なぜ若者は公務員を選ばなくなったのか データで解剖する自治体の「採用難」の正体

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データで解剖する採用難の正体
自治体は今、採用難・定着難・昇任難という「3つの難局」に直面しています。前回までのエンゲージメントスコア(ES)と退職率の分析に続き、「採用難」に焦点を当てる今回の記事では、危機的な公務員採用の現状をデータで可視化し、その原因とリスクを解明していきます。次回の解決策編に向け、未来の人材獲得への足がかりとして現状をご一読ください。
■データが示す公務員志望者の減少
日本の都道府県庁職員採用試験、特に大卒程度(一般行政職)の応募者数は、近年、減少傾向にあります。これは、少子化による採用適齢人口の減少というマクロな要因と、公務員という職業の相対的な魅力低下というミクロな要因が複合的に作用した結果です。
2016年度と2025年度を比較すると、都道府県庁の地方上級(行政系)採用試験の平均倍率は約7.2倍から約3.9倍に低下しています。これは競争環境の緩和ではなく、2023年度までの受験者数減少と、団塊の世代の定年退職に伴う採用予定数の増加に起因しています。
一方で、直近2年は採用予定数の増加や採用手法の多様化に伴って、受験者数は回復傾向に見えます。この成功要因については後述します。

採用難が組織にもたらす負の連鎖
採用倍率の低下は、組織に負のスパイラルを引き起こす引き金となり得ます。
採用倍率が低下すると、人員確保のために合格基準を緩和せざるを得ない状況に陥りがちです。合格者に占める優秀な人材の割合が低下します。優秀な人材とは、即戦力となる知識や意欲、長期的な成長ポテンシャルを持つ人材です。その結果、組織全体の人材の質が低下するリスクが年々高まります。
この質の低下は、育成コストの増加に直結します。基礎スキルやマインドセットの習得に時間を要する職員が増え、現場指導者の負担が増大するのです。結果として組織全体の生産性が下がり、不足をカバーする既存職員への負荷はさらに増すことになります。
さらに、既存職員への業務負荷の集中は、職務満足度と組織への帰属意識、すなわちエンゲージメントを低下させます。そして、過去の記事で述べたようにエンゲージメントの低下と退職率との間には関連が見られます。生産性の低下と業務負荷の増加は、職員の「働きがい」と「健康」を蝕み、メンタル不調による休職や早期退職の増加という深刻な事態を招くおそれがあります。これが、自治体が直面する「負のスパイラル」であり、早急な対策が求められているのです。

民間との差を生む「待ちの採用」
受験者数が減少している根本原因は、労働市場の変化や民間の採用力向上に対応できていない、行政機関の伝統的な「待ち」の姿勢にあります。
かつて自治体は、特別な採用活動を行わずとも、「安定」というブランド力を背景に、地域における圧倒的な人気就職先としての地位を確立していました。一方で民間企業は、優秀な人材の獲得競争を勝ち抜くべく、インターンシップや説明会、採用サイトの充実など、労働市場に向けて自社の魅力を発信する努力を絶えず続けてきました。
加えて、若者の働く価値観やキャリア観の多様化が進み、SNSや口コミサイトを通じて職場のリアルな情報が容易に入手できる時代となりました。その結果、当初は公務員を志望していた学生層でさえも、積極的な採用努力を続ける民間企業の魅力に惹かれ、就職先の候補を公務員から民間企業へと転換するケースが増加しているのです。

若者の理想と公務員像のギャップ
また、若者の仕事観の変化と、行政機関のイメージとの間には致命的なミスマッチが存在します。
先行き不透明なVUCAの時代においては、もはや「安定」ではなく、自らの市場価値を高める成長環境を求める若者の割合が増えています。
しかし、行政機関に対しては過度に「働きやすさ重視」の風潮が強調され、「成長できない環境」という印象が学生たちの間で広まることとなりました。
さらに、SNSや企業内部の口コミサイトが普及したことで、旧態依然とした組織風土、非効率な業務プロセスといったネガティブな側面に関する情報が、真偽を問わず拡散されやすくなりました。これにより、自治体の「硬直的な組織」といったイメージが固定化されてしまっています。
このような、若者が求める成長環境と、固定化された自治体のネガティブな認識とのギャップも、採用倍率の低下を招く大きな要因の一つです。これを食い止めるためには、従来の「安定性」に頼る採用ブランドから脱却し、労働市場における認識そのものを変革する取り組みが不可欠です。
受験ハードルを下げるだけでは解決しない
受験者数の減少に対し、対策に乗り出した多くの自治体が現在注力しているのは、受験者を「集める」段階の施策です。具体的には、主に以下の二点があります。
■試験の廃止・見直しと民間企業の選考方式の採用
公務員試験対策の負担が、民間企業を検討している学生にとって大きな心理的ハードルとなっている現状を踏まえ、SPIなどの民間企業で広く使われる適性検査を導入する自治体が増えています。これには、公務員を視野に入れていなかった層も含め、受験者の間口を広げる効果があります。
■試験実施時期の早期化と複数回実施
優秀な人材が民間企業への就職を意思決定する前に接触するため、公務員試験の実施時期を前倒ししたり、従来の統一試験以外にも特別枠や経験者採用を多様化・複数回実施したりする動きが加速しています。例えば、一部の都道府県では、従来の6月・7月の試験に加えて、4月や5月に「早期枠」を設けています。
組織の魅力を伝え、共感する人材を増やす
これらの施策により、受験者数は一時的に増加するでしょう。しかし、それは受験のハードルを下げた結果に過ぎず「職場の魅力が十分に伝わっていない」という根本課題は解決しません。結果、辞退者が増えるばかりで、真に優秀な人材の確保にはつながりません。
認識すべきは、図に記載されている組織の魅力、特に 「社会貢献性」や「やりがい」といった本質的な価値を、志望者に深く届けられていない現状です。単に受験者を増やすための数合わせではなく、「魅力的で長く働きたい職場」と思ってもらう共感者づくりの活動への転換が急務なのです。

採用は「選ぶ」から「口説く」へ
採用活動とは、「入りたい人材から選ぶ」活動ではなく、「採りたい人材を口説く」活動です。自治体はこれまで、前者の活動に注力してきました。誰もが入りたいと羨む人気就職先であれば、入りたい人材から厳選すれば何も問題ありません。しかし、そうでない就職先は自ら採りたい人材がいる場所に出向く必要があるのです。
自組織への興味関心が低い求職者の方々に対しても、組織が持つあらゆる魅力や提供できる価値を丁寧に伝え、口説ききるくらいの積極的な姿勢が、現代の採用活動には求められています。
おわりに
今回は、応募者減少の要因と、ハードルを下げるだけでは解決しない本質的な課題について整理しました。「安定」だけで人が集まる時代は終わりを迎えています。今求められているのは、組織の魅力を磨き、欲しい人材と深く結びついて口説き落とす能動的な採用活動への転換です。
次回は、そのための採用戦略を解説します。ターゲット、ポジショニング、タイミングの3つのポイントを軸に、自治体が勝ち抜くための具体論に迫ります。


