「やらないこと」の徹底でつくられる、勝てる組織。組織偏差値70越え 株式会社ユーザベース
様々な企業の中で閉じられていた組織人事のナレッジをシェアし、日本のベンチャー企業の発展に貢献していくことを掲げて開催している、「Strategic HR Summit」。
「組織偏差値70の企業が実践するマネジメントの秘訣とは」をテーマに、株式会社エアークローゼット、株式会社PLAN-B、株式会社ユーザベースの3社に登壇いただきました。
HR2048独自編集でお届けする3回シリーズの最終回は、株式会社ユーザベースに迫ります。
【イベント実施日】
2017年9月22日(金)
【プロフィール】
株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO 天沼 聰氏
株式会社PLAN-B 代表取締役 鳥居本 真徳氏
株式会社ユーザベース 代表取締役社長(共同経営者) 稲垣 裕介氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 麻野 耕司
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多様な国籍を抱え世界規模で展開しても尚、偏差値70を超える組織
麻野 耕司(以下、麻野):「組織偏差値70の企業が実践するマネジメントの秘訣とは」をテーマにお送りしている今回のSHRS。
株式会社エアークローゼット・株式会社PLAN-Bに続いて、最後は、株式会社ユーザベースより代表取締役社長(共同経営者) の稲垣さんです。よろしくお願いします。
稲垣 裕介氏(以下、稲垣氏):ユーザベースの稲垣と申します。ユーザベースという会社は、「経済情報で、世界をかえる」というミッションを掲げ、2008年に創業し、その後2009年にSPEEDAをリリースしました。
これはBtoBのサービスで、企業・業界情報を収集・分析するツールです。プロフェッショナルファームを中心に、現在では事業会社の経営企画・営業企画の方々にもご利用いただいております。
2013年にはシンガポールと香港・上海に海外展開をしており、2016年にはSPEEDリサーチ拠点としてスリランカオフィスを開設。ベトナムにもオフショア開発拠点があります。
また、BtoCサービスとしてNewsPicksを2013年から展開しております。プラットフォームとして国内外90以上におよぶメディアのニュースを配信しているほか、NewsPicks編集部が作成するオリジナル記事も配信しています。
各業界の専門家や著名人を含む多くの方々のコメントを付加することによって、ニュースをより面白く見ていただくということを狙いとしています。
今年、Dow Jones社とニューヨークに合弁会社を設立し、今後は米国版NewsPicksをリリースしていこうとしているところです。
2016年にIPOした後には、entrepediaという1万社を超えるベンチャー関連情報を提供するサービスや、FORCASという戦略的BtoBマーケティング(ABM)の実行をサポートするサービスの提供もはじめ、新たな領域にも挑戦しています。
私たちの特徴としては、複数のサービスを展開し、また海外にも事業展開しているので、多様なバックグラウンドを持った社員が所属していることではないかなと思っています。
麻野:今回登壇いただいた3社の中で最も調査規模が大きいのですが、エンゲージメントスコアが「71.8」ということで、大変素晴らしい結果が出ています。スコアが高い組織状態は、どんなことがいいのか、率直にお聞かせいただけたらと思います。
スコアを手にしたことで、信じてきたことが正しかったと証明された
稲垣氏:創業して10年になるのですが、本当に色んなことがありました。
弊社は三名の共同経営という形を取っているのですが、この三人の間で幾度となく話し合いを重ね、時にはぶつかり合いながら、組織の成長に伴い様々な組織施策を模索してきました。
従業員規模が50名ほどになった頃には、社員と経営陣の間に“ズレ”が生じ、経営陣が何を言っているか分らないという声すら上がったこともあり、ユーザベース全員の価値観となる「7つのルール」を作りました。
また100名を超えた頃には、徐々に海外のメンバーも増えてきて、私たちのビジネスや考え方などの価値観を、どう海外社員に理解してもらえるのかが課題になりました。もしその頃にエンゲージメントサーベイを取っていたとしたら、スコアは70もなかったんじゃないかと思うほどです。その後、組織体制や文化施策含め、色んな手を打ってきましたが、スコアが70を超えている現状では、僕たちの「7つのルール」のもと、何が良くて何が悪いのかということが、皆の共通認識となってコミュニケーションができている感覚がありますね。
組織偏差値が算出されたことで非常に良かったのは、皆がこれまで信じてやってきたことは正しかったんだということが、定量的に分かるようになったことです。
自分たちのミッションやバリューがどんなに素晴らしいかということは話してきましたし、社内アンケートで点数化したこともありました。
ですが、クローズドな中で点数が出てきても、主観が入るのと基準値が不明確な部分もあるので、正直な所、何がどのくらい良いのかって結局分からないんですよね。
他組織との相対比較ができることで、共通認識として、自組織に自信を持てるようになったことが良かったと思っています。
また、組織として弱い部分も改善点として定量的に認識できるようになったという良さもあります。
具体的には、チーム単位で結果を見たときに、リーダー自身が抱える不安を、数字をベースに聞けること、チームのスコアを見ながら、事実に基づいた会話ができることが、いいなと思っています。
麻野:ありがとうございます。では具体的な取り組みについてお聞かせいただきたいと思います。
ユーザベースとしてやらないことを、明確に決めている
稲垣氏:組織施策としてまず、「経済情報で、世界をかえる」というミッションにつながるもの以外はやらないということを決めています。もう少し丁寧にご説明すると、「4つのやらないこと」を定めています。
「経済情報でなければやらない」「世界をかえるプロダクトでなければやらない」「人とテクノロジーの力を使ったものでなければやらない」「プラットフォームでなければやらない」。
やらないことを明確に定義してくことで、シンプルに伝わりやすくなっているのかなと捉えています。この4つをベースに、それぞれのサービスに対して、今期何をすべきなのかという戦略をクリアに伝えていく。
そして、それを個々人の目標に落とすところまで、徹底してやっているっていうところが強みだと思います。
その中で、会社の目標とメンバー個人の目標が合致することの大切さを改めて感じています。
入社の時点で、組織風土に合うのか合わないのかという話でもありますし、入社後にどういう風に会社と自分の成長を合わせていくのかという部分も、大事な要素だと思っています。
そのすり合わせを、半年に一度、360度フィードバックという形で、チームに関わらず仕事で関わったメンバーからフィードバックをもらう。
それを基にマネージャーと次に向けての改善点と目標をしっかりとコミュニケーションすることに加えて、三ヶ月に一度、中間フィードバック面談という形で途中経過の状況把握や必要であれば目標修正を行うなど、密に会話をしています。
このアジャストによって、常に会社、チーム、個人が同じ方向を向いていること、そして個々人が一番燃えてチャレンジしたいことを、会社の成長と合わせてできているということを確認しています。
その確認をひたすらやり続ける、ひたすらフィードバックし続けることが一番の強さになっているのかもしれません。
麻野:お話を聞いていて印象に残ったのが、「4つのやらないこと」。すごくいいですね。医学博士の石川善樹さんがお話しされていたことなんですが、人を惹きつけるミッションには、NOTやアンチテーゼがあるらしいんです。
例えばアップルのスティーブ・ジョブズであれば、「Think different」。これは、マイクロソフトやIBMといった既存の会社と同じような考え方では駄目だっていうメッセージです。
こういった、「やらないこと」をきちんと決めるというのは、非常に惹きつけられるんだろうなと思いました。どんなきっかけで、その「4つのやらない」を決めたんですか。
稲垣氏:最初から、全員がここだけはぶれないという言葉がありまして。「ビジネス界のグーグルになりたい」。
発展の象徴ということはもちろんありますが、それよりも、グーグルのように社員が自分の強みや個性を活かしながら、自分たちが提供しているサービスの価値を信じ、活き活きと働くような会社でありたいという思いが、全員共通にあったんです。
私はエンジニア出身ということもあり、エンジニアがあんなに活き活きと働く会社は他にはないとも思っていました。その目標を言葉に落としたときに、「4つのやらないこと」が見えてきました。
麻野:なるほど。ありがとうございます。アンチテーゼも含めて、明確にミッション・戦略・目標という形で落とし込んでいくということですね。では、もうひとつの具体的取り組みを教えてください。
自由に、多様な才能を活かし合うための、7つの価値観
稲垣氏:ふたつ目の取り組みが、ユーザべースの価値観を表す「7つのルール」を定義したことです。
私自身エンジニアとして、「規則でがんじがらめにされるとクリエイティビティが閉ざされ、より良い開発ができない。だから、自由じゃないと嫌だ」という思いがあったり、「せっかくやるなら創造性があるものをつくりたい」という思いも持っていたり。「お客さまにはとにかく誠実にやろう」といったような言葉を創業時からずっと持っていました。
そういった皆の信念を「7つのルール」として定義した結果、ユーザベースの文化的な軸がハッキリとしました。
その中に「異能は才能」というルールがあるのですが、ユーザベースにはとにかく色んな社員がいて色んな才能を活かし合っていて、それがすごく面白いんです。
人によっては、マネジメントなしでもマネジメントレベルの給料で仕事をしているメンバーもいますし、とにかく人が大好きで事業よりも人という人もいます。
拠点が海外にも広がっているので、海外メンバーの才能も活かし合っていきたい。
メンバーは、英語や中国語、ベトナム語など様々な言語を話すんですが、基本言語は英語にせよ、強制せずに、それぞれの国の文化を活かした状態でどうやっていいチームをつくっていけるのかにトライしています。
とにかく、弱みにフォーカスするのではなく強みにフォーカスしてチームを組むことが、メンバーのやる気を広げている要素にもなってるのかなと思います。
麻野:ありがとうございます。多様な人材を抱えると、社内がバラバラになってしまうと考える会社さまも多いと思います。ですがユーザベース社の場合は、ミッションや理念・戦略が明確なので、人材の多様性は問題にもならないのかもしれないですね。
稲垣氏:そうですね。実際の現場レベルでは、改善点は沢山あるんです。ですが、それぞれが自由に働いてお互いの才能を活かし合いながら、そういった改善点に対処していきたいって思いがベースにありますね。
弱みをきちんと認識することで、適切な手立てを打てる
麻野:では最後に、制度待遇の部分についてお聞かせください。スコアの高いユーザベース社の中で、弱みに出ている部分でもあります。
稲垣氏:ここに関しては、ふたつの要素があったと思っています、ひとつは実態として給与がそこまで高くなかったこと。
後は、何をすれば給与が上がるのかという評価制度の説明が不十分だったことだと捉えています。これを機に、経営陣がきちんと認識できました。
まず給与に関しては、各国の物価水準がありますし、業種や職種による平均的な給与水準も異なるので、それを国レベルで全部調べて、全改定しました。
具体的には、給与の点で自社と他社を比較したときに、ミドルマネジャー手前くらいまでは、そこまでの給与差はなかったんです。ただやはり、そこから先のマネジメント層に上がるカーブのところが、かなり弱くなっていたので、そこを中心に給与改定をしました。
評価制度の部分については、カルチャーチームというユーザベースのカルチャーを浸透・醸成させるチームがあるんですが、そのチームの一番のプロジェクトとして、全拠点・全職種・全チームに対して、評価基準を説明していきました。
半年間かけて全チームと会話をすることによって、かなり改善できたかなと思っています。改めて思うのは、自分たちの弱みをきちんと認識することが全てのスタートだということ。その上で、適切な手を打っていくことだと思います。
圧倒的な実行力の高さが、組織に変化を起こす
麻野:ユーザベース社は、実行力が高いですよね。モチベーションクラウドでは、全社だけではなく部署ごとにもスコアが出るんです。
それで、部署毎に何を改善するかを決めて、改善活動を行っていくんですが、ユーザベース社は、部署の9割以上がスコアを上げてきているんですよ。これはなかなかないことです。
サーベイ報告におうかがいしても、そのタイミングではすでに分析も終わっていて社内の展開も終わっている。そして、追加でやれることありますかと聞いてくださるくらいの実行力があって。本当に素晴らしいですよね。
その実行力は、どうやって磨いてきたんでしょうか。
稲垣氏:カルチャーチームが専任となって、先導してくれたこと。それから、やはり沢山のことはできないので、ともかく何にフォーカスするかということを明確にしていることです。まずひとつ、必ず変化を起こすこと。
麻野:採用や労務と一緒に、サーベイに関わる業務を担当するのではなくて、専任なんですね。それだけ、カルチャーをつくることを大事にしているという姿勢の表れでもありますね。
給与改定の内情も含めて、皆さんの聞きたかったことをかなり明らかにしていただいたんじゃないかと思います。
組織偏差値70を超えるユーザベース社が実践するマネジメントの秘訣ということでは、「やらないことを決める」「ミッションや理念・戦略を明確にすることで多様性を束ねる」「ひとつ変化を起こすために徹底的に実行する」の三つが参考になるのではないかと思います。
贅沢なお話でした。どうもありがとうございました。
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。