
東洋思想に学ぶ、組織の根本的な課題解決とは
現在、持続的な企業成長を実現するために、日本のみならず世界中で「従業員エンゲージメント*の向上」に力を入れる企業が増えている。
リンクアンドモチベーションのグローバルチームで代表を務める近藤 俊弥が、従業員エンゲージメントについて解説する本連載。
今回は、従業員エンゲージメントの向上に向けて、組織の問題解決における2つの考え方をお伝えする。
*従業員エンゲージメント = 企業と従業員の相互理解・相思相愛度合いを示す指標
組織の課題解決に必要な2つの思考とは
組織に不調が起きた時には、人間の身体と同じように、適切な治療を施す必要がある。薬で症状を抑えたり、場合によっては手術を行ったり、あるいは生活習慣を見直し全身のバランスを整えたりするように、組織の課題に対しても最適な改善策を選んで実行していくことが重要である。
前回の記事では、従業員エンゲージメント調査において「満足度」だけでなく「期待度」を測る重要性について解説したが、それらの差分から問題がどこにあるかを正確にに見極め、根本原因に メスを入れることが欠かせないのだ。
このように、組織の問題解決を医療に例えると、医療の世界における「西洋思想」と「東洋思想」の考えから学べることがある。
本記事では、西洋思想と東洋思想それぞれの特徴を整理したうえで、特に東洋思想の考え方が組織改善にどのように活かせるのかを詳しく解説する。
なお、西洋思想と東洋思想の特徴は、あくまで一般的な傾向をメタファーとして示したものであり、一概に断定できるものではない。あらかじめその点をご理解いただいたうえで、組織の問題を捉える視点の一助としてご参照いただければ幸いである。
西洋思想と東洋思想のアプローチの違い
1.西洋思想:要素還元的アプローチ
西洋思想では、問題を引き起こした要因を個別に分解・特定し、その要因を取り除くことで解決を図ることがある。この考え方は「要素還元的」ということができ、短期的に成果を出しやすいメリットを持つ一方、根本的な原因が無くなった訳ではないため、同じ問題が再発したり、別の問題が生まれるリスクを抱えている。
例えば、歯磨きを怠って虫歯になった場合、抜歯すれば痛みなどの症状は緩和される。しかし、生活習慣を変えなければまた虫歯になったり、さらには重篤な歯周病を引き起こしたりする可能性がある。
組織の問題も同様である。モチベーションの低い社員を異動させたところで、職場環境や組織の体質が変わらなければ、再び同じ問題が起きてしまうのだ。
2.東洋思想:関係視点的アプローチ
東洋思想では、問題を個々の要素だけでなく、全体の関係性やバランスとして捉えることがある。この考え方は「関係視点的」ということができ、根本的な問題解決に近づくというメリットを持つ一方、効果が表れるまでに時間がかかるというデメリットもある。
例えば、病気になった時に食生活の改善や運動習慣の見直しを通じて、健康的な体質を作ることを重視するイメージだ。
組織も同様に、そもそもモチベーションの低い社員が生まれないようにするためには、採用・育成・制度・風土などを総合的に見直す必要がある。それにより、短期的にはすぐに変化が現れなくても、長期的には「問題が生じにくい環境」が整っていくのだ。
つまり、一つの課題に対しても、西洋思想的なアプローチをとるか、東洋思想的なアプローチをとるかで、得られる結果は大きく異なってくるのである。
東洋思想に学ぶ組織改善
これまで紹介してきた2つの考え方は、組織の問題解決に対して示唆を与えてくれる。長期視点で組織の問題を根本解決するのであれば、東洋思想の関係視点的アプローチが有効だ。
要素還元的なアプローチでは、問題の原因は個々の「人」にあると捉えられやすい。一方、関係視点的なアプローチでは、人そのものではなく、人と人との「間」に本質的な原因が潜んでいると考える。
この、問題は「間」にある、という考え方に基づいて、組織にはどのような「間」があるのかを見てみよう。
階層による視界のズレ
画像のように、組織は階層ごとに全く異なる視界を持っているため、この階層間で問題が生じてしまうことが少なくない。そのため、階層間の関係性を強化すれば、より強固な組織基盤をつくることができる。
関係性の強化に向けて、各階層で取り組むべきことを簡単に紹介する。
経営層:信頼のインフラ醸成
経営層は、組織の問題解決を部下任せにするのではなく、自ら率先してコミットし、信頼の基盤を築くべきだ。そのためには、信頼の“インフラ”を組織内に醸成することが不可欠であり、以下がポイントとして挙げられる。
- 情報のオープン化:全メンバーが必要な情報にアクセスできる環境を整える
- 約束を守る:一度した約束は必ず履行し、信用を積み上げる
即時の対応:問題が発生した際、迅速に対処して信頼を維持する
管理職層:組織の結節点強化
管理職は、経営層と現場のメンバー層をつなぐ橋渡し役として、組織全体の視界を揃える“結節点”の役割を担っている。結節点としての役割を強化していくためには、以下がポイントとして挙げられる。
- 結節すべき“間”の明確化:組織内で自分が結節すべきポイントを明確にし、その役割を認識する
- 結節点の役割理解:結節点は、情報提供、判断行動、情報収集、支援行動という4つの役割を果たす必要があると認識する
- 定期的なモニタリング:組織の状況を定期的に可視化し、問題を早期に把握する体制を整える
メンバー層:個としての自立
メンバーは、会社への依存や他責の姿勢を手放し、組織内で生じる問題も自らの責任として捉える「自立した個」として成長することが求められている。その自立を実現するために、以下がポイントとして挙げられる。
- "アイカンパニー"意識:自分自身を「自分株式会社」の経営者として捉え、主体的・自律的にキャリアを形成する
- 自責スタンスの醸成:問題の発生を他人のせいにせず、自らの行動に責任を持つ
- ポータブルスキル強化:どの環境でも通用する汎用的なスキルを磨き、自らを成長させていく
状況に合わせて適切なアプローチを選ぶ
ここまで東洋思想における有効性を述べてきたが、西洋思想が劣っているということはない。前述の通り、問題解決には最適な改善策をとる必要がある。場合によっては西洋思想による改善策が東洋思想によるものよりも効果的なこともある。
前述の通り、東洋的改善策については結果が出るまでに時間がかかることが多い。そのため、下記のケースのような緊急度が高い場合などは、西洋思想に基づく改善策で短期的な治療を試みることが有用だ。
- 従業員エンゲージメントが非常に低く、既存メンバーの関係修復が困難な場合
- 業績等の社内の都合上、組織変革・編成の緊急度が高い場合
つまり、どちらかを選択するのではなく、状況に併せて効果的な手法を使い分けることが重要である。効果的な改善活動を進めていくためにも本記事が参考になれば幸いだ。
次回は管理職育成について、管理職が育たない理由とともに、詳しく解説していく。
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