもタビオ社は伸びてきた企業なので、これまでの成功体験に対する過去慣性が非常に強かったんですね。
一言でいうと、変える事を怖がっていました。この時、現場ではどんなことが起きていましたか。
越智氏:例えば、現場ではレギンスが売れているのに、本社からは麻の短い丈のソックスを売れとか、麻素材の靴下を作ろう、という方針が伝えられたりします。
そういうとき、会社からの評価は、去年200枚しか売れなかったレギンスを今年1000枚売った店長よりも、麻のソックスを去年3枚だったやつを今年5枚売って150%伸ばした店長の方が高かったりしていました。
それって本当はおかしいんですけど、現場の人たちは「どうせ評価について言っても無駄だろう」というように考えてしまい、「ルール通りやっていよう」となってしまっていました。
結果や成果よりも、ルール通りやっておけばいいんだろう、という気持ちが強くなっていましたね。
現実を見ようとしない 「顧客視点欠落症」
梅原:ありがとうございます。そういった事がありながら最終的に起こっていたのがこれですね。「顧客視点欠落症」。
本来見なければいけない顧客が見れていなかったということですね。現場では何が起きていましたか?
越智氏:当時、顧客数減というのが6〜7年ぐらい続いていたんですけど、それを見ようとしないんですね。というのは、「人口が減っているから仕方ない」みたいな話で片付けてしまう。「ファンが離れてしまっている」っていうことを認めたくないんです。
なので、顧客の声を聞いたり、データを分析したりもしない。会社全体として、そのような状況を見ないようにしてしまっていたということがあったと思います。
梅原:ありがとうございます。ということで、私がお伺いする2016年の11月ぐらいの時には、こういった事が起こっている状況でした。
これをなんとか解決したい、というのが最初の出発点でした。成熟期企業、つまり私たちの言葉でいうと「再生モードの壁」にぶつかっていたというのが当時の状況ですね。
このような状況の中で、2017年1月にモチベーションクラウドを初めて実施いただきましが、そのときのエンゲージメントスコアは「46.4 CCC」。ここから、2018年4月には、「56.8 BBB」にまで向上を遂げられ、組織には確実に変化が起きています。
ここからは、そのエンゲージメントスコア向上に向けた取り組みについて、詳しくお伺いできればと思います。
※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
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