【前編】ユニコーン企業メルカリ大解剖 「メルカリは、ミッションとバリューでできている」
様々な企業の中で閉じられていた組織人事のナレッジをシェアし、日本のべンチャー企業の発展に貢献していくことを狙いとしてスタートした「Strategic HR Summit」の、記念すべき第1回。モデレーターを務めるリンクアンドモチベーション麻野の盟友でもあり、銀河系集団と呼ばれ注目を集め続ける、メルカリ取締役の小泉文明氏を迎えてお送りしたテーマは、メルカリの組織戦略・採用戦略・人事戦略がどのようにつながっているかを紐解く『メルカリ大解剖』。
【イベント実施日】
2016年5月19日
【登壇者】
株式会社メルカリ 取締役 小泉 文明氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野 耕司
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ユニコーン企業メルカリとは
麻野 耕司(以下、麻野):メルカリの組織や人事施策については、連日色々なところで紹介されているので、断片的なことは知られていると思うのですが、今日は総合的に、そもそもどういう戦略人事の下に施策が形作られているのかを、解き明かしていきたいと思います。ご存知の方ばかりかとは思いますが、まずはユニコーン企業メルカリの会社紹介からお願いします。
小泉 文明氏(以下、小泉氏):会社設立は2013年2月なので、できてからまだ3年と少しですね。今日本では、3,000万ダウンロードくらい。それからアメリカは、日本よりも約1年2ヶ月後にサービススタートしているんですが、アメリカの方も1,000万ダウンロード近くなっていまして、順調に伸びている会社です(2016年5月当時)。
月間の流通は100億円くらいで、ZOZOTOWNと並んでいると言ったらイメージ湧きやすいでしょうか。取締役は僕を入れて4人で、全員が過去に何かしらの会社を運営した経験があるメンバー。いわゆるシリアルアントレプレナーですね。経験あるメンバーが集まったからこそ事業が伸びてきたとも言えます。
それから、過去に126億円の資金調達を実施していて、今まさに、アメリカで事業をどうやって立ち上げるかに注力しているところです。
ミッション・バリューを信じる原点は、過去にミクシィで経験した後悔
麻野:じゃあ早速「メルカリという組織の根幹にある戦略が何か」から聞いていきたいんですが。
小泉氏:僕らの組織戦略について簡単に言うと、ミッションとバリューですね。この2つに全てを紐付けています。
僕がメルカリに入ったのは、会社ができた10ヶ月後なんですが、僕が入るまでのメルカリは「まずプロダクトを作ろう、アプリ作ろう!作ったものを運用して、何とか0から1を立ち上げよう!」というフェーズで。そこで非常に問題だと思ったのが、ミッションがファジーなところ。「インターネットを通じて世界を変える」みたいなざっくりとしたミッションで、バリューがなかった。
僕自身ミクシィという会社を経営していた中で、個人的に一番悔しい思いをしたというか失敗したというのが、会社のミッションとバリューをしっかり決めてなかったということだったんです。
ミクシィのように強いプロダクトがある会社は、プロダクトが強い分、組織戦略とか雰囲気とか、全てをプロダクト自身が作ってくれるんですね。ミクシィというオレンジ色で少し温かい雰囲気が、何となく組織に浸透していって、みんなのモチベーションも感化されていく。
でも、何となく束ねられているだけので、サービス自体が悪いフェーズに入った時に頼るものがなくなってくるんですね。そうすると、元々会社の中にいる色んな価値観の人たちが、色んな意見を言い始めて「うちの会社って一体どこにいくんだろう」みたいなふらつきが出てきたりして。
それをすごく反省しました。事業は色々やったとしても、ミッションとバリューをはっきりしないと、会社の骨がなくなってしまうと心底思っています。
なので、メルカリに入った時にまず代表の山田に言ったのは「ミッションとバリューを作りたい」ということでした。
この後、組織とか採用の話を全部お話しするんですが、これらの施策も全てそうですし、会社そのものも、ミッションとバリューを中心にして運営しています。僕らは、このミッションとバリューを信じているんですよね。
麻野:スタートアップベンチャーは、良い時もあれば悪い時も、必ずあるじゃないですか。良い時って誰もが、成長できそうとか、ストックオプションもらおうとか、色んな理由で入社して来るものですけど。会社が良い状態じゃない時にこそ強い会社を作っておかないと、それなりの規模の会社を作ることは難しいと思いますね。
ミッションと人が紐付いていると、会社が良い状態じゃなくてもメンバーの心は揺らがないので強い。それが、小泉さんの場合はメルカリにジョインしたタイミングから見えていて、ミッション・バリュー作りに取り組んでいるというのが、ずるいなって感じがしますけども。
小泉氏:ミクシィのときに、ミッション・ビジョンに向き合ってこなかったことが、自分自身の怠慢だったなという風に思っているので、一番反省していたことに最初に手を付けたっていうことですかね。
実ビジネスとバリューの密接な関係
麻野:ミッションやバリューはあるっていう会社も多いじゃないですか。あるけど、実際のところなかなか浸透してないってことが多い。僕自身、やっぱり会社のビジネスと紐づいたバリューであるっていうことが一番大事だと思っています。
結局、経営者も現場も、このバリューや行動指針を実践すればビジネスが伸びるんだって信じられなかったら、徹底できないと思うんですよね。なので、どんなビジネスの戦略からこのバリューに落ち着いたのかっていう、設計の背景みたいなものですね、これを次に聞いてみたいと思うんですが。
小泉氏:そうですね、メルカリはミッションとして「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」を掲げています。で、このビジネスのゴールの特徴というのは、2つあって。
ひとつはすごくコンペティティブ。グローバルでビジネスをやっていくにあたって、本当に競争が激しいんですよ。この領域は、国内でも大手企業が既に参入していましたし、メルカリはかなりの後発組だったんですよね。勝てばトップにいけるけれど、負けたら全てが終わるという状況。ミクシィの頃も、最初は同じようなことをやってる会社は沢山あったけれど、生き残ったのはグリーだけだった。
勝ち切らないといけない。そのためには大胆に攻めていかないと、2位以下は死ぬと思ったので、勝つために「Go Bold」つまり大胆に、を最初に持ってきています。その次に大事なのが、少人数では絶対勝てないということです。なので2つ目に「All for One」という言葉を持ってきました。
この言葉には2つの意味を込めていて。ひとつはチームワーク的要素。そしてもうひとつは、全てを、魂を入れていこうみたいな意味です。
最後は、当然専門性がない限りは高い成長プランは望めないっていうことで「Be Professional」。「Go Bold」「All for One」「Be Professional」、この3つを作ったというのが、最初のビジネスとバリューの関係ですね。
麻野:僕も色んな会社の行動指針の設計に携わってきましたが、メルカリのものは本当に良くできています。ビジネスと紐づけたバリューを作る、且つ絞る、となった時に何が大事かと言うと、その会社のビジネスで勝つために必要なエッセンスは何なのかってことです。それを分かっているっていうことが、行動指針の設計の前提だと思います。
メルカリは、投資をして一気にクリティカルマスを形成して、ビジネスをやろうとしてるので「Go Bold」みたいなものがないとできないんだろうなと。ただ逆に、これはどこの会社でも当てはめればいいって訳じゃないんですよね。
小泉氏:例えば、ECビジネスは「Go Bold」は駄目だよね(笑)。
麻野:そうですね。ECビジネスは非常にバリューチェーンが長いビジネスモデルなんで、色んな職種の人がちゃんと連携できるっていうことが、価値を出すために大事だったりしますね。積み上げて少しずつ改善していくっていうことが大事だったり。ビジネスの攻め方によってバリューが変わるということがポイントだなと思います。
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【後編】ユニコーン企業メルカリ大解剖「メルカリは不完全な企業である」はこちら
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。