経営戦略とは?策定の流れや企業事例をわかりやすく解説
企業が持続的な成長を実現するためには、経営戦略が明確になっていることが重要です。経営戦略が不明瞭な場合には、有限である経営資源を有効活用することができなくなり、経営にムリ・ムダ・ムラが生じてしまうことがあります。一方で、経営戦略は大きな枠組みの話であるため、具体的な内容や考え方などを把握することが難しいのも事実です。本記事では、経営戦略の意味や用語の説明、事例などをご紹介します。
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経営戦略とは何か?
経営戦略とは、元々軍隊用語として使われていた英語の「management strategy」から来ている言葉であり、企業が掲げているビジョンや経営目的などを達成するための計画や方法の全般を指します。経営戦略には、企業全体の活動方針に加えて、活動に応じた組織体制づくりや財務面での方針など、様々な要素が含まれます。
経営戦略は民間の企業だけではなく、行政や非営利団体といったあらゆる組織で必要とされるものです。例えば、国政においても内閣の方針に沿って経営戦略であるマニュフェストがあり、それに応じて各行政機関が機能しています。
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経営戦略と経営戦術の違い
経営戦略と似ている言葉として、経営戦術があります。まず、戦略とは比較的長い時間で実現したいことを指しているのに対して、戦術とはその戦略を実行するための方法を指している点で両者は異なります。
経営戦略は、企業が中長期的に成長するための方針や計画であり、経営戦術は比較的短期的な成果創出や経営戦略を実行するための施策です。
経営戦略と経営計画の違い
経営計画も、経営戦略と共によく使われている言葉です。経営計画とは、企業経営全体の具体的な計画のことを指しています。単一の事業の場合には事業計画とも呼ばれており、どのような道筋で目標を設定・達成をするのかを描いたものです。
経営戦略がビジョンや目的などを達成するための方針であるのに対して、経営計画は経営戦略を実現するために立てる具体的な計画である点で異なります。
経営戦略と戦略経営の違い
戦略経営とは、戦略的経営とも呼ばれており、戦略的に経営を行うことを指しています。自社が市場の中でどのようなポジションであるのかを明確にして、顧客から選ばれる存在になるように、以下のような戦略の策定や実行、評価を行います。
■戦略の策定
自社の強みや弱み、競合が提供しているもの、顧客のニーズなどを分析して、自社がどのようなポジションで価値を発揮するのかを検討します。この際、経営資源であるヒト・モノ・カネをどのように分配して活用するのかといった具体的なものまで戦略として策定します。
■戦略の実行
必要な組織体制やビジネスプロセスを整えて、策定した戦略を実行します。実行している中で生じた課題については、情報を流通させて経営・現場それぞれが軌道修正ができるようにします。
■戦略の評価
実行した結果を分析して、次の戦略策定に活かします。戦略の実効性や妥当性といったものを評価することで、経営戦略の軌道修正を行います。
経営戦略の目的と必要性
経営戦略は、企業が持続的な成長を実現するために不可欠なものです。場当たり的な経営が続くと、市場ニーズとマッチしたタイミングでは経営が上手くいっているように見えますが、市場変化や組織の変化に対応することができなくなります。
外部環境や組織全体の変化に対応するためには、自社の強みや弱み、発揮している価値を把握して、市場の中でどのような立ち位置で選ばれているのかを把握して、自社の成長戦略を明確にすることが重要です。これに加えて、組織体制についても人数やメンバーのモチベーションの変化に対応することで、目標の達成度合いや業務のクオリティが変わります。
ヒト・モノ・カネといった経営資源を、有効に活用することができる経営戦略を立てることで、企業は変化に強くなりビジョンや目的を実現することができるようになります。
経営戦略の3レベルについて
経営戦略は、全社的な戦略である「企業戦略」、個別の事業ごとの戦略である「事業戦略」、企業の機能別の戦略である「機能戦略」の3つのレベルに分けることができます。それぞれのレベルの特徴を確認しておきましょう。
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①企業戦略
企業戦略とは、企業全体としてどのような事業領域の中で活動をするのかを定めて、どのような立ち位置で成長を目指すのかを決める戦略です。自社が保有している経営資源をどのように活用して、具体的にどのような道筋で成長をしていくのかを考えます。
複数事業を展開している場合には、それぞれの事業でどのような勝ち筋をつくり、事業間でどのようなシナジーを生み出すのかまで検討することで、企業全体の成長を実現することができます。
企業戦略の例として、以下のようなものが挙げられます。
経営理念やビジョンの策定
有効な経営戦略を策定し、企業全体で実行するためには経営理念やビジョンが明確になっていることが重要です。経営理念・ビジョンが不明瞭である場合には、企業として目指すべき方向性が曖昧になり、経営戦略を策定する際にも判断基準が分からなくなってしまうことがあります。
会社全体で大切にしたい考え方や哲学、価値観といったものを言葉にして、誰でもそれを意識できるような浸透施策を考えましょう。
事業領域の定義と資源の分配
企業全体の戦略を考える際には、事業活動を行う事業領域を何にするのかを決めます。定めた事業領域で、どのような立ち位置で顧客に対して価値を発揮するのかといった、事業領域での定義を明確にしましょう。
また、自社の経営資源をどのように分配するのかについても検討が必要です。どの部署や機能にどれだけの人を配置して、どのような資金配分にするのかといったことを決定して、全体の活動が上手くいく体制を整えます。
グループ戦略の策定
グループ経営を行う際には、グループ全体の経営戦略を考える必要があります。単一事業とは異なり、グループ経営を行う際にはグループそれぞれでの事業ビジョンや領域を定めて、経営資源の分配を行うことになります。
加えて、グループがそれぞれ独立しすぎるのではなく、グループ間でどのようなシナジーを生み出すのかについても考えることが重要視されています。グループが協力することで、独立した場合よりも大きな成果を創出することが期待されます。
②事業戦略
事業戦略とは、個別の事業分野としてどのような活動を行っていくのかを考えたものです。それぞれの事業において、どのような顧客や競合が存在し、自社はどのような価値を発揮するのかを検討します。企業戦略と比較すると、絞った対象での戦略になるので、マーケティングや組織づくりなどもより特定の範囲で考えることになるでしょう。
事業を多角化している企業については、その選択と集中を企業戦略で策定すると共に、個々の事業の成果を高める事業戦略の両方が大切になります。
事業戦略の例として、以下のようなものが挙げられます。
市場や競合、自社の分析
事業戦略を考える際には、自社の提供価値を明確にする必要があります。この時、下図の3C分析のように顧客や市場、競合などについても分析を行うことで、より自社の強みや弱み、市場の中での立ち位置を明確にすることができます。
顧客から選ばれる理由である、自社の提供価値が明確になっていると、商品・サービスの在り方を方向づけることができるようになります。
(参考:オリエンタルランドの3C分析)
ビジネスモデルの設定
どのように顧客から選ばれ、収益を出すかといった、ビジネスモデルを考えることも、事業戦略の策定には必要です。競合よりも安く販売するのか、他にはない付加価値を提供するのかといった、自社の商品・サービスの在り方を考えます。加えて、どの部分で収益が発生するのかといった収益の構造を考えることで、事業のコスト・収益のモデルを決定します。
ビジネスプロセスの設定
事業戦略では、どのような流れで顧客に対して自社の価値を届けるかといった、ビジネスプロセスも考える必要があります。例えば、下図のように、「企画・開発」〜「販売」といったプロセスを区切り、それぞれで重要なポイントを整理します。
(参考:オリエンタルランドのビジネスプロセス)
ビジネスプロセスを整理することで、どの部分でどのようなことを大切にするべきなのかといった、プロセスごとに発揮する価値を明確にすることができるでしょう。
③機能戦略
機能戦略とは、企業が事業を推進していくために具体的にどのような機能をつくり、運営していくかを策定したものを指します。営業や経理、生産といった企業内のそれぞれの機能に対して、機能戦略を考えます。
機能戦略はそれぞれの機能の特色や活動範囲に応じて、その機能のビジョンや戦略を考えることになります。また、機能戦略は企業戦略や事業戦略と比較すると、短期的なものを考えることが多くなりますが、企業戦略や事業戦略との接続性があることが重要です。
機能戦略の具体例
機能戦略の具体例として、以下のようなものが挙げられます。
- 営業戦略
- マーケティング戦略
- 財務戦略
- 人事戦略
- 生産戦略
機能戦略を考える際には、企業内の部門ごとに機能戦略を立てる場合と、専門分野ごとの戦略を考える場合があります。いずれの場合についても、機能ごとに独立して戦略を考えるのではなく、全体の戦略や方向性に合わせて機能戦略をそれぞれ考えることが大切です。
経営戦略の分類について
経営戦略は、その考える範囲によって様々な分類を行うことができます。ここでは、分けられることが多い「時間軸による分類」と「空間軸による分類」についてご紹介します。
■時間軸による分類
時間軸による分類では、長期的な戦略であるのか、短期的な戦略であるのかに応じて、経営戦略を分類します。5年〜10年の範囲で考える場合には長期戦略と呼ばれており、企業全体としてどのような状態になりたいのかといった大きな目標を掲げることが多く見受けられます。3年〜5年の範囲で考える際には、中期戦略と言い、長期戦略を細分化したものがその例として挙げられます。1年〜3年の範囲で考える際には、短期戦略と言い、具体的な業務内容といったものを考えます。
■空間軸による分類
空間軸による分類は、企業の中でどの部分で戦略を考えるかによって経営戦略が分類されます。先述したように、全社的な戦略であるのか、事業ごとの戦略か、機能ごとの戦略かによってその内容が変わります。
経営戦略に関連する代表的な用語
経営戦略を考える際には、それに関連する用語について理解を深める必要があります。ここでは、経営戦略に関連する代表的な用語をご紹介します。
①コアコンピタンス
コアコンピタンスとは、企業がその価値を発揮するための要素として、中核を担っているものを指します。企業は他社には真似ができない、自社ならではの強みであるコアコンピタンスがあることで、顧客に選ばれています。
コアコンピタンスとしては、技術力やサービス力、コスト構造といったように、様々なものが挙げられます。自社の強みや特性をしっかりと理解し、自社のコアコンピタンスを明確にすることで、経営戦略が考えやすくなるでしょう。
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②企業遺伝子(企業DNA)
企業遺伝子とは、企業DNAとも呼ばれており、企業において長い期間の中で培われてきた文化や価値観といったものを指します。企業遺伝子はその企業の中で大切にされてきた価値観や行動規範であることが多いため、企業遺伝子を大切に伝達していくことで、その企業らしさを強めることができます。
また、企業遺伝子は社内の雰囲気や文化といった社内向けに影響するだけではなく、その企業のイメージやブランドといった社外に向けた影響も及ぼすことになります。
③イノベーション
イノベーションとは、「革新」という意味を持っている言葉であり、ビジネスにおいてはそれまでにないアイデアによる商品・サービスの開発や、新しい切り口によるビジネスモデルの変化といったことを指します。
イノベーションを起こすことで、企業はそれまでとは大きく異なる提供価値を生み出すことができるため、事業の安定化や非連続的な成長を実現することができます。経営戦略を考える際には、イノベーションが起こりやすい組織づくりや体制づくりを念頭に置いておくケースも多く見受けられます。
④インテグリティ
インテグリティとは、「誠実さ」や「高潔さ」、「真摯さ」を意味する英語である「integrity」からきている言葉です。ビジネスにおいては、組織のリーダーやマネジメントを行う人に対して求められる資質や価値観を指して使われています。
経営戦略を考える際にも、その戦略を実行するリーダーやマネージャーを選定する時にはその人材のインテグリティを考慮する必要があります。どれだけ業務知識やスキルを持っていたとしても、メンバーから信頼を集めることができない場合には、計画を実行し切ることは難しいでしょう。
⑤サステナビリティ
サステナビリティとは、「持続可能性」や「継続的」といった意味を持つ言葉です。近年はサスティナブルな経営をすることへの重要性や注目度が高まっており、世界的にも企業経営におけるキーワードの1つになっています。
「ESG経営」もサステナビリティへの注目から派生した経営戦略の用語の1つです。環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)の3つの要素(ESG)を重視する経営方法です。
昨今、投資の判断基準としてESGの観点が重要視されたことにより、ESG投資が注目されるようになりました。投資家に選ばれるという意味でも、経営においてESGの観点を無視することができなくなっているのが現状です。これまでのような「顧客の創造」だけを追い求め、各企業が顧客の課題解決や願望実現の度合いを競い合っていた時代から、「人と環境の共生」も視野に入れ、持続可能な社会を創っていくことを企業には求められるようになり、経営戦略(企業戦略)の視座は移りつつあります。
⑥アントレプレナーシップ(起業家精神/企業家精神)
アントレプレナーシップとは、起業家精神や企業家精神とも呼ばれており、新規事業の立ち上げや新しいビジネスに挑戦することに対して、高い意欲を持っている状態のことを指します。アントレプレナーシップを持っていると、リスクがあることに対してもそのリターンを考慮して挑戦することができるため、成功した場合には大きな成果を得ることができます。
経営戦略を考える際にも、アントレプレナーシップを育成する戦略を考えることで、企業としての成長性や発展性を高めることができるようになります。
⑦DX(デジタルトランスフォーメーション)
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用して企業や組織のビジネスモデルを根本的に変革し、新たな価値を創造するプロセスを指します。DXは、単に既存のプロセスにデジタルツールを導入することを超え、組織全体の再考と文化の変革を含む包括的な戦略です。
DXの定義としては、情報化推進機構(IPA)によると、「デジタル技術を活用してビジネスモデルを変革し、顧客体験を改善することで持続可能な成長を目指す戦略」とされています。重要な点は、技術だけでなく、顧客体験の向上やビジネスプロセスの最適化を図り、新しい市場への進出やサービスの提供方法の変革を含むことです。
経営戦略の方法と基本的な流れ
経営戦略を策定して、実行する基本的な流れは以下のようになります。それぞれのポイントを理解して、自社の経営戦略を考えましょう。
経営理念やビジョンの明確化
経営戦略を策定する際には、まず自社の経営理念やビジョンを明確にする必要があります。経営理念やビジョンが不明瞭になっている場合は、会社として目指すべき方向性が定まらず、戦略を選ぶ基準が曖昧になってしまいます。
経営理念とは、ミッションとも呼ばれており、「会社として果たすべき使命や存在意義」を言葉にしたものです。会社が何のために存在して、どのような役割を社会の中で発揮するのかについて経営理念にまとめることで、顧客や投資家、関係者などにメッセージを発信することができます。
また、経営理念は企業経営においてまず第一に優先されることであるため、従業員が判断に迷った際には経営理念を優先することで、自社らしい判断を行うことができるようになります。
ビジョンとは、中長期的に会社として「こうありたい」と思う姿や状態のことを指します。ビジョンを策定することで、従業員は会社としてどのような方向を目指しているのかがイメージできるようになるため、現在の仕事の意義や目的を感じやすくなります。
経営理念、ビジョンを明確にすることで、その後の経営戦略の策定においても軸をブラすことなく検討を行うことができます。
外部環境の分析
次に、自社がどのような環境の中にいるのかを把握するために、外部環境の分析を行います。外部環境の分析を行う際には、3C分析やファイブフォース分析、PEST分析のようなフレームワークを活用すると考えやすくなるでしょう。
一方で、フレームワークを埋めることが目的になってしまうと、適切に外部環境を把握することができない場合があります。フレームワークはあくまで手段であるため、「外部環境を分析することで、自社の発揮すべき価値」を明確にすることが目的であることを忘れないようにしましょう。
外部環境としては、市場の規模や顧客ニーズ、競合の提供しているものなどを把握します。顧客や競合の動向や状態を知ることで、事業を成功させるために重要な要因である「KSF(Key Success Factor、重要成功要因)」を抽出することができます。
KSFを抽出することで、自社にある経営資源をどのように分配・活用するかを考えることができるようになります。例えば、他社が価格の安さを競争優位性としている中で、顧客は丁寧なサービスを求めていることが分かった際には、KSFは「サービス力の強化」になります。その際には、従業員のサービス力向上に注力すると共に、顧客の満足度を評価の基準に入れるといった全体像を描くことになります。
内部環境の分析
外部環境を分析すると共に、内部環境を分析することも重要です。内部環境とは、経営資源であるヒト・モノ・カネの情報を指します。適切に内部環境を分析することで、KSFを満たすための強みや弱みを把握することができます。
内部環境の分析方法としては、損益計算表(P/L)や賃借対照表(BS)、キャッシュフローといった財務面での情報や、従業員エンゲージメントや従業員満足度といった人事面での情報などを収集して、その結果の理由や背景、影響を調べます。
戦略オプションの立案と選択
戦略オプションとは、目的に即して用意する戦略のパターンのことを指します。戦略オプションを複数検討することで、様々な状況に応じた対応策を準備することができます。複数の戦略オプションを立案した後には、経営理念やビジョンとの接続性や外部・内部の状況に応じて、実行するものを選択します。
戦略の実行
戦略を選択した後には、実際にそれを実行します。戦略の実行途中では、その時点での予実の状況や見通しなどを適宜振り返り、PDCAを回します。また、この際には事業として売上や利益を管理するだけではなく、利益を生み出すための組織状態や従業員のモチベーションといったものについても把握して、コミュニケーションや育成制度、評価制度などを見直していくことが大切です。
戦略の振り返り
経営戦略として設定していた期間が終わった後には、戦略の振り返りを行います。振り返りを行う際には、上手くいかなかったことだけではなく、上手くいったことについても振り返って、網羅的に評価できるようにします。場合によっては、経営理念やビジョンに立ち返って、経営戦略のあり方そのものを見直すことも必要です。
経営戦略の成功事例
ここまで、経営戦略の内容やその策定・実施の流れについてご紹介してきました。ここでは、実際に優れた経営戦略により事業を成長させた事例についてご紹介します。
株式会社小松製作所
大手建設機械メーカである株式会社小松製作所(コマツ)は、優れた経営戦略によりグローバル展開を成功させた好事例です。
当初、コマツは日本国内を中心として建設機械の製造・販売を行っていました。しかし、国内の建設機械の市場が飽和してしまい、国内市場での成長が見込みづらいといった課題を抱えていました。その中で、コマツは事業発展のチャンスを海外市場に見出して、グローバル展開へと進出しました。
グローバル展開をするにあたって、コマツでは以下のような経営戦略を実行しています。
■ダントツ経営によるイノベーションの促進
コマツでは、「ダントツ経営」と呼ばれる経営手法により、成長スピードや提供価値の向上を行っています。
ダントツ経営では、「ダントツ商品・ダントツサービス・ダントツソリューション」を掲げており、技術向上のために社内外から積極的に情報を収集・活用しています。目的立脚でのオープンな経営により、業界内でのイノベーションを促進しています。
■コムトラックスによるICT技術の活用
コムトラックスとは、建設機械のGPS情報からその稼働状態を管理することができるシステムです。コムトラックスを導入することで、海外で課題となっていた建設機械盗難を減少させました。
また、コムトラックスの情報を活用することで、ユーザーは建設機械稼働の最適化や業務改善を行いやすくなり、コマツの建設機械へのニーズを高めています。
■コマツウェイによる価値観の共有
グローバル展開を行うことで、会社の価値観が薄まることがあります。価値観が薄まることで、業務クオリティのムラが生まれてしまい、顧客からの評価を下げる原因となります。コマツでは、コマツウェイというコマツらしい価値観や考え方をグローバルで共有しており、判断基準や行動水準を統一しています。
結果として、コマツは世界2大建設機械メーカとして成長し、大きな市場規模で選ばれる存在となっています。
(出典:株式会社小松製作所「新たな中期経営計画(2019-2021年度) 「DANTOTSU Value - FORWARD Together for Sustainable Growth」をスタート」)
(出典:株式会社小松製作所「コムトラックス」)
(出典:株式会社小松製作所「コマツウェイ」)
富士フイルム株式会社
大手精密化学メーカーである富士フイルム株式会社は、事業の転換や多角化に成功した企業です。
富士フイルムは、当初写真フィルムの製造・販売を行なっていました。しかし、1990年代からデジタルカメラの技術が発展し、一般的にもデジタルカメラが普及し始めました。その中で、富士フイルムのメイン事業である写真フィルムの需要は大幅に減少し、富士フイルム自体も経営難に陥りました。
その中で、富士フイルムはデジタル化の波は一過性のものではなく、市場を大きく変えるものであると危機意識を抱き、事業の転換や多角化に踏み切りました。富士フイルムが行なった多角化戦略は、アメリカの経営学者である、イゴール・アンゾフの提唱した「アンゾフの成長戦略」に沿っていることで有名です。
アンゾフの成長戦略では、「既存・新規の市場」と「既存・新規の技術」でマトリクスを作り、それぞれ掛け合わせで戦略を整理・検討する手法です。富士フイルムでは、これに沿った自社のコアコンピタンスの抽出を行い、既存の技術・市場から新規事業への展開を行いました。
例えば、写真フィルムの技術を応用して、液晶保護フィルムに進出することで、高い技術力を活かして良質な商品を提供して市場で地位を得ました。また、写真フィルムの乾燥を防ぐためのコラーゲン応用技術を活用して、化粧品の技術を確立し、その市場に進出しました。
結果として、富士フイルムは写真フィルム市場の縮小を乗り越え、多角的な事業展開を成功させています。
(参考:富士フイルムの成長戦略)
(出典:富士フイルム株式会社「中期経営計画 VISION2023」)
(出典:富士フイルム株式会社「富士フイルムグループの成長戦略」)
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Spotify
Spotifyは、それまでの音楽ストリーミングサービスとは異なる、斬新な軽戦略を採用しました。その結果、業界に対する大きな革命をもたらすことができました。Spotifyが当初から採用していたのは、膨大な数の音楽を自社でストックするのではなく、クラウドベースのプラットフォームを通じてユーザーに音楽を直接提供するという方法でした。このアプローチにより、高額な初期投資を必要とせずに、一方で世界中どこからでもアクセスできる便利なサービスを提供することが可能となりました。
さらに、Spotifyは音楽を聴く利用者の行動データを詳細に分析し、その結果を基に個々の音楽好みにピッタリ合った、パーソナライズされたプレイリストを提供することで、顧客満足度を大幅に向上させることができました。このようなユーザー中心の軽戦略は、Spotifyが音楽業界のリーダーとなるための強力な推進力となり、大規模なユーザーベースとそれに伴う広告収入を獲得することに成功しました。
インスタグラム
インスタグラムは、元々は写真共有アプリとしてスタートしましたが、そのシンプルさとユーザー中心の設計により、急速に多くの人々から愛されるプラットフォームになりました。その魅力の源泉は、モバイルファーストという先見の明にあります。スマートフォンユーザーが直感的に利用でき、簡単に写真を共有できるようにすることに焦点を当てたインスタグラムの戦略は、画期的だったのです。
初期のインスタグラムが提供していたのは、基本的な写真フィルター機能とシェア機能のみでした。しかし、そのシンプルさが逆にユーザーに受け入れられ、多くの人々を引きつけることとなりました。ユーザーが自分の生活をクリエイティブに表現し、共有するための新たな道具が手に入ったのです。
それからインスタグラムは、ユーザーからのフィードバックを元に、ストーリーズ機能やビデオ投稿など、新たな機能を次々と追加してきました。ユーザーの要望に柔軟に応える姿勢が、このプラットフォームをさらに成長させる一因となりました。
経営戦略を学ぶ方法とは?
経営戦略を学ぶ方法は多岐にわたりますが、その中でも特に効果的な学習方法を三つ挙げて解説します。これらの方法を通じて、経営戦略の理論を学び、実際のビジネスシーンでの応用能力を高めることができます。
専門書籍とケーススタディの研究
経営戦略に関する専門書籍は、理論的な基盤となる知識を提供します。また、ハーバード・ビジネス・スクールが出版するようなケーススタディを読むことで、実際のビジネス状況での戦略立案とその影響を具体的に理解することが可能です。
ケーススタディは実際の企業が直面した問題とその解決策を詳細に記述しており、理論だけでなく実践的な知識を得るのに役立ちます。この方法は、自身で考え、解析する力を養いながら、さまざまなビジネスモデルや戦略の成功例および失敗例を学ぶのに適しています。
オンラインコースやセミナーへの参加
世界中の多くの大学や専門機関が提供するオンラインコースやセミナーに参加することで、経営戦略についての最新の知識とトレンドを学ぶことができます。
これらのプログラムは、しばしば実務経験豊富な講師によって教えられ、リアルタイムでの質疑応答やディスカッションを通じて、より深い理解を促します。また、様々な背景を持つ他の受講生とのネットワーキングは、新たな視点を提供し、自身の知識を広げる機会となります。
インターンシップや実務経験
実際に企業でインターンシップを行うことや、経営戦略関連の職に就くことは、学んだ理論を現実のビジネス環境で応用する最も効果的な方法です。実務を通じて得られる経験は、教室や書籍では得られない貴重なもので、戦略的思考や意思決定スキルを磨くのに役立ちます。また、実際のビジネスの問題を解決する過程で、理論の適用範囲と限界を理解することができます。
人材戦略ならモチベーションクラウド
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まとめ
経営戦略とは、企業が中長期的にどのような成長をするのかといった方針を定めたものです。経営戦略を策定することで、企業は環境の変化に強くなり、経営理念やビジョンの実現へと前進することができます。経営理念を策定する際には、経営理念やビジョンを明確にすると共に、外部環境や内部環境を適切に分析することが大切です。
また、経営学において、「意図的戦略」と「創発的戦略」という言葉があるとおり、すべての経営戦略があらかじめ計画されたものである必要はないと考えられています。昨今、安定した事業経営には、予期せぬ事態を想定し柔軟に戦略を変更することも重要です。実態としては創発的戦略をとっている企業が圧倒的に多く、また、戦略が変わっていったとしても、最終的に目指している状態は変わらないので「計画の変更がある=無計画である/意図的戦略と比べて劣っている」ということではありません。
自社の目指す姿や現状を適切に把握して、持続的な成長を実現できる経営戦略を策定・実行しましょう。
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