【後編】パナソニックの採用育成改革 採用を成功させるために必要なのは、“分断”の排除
パナソニック株式会社で採用責任者を務める萬田弘樹氏は、パナソニックのタレントマネジメントを改革してきた牽引役です。
これからの時代、どうすれば会社の未来を担う尖った人財を採用し、入社後の活躍に導けるのか。社内の慣習に囚われない採用組織の改革、他社や大学と連携した人財育成など、革新的な取り組みについて伺います。
お話を伺うのは、7月に『エッジソン・マネジメント~尖った優秀な若者をどう採用し、いかに育てるか~』を上梓したリンクアンドモチベーションの樫原です。採用・育成の専門家としての立場から、パナソニックのタレントマネジメントのポイントを明らかにします。
【セミナー実施日】
2020年8月20日 (木)
【スピーカープロフィール】
パナソニック株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター所長 萬田 弘樹 氏
株式会社リンクアンドモチベーション 組織開発デザイン室エグゼクティブディレクター 樫原 洋平
【ライター】
株式会社リンクアンドモチベーション 沖田 慧祐
株式会社リンクアンドモチベーション 小笠原 有希
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「タレント」を採用するための採用改革②
採用だけでなく、認知から配置育成まで管理する
※①は前編をご覧ください
リンクアンドモチベーション 樫原(以下、樫原):パナソニックで「タレント」を採用するためにやった2つの改革のうちの1つ、採用組織を改革したという話、非常に興味深かったです。ありがとうございました。それでは2つ目をお伺いできますでしょうか?
パナソニック株式会社 萬田氏(以下、萬田氏):2つ目は新卒採用プロセスの改革です。採用はもう採用活動の場だけで決まる世界ではなくなってきましたよね。もっと早期、大学生活の前半から働く場としてのパナソニックを「認知」していただき、パナソニックのフィロソフィーやミッションに「共感」していただける機会をつくる。そして、パナソニックに合う方々を「発掘」して「誘引」する部分もすごく大事になっています。
また、「採用」から「配置・育成」の部分も分断されていることが多いのですが、ここの仕組みも変えました。採用したら終わりじゃない。パナソニックの場合は、入社後3年間は寄り添い期間として採用部門が活躍を見届けていく仕組みに変えました。この「認知」、「共感」、「発掘」、「誘引」、「採用」、「配置・育成」を愚直にやっていくと示したことが大きな変化ですね。
樫原:このプロセスの中で、萬田さんが特に大事だと思うところはどこですか?
萬田氏:間違いなく「共感」でしょう。会社を理解してもらった上で、会社と学生をマッチングすることが重要です。会社のフィロソフィー、ミッションを理解し合えるかどうかはその後長く働いてもらう上で大切なことだと実感しています。
ここで掛け違うと、入社してから絶対に苦労する。だから「共感」してもらう段階にたくさんの時間とお金を投資しています。逆に「共感」さえできたら、「誘引」や「採用」はスムーズなんですよね。
本当おもしろいと思うのは、学生に「共感」してもらえると、その方がインフルエンサーになって回りに会社を広めてくれるんですよね。数年単位でじわじわ効果が出てきていると感じます。
産学官でワンチームになり、認知〜共感を高める
樫原:具体的な取り組みについてもお伺いできますか。
萬田氏:「認知」「共感」「発掘」の取り組みとしては、大学との距離をもっと縮められないかということから考え始めました。そこで、樫原さんと母校の同志社大学でリーダー育成プログラムを始めたんです。企業が大学教育に入り込むのは敬遠されるかと思いきや、大学側も「企業がどういう人材を求めているのか知りたい」ということで、先生方にもすごく乗り気になっていただけました。
今ではさらに共感してくださる方が増え、川崎重工業さん、京セラさん、ヤンマーさんといったそうそうたる関西企業の採用責任者の方々や、2020年は京都府の府庁の皆さまにもご参加いただき、産学官で連携して教育プログラムを実施しています。
勿論、名ばかりの産学官連携ではなく、皆さんと喧々諤々議論を重ねてきました。志をともにした仲間たちだと思っています。
入社後3年は、採用部門の寄り添い期間
樫原:ありがとうございます。採用後の「配置・育成」のところで取り組まれていることもお話しいただけますか。
萬田氏:まず、配置については内定から入社に至るまでの段階で学生と徹底的に話し合っています。「こういう仕事をやってもらうけど、どう?」と、お互いに腹落ちするまで話し合うことで、ある程度入社への不安を払拭できます。
また、配属先には、われわれ採用部門から「この人はこう育ててください」という引継ぎ書類をお渡しすることで、スムーズな配属を実現できていると思います。
さらに、「入社後3年は、採用部門の寄り添い期間である」と掲げています。入社後のフォローや、活躍を見届けるチームも私の下にあり、「採用」から「配置・育成」まで一気通貫でできるような仕組みになっているんです。
「入社したら俺は知らんから、あとは現場に言って」では絶対に人はついてきません。3年間私たちが「なんかあったら俺に言ってこい。大丈夫だから」と言って、寄り添い続け、駆け込み寺を作ってあげることで、若手の不安を無くすことができると思っています。
実際、何かあれば私たちが現場にフィードバックをします。同時に、私たちが採用の仕組みを再考する機会にもなっていますね。
この秋からは、新入社員のモチベーションのアップダウンを掴むために、パルスサーベイを導入します。サーベイでアラートが出た時に、いかに早く気づいてフォローしてあげられるか。
これによって退職率などが変わってくるんです。キャリア採用者には先行して導入しましたが、退職率は半分ぐらいになっていますね。今後、そういったモチベーションの把握とフォローを強化したいと思います。
他社との協働が、採用担当者を成長させる
樫原:萬田さんは、若手採用担当者の採用力を磨くために、自社の人財育成を他社の採用担当者と一緒にされていますよね。
萬田氏:そうなんです。他社と連携して、若手採用担当者向けの合同研修会を実施しました。私、この取り組みが大好きなんです。1社だけでは学生の共感を生むのにも限界がある。それなら全員でスキルを磨いて、学生にアピールしようと考えました。
研修会の狙いとしては、勿論スキルアップも目的の1つですが、採用担当者同士で交流し、成長し合うことも大きな目的の1つです。実は採用ってあまり他者からわかってもらえない職種なんですよ。
同じ会社の人事に「実は採用でこういうことに悩んでてね」って言っても、理解してもらえないことが結構あるんですよね。だから他社の採用担当と話すほうが課題を理解してもらえることがあるんです。
研修会では、メンターとして各社の部長・課長クラスの方々にも出てもらっていますが、皆真剣に他社の採用担当者に向き合っています。本気でフィードバックしながら、3〜4カ月かけて取り組みました。採用担当者同士、企業間を越えて競争し、切磋琢磨する姿が本当に素晴らしいなと思っています。
優秀な“エッジソン” (※エッジソン=「実現したいこと=目的」があり、その実現に向けて、多種多様な関係者を巻き込み、成果を創出できる人財 書籍『エッジソン・マネジメント』参照) を採用したいと思ったら、採用担当者が誰よりも“エッジソン”であるべきだと思っています。
樫原:そうですね、社員側が志を語らずに、学生にだけ求められないですよね。“エッジソン”を育みたいなら、先人が“エッジソン”たる背中を見せないと。私も合同研修会を拝見したのですが、印象的だったシーンが、競合他社である京セラの3年目の社員に萬田さんがひたすらフィードバックしていたシーンです。下手をすると競合を強くすることになるじゃないですか。その葛藤はありませんでしたか?
萬田氏:全く無いですね。京セラさんはすごくいい企業だし、他の企業もみんないい企業なんです。私が一番大事だと思っているのは、学生と企業をちゃんとマッチングすることです。そのためには、採用担当の若手が学生に向き合える力を養うことが大事。
別にパナソニックでなくても、京セラさんと学生がマッチングして、その方がすごく伸びたら日本がもっと良くなるはずです。綺麗事に思われるかもしれませんが、一緒に取り組んだ他社の部長、課長の皆さんもそう思っていたんじゃないかと思っています。
人財育成の仕組みを創り、次世代へバトンタッチしたい
樫原:ありがとうございます。では最後に、萬田さんがここまで様々な取り組みをされていらっしゃることについて、どのような想いがあるかお伺いできますか。
萬田氏:日本という国は資源が少ない国です。つまり人財で勝つしかありません。僕の想いとしては、一言で言うと「世界で戦える日本人を育てたい」ということです。僕はもうすぐ51歳になります。
人財を育成する仕組みを作って、次の世代にバトンタッチをしていきたい。正直、個人や一企業の域を超えていると思います。それでも、一企業という枠を越えて、皆でやりたい。
強い想いがあります。賛同していただける方にはどんどん仲間に入ってほしいです。ここからが始まりだと思っているので、日本の将来のために人事の皆さんのお力を貸していただければと思っております。
樫原:ありがとうございます。僕も萬田さんと様々な取り組みをご一緒させていただいていますが、全く同じ気持ちです。とにかく仲間を募りたいですね。人財育成は多極的な取り組みですから、仲間を増やして色んな取り組みを広げていきたいです。
ぜひ皆さんと一緒に議論しながら面白いことをやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。萬田さん、今日はありがとうございました。
萬田氏:こちらこそ、ありがとうございました、楽しかったです。
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等はイベント実施当時のものです。
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