
WEBメディア業界 経営者座談会 〜経営の壁とその乗り越え方〜
【特別企画】
業界別座談会 WEBメディア業界編。今回は下記の3社の経営者にお越しいただき、自社の経営において今悩んでいること、昔経験してきたこと、そしてこれからやりたいと考えていることなどをざっくばらんにお伺いしました。
■「生活者中心の市場創造」をビジョンに掲げ、国内最大のコスメ・美容の総合サイト
「@cosme」を運営する、東証一部(現東証プライム市場)上場 株式会社アイスタイル。
■「結婚を、もっと幸せにしよう。」という経営理念のもと、
クチコミ掲載数日本最大級を誇る結婚準備クチコミ情報サイト「ウエディングパーク」をはじめ複数のウエディング専門メディアを運営する、株式会社ウエディングパーク。
■「ヒト・オリエンテッドなデジタルマーケティングでみんなの明日が変わるキッカケを生み
出し続ける」をミッションに掲げ、日本最大級の初心者向けFX入門サイト『エフプロ』や
転職に悩む人の「次の一歩」を応援するサイト『HOP!ナビ(ホップナビ)』を運営する、株式会社キュービック。
- 出た話題 -
・判断軸はフォーユーザーか?フォークライアントか?
・ユーザー目線と売上拡大
・メディアの“らしさ”の維持と変革
【スピーカープロフィール】
株式会社キュービック 代表取締役 世一 英仁氏
株式会社ウエディングパーク 代表取締役社長 日紫喜 誠吾氏
株式会社アイスタイル 代表取締役社長 CEO 吉松 徹郎氏
【モデレーター】
株式会社リンクアンドモチベーション カンパニー長 田中 允樹
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国内有数のWEBメディアの運営を行う3社 各社の悩みとは
田中 允樹(以下、田中):お忙しいところ、お集まりいただき有難うございます。本日のテーマは「WEBメディア業界 経営者座談会」です。お三方にお伺いしたいのは、WEBメディア事業を経営されてきた中でご経験されてきた、壁やその乗り越え方です。
株式会社キュービック 代表取締役 世一 英仁氏(以下、世一氏):キュービックの世一と申します。「ヒト・オリエンテッドなデジタルマーケティングでみんなの明日が変わるキッカケを生み出し続ける」をミッションに、ヒトのココロを動かすインターネットメディア事業を手がけています。
初心者のためのFX比較サイト「エフプロ」 、債務整理の基本を誰でも分かるように発信している誰でも分かる債務整理「リリブ」 、暮らしをおいしく便利にするウォーターサーバーの比較サイト「ミズコム」 、『もっといい求人』を探す人のための転職支援サイト「HOP!ナビ(ホップナビ)」 、看護師専門の転職情報サイト「ココナス」など、十数個のWEBメディアを運営しています。
従業員は今、300人ちょっとで、6割ぐらいがメディアを運営して、KPI改善をするとか、コンテンツの企画を作るとか、分析実装部隊のデジタルマーケティングの人材です。
デジタルマーケティングの人材は今かなり枯渇していて、かつそれに加えてカルチャーフィットしている人となるとほとんど採用できません。そのため社内からも育てていくしかない。そこは結構課題になっていますね。
株式会社ウエディングパーク 代表取締役社長 日紫喜 誠吾氏(以下、日紫喜氏):ウエディングパークの日紫喜です。私たちは国内の結婚式場を探すことができるクチコミサイト、ウエディングパークというメディアを運営しています。
一昨日(※取材当時 2019年9月)、会社が設立20周年でした。かなり長いメディアだと思います。私たちのメディアは、ブライダル業界において、クチコミサイトを日本で最初に提供したメディアです。
その他、海外ウエディングのメディアや、結婚式は挙げないけど写真だけ撮るという“フォトウエディング”希望のカップルがフォトスタジオを探すことができるクチコミサイト『フォトレイト』、結婚指輪・婚約指輪に特化したクチコミサイト『リングラフ』、ウエディングドレスのクチコミサイトなど、ブライダル専門の複数のサイトを基本的に全部内製で作っています。
従業員数は全部で180名程度でやっておりまして、リンクアンドモチベーションさんのモチベーションクラウドを入れさせてもらったのが、70名ぐらいの時でした。
モチベーションクラウドは、100人の壁を乗り越えるために導入させていただき、改善活動の結果、AAAを獲得、「Best Motivation Company Award 2019」(※リンクアンドモチベーションで毎年実施している、前年の従業員エンゲージメント調査を実施した企業から選出された、エンゲージメントスコア(従業員エンゲージメントの偏差値)が高い企業を表彰する)では、対象企業1,213社の中で7位でした。
株式会社アイスタイル 代表取締役社長 CEO 吉松 徹郎氏(以下、吉松氏):アイスタイルの吉松と申します。サービスとしてはアットコスメという化粧品のクチコミサイトを運営しています。実は今年、ウエディングパークさんと同じく20周年です。今、グローバル連結で1500名ぐらいの人数です。
これまでに直面した経営課題としては、100人から300人の社員数のとき、意思決定の一番大事な軸はフォークライアントなのかフォーユーザーなのか、という点で悩んだことが一番大きいですね。
メディアがスタートした時、社員数20人ぐらいまでの時期は、圧倒的に化粧品に詳しい人たちが集まって、フォーユーザー視点で、こういうユーザーの課題を解決していくんだというところからスタートするわけですが、途中でクライアント仕事が入ってくるようになります。
そうすると、クライアント側にいる場合とユーザー側にいる場合で判断が異なり、意思統合が大変になっていきますね。
モチベーションクラウドを使い始めたのは、ちょうど3年前で、その時は全体で600〜700ぐらいで、今は1500人まで拡大してきました。
田中:ありがとうございます。
判断軸はフォーユーザーか?フォークライアントか?
日紫喜氏:吉松さんに質問です。先程のフォーユーザーかフォークライアントかという話しで、社長としてはどちらを判断軸にするかっていうのは明確に打ち出しているのか、あまりそこは言わないようにしてるのかで言うとどちらですか?
私たちの会社では、フォーユーザーかフォークライアントか、ではなく、クライアントの情報を提供すること自体がユーザーに価値があるはずなので、どう価値を高めるかを議論すべきだ、ということを伝えています。
吉松氏:うちでは、ビジョンや理念などと紐付けながら、フォーユーザーとフォークライアントの利益をうまく調和させてほしいと伝えていますね。皆様はどうされていますか?
世一氏:私たちの会社では完全にフォーユーザーだとしています。私たちの会社では、そもそもミッションを「ヒト・オリエンテッドなデジタルマーケティングでみんなの明日が変わるキッカケを生み出し続ける」と置いており、ユーザーにフォーカスしています。
まず、クライアントとユーザーの間に自分たちを位置づけるのって、もう間違っていると思うんです。クライアントとユーザーの間にたって、その2つを“つなぐこと”をミッションにしてしまうと、自分たちがドライバーとして何か価値を作っていくという意思が薄れる。
だから私たちは、クライアントと共にユーザーへ向かいたいと当初から考えていました。フォーユーザーであれば、どんなときも正しい意思決定ができると信じています。
日紫喜氏:僕らはまず会社の経営理念があります。「結婚を、もっと幸せにしよう。」という理念で、インターネット×ブライダルを事業の軸にしています。
それを説明する時に、「三方よしでいこう」と社員にはよく伝えています。三方とは、①カップルを幸せにする、②ブライダル業界を幸せにする、③社員を幸せにする、の3つです。①はユーザー、②はクライアントの視点にあたりますね。
私たちの場合の悩みとしては吉松さんと似てるかもしれません。僕らの立ち上げの時は、カップルのいわゆる“リアルな情報”が日本に流通してなかったので、やっぱりクチコミを守らないとメディアでないと言いますか、存在意義が薄れてしまいます。
そのクチコミをいかにクライアントから守るか。要は消させないということなんですが、ここは、社長じゃないと守り切れないので、ユーザーのクチコミを守るために、5年間僕が1件1件クチコミの承認・削除受付をやっていました。
クライアントが「あれ消してくれ」って言われても「いやいや無理ですよ」と。ただ、それずっとはやり続けられない、かつある程度カルチャーもできてきているので、引き継いでもやれそうな役員に役割を渡しています。
今はどちらかと言うと、トップラインを伸ばすために僕が営業の方に回って、メディアとしてクライアントのニーズをキャッチできるようにしています。
別の悩みとしては、ウエディングパークというメディアをやり続けて、社員数100人を超えるまでになったんですが、これからさらにスケールさせるにあたって第二、第三の柱を作らなければいけないと思っています。
最近は、例えば広告代理店のような組織を作って、運用型広告をブライダル企業に販売するという事業を伸ばし始めました。ただ、中核となるメディア事業以外の新規事業を急速に伸ばし始めると、会社としての一体感が少し薄れてきてしまうんですよね。
なので、新規事業と既存事業をいかに束ねていくのかは、今少し悩みながら経営しています。
ユーザー目線と売上拡大について
吉松氏:他にメディア運営であるのが、売上規模をどう考えるか。例えばユーザーが仮に500万人、会社の利益が売り上げ10億だったとします。
例えば、そこから売上を2倍の20億にすることって、別にユーザー目線じゃないじゃないですか。なぜ売り上げ規模を大きくしなければいけないのか、ということは社内で話に上がったりしませんか?
世一氏:なぜ売上を拡大していかなければいけないのかという問題は、あまりうちの社内では聞きませんね。売上の総量は私たちがどれだけユーザーに価値提供できているかの指標だという意識が浸透している。そのことは大きいように思います。
私たちの運営するWEBメディアは、テレビや新聞などの、ユーザーが受動的なメディアと異なって、能動的にアクセスしてもらう必要があります。ここで大事なのは、能動的にアクセスしてきたユーザーに、「課題解決ができた」という感覚をいかに持ってもらえるかです。
課題の解決とクライアントの商品サービスのご紹介というのは結構つながりやすいんですよね。なので私たちは、課題解決の総量を売上と紐付けることで、皆納得できていると思います。
田中:なるほど。逆に吉松さんそこが気になられるっていうのは、どういうところから入る?
吉松氏:メディアのユーザーが増えたときに、1,000万人のユーザーに向けてワンブランドで発信していくのか、それとも、100万人のユーザーに向けて10のエッジのある発信をしていくのか、ということは難しい問題だと思います。
ワンブランドでやると、ユーザーの課題解決が薄くなっていくし、反対にメディアを分散すればするほど勿論コストはかかります。このあたりは、メディア企業の成長としてはよく出てくる課題ではないでしょうか。
日紫喜氏:僕らのメディアは結婚する人だけをターゲットにしてはいますが、今はもうかなりのユーザー数ですから、吉松さんの仰るような課題感はまさにありますね。
僕らの成り立ちで良かったなと思うのは、元々サイバーエージェントのグループ会社だったという点です。
どういうことかというと、撤退ルールというものがあって、ちゃんと売上と利益を出さないと継続できず、良いサービスをつくるべきだという思想と合わせて、収益の重要性も創業メンバー一同が感じていたのがとても良かったことでした。
僕らの会社は上場しているわけではないですけど、そういう思想の中で生まれ育ったということで、自然と社員にも浸透している気がしますね。
あとは、やっぱり僕らは、どちらかと言うとビジョンで引っ張ってるんです。僕らのビジョンは「21世紀を代表するブライダル会社を創る」ですが、そういう意味で言うと、クチコミサイトはあくまでそのビジョンを実現する上での最初のイノベーションだという位置づけです。
このビジョンを実現するために、今のユーザーが満足できていればOKということではない。第二、第三のメディア含めて、経営基盤を固めていかなければビジョン実現につながらないということで、売上とメディア拡大の一貫性を持たせるようにしています。
あともう一つ。売上ばかりを追っていると逆に仕事の意義が感じられなくなってしまうこともありますが、僕らは今年の20周年という節目もあって、会社のヒストリーを書籍として4月に出して、それを共有し始めました。
理念ってどうしても短い言葉で終わってしまうので、その言葉に紐づく行動の具体的な例をちゃんと歴史として繋いでいけるように。
この書籍は社員からも評判は良くて、会社全体で共通理解が深まったので、社員同士が自分たちの仕事の意義について、熱く語り合えるようになったんじゃないかなと思います。
田中:有難うございます。先程のユーザーフォーカスなのか、クライアントフォーカスなのか、という問題に加えて、ユーザーへの価値を絞りすぎると、売上のような数字とどんどんかけ離れていってしまうので、そこのビジネス合理と紐づけするために理念やビジョンを掲げて組織の意思統合を図る、というのはどの会社も当たる壁なんでしょうね。
メディアの“らしさ”の維持と変革
吉松氏:逆に歴史があるからみんなに役に立つかどうかわからないですけど、やっぱり先ほど内向きって話が出てるんですよね。メディアってある程度文脈っていうのができてくるじゃないですか。らしさとか、世界観が。
そういったものは、5年ぐらいまでは良いんですけど、7年ぐらいすると、文脈をよく理解したミドルの編集長みたいな人が、新しく入ってきた人のいろんな企画を、トップが知らない間に勝手につぶしてしまうなんてことが出てきます。
だから、勝手なその文脈をどうやって壊すのかっていうのは、すごく苦労していますね。
世一氏:それって結構難しい問題ですよね。結局その問題は、ユーザーの指向性の変化やテクノロジーの変化に対して、自分たちのコンセプトを大切にしつつ、10年20年単位で対応していくという経営観点を、そのメディアの編集長が持てるかどうかです。
田中:仰るとおり、それは本当に難しい問題ですね。何か皆さんで対応されていることはありますか?
吉松氏:もううちはハードランディングですね。僕と議論をガンガンして、お互いに変えるべきところは変えていくし、変えられない人は辞める決断をすることもある。勿論、誰を辞めさせようとかなんて思ったことは1回もないです。
僕と議論して変わって、残り続ける人もいるし、会社自体が変わってしまったと言って辞めていく人もいます。それはある程度仕方のないことかなと思っています。
田中:それメディアじゃなくても同じですよね。私たちのビジネスもそうです。
情報のコンテンツ価値っていう物をブラッシュアップし続けなきゃいけないので、そこを変える時に、バイアスがそれを邪魔してしまい、変化についてこれないというのは一定レベルあったりしますね。
ここまで、色々な課題やその解決策など、皆さんからお伺いできて大変学びの深い時間になりました。本日は本当にありがとうございました。
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。