
エンゲージメント経営とは? 導入メリットや課題、実践方法を解説
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昨今、多くの企業でエンゲージメント経営を導入する取組みが進んでいます。企業と従業員がともに成長するために有効な考え方ですが、エンゲージメント経営とはどのようなものなのでしょうか。エンゲージメント経営の概念や効果、取組みのポイントをご紹介します。
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エンゲージメント経営とは?
そもそも会社の成果は下記のように表す事ができます。
「会社の成果」=①「設計図の出来栄え」×②「その実行の出来栄え」
「設計図」とは経営層や管理職層が策定する事業戦略や経営計画のことです。
正しく、精緻な戦略が立てられるよう経営像は努力をしますが、必ずしも全ての外部環境やリスクを予測して作ることは難しいでしょう。
一方、「設計図」を実行する現場が主体的に機転を聞かせて行動すれば、「設計図」が不完全であったとしても成果を出すことができます。会社の成果を作り上げているのは、日々顧客を向き合っている現場の社員一人ひとりなのです。
「設計図を実行する人」のパフォーマンスを最大化し、企業の成長エンジンとする経営の考え方を「エンゲージメント経営」と言います。
社員のパフォーマンスを最大化するためには、「経済的報酬」だけではなく、「感情報酬」にも目を向ける必要があります。「経済的報酬」とは、金銭、地位、福利厚生といった「経済的報酬」は誰にとっても共通の価値があり、一定の魅力があります。
一方で、提供するにはもちろん限度がありますし、給与がより高い方に魅力を感じやすいなど、代替されやすいものでもあるのです。
また、「感情報酬」とは、仕事そのものや名誉・周囲からの称賛、成長期間といった、非経済的で心理的な報酬のことです。「感情報酬」は個々人にとって意味や有り難みが大きく異なる性質がありますが、企業がこの「感情報酬」をうまくコントロールし、個々人にとって唯一無二の「感情報酬」を提供することができれば、経済的な制約なしに、無限大の可能性を持ち得ることができるのです。
こうした「経済的報酬」と「感情報酬」の両方を提供する「エンゲージメント経営」を用いることで、優秀な人材を引き寄せ、競合他社からは真似のできない競争優位性を確立することができるのです。
では、この「感情報酬」はどのようにして高めればよいのでしょうか。そのためには、人が組織に帰属するときに感じる魅力について深く理解することが必要です。
この魅力は4つに分解することができます。
①理念:Philosophyの魅力
組織が達成したい「目的」への魅力
その会社で大切にしている価値観や理念、将来の姿であるビジョンなど
②仕事:Professionの魅力
組織が行っている「活動」への魅力
事業内容や仕事内容そのものや、仕事を通じて得られる達成感、創意工夫による発見など
③人材:Peopleの魅力
組織の内部に要る「構成員」と接することで得られる魅力
価値観や考え方が親しい仲間が多い、刺激的な同僚や尊敬できる人がいるなど
④特権:Privilegeの魅力
組織に属することで得られる「特別な権益」に対する魅力
ステータス・名誉のほか、個人の生き方・ライフスタイルをサポートする仕組みの存在など
「4つの魅力=感情報酬」を企業が他社に真似されないように提供できるか否かが、「エンゲージメント」経営を実現する上で最も重要なポイントなのです。
■ 従業員エンゲージメントとは
「エンゲージメント=engagement」とは、TPOに応じて様々な意味に使い分けられる言葉ですが、基本的には「深い関わり合いや関係性」を意味する言葉です。企業活動で使う「エンゲージメント」という言葉は、主に「対顧客」と「対従業員」との2つの意味を持っています。
人事領域で使う「従業員エンゲージメント」は、従業員の愛社精神や企業に対する愛着を表します。従業員と企業が一体となってお互いに成長し合い絆を深める関係をイメージするとよいでしょう。
■従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い
「従業員エンゲージメント」と似た言葉に、「ロイヤルティ」と「従業員満足度」があります。
- ロイヤルティ(Loyalty):忠誠心という意味。従業員の企業に対する忠実度を指す
- 従業員満足度:従業員が待遇や環境、報酬に対してどれだけ満足しているかを示す
エンゲージメントとの大きな違いは、その「結びつきの方向性」です。ロイヤルティは、従業員が企業や組織に対して忠誠心を持って行動するという上下の関係性にあります。従業員満足度は、処遇や環境に対する評価であり、企業側の取り組みに応じて満足度が変わります。
これらに対し、エンゲージメントは、企業と従業員が双方向の関与によって結びつきを強めていく点が大きく異なっています。(出典:日本の人事部「エンゲージメントとは」)
また上記に加えて下記の図の通り「従業員満足」は社員満足を生み出すことが目的となっているため、満足度が高いからといって、企業業績が必ずしも伸びるわけではありません。
一方で「従業員エンゲージメント」は、従業員の企業に対する貢献意欲を引き出すことが目的であり、相互作用によって企業の業績向上に影響を与えるものでなければなりません。
しかし、従業員が期待するものは、納得感のある給与や最先端の設備などという「Privilege(待遇の魅力)」もあれば、商品サービスや仕事のやりがいなどの「Profession(活動の魅力)」、経営陣の魅力や風通しの良い風土などの「People(組織の魅力)」もあれば、明確な企業理念やブランドなどの「Philosophy(目標の魅力)」など、多種多様な時代です。
企業はその多様な従業員の期待を把握しながら応えつつ、企業への貢献意欲を引き出していくという一方通行の満足度提供とは比較にならないくらい難しいのが、この「従業員エンゲージメント」なのです。※下図参照※
エンゲージメント経営が注目される背景
■労働市場、商品市場、資本市場の変化
これらのように、企業は、商品市場においては「顧客」から、また労働市場においては「従業員」からという2つの市場から選ばれなければいけないと言われています。これは日本の産業が製造業からサービス業中心の産業に変化したことにより発生しているものです。
現在、日本全体のGDPの75パーセントを、第三次産業つまりはサービス業が占めていますが、これが意味することは商品の「ソフト化」です。製造業が中心だった第二次産業に必要とされたのは設備投資で、そのためには金融機関や株主・投資家から選ばれ資金を得なければなりませんでした。
しかし、第三次産業の商品のほとんどがソフトのため、人材さえいれば様々なサービスが提供できる。つまり、商品市場で事業を成功させ、顧客から選ばれる存在になるためには、労働市場で従業員から選ばれる必要があります。
しかし、その労働市場においても変化が起きています。「終身雇用」「年功序列」が当たり前の時代から、一度採用した後も企業は優秀な人材をリテンションし続けなければすぐに会社を辞めてしまう。
これらの環境変化に合わせて、各社毎の人事戦略が必要になってきており、労働市場で従業員から選ばれる企業をつくることは、重要度も難易度も上がっているのです。
また、昨今、多くの企業では「働き方改革」によって、「長時間労働の是正」が進んでいます。しかし、単なる「長時間労働の是正」だけでは、競争力の低下を招きかねません。
「働き方改革」の真の目的は、企業の「労働生産性の向上」のはずです。私たちはこの「労働生産性の向上」は、従業員エンゲージメントの向上によって実現させることができると考えています。
そのような時代の変遷に加え、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多数の企業がリモートワークを導入。
上司や部下、社員同士のリアルな場でのコミュニケーション機会が減ったことにより、プロセスよりも「成果重視」が一層進み、「一人の人間として気にかけてくれいているのか」「この仕事を通じて本当に成長できているのか」というように、今までは抱かなかった不安を助長させてしまうこともあります。
そのため、現在の新しい働き方においては、より「エンゲージメント」を高めていく事が必須課題となっているのです。
エンゲージメント経営をするメリット
エンゲージメント経営を実施することで、具体的にはどのようなメリットが得られるのでしょうか?
■従業員エンゲージメント 業績と、離職率低下の相関性について
下記の図の通り、株式会社リンクアンドモチベーションと、慶應義塾大学ビジネス・スクール岩本研究室の共同研究により、企業と従業員のエンゲージメントを測る指数、エンゲージメントスコアを基にした格付けランクである「エンゲージメント・レーティング」の上昇に合わせて、売上・純利益の伸長率が高くなる傾向が見られています。
(出典:株式会社リンクアンドモチベーション「慶應義塾大学との研究結果を公開~エンゲージメントスコアの向上は営業利益率・労働生産性にプラスの影響~」)
このように「収入や利益」へのリターンのみならず、「従業員の退職率」においてもエンゲージメントスコアの向上にあわせて、退職率が低くなる傾向がみられることが分かりました。
(出典:株式会社リンクアンドモチベーション「「エンゲージメントと退職率の関係」に関する研究結果を公開」)
また会社と従業員の関係性や、上司と部下の関係性が向上し、信頼関係が担保されていると、コミュニケーションが活発になり、お互いに何を思っているのか、どう感じているのかについて伝え合うハードルが下がります。
そうすると業務連携が円滑になり何か問題が起こりそうな際に防止策をすぐに打つことも可能になります。
よって仕事の出戻りが少なくなり、業務効率化や生産性の向上につながるのみならず、離職率の抑制につながるのです。
また組織の状態が良くなることによって、業務の質を高めようと仕事を工夫する社員が増え、アウトプットのクオリティも自ずと上がってくるので、顧客満足度も高まる例もあります。
すると商品のリピート率向上に繋がり、長期的に業績の向上に繋がり、経営陣が打ち出す戦略に対して、分かりやすく結果が反映されるため、戦略の実行度も高まる、という流れで良い循環を生み出していけるのです。
エンゲージメント経営の流れ
以下4つのステップを繰り返していくことが「エンゲージメント経営」の流れになります。
ステップ①と④を「診断」フェーズ、ステップ②と③を「変革」フェーズと呼び、この一連のステップを半年~数年かけて行うことが「エンゲージメント経営」の全体像です。
ステップ①:「組織診断」組織の現在の状態を診断する
会社と社員のエンゲージメントを高めるための第一歩は、現在の組織状態を正確に把握することです。
多くの会社が自社のサービスを売るために、「顧客は何を求めているのか」「顧客ニーズがどう変化しているのか」というマーケティング調査を行いますが、エンゲージメント向上においても、会社の顧客を社員と捉え、社員が求めていることを把握することが求められます。
組織診断において最も一般的なのは、記名式・無記名式のアンケートですが、より詳細に現状を把握したい場合は、回答者本人へのインタビューや、複数名にまとめて話を聞くグループインタビューを行う場合もあります。
「エンゲージメント経営」においては、「期待度」と「満足度」の把握をすることがポイントです。人がなにかに対して「満足」を得られるか否かは、その事柄に対してどれくらいの「期待」を抱いているかによって変化します。
例えどんなに福利厚生を手厚く提供し、これ異常ないほどの豊かな生活を保証したとしても、それを求めていない社員にとっては満足度にはそれほど関係がないのです。
社員が会社に対して抱いている「期待度」と「満足度」のギャップにこそ注力すべき課題が隠れています。
ステップ②:「緊急課題対応」エンゲージメントを高める上での阻害要因を除去する
ステップ①で得たデータをもとに組織状態を分析し、エンゲージメントを向上する上で対応すべき「緊急課題」をあぶり出します。
基本的には社員の抱く「期待度」と「満足度」のギャップが大きいほど緊急性が高いと言えるため、優先的に対処する必要があります。
まずはエンゲージメント向上を阻害している阻害要因を取り除くことで、足場がためをしていきます。
ステップ③:「将来課題対応」エンゲージメント向上に向けて変革を図る
ステップ②で土台作りであった「緊急課題対応」のあとに、会社の理想の姿に向けて組織を変革していく「将来課題対応」を行っていきます。
まずは「どんな軸で会社を束ねていくのか」「どのような会社像を目指すのか」「社員と会社の関係をどのようなものにするのか」を考えることで、目指す姿に向けて特に注力すべきポイントを洗い出していきます。
このとき、先程紹介した「4Pの魅力」である「理念の魅力」「仕事の魅力」「人材の魅力」「特権の魅力」のいずれの軸で束ねることが理想の姿に向けて必要なのかを決め、変革施策を実行していきます。
ステップ④:「効果測定・再診断」目的が実行されたか否か、再度組織の状態を測定する
ステップ②③を通して、問題が解決され、目指す姿に近づくことができたのかどうかを、再度組織診断を行うことで効果測定します。
この再診断を通して、改めて「期待度」「満足度」を把握し、そのギャップから新たな「緊急課題」や「将来課題」を策定し、対策をしていくという、診断と改善のサイクルを回していきます。
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エンゲージメントを高める方法
エンゲージメントを高めるためには、どうしたらよいのでしょうか。
ここでは組織を3つの角度から捉え、それぞれの要素をどのように強化すればいいのかをご紹介していきます。
①HR(ヒューマンリソース):一人ひとりの社員そのもの
組織とは個人の集合体です。個々人をつなぐコミュニケーションチャネルや、組織全体の動きを統制するルールが整備されていたとしても、個々人が力をうまく発揮しなければ組織は成果を出すことはできません。
会社と個人が相互に「もたれあう」のではなく、自立した個人同士が互いに切磋琢磨できる、一人ひとりが自らの意思決定や行動に責任をもつ「自立した個」となることが必要です。
<自立した個の強化のポイント>
・アイカンパニー意識
自分を一つの「自分株式会社」と見立て、キャリアプランを描いてその実現に向かっている、という意識を社員に醸成していきます。
・自責スタンスの醸成
身の回りで起こるできごとを他人事として捉え、文句だけを言うのではなく、全て自己の意思決定によるものだと捉えられる「自責心」を養うことで、自立した個を育成します。
・ポータブルスキルの強化
人材の流動化が激しくなっている社会では、どの組織でも活躍するために必要な「ポータブルスキル」を獲得することが、個人としての自立のためには必須と言えます。
現在の仕事でしか活かせないスキルしか持っていないと、現在の組織や仕事にしがみつくことしかできず、本当の意味での自立は手に入れることができないからです。
②COMMUNICATION:個人をつないでいるもの
組織を個人の集合体と捉えた場合、その個々人をつなぐチャネル=コミュニケーションもまた需要です。このコミュニケーションチャネルを担うのが、マネージャーやリーダーという、経営と現場をつなぐ「結節点」という役割です。
<結節点強化のポイント>
・「結節点」の明確化
会社によっては職能別や事業別など様々な切り口で組織を管理しており、組織構造は複雑です。このような場合、そもそも結節点が誰なのかはっきりしておらず、本来「結節点」を担うべき人材がそれを認識していない場合もあるため、改めて誰が「結節点」なのかを明確にする必要があります。
・マネジメントの4つの機能の役割理解
組織のコミュニケーションチャネルを担う「結節点」として果たすべき機能は4つに分けることができます。
組織外の情報を適切に伝える「情報提供」、組織内の情報を適切に把握する「情報収集」、組織の判断基準に基づいて意思決定や評価を下す「判断行動」、社員個々人に理解し、称賛し、寄り添う「支援行動」の4つの機能を教育することが必要です。
・定期モニタリング
「結節点」として上記の4つの機能を果たすことができているかを定期的にモニタリングし、PDCAを回していきます。
③RULE:各種制度や機能分担のあり方
組織は「ルール」の集合体と捉えることができます。ここでの「ルール」とは、規則のようなものだけでなく、組織に所属する人同士が気持ちよく協働できるような、調整機能を果たすものを広く指しています。この「ルール」には以下の3つのような宿命的な性質があります。
<ルールの持つ宿命的な性質>
・不透明性
どんなに詳細に定めても、決して現実に想起するあらゆる事態が「透明」にはならない。
・ルールの非効率性
不透明性をなくそうとすればするほどルールの複雑度が増して運用に耐えなくなる。
・ルールの硬直性
ルールが一度定着するとルール事態が前提事項となり、環境変化に遅れることになる。
これらの性質があるため、「ルール」を精緻に定めることだけでは、かえって「ルール」にがんじがらめに縛られてしまい柔軟な対応ができなかったり、ルールの運用・管理の負担が増加したりして、組織はうまく機能しなくなってしまいます。
「ルール」運用する際は、前提として組織の中の「信頼」を基盤として、「ルール」を適度な精緻さで設定することが大切です。
例をとると、横断歩道を渡るときは「赤信号では車は止まってくれるはずだ」と思っているし、会社では「今月も給料は25日に振り込まれるはず」と思っているように、こうした「信頼」があってこそ、日々の生活は成り立っています。
ベースとしての「信頼」は、組織が組織として機能するために必須の条件と言えます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
エンゲージメント経営の必要性、その効果、実行までをご説明してきました。
組織と個人が、お互いに依存し合う関係ではなく、対等に選び選ばれる関係性に変わった現代では、エンゲージメント経営は必須の考え方になっています。
エンゲージメント経営を自社の企業活動に取り入れ、一人ひとり本気を企業の成長エンジンにしていきましょう。
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