自治体の退職率はエンゲージメントで変わる?調査データで見る相関と打ち手

今、自治体の人材を取り巻く環境は3つの難局に直面しています。採用試験の受験者数が減り続けている人材の『採用難』、若手職員を中心とした退職や休職による人材の『定着難』、管理監督職を志す人材がいない『昇任難』です。本記事では、当社の調査データから自治体職員のエンゲージメントと退職率の関係を示し、皆さまの組織の未来を考えるきっかけを提供します。
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自治体にも押し寄せる「人材流動化」の波
かつては分厚い壁に隔てられ、異なる市場と考えられていた行政機関と民間企業。しかし、今、労働市場における両者の壁は崩れ、雪解けの時を迎えています。長らく行政機関の退職率は1%前後にとどまり、15%前後の民間企業とは大きな差がありましたが、その前提が崩れつつあるのです。今後およそ5年で、行政機関、特に若手職員の退職率は10%ほどまで上昇すると予測されています。
この背景には、日本全体の労働市場が大きな転換期を迎えていることがあります。今後20年で労働力人口は2割超の減少が見込まれ、働き手の確保が年々難しくなることは明らかです。また、転職市場の活性化・オープン化に伴い、転職者数は年々増加傾向にあり、2022年には過去最多を更新しました。社員クチコミサイトの登場が、組織の内部情報へのアクセスを容易にしたことで、「選ばれる組織」と「選ばれない組織」の二極化が加速しているのです。
特に自治体においては、この流れがより顕著に現れています。公務員試験の申込者数は減少傾向にあり、国家公務員採用総合職試験においては、毎年約4%ずつ申込者数が減少しています。

さらに、組織への定着においても課題が山積しており、地方公務員・国家公務員ともに30代以下の若手職員の退職率は増加傾向にあります。これらは自治体組織の持続可能性に関わる深刻な課題となっています。

総務省も後押しする、人材マネジメントの考え方
総務省は、令和5年3月に「地方公共団体における人材マネジメント推進のためのガイドブック」を発行し、その推進を強く要請しています。この人材マネジメントは、職員のエンゲージメントを高め、能力を最大限に引き出すことで、人材不足が深刻化するなかでの複雑な行政課題の解決を目指すものです。また、個人の成長を組織力の向上につなげるためには「人材の確保、育成、評価、配置、処遇等を戦略的に実施する」ことが重要です。これは従来の属人的な人事管理から脱却し、データと戦略に基づいた計画的な組織運営への転換を促す重要な指針と言えます。
“選ばれる自治体”になるための鍵:エンゲージメント
人材マネジメントを推進する上で、最も重要なのが「エンゲージメント」です。当社では、エンゲージメントを「組織と職員の相互理解・共感度合い」と定義しています。これは、組織が目指すビジョンや仕事内容に対して、職員がどれだけ愛着や情熱を持っているかを測るものです。自治体が再び労働市場で選ばれる存在となるためには、エンゲージメントの高い組織づくりが欠かせません。
エンゲージメント向上のための取り組みとして、自治体における事例はごく僅かである一方、民間企業では10年以上前から先行的な取り組みが行われております。当社では、13,460社のエンゲージメント向上を支援し、直近5年間では21の自治体に対してエンゲージメント調査を行っています。
当社のエンゲージメントサーベイにおける調査項目は学術的観点に基づいて設計されており、組織課題等の抽出の抜け・漏れを防ぐために網羅的な16領域32項目の設問で構成されています。また、行政向けの設問も2022年の9月に開発し、行政職員の皆様が回答しやすい設問文面で設計しております。満足度に加え、期待度を活用することで、職員の現状認識が分かるため、優先して対処すべき課題が明確になります。職員は満足を高める対象としての「お客様」ではなく、共に良いまちづくりを行っていく「仲間」です。何を大切にして活動していくかの期待がすり合っていることが重要です。

【調査結果】エンゲージメントと退職率の相関
では、職員エンゲージメントを高めることのメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。当社が5自治体4,814名を対象に、令和6年度上半期の期間で実施したサーベイを通じて調査した結果、エンゲージメントが高い組織ほど退職率が低い傾向が見られたのです。上図はその調査結果であり、対象組織をエンゲージメントスコア5点刻みで5つの群に分け、退職者数と職員数を合算したうえで退職率を計算しています。

具体的には、エンゲージメントスコアが40未満の「低エンゲージメント組織」では4.17%もの高い退職率が見られる一方、スコアが55以上の「高エンゲージメント組織」では退職率が1.90%と、半分以下に抑えられています。当社が過去に実施した調査では、自治体の初回調査時における平均スコアはCランクでした。もし、Aランク水準までエンゲージメントを高めることができれば、退職率は約1.5~2%の抑制が見込めるのです。
仮に、職員数が1,000名の自治体であれば、年間15~20名程度の退職抑止に相当するということです。
現在、多くの自治体が直面している「若手職員の退職増加」という喫緊の課題に対しても、このデータは重要な示唆を与えています。退職防止策として一般的に考えられがちな、給与水準や福利厚生の充実といった「待遇の魅力」に頼るだけでは、本質的な解決には至りません。むしろ、職員が組織に対して抱く愛着や、自身の仕事に対する情熱といったエンゲージメントの向上こそが、職員の定着を促し、組織の持続的な成長を可能にする根本的な解決策となりうるのです。
おわりに
自治体を取り巻く環境の変化、そしてエンゲージメントと退職率の相関について、データに基づいた客観的な事実をお伝えしました。次回以降、これらの課題に対する具体的な「解決の糸口」をさらに深く掘り下げていきます。具体的には、エンゲージメントの低下を引き起こす「組織症例」にはどのようなものがあるのか、そしてそれらを解決するための「処方箋」を提示し、実際に変革を成功させた自治体の事例についてご紹介します。


