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愛されるビールを生み出す、愛される会社、ヤッホーブルーイング。

ビール市場が縮小の一途を辿る中、新カテゴリとして注目を集めているのが、クラフトビールだ。ヤッホーブルーイングは、12年連続増収増益を続け、クラフトビール界のトップメーカーとなった。

同社の看板製品である「よなよなエール」はもはや、クラフトビールの代名詞とも言える知名度を誇り、コンビニエンスストアで手に取ることができる。しかし、ヤッホーブルーイングに注目が集まるのは、売り上げやブランドだけが理由ではない。

自らが熱狂するだけにとどまらず、ファンをも巻き込むその独自のカルチャーはどのようにして生まれ、どのように進化しようとしているのか。

「ヤッホーブルーイングはただのビール会社ではなかった」。その言葉の真意を解き明かす。全2回で構成された、井手社長へのインタビューの前編。

【プロフィール】
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手 直行氏

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理念の必要性どころか、理念が何かすらも知らなかった時代。

-理念を大切にされている企業としても知られるヤッホーブルーイング社ですが、設立当初からそうだったわけではないそうですね。

井手直行氏(以下、井手氏):そうなんです。当初、経営理念というものはありませんでした。経営理念が必要だという感覚もなかったし、そもそも経営理念って何だというくらいの状態でした。

地ビールブームが終わって、創業から8年間赤字で、どん底の時期でした。この仕事の未来を信じられないと辞めてしまった仲間も数え切れません。

それでも私は会社に残ることを決め、インターネットで商品の販売を始めました。直販の売り上げが少しずつ上がり始め、初めての中途採用で入ってくれたスタッフと僕のふたりは非常に前向きで、一生懸命やっていたけれど、会社は相変わらず暗くて。

そのスタッフからは「お通夜みたいな朝礼ですね」なんて言われましたね。

インターネットの反響により売り上げが高まったのですが、その状態すら歓迎されない状態でした。在庫が少なくなった分、仕事が増えて残業になってしまう製造・出荷ラインからはいい顔をされませんでした。

普通に考えたら、赤字の会社なんだから、売れたら喜ばれそうなものですけど、「忙しくなった」とか「急に残業になってしまった」とか、そんなネガティブな声が上がりました。陰口もありましたし、直接文句を言われることもありました。

組織はそんな状態で、もう僕や誰かもうひとりくらいで頑張り続けることは無理だと痛感しました。みんなの協力なくして、このまま成長していくことはできないと。でも、どうやったら皆が協力してくれるのか、わからなかった。

その頃、私が社長になったんです。社長という肩書きがなくとも、リーダーとして会社を引っ張ってきたつもりだったのですが、まさに名実ともにリーダーとなったんだから、何かやろうと決意しました。

-具体的には何をされたのですか。

井手氏:最初に手をつけたのが、体制固めです。体制をつくっていくということで、まず、チームビルディング研修を自ら受けようと思ったんですね。と言うのも、自分はなかなか人を引っ張っていけていないという直近の経験があったので。

チームビルディングの研修の中で、目標の大切さ・自社らしさを痛感しつつ、行動規範やルールみたいなものが、自然と決まっていったんです。

みんなで目線が合って一致団結できれば、すごい成果が出るんだということを体験したことにより、どこを見るのか、つまり「経営理念」が必要だと思ったんです。

お恥ずかしながら経営に関する書籍なんかも、それから初めて読みました。ミッションという大きな方向性が大上段にあって、将来像のようなビジョンがその下にある。それを支える柱として、文化(ガッホー文化※)・価値観・バリュー(ヤッホーバリュー)があります。

ちなみにミッションは、「ビールに味を!人生に幸せを!」です。
※「ガッホー文化」とはヤッホーブルーイングのスタッフが仕事をする上での行動指針です。名称は「頑張れヤッホー」からきています。

ミッション・ビジョンを掲げて、ひとりで意識高くやり始めたのはいいけれど、周りが全然ついてきてくれない。でも、理念こそがチームをひとつにするために大切なものなんだということを、研修を通じて身にしみて感じた。

自分がわかっているというだけではなく、みんなにも深く理解してもらおう、そのために足りないことは、ひとつずつ補っていこうとした、ということが、理念を大切にする会社になっていった経緯ですね。

 -ありがとうございます。理念が浸透していった実感や、それにより社員が変わってきた手応えを感じられた出来事があれば教えてください。

井手氏:そうですね。ガッホー文化の中の項目に「究極の顧客志向」というのがあるんですが、究極の顧客志向ってどれくらいのことを言うのかは、やっぱりなかなか伝わらない。なので、まず僕が実践して見せて、とにかく話して、の繰り返しです。

そういうことを続けている内に、例えば「お客さまが喜ぶイベントってなんだろう」と社員が自分で発想してくれるようになったりしていきました。

会議中、同僚の発言に触発されたメンバーが、次の会議までに本を読んで自分なりに発言したら、会議の場が楽しくなったと話してくれたことがあったんです。

ガッホー文化の「切磋琢磨」はまさにそれだよと伝えましたが、お互いが刺激し合って共に成長していくこと。最初の内は、小さな事例も見逃さずに一つひとつ見つけて、コメントすることから始めました。

そうするにつれて、みんなの実感が増えていって、少しずつ変化が出てきたんですね。

文化とは、自然に行われている習慣のこと。

-井手さんご自身が、やってみせることを徹底してこられたことの素晴らしさを感じつつ、チューニングの合わせ方に何か秘密があるんじゃないかとも思いました。

井手氏:「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションが最上位概念としてありますが、先ほどお話ししていた文化については、僕たちの定義でいくと「自然に行われている習慣」みたいな感じなんです。

イメージとしては、日本人だったら玄関を上がるときに靴を脱ぐよねというもの。靴を脱がなければ罰せられるわけではないけれど、自然にそうするというレベルまで行動の習慣が根付いていること。

文化と価値観はセットですが、価値観は守るべきルール。法律はもちろん社内のルールもそうです。上下関係とかなく同僚に敬意を持って接することや、取引会社に対して横暴な態度を取ったら絶対許さないぞということ、これらはルールです。

行動規範というのは、この範囲だったら自由にやってねというもの。法律を守ってルールを守って、社員を家族のように顧客を友人のように思ってくれるベースがあれば、例えばフレンドリーすぎてもいいよと。

細かく設定しすぎて「マニュアルください」っていう話になってしまったら意味がないので。もちろん、度が過ぎれば「ちょっと違うよ。本当はこうだったんじゃないか」と伝えて理解してもらえればいい。

 都度そうやって確認していくことは面倒に見えるかもしれないですけど、まず自分の周りの人たちから始めればいい。そうやって続けてきて150名ほどの会社になりましたが、決めた言葉たちが、お飾りではなくずいぶん浸透していると思いますね。

経営理念に共感している人材かどうかは、必ず見極められる。

-ミッション・ビジョンに向かって、価値観や文化を浸透させていく。そして行動規範の中で自由に行動するということですが、その前提となる採用の部分についても聞かせてください。

共感のベースがある人材を採用するにあたり、工夫されていることはありますか。

井手氏:採用基準は2軸定めています。ミッション・ビジョン・組織文化・価値観・行動規範を含めた「経営理念への共感」と「優秀であること」。優秀であるというのは、人事評価制度をそのまま採用面接に持ち込んでいるので、さほど苦労はありません。

経営理念への共感の見極めの方が手はかかりますが、完璧にわかるんです。 

書類選考から始まって三次面接まであるんですが、必ず「なんでうちに応募してきたの」と聞くんです。もちろんこの質問は、一次面接から何度も聞いている質問です。

例えば「チームでやる仕事が好きですから」という返答があったら、なるほどと受け止めながらも、また二度三度と、同じような質問をするんです。「うちの会社に入ったら何やりたいの」といった風に。

その返答に対して、本当にチームでやる仕事が好きな場合は、「お互いわかりあえたときに、想像を超える成果が出たんですよ」といったように、学生時代のチームで行ったことに対する成功・失敗体験が出てきます。

本当にそう思っていない場合は、角度が変わっただけの同じ質問に、同じような熱量で答えることができないし、楽しそうには話せない。

表面的な言葉として理解しているのではなく、過去の経験談が出てくるのかどうか。言葉たちが本当に心にフックしているかどうかは、間違いなくわかります。

-会社として大切にしたいことをすでにオープンに表現している上で、その言葉たちに対する共感の深さを見ているということですね。これはものすごいことですね。

井手氏:そうですね。とはいえ7~8年前は、採用広告を出しても、誰も面接に来てくれない時代がありました。

会社の状況が良くなってきて、その状況を対外的にも表現できるようになって、ますます良い会社になってきたという手応えが出てくるようになってからは、同じように広告を出したら1,000名の応募がくるようになりました。競争率で言うと、100倍近いです。

僕たちは地方の製造業ですから、この競争率は全国的に見てもあり得ないレベルだと思います。

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本編の前編となる『「Apple・Googleを超えていく」。独自のカルチャーで目指す未来。』は こちら

※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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