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人的資本開示とは?義務化の対象や情報開示項目について解説

目次[非表示]

  1. 1.人的資本とは?
  2. 2.人的資本開示が求められるようになった背景
  3. 3.人的資本開示の準備の進め方
  4. 4.人的資本開示の3つの事例
  5. 5.まとめ

人的資本とは、企業を構成する人材を、投資をすることで価値を生み出すことができる「資本」と捉えた概念のことです。

近年では、投資家が投資判断をする際も、企業の財務情報だけでなく非財務情報である人的資本に着目するようになっており、企業側にも人的資本に関する情報開示が求められるようになっています。

今回は、人的資本について、また人的資本開示が求められるようになった背景などについて解説していきます。

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人的資本とは?

人的資本とは、企業を構成する人材を、投資をすることで価値を生み出すことができる「資本」と捉えた概念のことで、英語では「Human Capital」と言われます。

近年は、人的資本を重視して、人材の価値を最大限に引き出す「人的資本経営」に取り組む企業が増えてきました。

人的資本への投資は、生産性の向上や従業員のモチベーション向上など、多くの効果をもたらします。人材育成や社員の健康管理、福利厚生の充実など、様々な取り組みが企業によって行われています。こうした投資が、企業にとっての競争力を高めることにつながります。

内閣府が公表している「人的資本の測定に関する指針(仮訳)」では、以下のように人的資本の投資による効果をまとめています。

人的資本開示

(参考:内閣府「人的資本の測定に関する指針(仮訳)」 )

また、投資家が企業に対して投資判断をする際には、人的資本に関する情報が求められるようになってきています。企業側も、人的資本への投資や育成に関する情報開示を行うことが求められるようになっています。人的資本の重要性が認識され、企業にとっての価値が高まることが期待されます。

今後も人的資本への投資は、企業にとって重要な課題となるでしょう。人材の育成や福利厚生の改善、ワークライフバランスの充実など、様々な取り組みが求められます。企業は、人的資本への投資を通じて、自社の競争力を高めることができるため、今後ますます重要視されることが予想されます。

▼人的資本経営について詳しくはこちら「人的資本経営」とは何か〜理論と事例から考える、これからの人材マネジメント〜

「人的資本」と「人的資源」は正反対の意味

人的資本は、従来の人材に対する捉え方である「人的資源」とは正反対の考え方です。人的資源とは文字どおり、企業を構成する人材を「資源」と捉えた概念のことで、英語では「Human Resource」と言われます。人的資源の考え方では、人材はあくまでも「コスト」として消費されるものであり、できるだけ最小限に抑えて効率的に管理するのが良いとされます。 

一方、人的資本は、人材を利益や価値を生み出す源泉と捉えているため、人材に要する出費はコストではなく「投資」として認識されます。

人的資本開示が求められるようになった背景

人的資本開示が求められるようになった背景として、産業構造の変化が一つの要因として挙げられます。これまでは製造業をはじめとした第二次産業が中心であり、設備資本と金融資本が利益の源泉となっていたため、人的資本についてはそれほど重視されていませんでした。

しかし、サービス業をはじめとした第三次産業が中心となった近年では、利益の源泉は働く従業員の能力やアイデアとなっています。そのため人的資本の情報がなければその企業の価値を判断するのが難しくなってきており、投資家からは人的資本開示を求める声が高まっています。

ここからは人的資本開示の潮流を作ったともいえる、直近のトピックスについてお話していきます。

 米国証券取引委員会の人的資本開示義務化

2020年8月、米国証券取引委員会は「レギュレーション S-K」といわれる財務情報を開示する要求事項に、人的資本の情報を開示することを義務付ける項目を追加しました。情報の開示内容については企業判断に委ねられていますが、「人材の採用、育成、維持」については開示を期待しています。

米国証券取引委員会が人的資本開示を義務付けたことで、人的資本経営が世界的な潮流となったと言えるでしょう。

情報開示の国際的なガイドラインであるISO30414の公開

特に、海外の企業が人的資本に関する情報を開示するようになった直接的な契機とも言えるのが、「ISO30414」の公開です。ISO30414は、2018年にISO(国際標準化機構)が公開した人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインです。

詳しくは後述しますが、ISO30414では、人件費や離職率、ダイバーシティや組織文化など、企業の人的資本について開示すべき内容が11項目・58指標にわたって定められています。


コンプライアンスと倫理

・苦情の件数と種類

・懲戒処分の件数と種類

・コンプライアンス・倫理に関する研修を受けた従業員の割合

・外部に解決が委ねられた係争

・外部監査で指摘された事項の件数、種類、要因

コスト

・総労働力コスト

・外部の労働力コスト

・総給与に対する特定職の報酬割合

・総雇用コスト

・一人あたりの採用コスト

・採用コスト

・離職にともなうコスト

多様性・ダイバーシティ

・年齢

・性別

・障がい者

・その他

・経営陣のダイバーシティ

リーダーシップ

・リーダーシップへの信頼

・管理職1人あたりの部下数

・リーダーシップ開発

組織文化

・エンゲージメント

組織の健康・安全・福祉

・労災により失われた時間

・労災の件数

・労災による死亡者数

・健康・安全に関する研修の受講割合

生産性

・従業員1人あたりの業績

・人的資本ROI

採用・配置・離職

・募集ポストあたり書類選考通過者

・採用従業員の質

・採用にかかる平均日数

・重要ポストが埋まるまでの日数

・将来必要となる人材の能力

・内部登用率

・重要ポストの内部登用率

・重要ポストの割合

・全空席中の重要ポストの空席率

・内部異動率

・幹部候補の準備度

・離職率

・希望退職率

・痛手となる希望退職率

・離職理由

スキルと能力

・人材開発・研修の総コスト

・研修への参加率

・従業員一人当たりの研修受講時間

・カテゴリ別の研修受講率

・従業員のコンピテンシーレート

後継者育成

・内部継承率

・後継者候補準備率

・後継者の継承準備度

従業員の可用性

・総従業員数

・総従業員数(フルタイム・パートタイム)

・フルタイム当量(FTE)

・臨時の労働力(独立事業主)

・臨時の労働力(派遣労働者)

・欠勤


▼ISO30414について詳しくはこちら:「ISO30414とは?人的資本の情報開示のガイドラインができた背景や導入企業を解説」

人材版伊藤レポートの発表

特に、日本企業において人的資本に関する情報開示が進むきっかけになったのが、「人材版伊藤レポート」の発表です。2020年9月、経済産業省は「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書(人材版伊藤レポート)」を発表しました。

人材版伊藤レポートは、人的資本経営についての取り組みや、人材戦略に関わる経営陣・取締役・投資家の役割などの方策などを検討する研究会の報告書です。一橋大学の特任教授である伊藤邦雄氏を座長とする研究会であることから、「人材版伊藤レポート」と呼ばれています。

人材版伊藤レポートでは、

「持続的な企業価値の向上を実現するためには、ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠である」

としています。そのうえで、

「これまでも、人的資本に関しては定性的な評価や従業員数等の一部の数値が開示されてきたが、人的資本が競争力の源泉となる時代においては、経営戦略との連動という観点で人的資本、人材戦略を定量的に把握・評価し、ステークホルダーに開示・発信することが求められる」

としており、人的資本に関する情報開示の重要性が記されています。

※参考:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~|令和2年9月 経済産業省

コーポレートガバナンス・コードの改訂

現時点において、日本では人的資本に関する情報開示が義務付けられているわけではなく、その対応は各企業に委ねられています。

しかしながら、2021年6月に、東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改定したことによって、上場企業には人的資本に関する情報開示が迫られました。

コーポレートガバナンス・コードの改定により、以下の補充原則が新設されています。

▼補充原則 2-4①

上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。

▼補充原則 3-1③

上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。

▼補充原則 4-2②

取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。

※参考:コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)|株式会社東京証券取引所

人的資本開示の準備の進め方

人的資本に関する情報開示をおこなう際の準備の進め方についてご説明します。

STEP01:人的資本について開示すべき指標を決める

まずは、人的資本について開示すべき指標を決定します。このとき、自社にとって意味がある指標を選定することが重要です。ひと言で人的資本と言っても、様々な指標があり、すべての指標を開示するのは現実的ではありません。

自社のステークホルダーにとって意味のある指標を定義したうえで、意図を持った開示をするようにしましょう。

STEP02:指標に関するデータの有無を確認する

人的資本について開示すべき指標を決めたら、その指標に関するデータが自社にあるかどうかを確認します。現状でどのようなデータが存在しており、どのようなデータが不足しており、新たにどのようなデータが必要なのかを把握します。

STEP03:データを収集・分析をする仕組みを設ける

必要なデータをどのように収集・分析するのかを検討します。また、すでに存在するデータについても、持続的に収集可能なのか、集計や分析は適正な方法でおこなわれているのか、といったことを検討します。

また、必要に応じてHRテクノロジーを導入したり、データ収集・分析を担うチームを設けたりします。そのうえで、データの収集をおこないます。

人的資本開示の3つの事例

人的資本に関する情報開示の事例をピックアップしてご紹介します。

 リンクアンドモチベーションの人的資本開示

リンクアンドモチベーションは日本初・世界で5番目にISO30414を取得した企業であり、日本においては人的資本開示のフロントランナーとも言える会社です。

※参考:日本・アジア初!人的資本に関する情報開示のガイドラインである「ISO 30414」の認証を取得!

リンクアンドモチベーションはエンゲージメントの重要性を啓蒙する会社として「言行一致の経営」を掲げており、エンゲージメントやその他人的資本に関する情報を積極的に開示しています。

・統合報告書でエンゲージメントスコアを開示

リンクアンドモチベーションでは自社プロダクトである組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を自社でも徹底的に活用しており、半年に一度組織診断サーベイを実施することでエンゲージメント状態を可視化しています。

その結果については統合報告書で開示をしており、法人・性別・国籍などあらゆる角度から情報を公開しています。

・自社の組織戦略のポイントについて解説した「Human Capital Report 2021」を刊行

リンクアンドモチベーションでは、ISO 30414のデータをただ網羅的に開示するのではなく、自社の組織戦略について、経営の考え方を含めて重点ポイントをわかりやすくまとめた「Human Capital Report 2021」を刊行しています。

「事業戦略と組織戦略をリンク」する経営モデルに加えて、組織戦略の重点領域である「採用」「育成」「制度」「風土」の4領域についてのマネジメントの詳細を紹介しています。

Human Capital Report 2021は国内の人的資本開示のモデルケースとしても注目を集めています。

※参考:Human Capital Report 2021|Link and Motivation Group


東急建設の人的資本開示

東急建設も積極的に人的資本開示を行う企業の一つです。東急建設では下記の取り組みを行っています。

・長期経営計画のKPIの一つにエンゲージメントスコアを設定

東急建設では企業ビジョン達成に向けて、長期経営計画のKPIとしてエンゲージメントスコアを設定しています。これまでの実績の開示に加え、長期目標として2030年度までの目標値も公表しています。

※エンゲージメントスコア=リンクアンドモチベーションが開発したエンゲージメント度合いを測る指標。企業と従業員の相思相愛度合いを可視化することができる指標となっている。

・統合報告書でエンゲージメントスコアを公表

統合報告書の中でもエンゲージメントスコアを掲載しています。2020年、2021年と掲載の実績があり、国内では比較的早い段階から人的資本開示を行う会社の一つです。

カゴメ株式会社の人的資本開示

カゴメ株式会社は、有価証券報告書において以下のように人的資本に関する情報を開示しています。

  • 女性活躍の推進への取組みに関する目標と実績を記載
  • 働き方改革への取組みとして、年間総労働時間の推移を図示しながら平易に記載
  • 健康経営の推進に関する取組みとして、特定保健指導実施率や高ストレス者比率の推移状況を記載

▼人的資本経営の3つのポイント はこちら

  人的資本経営の3つのポイント|組織改善ならモチベーションクラウド 株式会社リンクアンドモチベーション

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まとめ

2022年は、「人的資本開示の元年」とも言われており、日本においても人的資本経営の推進とともに、人的資本に関する情報開示を検討する企業が増えています。今後、人的資本開示の要請が高まっていくのは間違いありませんので、後れをとらぬよう、ぜひ情報収集と準備に努めてください。

執筆者:LM編集部
執筆者:LM編集部
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