【前編】パナソニックの採用育成改革
会社の未来を創るタレントマネジメント

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パナソニック株式会社で採用責任者を務める萬田弘樹氏は、パナソニックのタレントマネジメントを改革してきた牽引役です。これからの時代、どうすれば会社の未来を担う尖った人財を採用し、入社後の活躍に導けるのか。社内の慣習に囚われない採用組織の改革、他社や大学と連携した人財育成など、革新的な取り組みについて伺います。お話を伺うのは、7月に『エッジソン・マネジメント~尖った優秀な若者をどう採用し、いかに育てるか~』を上梓したリンクアンドモチベーションの樫原です。採用・育成の専門家としての立場から、パナソニックのタレントマネジメントのポイントを明らかにします。

【セミナー実施日】
2020年8月20日 (木)

【スピーカープロフィール】
パナソニック株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター所長 萬田弘樹氏
株式会社リンクアンドモチベーション 組織開発デザイン室エグゼクティブディレクター 樫原洋平

【ライター】
株式会社リンクアンドモチベーション  沖田慧祐
株式会社リンクアンドモチベーション  小笠原有希

パナソニックがタレントマネジメントに力を入れ始めた、その背景

パナソニック株式会社 萬田氏(以下、萬田氏):私は1992年に大学を卒業しまして、松下電器産業(現パナソニック)に入社しました。社会人1年目はシンガポール駐在でした。その後、シンガポールから戻ってきまして、採用・人財ビジネス領域に16年、海外人事領域に8年ほど携わってきました。今は全社の採用責任者をやっています。

当時、新卒で入社してすぐのシンガポール駐在は珍しいことでしたが、新興の市場を見てみたいという想いが通じてシンガポールに行くことになりました。当時TOEICは500点も無かったのですが、会社に対して自分の強い想いをぶつけて、なんとか行かせてもらったんです。また、34歳の時には、社内ベンチャーを作る制度を利用して採用コンサルティング会社の経営をさせていただきました。当時最年少で社長をやらせてもらっていたりもしました。

リンクアンドモチベーション 樫原(以下、樫原):ありがとうございます。では早速、一つずつ質問をしていきたいと思います。パナソニックさんでは今、人財の育成・採用、つまりタレントマネジメントにかなり力を入れていらっしゃいますが、その理由からお伺いさせてください。

萬田氏:理由は三つあります。一つ目は、パナソニックの将来的な労働力の大幅減少です。一般的な日系の大手企業は似たような状況にあると思いますが、労務構成がシニア偏重型になっています。当社においてもそこは同じで、2015年から2030年にかけて定年退職を迎える方々の人数を勘案すると、厳しく見積もれば従業員数は半分くらいなる予測も立てられます。つまり、どうやって今いる社員を育成し、活躍してもらえるようにするか、そして、これから入ってくる方をいかに早く戦力化するかを考えなくてはいけません。

二つ目が、日本の人財育成に対する危機感です。シンガポールから日本に帰ってきて採用活動をした時に、「日本、ちょっとやばいんじゃないかな」と思ったんですね。例えば、シンガポールでは、学生インターンがいつも横にいるんです。シンガポール大学の学生が一生懸命「なんでこれはこうなるんですか?」と質問しながら仕事をしていました。日本に帰ってくると、シンガポールとの違いに驚きました。当時の日本の企業と学生には接点が全くなかったんです。学生が社会人に「なぜなんですか?」なんて質問も全然できないから、学生もビジネスの理解が深まる機会がない。それでは将来に向けた自分なりの論理形成なんてできないですよね。自分なりの意見を求められ、議論する機会もなく、当然主張することにも慣れていない。「あ、これは日本の学生と海外の学生に差がついて、世界との戦いに負けてしまうな。もっと学生に寄り添っていかないと」と思いました。

三つ目は樫原さんとの出会いです。樫原さんにパナソニックの内定者向けにセミナーをやってもらったんですよ。その時に樫原さんにかなり厳しくフィードバックをいただいたんです。 その時は「ちょっと待ってよ」と言いましたが (笑)。でも、あらためて考えてみると、制度など、確かに幾つも課題があるように思えたんです。そこから一緒に「これはなんとかせなあかんよね」と2人で言い出したのが、実際に行動し始めたきっかけでした。以上の3つが、タレントマネジメントに力を入れるようになった背景です。

樫原:なるほど。一つ目の背景で新入社員を早く戦力にしたいという話がありましたが、パナソニックさんでは大体どれくらいの年次で一人前にしようと考えているんですか?

萬田氏:一人前になるまでの時間軸はどんどん短かくなってきていますね。私が入った30年近く前は、「10年たって一つの核ができたらいい」と言われていたんです。でも今は私たちも学生も「3年くらいでもう一人前にならなくてはいけない」と思っていますね。それぐらい一人前になるまでの時間軸は変わっています。

パナソニックが求める3つの人財像

樫原:では続いて、パナソニックさんが考える「タレント」とは何か、タレントに求める要素は何かについて教えていただけますか?

萬田氏:パナソニックでは「求める人財像」として以下を掲げています。私たちが求める「人」は、「大きな夢と高い志を持ち、チャレンジし続ける人」、「世界で戦える、尖った強みを持った人」、「新たな価値を創造し、変革を起こせる人」、まさに樫原さんの言う“エッジソン” (※エッジソン=「実現したいこと=目的」があり、その実現に向けて、多種多様な関係者を巻き込み、成果を創出できる人財 書籍『エッジソン・マネジメント』参照) を求めたいと思っています。

求めるのは未来志向で、しっかりターゲットを持って自律自走ができる人財。でも、皆さん「そんな人ってなかなかいないよね」と思いますよね。「社員でもここまでの人ってそんなにいないんじゃないの?」と。なので、採用活動ではこんな完成した方じゃなくて、こうなりそうな可能性を持った人を見出さないといけないんじゃないかと思っています。

樫原:萬田さんは、そういった可能性を感じ取り、判断する目利きがすごく優れた方だと思っています。人を見極めるポイントを教えていただけないですか?

萬田氏:まずベースにあるのは、人間性と熱量です。それをベースとして、志や目的を持っているかですね。出来るかはわからないけど、本気で「こういうことがやりたいんです」と言える方だと思うんですよ。今は武器がなかったとしても、「これがやりたい」という強い想いに私は共感するんだと思います。「この想いに賭けてみたい」と思えるんです。特に若年層、新卒入社してくださる方々には、その意識を持っていてほしい。

私が新卒でシンガポールに行けたのは、志だけはあったからだと思うんです。本当に熱量を持って「世の中こうしたいんです」って言い続け、賭けてもらったんです。社内ベンチャーで社長をやらせてもらった時も同じですね。時代が変わっても、そういう若者に賭けようというのは変わらないですね。

「タレント」を採用するための採用改革①
採用組織をプロパー中心から多様性のある組織に変革

樫原:ありがとうございます。では続いて、そんな「タレント」を採用するために、萬田さんがパナソニックの採用をどう改革してきたのかお伺いさせてください。

萬田氏:二つ、大きく変えたことがあります。
一つは採用組織を変えました。元々、採用組織は人事プロパーのメンバーが3年くらいでローテーションしていく職場だったので、「採用のプロ」があまりいなかったんです。でも、今後優秀な人財を採るには、もっと採用のプロ集団にならないといけないということで、他部署や他会社から多様なメンバーに来てもらいました。

子会社の人財ビジネス会社からも来てもらったり、某有名人財会社さんから出向いただいたり、キャリア採用で採用のプロを採ったり、ほかの職能からも志が高いメンバーに来てもらったり。当然人事プロパー (=新卒で人事に配属された人財) もいます。そうやって多様性のある採用のプロ集団を作り上げたのは大きかったですね。

樫原:パナソニックさんのような大企業で、かつ人事プロパーが伝統的に採用をやっている会社がこのような改革をするのはすごく難しかったのではないですか?パナソニックさんで改革を果たせた背景やポイントは何だったんでしょうか。

萬田氏:将来に向け、優秀な人財を確保することが企業として大命題になってきたからですね。まずはその大命題に向き合える採用組織にしていくことが必要でした。その意識が当然、私にはあったし、役員にもあったのでしょう。だから採用を変えていきましょうと言った時に上層部に反対する人はいませんでした。史上初の挑戦でしたが、やはり多様なメンバーがいることで成果が出ています。多様性が組織を強くすることを示す一つの事例になったと感じます。

多様性のある組織は、得意分野が重ならないようにする

樫原:多様性のある組織にするとマネジメントのコストが上がるのではと思うのですが、多様な採用のプロ集団を取りまとめるときに、萬田さんご自身がマネジャーとして大事にしていることは何ですか?

萬田氏:多様性のある組織にするということは、各メンバーが異なる得意分野を持っているので、チームとしてできる範囲が広くなるということだと思っているんです。なので、新卒採用のこの部分がうまいメンバー、キャリア採用のここができるメンバー、オペレーションが強いメンバーというように、得意分野があまり重ならないようにしています。そうすると、当然ひとりひとりに苦手な部分はあるけれど、チームとして見ると突き抜けた強みがいくつもあるチームになります。

実は、改革してからメンバーの数は20%くらい減ったんですが、成果としては減る前以上になっています。異なる得意分野を掛け合わせて、チームでやれることを広げる方が生産性が上がることを実感しています。

樫原:私から見ていると、萬田さんは若いメンバーに意志を問うことが多いですよね。「君はどうしたいの?どうなりたいの?」というように。若手に意志があったらよく「チャレンジしてみろよ」とおっしゃっているイメージがあります。

萬田氏:上司から答えを言わない、自分の意見を押しつけないというのは大切なことだと思います。「問う」ことで答えを見つけ出させるんです。育成は焦らない。3年、5年というスパンで「どうなりたいのか」を常に考えてもらい、横で伴走するということを心がけています。

樫原:萬田さんは、組織のクレドという行動指針も作られていますよね。多様な組織にする一方で、組織を束ねるものを言語化されていることも改革の大きなポイントではないでしょうか。

萬田氏:そうですね。昨年、色んな人がいるからこそ「拠り所が必要だ」とチームで話し合い、クレドを作ることになりました。部長と課長が全員集まり、2日間くらい合宿をして、自分たちの存在意義や在り方、大事にしているアクションは何かについて言語化をました。判断に困った時に拠り所にできるものを作ったことで、私に聞かなくても自分で判断して行動できるメンバーが増えました。クレドの作成は多様な組織を創られている方々にすごくお勧めです。別に肩肘を張ったものでなくていいんです。わかりやすい言葉で、推奨するアクションを言語化しているだけです。

▼萬田氏率いる部門のクレド

※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等はイベント実施当時のものです。

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公開日:2020.11.12

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