
ワークライフバランスとは? 誤解されがちな定義や、メリット、実現に向けた対策について解説
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昨今、「働き方改革」の言葉とともに、「ワークライフバランス」という言葉を耳にする機会も多くなりました。しかし、人によって「ワークライフバランス」についての認識は様々で、実際の意味を正しく理解できている人は少ないのではないでしょうか。
従業員の「ワークライフバランス」を実現することが重要であることは分かっていても、正しい狙いを理解しないことには、その実現は難しいでしょう。
ここでは、「ワークライフバランス」の定義、その重要性、実現する方法をご紹介していきます。
▼ ワークライフバランスなど、これからの時代の企業・組織人事の在り方についてデータに基づき提言!
ワークライフバランスとは?
■ワークライフバランスの意味と意義
「ワークライフバランス」を日本語に訳すと、「生活と仕事の調和・調整」となります。この文言だけを聞くと多くの方が、「生活と仕事のどちらを重視するか」という取捨選択をしなければならないように感じるかもしれません。
しかし、「ワークライフバランス」という言葉が本来意味しているのは、「生活」と「仕事」の取捨選択ではなく、「生活」と「仕事」の両立から「相乗効果」を生むということなのです。
もう少し具体的に言い換えれば、生活が充実することで、仕事にも集中でき、うまくいくことであったり、仕事がうまくいくことで、私生活も潤うといった、相乗効果のことを指します。
つまり、「ワークライフバランス」とは「生活」と「仕事」のどちらかを犠牲にするのではなく、「生活と仕事を両立することによって得られる、相乗効果」のことなのです。
働き方改革として注目されている"ワークライフバランス"について、ここからはワークライフバランスが叫ばれるようになった背景を見た後、制度設計のポイントや企業価値向上に結び付ける手法について解説していきます。
■ワークライフバランスの歴史
今や日本でも当たり前になりつつある「ワークライフバランス」という考え方ですが、一般的な概念になるまでにどのような歴史を辿って来たのでしょうか。
「ワークライフバランス」という言葉が初めて生まれたのは、1980年代のアメリカ合衆国だと言われています。
当時のアメリカ合衆国では、IT技術の進歩によって、女性がビジネスシーンで活躍する機会が飛躍的に増えていました。女性がビジネス社会に進出するようになって問題となったのが、仕事と子育ての両立でした。
そこで政府は「ワーク・ファミリー・バランス」や「ワーク・ファミリー・プログラム」などといった施策を打ち出し、優秀な女性たちが子育てをしながらでも、仕事を続けられるように支援をしたことが、「ワークライフバランス」の始まりと言われています。
この頃は施策のネーミングからも、「仕事と子育て」を明らかに意識したものでした。暫く経つと、この「ワークライフバランス」という考え方は、子供の有無に関わらず、すべての男性、女性にとって重要なものであるという認識が広まっていきました。
日本で「ワークライフバランス」が意識されるようになったのは、1990年代でした。
1980年代までは「24時間戦えますか?」といったコマーシャルが打たれるほど、仕事を第一にすることが理想的とすら考えられていましたが、高度経済成長の終焉、少子高齢化や男女雇用機会均等法などにより、労働への考え方は多様化していきました。
また、近年では「労働生産性」や「働き方改革」の考え方が重要視されるようになり、長時間労働の見直しが国単位でも叫ばれるようになってきています。
■ワークライフバランスの概念
「ワークライフバランス」の考え方は、内閣府によって以下のように定義をされています。(参考:仕事と生活の調和推進サイト)
「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」
具体的には、
- 経済的自立が可能な社会
- 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
- 多様な働き方・生き方が選択できる社会
という状態が実現されていることのことを指しています。
この定義は、内閣府が定めている「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」の中で示されています。「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」については、後ほど詳しく説明していきます。
■ワークライフインテグレーションとの違い
「ワークライフバランス」と似ている言葉として、「ワークライフインテグレーション」という言葉があります。
「ワークライフインテグレーション」とは、「ワークライフバランス」を発展させた考え方であるため、この2つが相反した考え方であるということではありません。
むしろ、通ずる部分が多い考え方です。
この2つの考え方の違いとしては、「ワークライフバランス」では、生活と仕事を両輪として捉え、その2つのバランスを上手く取ることで相乗効果が得られるとしています。生活と仕事のどちらかに偏ってしまうと、バランスが崩れて悪影響がでてしまう、という考え方です。
一方で、「ワークライフインテグレーション」とは、仕事と家庭、さらにそれ以外の学びや趣味、コミュニティなどを包含して一つの生活として捉えています。それぞれの要素を別々に線引をせずに相乗効果を狙う考え方です。
それぞれの要素を「インテグレーション(統合)」して考える概念で、慶應義塾大学大学院の高橋俊介教授や経済同友会によって提唱されています。
それぞれに優先順位をつけるのではなく、無理なく連動させるという「ワーク・ライフ・インテグレーション」は、サンフランシスコ周辺などではすでに普及しており、いかにスタッフにFlexisibility(柔軟性)を与えられるかが人材確保のカギになっているといいます。
ワークライフバランス憲章とは?
「ワークライフバランス」を推進する取り組みとして、内閣府は平成19年12月に「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)憲章」「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が、策定されました。
「憲章」および「行動指針」は、国や自治体、企業や労働者が一体となって取り組むものとされています。この「憲章」と「行動指針」を推進していくことで、仕事と生活の調和を目指しています。
「憲章」では、国民全体の仕事と生活の調和を実現することが、日本の持続可能な発展のために必要であるということから、国は国民の意識情勢や制度や仕組み、環境の整備を進めるとしています。
この憲章策定の目的は、出産や子育て、介護など、ライフステージに合わせた働き方を、一人ひとりが選択できる社会の実現に向け、官民一体となって積極的に推進することです。
憲章の中で、ワークライフバランスが実現された社会の具体的な姿として3つの観点が挙げられています。
■就労による経済的自立が可能な社会
就労による経済的自立が可能な社会とは、
- 経済的自立を必要とする人、特に若者が、いきいきと経済的に自立可能な働き方ができること
- 結婚や子育てに関する希望を実現するための経済的基盤が確保できること
などが実現された社会のことを指します。
■健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会とは、
- 働くひとの健康が確保されること
- 家族・友人との充実した時間、自己啓発や地域活動のための時間を持つことができること
などが実現された社会のことを指します。
■多様な働き方・生き方が選択できる社会
多様な働き方・生き方が選択できる社会とは、
- 性や年齢などに関係なく、誰もが様々な働き方や生き方に挑戦できる機会が提供されていること
- 子育てや介護など、個人の置かれた状況に応じて多様で柔軟な働き方ができ、公正な処遇が確保されていること
などが実現された社会のことを指します。
ワークライフバランスの目標数値
2007年12月に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定されました。行動指針においては、13項目について2020年の数値目標が設定されましたが、13項目中3項目が「達成済み」、または「ほぼ達成」、8項目が「順調でないものの進捗している」、2項目が「進捗していない」という結果になっています。
たとえば、「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」は2020年が5.1%で、目標値の5.0%をほぼ達成しています。年次有給休暇取得率は、目標値70%に対して2019年が56.3%と未達成になっています。その他の数値目標や達成度合いなどは、内閣府の「仕事と生活の調和」推進サイトからご確認ください。
>> 「仕事と生活の調和」推進サイト - 内閣府男女共同参画局
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/index.html
ワークライフバランスはなぜ大切なのか?
■ワークライフバランスの重要性
なぜ企業は「ワークライフバランス」を重要視するのでしょうか。その理由には、「ワークライフバランス」を実現することで、従業員個人の価値観や生き方を認めて、個人の意欲や能力を高め、その相乗効果として組織の成果を最大化することを目指しているからです。
つまり、「One for All, All for One」の組織づくりが重要になります。「One for All」とは「組織成果の最大化」を意味します。企業は組織成果に向けて効率を高め、価値を創出することが求められます。「All for One」とは「個々の欲求充足」を意味します。企業は従業員に対し、自社への共感を高め、成果・成長に対するモチベーションを高めることが求められます。企業が永続的に発展・成長するためには、「組織成果の最大化」と「個々の欲求充足」を同時実現が欠かせません。
■ワークライフバランスが注目される背景
企業は組織の成果を最大化することを目的に、個人の意欲や能力の向上を目指しており、それを実現する方法として「ワークライフバランス」を重要視しているとご説明しました。
では、どうして企業が組織の成果を最大化するために、個人を重要視する必要があるのでしょうか。
その背景には、2つの社会の変化があります。
①少子化による出産・育児対策
「ワークライフバランス」は女性が出産・育児などのライフイベントと仕事との両立を支援するものとイメージする方が多いかもしれません。
それは、1990年代に少子化の対策として、育児休業制度の整備や保育所の拡充が進められたことに始まっています。また、2003年には、少子化対策基本法が成立するなど、少子化は日本にとって重要な問題です。
少子化が進むことは、企業にとっては労働力不足につながります。
そのため企業が「ワークライフバランス」を重要視することは、短期的に見れば、ライフイベントによって現在働いている女性従業員を失うことの防止にもつながりますし、長期的にはキャリアへのネガティブな影響を不安に思い女性が出産を諦め、少子化に拍車がかかることを食い止めることにつながっているのです。
②高齢化=介護時代への対策
「ワークライフバランス」は女性のためのものではなく、男性にも関係のある考え方です。
少子化と同時に、日本は深刻な高齢化社会に突入しています。10年後の日本では、戦後のベビーブーム世代=団塊世代が高齢化を迎え、彼らの介護のために働き盛りの労働世代は追われることになるでしょう。
そんな彼らに仕事と私生活を両立できない働き方を強いていては、企業は労働力を確保できなくなってしまいます。親の介護のために休みを取ることが認められた企業、休職後に復職しても昇進の機会が与えられた企業が、選ばれる時代になるでしょう。
つまり「ワークライフバランス」は、少子化や高齢化などの社会の変化による個人の生活の変化を認め、組織としての成果を上げるために必要な考え方なのです。
③働き方の多様化への対応
ワークライフバランスは、多様な働き方を選択できる社会をつくるためにも非常に重要な取り組みです。「夫は働き、妻は専業主婦として家庭を守る」というひと昔前の価値観は消えつつあり、近年は、共働き世帯の増加と女性の労働参加が進んでいます。一方で、育児や介護と仕事の両立が難しくなるという問題も生じています。
2010年代は、子育てや介護など、ライフステージに応じた働き方ができる企業は多くはありませんでした。しかし、2020年以降、働き方改革の推進にともない、ワークライフバランスの実現のために多様な働き方を推進する企業が増えており、時差出勤制度や在宅勤務制度、フレックスタイム制度の導入など、徐々に環境整備が進んでいます。
④人材の確保・育成・定着対策
結婚や出産、育児、介護など、ライフステージの変化は仕事に大きな影響を及ぼします。かつては、このようなライフステージの変化によってキャリアを諦め、離職する従業員も少なくありませんでした。
企業がワークライフバランスを重視し、フレックス勤務や時短勤務、在宅勤務などの制度を導入することで、従業員はライフステージの変化に柔軟に対応できるようになります。そして、このような環境が整っている会社は、今働いている従業員だけでなく、求職者にとっても魅力的に映ります。ワークライフバランスを推進する企業は、優秀な人材の流出を防げるだけでなく、新たな人材確保という点でも有利になるはずです。
ワークライフバランスを実現するためには
ここからは、ワークライフバランスを実現するための取組事例を、企業と個人ができることに分けてご紹介します。
■企業の取り組み対策
①仕事と育児・介護の両立支援
ライフステージによって、育児と仕事を両立するための「育児休暇」はもちろんのこと、親の介護と仕事を両立するための制度を整えることも重要です。
これらの制度を性別関係なく利用できるよう整備することもポイントです。
また、制度があるだけで、実際に利用されていなければ意味がありません。職場に制度を活用しやすい雰囲気や、誰が制度を活用しても通常通り業務が回るよう、業務の標準化を進めることも、同時にしなければなりません。
②短時間勤務制度
勤務時間を数時間短縮して業務ができるようにする仕組みを、短時間勤務制度と呼びます。
育児や介護で通常時間どおりに働くことの難しい従業員にとって、有効な手段と言えます。この方法であれば、育児休暇の以外の介護などの理由であっても適応することができます。
ポイントとしては、従業員の多様な生活・働き方に合わせることができるよう、短時間勤務のバリエーションを複数設定することです。
短時間勤務のバリエーションが固定化されていると、その時間で勤務できる従業員が限られてしまい、十分に活用できない弊害があります。
具体的には、
- 時間短縮パターンの複数設定
- 一日あたりの勤務時間を減らし、その代りに勤務日数を増やす
- 短時間勤務をする日を希望できるようにする
- 一週間あたりの勤務日数を減らす
などのバリエーションを用意することができます。
③テレワーク(在宅勤務)制度の導入
新型コロナウイルスの影響で普及したテレワーク(在宅勤務)も、ワークライフバランスの実現に非常に有効です。
テレワークを推進することは、ワークライフバランスを実現するという面で企業にとって以下のようなメリットがあります。
- 通勤・通学時間の短縮により、余剰時間を自由に活用できる
- 休業から段階的に職場復帰ができるようになり、スムーズな復帰支援になる
- 働く場所を限定しないため、障害者の雇用もしやすくなる
一方で、テレワークを導入する際は、「リスクの管理」「コミュニケーションの担保」「勤怠管理」を通常時以上に注意する必要があります。
テレワーク導入時のポイントやリスク、対策については、「テレワークの活用で働き方改革を!」の記事で詳しく紹介しています。
④フレックスタイム制度の導入
フレックスタイム制度とは、一ヶ月あたりの総勤務時間を規定し、その範囲内であれば始業時間・就業時間を自由に決めることができる制度のことです。
短時間勤務との違いは、総勤務時間を減らすことなく、より自由な働き方を認めることができる点です。
この点から、フレックスタイム制度では、給与の調整や昇給・昇格に関する問題を生むことがないため、制度を活用する従業員にとっても不安が少ない制度といえます。導入時のポイントとしては、従業員全員が揃うことができる時間、コアタイムを設定することです。
コミュニケーションコストや一体感の醸成のために、一定の時間は従業員が一緒に働くことができる時間を確保することが組織としての生産性を維持するために重要です。
■個人で実現に向けてできること
①キャリア形成と能力開発
従業員が個人として、生活と仕事の調和を実現するためにできることとして、個人としてのキャリア形成や能力開発を自発的に行うことが挙げられます。
従来のような終身雇用、年功序列の文化が薄れつつある労働市場では、能動的に自身の市場価値を高めていくことが必要です。社外でスキルアップのための機会を探すことも有効でしょうし、社内にキャリア形成や能力開発の制度があれば積極的に活用すると良いでしょう。
②心身のヘルスケア
仕事内容や職場の人間関係などによって、不安や悩み、ストレスを感じ、生活に支障をきたす従業員が近年増加しています。
企業として従業員のメンタルヘルスやケアをする仕組みを整えると同時に、従業員個人としても心身ともに健康管理をする意識を持つことが大切です。
ストレスで体調を崩してしまう前に、我慢せず、適切に声を上げ、問題提起をすることも忘れてはなりません。企業内にホットラインやストレスチェックアンケートなどの仕組みがあれば、活用しましょう
【参考資料のご紹介】
日本一働きがいのある会社の秘訣をご紹介!
ワークライフバランスの実現に取り組むメリット
企業が従業員のワークライフバランスの実現に取り組むメリットについてご説明します。
■生産性向上
企業がワークライフバランスの実現に向けた取り組みを推進するためには、残業の削減や長時間労働の是正は避けて通れない課題です。このような課題を解決できれば、従業員はプライベートの充実を図ることができ、精神的にも余裕が生まれ、仕事に対するモチベーション向上にもつながります。その結果、組織全体の生産性向上が期待できるでしょう。
■企業のブランドイメージ向上
近年、ワークライフバランスの考え方は社会全体に浸透しており、ワークライフバランスを重視する企業は社内外から「働きやすい会社」「従業員を大事にする会社」という評価を受けやすくなっています。様々な取り組みによって従業員のワークライフバランスを推進していけば、企業のブランドイメージの向上にもつながっていくでしょう。
■優れた人材の確保・獲得
ワークライフバランスを実現するためには、多様な働き方を支援する制度が不可欠です。多様な働き方を選択できる従業員は、「育児や介護と仕事を両立できる」「出産してもキャリアを諦めなくていい」という安心感から、会社に定着しやすくなります。もちろん外部からも「働きやすい職場」「長く働ける職場」という評価を受けられるため、優秀な人材獲得という点でもアドバンテージになるでしょう。
■イノベーションの創出
ワークライフバランスが実現できている状態は、従業員にとって「仕事以外の時間が充実している状態」だと言えます。家族との時間や趣味の時間など、充実したプライベートを過ごすことができますし、従業員によっては自己啓発やスキルアップ、ボランティア活動や地域活動などに時間を使う人もいるでしょう。このような経験から得た気付きがヒントになり、新たなイノベーションの創出につながる可能性もあります。
■コスト削減
プライベートな時間が少ないことを理由に離職する従業員は少なくありません。逆に言えば、ワークライフバランスを推進して長時間労働を是正できれば、離職率の低下につながります。従業員の離職が減れば、新たな人材獲得のための採用コストを大幅に低減することができます。もちろん、残業時間が少なくなれば人件費の削減に直結します。コスト削減も、ワークライフバランスを推進することで期待できる重要なメリットだと言えるでしょう。
現状のワークライフバランスの課題
国としても推進されているワークライフバランスの考え方ですが、日本の導入状況や課題はどうなっているのでしょうか。データをもとに日本の現状を見ていきましょう。
■データで見るワークライフバランスの現状
①国民が求めるバランス
内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室が毎年行っている「企業等における仕事と生活の調和に関する調査研究報告書」の平成30年版のデータを見てみましょう。
日本の20代~60代の男女を対象に行ったアンケートで、「ワークライフバランス」において何を優先したいか」という質問に対しての結果が以下のとおりです。
参考:「企業等における仕事と生活の調和に関する調査研究報告書」
男性、女性ともに、「家庭生活」を優先したいと希望している回答が最も高い割合を示しています。
一方で、「仕事」を優先したいと答えている割合は性別に関係なく1割程度となっています。日本人の多くは、「仕事」よりも「家庭生活」の方を優先したいと考えているということが分かりました。
では、この希望は実現されているのでしょうか。下のグラフは、実際の生活、仕事の中で何が優先されているかを質問した回答です。
参考:「企業等における仕事と生活の調和に関する調査研究報告書」
このデータによると、男性、女性問わず、最も優先されているのが「仕事」であると回答しています。男性正社員であれば5割以上、女性正社員であれば4割以上が、「仕事」を優先しているのです。
つまり、日本人のワークライフバランスは、本人たちの希望とは大きくかけ離れており、ワークライフバランスの推進はまだまだ道半ばであるということが伺えます。
②年次有給休暇取得率
厚生労働省の統計によると、日本の年次有給取得率は令和2年時点で平均で56.3%となっており、取得日数は計測が始まった昭和59年以降過去最多を記録しています。
このデータだけをみると、日本の有給休暇取得率は改善してきているように感じますが、世界と比較するとどうでしょうか。
国別の有給休暇取得率を見てみると、日本を含めた19カ国(日本、アメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジル、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、香港、インド、マレーシア、シンガポール、韓国、タイ、台湾)の中で、4年連続で最下位という結果が出ています。
参考:有給休暇取得率4年連続最下位に!有給休暇国際比較調査2019
日本の中では着実に有給休暇取得率が向上してきているものの、グローバルの視点でみるとまだまだ改善していかなければならないと言えるでしょう。
▼有給休暇に関する記事はコチラ
年次有給休暇とは?雇用側の義務や違反時の罰則、付与日数などの注意点を解説
■現代の問題点
ワークライフバランス支援を進める企業が直面している問題点について、ここでご紹介します。
①生産性低下のリスク
ワークライフバランスの推進によって、従業員個人の働き方を柔軟にすることで、従業員の総労働時間が減少し、全社的な労働力不足を招き、従来どおりの成果を出すことができないリスクがあります。
また、単純な労働時間の減少だけでなく、業務の属人性が高いと更に生産性を低下させてしまいます。
特定の従業員にしか対応できない業務が多いために、そういった従業員の欠員は企業のビジネスすら止めてしまう危険性があるのです。
ワークライフバランスの実現に向けて一般的に陥りがちな考え方として、「個々の欲求充足」を重視しすぎるがあまり「組織成果の最大化」を軽視した制度や施策となってしまうことです。
企業は従業員個人に迎合するのではなく、「組織成果の最大化」と「個々の欲求充足」を同時実現する視点を持って制度や施策を検討する必要があります。
②休みを取りにくい企業文化
ワークライフバランスの推進のためにどんなに制度や仕組みを整えたとしても、それを実際に活用できていなければ意味がありません。従業員が制度を活用しやすい風土を作っておくことは重要です。
一方で、「残業をするほうが頑張っている」「労働時間が多いほうが評価が高い」「定時で帰るのは気が引ける」など、ステレオタイプな企業文化によって従業員が制度の活用をためらうケースは多くあります。
文化を変えていくためには、管理職がワークライフバランスや個人の生活と仕事の両立に理解を示し、制度を使いやすい職場を作るためのマネジメントをしていくことが必要でしょう。
バランス認定企業とは?
ワークライフバランスが国や各企業で推進されている中、東京都では10年以上前から「ライフ・ワーク・バランス認定企業」という取り組みを行っています。その概要と、参加することによるメリットをご紹介します。
■ライフ・ワーク・バランス認定企業とは?
「ライフ・ワーク・バランス認定企業」とは、従業員が生活と仕事を両立しながら生き生きと働くことができる職場づくりを実施している中小企業を選定し、その取組を都民に周知する活動のことです。
主な選定対象となるのは、以下の条件に該当する企業、社団法人、財団法人、NPO 法人などです。主に東京都の中小企業を対象とした制度ですが、都内に主な事業所があれば良いため、本社が大阪にある企業が選ばれたケースもあるようです。
- 都内に本社または主たる事業所を置いていること
- 常時雇用する労働者の数が300人以下であること
- 本事業の趣旨に賛同していること
- 実施内容、導入手順、運用方法等の公表が可能であること
- 労働関係法令等を遵守していること
- 暴力団あるいは暴力団員と関与していないこと
認定企業に選ばれるためには、申込み後に「東京都いきいき職場推進事業認定企業審査会」で書類審査が行われ、書類審査を通過した企業に対して、専門家によるコンサルティングが行われたり、訪問審査が行われます。
審査の際の主な基準として、東京都は以下のような基準を示しています。
- 社内の課題が明確化されており、かつその解決に有効な取組であること。
- 経営層を含め、社内全体で推進している取組であること。
- 従業員の意見を反映できる仕組みがあること。
- 取組が社内に周知されており、利用実績があること
■ライフ・ワーク・バランス認定企業のメリット
ライフ・ワーク・バランス認定企業に選定されることで得られるメリットとして、東京都は以下のような点を挙げています。
・認定企業の取り組み内容を紹介するPR用DVDおよびリーフレットを都が作成
・認定企業のロゴマークを自社の名刺やホームページ等に表示することが可能
・認定企業の取り組みを東京都産業労働局雇用就業部ホームページ「TOKYOはたらくネット」に掲載
・東京都における各種広報で認定企業を広く公表
・ライフ・ワーク・バランス普及啓発イベントで認定企業のPRを実施
・東京都が発注する入札のうち、総合評価方式において加点事由となるケースがある
生活と仕事を両立することができる企業として、都が広く周知をしてくれ、社会的な企業の認知を測ることができます。
このような制度を、自社のワークライフバランス実現度合いを測る指標としたり、自社の働きやすさを社会にプロモーションする手段として活用してはいかがでしょうか。
(参考)テレワークの活用で働き方改革を!導入事例やポイントを解説
ワークライフバランスを推進する企業の事例
■事例①三州製菓
女性従業員の離職が多いことが課題だった三州製菓は、ワークライフバランスを推進すべく「男女共同参画推進委員会」を設立します。組織全体にワークライフバランスの考え方を浸透させるため、外部から講師を招いてセミナーを開催するなど、様々な取り組みを進めました。また、育児や介護などの理由で労働時間に制約を受ける従業員も働き続けられるよう、柔軟性に富んだ勤務体系を整備しました。その結果、休暇をとりやすい風土を醸成することができ、女性従業員にとっても働きやすい職場へと変貌を遂げることができました。
※参考:社内におけるワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集|内閣府 仕事と生活の調和推進室
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/wlb_h2703_02/chapter4.pdf
■事例②JTB
時間外労働が常態化していたJTBは、職場風土を改善すべくワークライフバランスの推進に着手します。「働き方の見直しプロジェクト」を立ち上げ、コミュニケーション不足や整理整頓不足といった課題を割り出し、課題解決に向けた取り組みを実施。このような取り組みを各事業部や支店に展開するとともに、好事例を表彰する「JTBダイバーシティアワード」を開催するなど、グループ全体としてワークライフバランスを推進していきました。その結果、当初の想定以上に残業時間を削減することができ、組織全体の生産性向上にもつながりました。
※参考:社内におけるワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集|内閣府 仕事と生活の調和推進室
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/wlb_h2703_02/chapter4.pdf
記事まとめ
昨今、働き方改革やテレワークの推進が進んだことで注目されるようになった「ワークライフバランス」の考え方、導入方法についてお伝えしてきました。
従業員の生活と仕事の調和を図り、相乗効果を生むことで、組織全体としての生産性を高めるために、「ワークライフバランス」の推進は効果的だと言えるでしょう。
その実現のために、国や自治体の制度を活用しながら、企業の制度改革、そして風土改革を進めていきましょう。
ワークライフバランスに関するよくある質問
Q:ファミリー・フレンドリーとは?
ファミリー・フレンドリーとは、育児などの家族的責任を負う従業員に配慮することを言い、1980年代以降、欧米で普及した考え方です。ファミリー・フレンドリーはどちらかと言えば、子育てなど、家族を支援することに重点が置かれた概念だと言えます。一方でワークライフバランスは、仕事と、仕事以外の生活全般のバランスをとろうという考え方です。仕事とバランスをとるべきなのは家庭生活だけに限られず、家族的責任がある人も、そうでない人も支援が必要であるという考えから、近年はワークライフバランスという言葉が一般的に使われるようになっています。
Q:女性従業員向けの制度を充実させればワークライフバランスを推進できますか?
ワークライフバランスは女性従業員のためだけのものではありません。ワークライフバランスと言うと、女性の出産や育児に配慮するイメージが先行しがちですが、そもそも女性が妊娠・出産期や子育て期を乗り切ってキャリアアップしていくためには、夫である男性のワークライフバランスへの配慮も不可欠です。育児に限らず、介護の必要がある人、スキルアップや自己啓発に取り組みたい人、地域の活動やボランティア活動に参加したい人など、誰にとってもワークライフバランスは重要な考え方なので、全従業員のライフステージやキャリアに思いを馳せて施策を推進することが重要です。