「エンゲージメントレベルの高さが働き方改革の基盤になる」働き方改革最前線 味の素の挑戦
「働き方改革」。
2017年の組織人事領域において、最も語られた言葉。政府が打ち出した方針のもと、多くの企業が取り組みながらその実現に苦しむ経営課題。
日本を代表する大手食品メーカーである味の素株式会社では、働き方改革という言葉が生まれる遥か前から、働き方改革に取り組み、確かな成果を生み出してきた。
その背景にある企業としてのポリシーや実行力を生み出すための進め方について、味の素株式会社グローバル人事部長を務める松澤氏にリンクアンドモチベーション執行役員川内がお話を伺いました。
【プロフィール】
味の素株式会社 グローバル人事部長 松澤 巧氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 川内 正直
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人財を大切にしたいという思いが働き方改革を加速させた
川内 正直(以下川内):働き方改革を2008年から推進していくにあたり、ご苦労されたこと、壁にぶつかられたことはありますか。
松澤 巧氏(以下松澤氏):現在のところ、スタートした施策は今も全て残っているので、明確な失敗というのはないかもしれません。ただ、推進していくにあたっては難しいことばかりでした。
どこまで踏み込んで、本気で改革をするかということがポイントだったと思います。印象的だったのは、2013年から改革が更に踏み込んだ施策になる前。
現社長で当時人事部長であった西井が各事業部のトップ数十名と直接話をしたことです。「一緒に取り組んでいこう」 と。それが1つのターニングポイントだったと思います。
川内:経営陣が一丸となって進める体制が出来上がったということですね。その背景には、前回のお話にありましたが、人財に対する共通認識があった、と。
松澤氏:はい。やはり、人が何らかの理由で辞めていってしまう、人財を失うということへの危機感や無念さがあったと思います。
川内:当時で言うと、世の中としては「人は入れ替わっていくもの」という考えも一般的だったとは思います。
松澤氏:そうですね。退職もある意味で新陳代謝だという考えもあります。けれど、やはり入社してくれた人が去っていくのは辛い。せっかく入社をして、当社で経験を積んで、一緒にやってきた人財ですから、去ってしまう前に何とかしたい。
その気持ちを経営陣が強く共有できたことで、当社の働き方改革が一歩踏み込んだものになったのだと思います。
現場のマネージャーが働き方改革の鍵を握る
川内:働き方改革が推進されていく中で、ポイントになったことはどんなことでしょうか。
松澤氏:現場のマネージャーだと思います。働き方改革は、宣言ではなく、成果を目指した活動ですので、現場でどれだけ実践されるかが大事です。
そういう意味では、各現場に責任を持つマネージャーが働き方改革の大きな役割を担っていると思います。
川内:マネージャーに対してどんな施策を行われているのでしょうか。
松澤氏:所定労働時間が短くなることで、上司と部下がFace to faceでコミュニケーションをとる時間は、必然的に減っていきます。
その中でどう仕事をマネジメントしていくか、そしてモチベーションをマネジメントしていくかというテーマについては、ラインマネジメント対象者を中心に、相当集中的にセッションを行っています。
また、資料にもあるように働き方計画表というようなものも作っています。やはりポイントは、しっかりと部下の目標やプロセスを見て、マネージャーがきちんとコミュニケーションをとることだと思います。
離れていても信頼関係を築けるマネジメントに向けて、現場で一歩一歩前進していっているという状況です。
※記事内の資料は味の素株式会社資料より引用
川内:ありがとうございます。社内で大きな改革が進む中、例えば「長時間労働」が認められていた時と今とでは、「ハイパフォーマー」の定義も変わるのではないかと思います。
それまで評価されていた人が評価されなくなったり。そのことによって人が辞める、といったことは起こらなかったのでしょうか。
環境変化に人はしっかりアジャストできる
松澤氏:当社の人財はしっかりアジャストしていると思います。「ルール変更が起きたけれど、今度はそのルールの中で頑張っていこうよ」という感じですね。
短時間ではない環境でビジネスパーソンとして育った人が、急に時短と言われても困るというイメージだと思うのですが、実際には問題ありませんでした。
会社がきちんとこれから進んでいく方向性を示すことができれば、しっかりとアジャストしてくれます。逆に言うと、無理やり長時間労働に合わせざるを得なかった人も多くいたはずで、その方々にとっては更にイキイキと働ける環境になった。
1日の中で、極端に言えば半分以上の時間会社にいなければいけないなんてやっぱり異常だ、というところに立ち返れば、誰から見ても短時間労働というのは受け入れられることなのだと思います。
川内:なるほど。ポジティブな環境変化だからきちんと適応できる。
松澤氏:正解が見えづらくなっていく世の中で、単純に時間をかければ成果があがるという構造自体が既に崩れています。所定労働時間を短くして、その分外部から刺激を受けて経験を積むことが、仕事に好影響を与えるはずだ、と。
これも仮説でしかありません。けれど、世の中の変化を見れば見るほど、この仮説をもとに前に進もうという機運は高まっていると思います。
エンゲージメントを高めることが、働き方改革の基盤になる
川内:働き方改革の成果として、「生産性向上の実感」や「仕事のやりがい」についての組織診断の数値も上がったと伺いました。
松澤氏:そうですね。こういった活動がうまくいっているのかどうか、ということをはかる明確な指標を置くことは大事だと思います。他にもコーポレートブランドの価値を高めようという定量的な目標も全社戦略として掲げています。
従業員の会社に対するエンゲージメントは非常に大切だと思いますし、その結果としてイノベーティブな仕事を通じて社会課題の解決に貢献できれば、結果としてコーポレートブランドの価値も高まっていくと思います。
川内:当社も従業員エンゲージメントを測定し、組織改善に活用できるクラウドサービスとしてモチベーションクラウドを提供しております。
企業規模数名の会社から1万人を超える大手企業様まで、既に400社近くの企業に導入され、働き方改革という意味でも、従業員エンゲージメントの重要性が高まっていると感じています。
ゆとり労働で終わらせずに、働きがいを引き出し、イノベーションへと繋げていくためには、会社との信頼関係が非常に大切だ、と。時間を短縮しても、そもそも会社への貢献欲求が低いために、企業成果向上のために時間を使ってくれないのではないか、と不安を感じられる企業も多いです。
時短という施策とともに、エンゲージメントを高めるということが重要ですね。
松澤氏:そうですね。私たちも2000年代中頃からエンゲージメントサーベイをやっていましたが、数字的な目標は持っていませんでした。抽出された課題に対してPDCAを回していくという使い方ですね。
しかし、今後は一つの到達目標として掲げていきます。川内さんがおっしゃるように単純に働き方改革を進めることだけでなく、そこにエンゲージメントが加わり、能力・意欲の高い人が集まっていい仕事をして、個人がしっかりとやりがいを感じ自己成長をして、最終的に企業価値を高めていくというすべての掛け合わせだと思います。
何か一つでも欠けても、この壮大な実験は止まってしまうので。
川内:ありがとうございます。業界のトップランナーが果敢に挑戦されていくお話に勇気を頂きました。貴重なお話、ありがとうございました。
※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
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