
「働きがいの実感が次の変革へのエネルギーになる」働き方改革最前線 味の素の挑戦
「働き方改革」。
2017年の組織人事領域において、最も語られた言葉。政府が打ち出した方針のもと、多くの企業が取り組みながらその実現に苦しむ経営課題。
日本を代表する大手食品メーカーである味の素株式会社では、働き方改革という言葉が生まれる遥か前から、働き方改革に取り組み、確かな成果を生み出してきた。
その背景にある企業としてのポリシーや実行力を生み出すための進め方について、味の素株式会社グローバル人事部長を務める松澤氏にリンクアンドモチベーション執行役員川内がお話を伺いました。
【プロフィール】
味の素株式会社 グローバル人事部長 松澤 巧氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 川内 正直
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2008年から始まった働き方改革
川内 正直(以下川内):本日はお時間を頂きありがとうございます。働き方改革というテーマで、先進的な取り組みをされている味の素さんにお話を伺わせて頂きます。
働き方改革といえば味の素、と連想される方も多いと思われます。いつ頃から取り組まれてこられたのでしょうか。
松澤 巧氏(以下松澤氏):はい。いろいろな動きがありましたが、会社の取り組みとして始まったのは2008年だったと記憶しています。
長時間労働の問題やライフイベントによる退職などが出てくる中で、私たちはどうやってこの組織の問題をクリアしていこうかと、全社的に考えるようになりました。
様々な取り組みを経て、2013年に「Work@A〜味の素流働き方改革〜」が立ち上がり、2017年からは主要経営課題として働き方改革を捉え、19年にかけての3カ年計画の中でしっかりと成果を出すという方針を打ち出しました。
川内:2008年というのは、相当早い段階から取り組まれてこられたんですね。また、直近2年においてはゼロベースでの検討に着手されているとのことですが、その背景にはどんなことがあったのでしょうか。
松澤氏:2013年から2年間、社長の西井がブラジルの子会社におりました。そこで目にした日本との差に対する驚きが大きかったと聞きます。私自身も現職に就く前はブラジルにおりました。
ブラジルと聞くと皆さんどんなイメージを持たれるか分かりませんが、非常に高いプロフェッショナリティがあり、時間・生産性に対する意識が極めて高い。
ブラジルの彼ら彼女らが今日本に来て、日本の働き方でやっていけるかというと、難しい。
朝から晩まで会社にいないと仕事が進まないというやり方では、グローバルでは通用しない。外国人だけでなく、多様なバックグラウンドを持つ日本人でも同様です。
恐らく西井自身もそれを実感し、本格的に取り組まなければいけないと感じたことが、当社の取り組みを一歩踏み込んだものにした最大の要因の一つだろうと思います。
川内:ありがとうございます。私は、大手企業を対象としたコンサルティング事業部の部門長を務めているのですが、日頃から大手企業の経営陣、人事責任者の方とお話をすることが多いです。
「働き方改革」という文脈の中で語られる様々な施策は「やった方がいい」と考える企業の方が多いのですが、実際には現場の理解が得難かったり、部門間での連携がはかれない、など頓挫していくことが多いです。
味の素さんで、様々な施策が確かに実行されていった要因は何なのでしょう。
経営課題として取り組むことで、一気に推進することができた
松澤氏:当社が「働き方改革」として取り組んでいる施策は、どこの会社でもやられているようなことがほとんどだと思います。
それを取捨選択しながら推進をしてきました。当社の特徴としては、施策の全てが「異なる強みを持った多様な人財が、ASV(Ajinomoto Group Shared Value)を実現し続ける組織を作る」という目的に束ねられているということだと思います。
やはり経営課題として取り組むことによる意思決定の速さはあると思います。労働時間においては、営業部門の従業員の外勤の時間管理はどうするのかといった課題がありました。
人事部の問題として取り組む、あるいは労使の取り組みとして、あるいは各部門の判断で等々、いろいろな進め方が有り得たと思います。
それを経営のリーダーシップという非常に大きな力を後押しとして人事部を含めた全社プロジェクトとして進めることができたことは大きかったと思います。
この短い期間では到底成し得なかった様々な施策を進めることができたと思います。
※記事内の資料は味の素株式会社資料より引用
川内:経営課題として取り組むことが、強い実行力を生んだんですね。この働き方改革というような動きは、組織人事領域における「風土改革」に近いと感じています。
以前あった考え方を変えていくということに対しては、現状維持バイアスというものが働き、「変えたくない」という意識が生まれてくるものだと思います。味の素さんではどのように進められたのでしょうか。
松澤氏:おっしゃる通りです。変えていくことは難しい。その点でいくと、例えば「所定労働時間を20分短縮した」というのは大きかったと思います。
WEB会議の積極的な活用やペーパーレス化は、ツールの提供と一緒に行うことによって、まずは「良かった」と感じてもらうことが大切です。以前の働き方よりも少し自分にとってプラスの部分を見出してもらう。
当然、時間を短くすればいいという問題ではないということは、全従業員に対して口を酸っぱくして伝えています。自分たちで越えていかなければいけない壁があることも分かっている。
でもやはり「良かった」という実感、働きがいや生きがいが向上するという実感が、次の変革のエネルギーに繋がっていくと思っています。
川内:ちょうど所定労働時間を20分短縮、というお話が出ましたが、他社さんから見て最も先進的と言いますか、難しい取り組みに見えるのが、この「時間」だと思います。「2020年までに7時間を目指す」と明言されている企業は少ないと思います。
松澤氏:そうですね。相当ハードルが高いことだと思っています。
働き方改革を「ゆとり労働」にしない
川内:経産省の方とお話していく中で、この働き方改革はやり方を間違えると「ゆとり労働」になってしまうリスクがある、というお話がありました。
本来的には時間を短くすることによってダイバーシティやイノベーションを生み出していくことが目的のはずが、単純な時間短縮によって「楽に働けてラッキー」と感じてしまう人が増える可能性もある。そのあたり、どうお考えですか。
松澤氏:よく分かります。数字を追うこと、単に所定労働時間を短くすることが目的ではありません。7時間で成果を出せるような仕事の仕方を実現した上で、多様な人財がイキイキと働ける、生きがいを感じられるということが大切です。
例えば「残業が多いから管理しなさい」というような会話があってはならない。結局、時間のことだけ言っているということにならずに、「自分の仕事を上司も仲間も分かってくれている」と思えるような環境を作り出さなければいけない。
所定労働時間を変えることは、大きな決断ではありました。しかし、目標として掲げるからこそ、工夫が生まれる。相当なイノベーションを起こさなければ1日7時間、年間1700時間という目標は難しいと思います。
だからこそそれぞれがブレイクスルーするチャンスでもあると思っています。
川内:経営としては目標を掲げ、社内外に約束することで、まずはリスクをとったということですね。リスクをとってでも、イノベーションを起こすことに賭けたということですね。
経営として大きく舵を切った上で、現場に託す。みんなで頑張って実現しようぜ、という前向きな挑戦という印象を受けました。
松澤氏:そうですね。挑戦でもありますし、実験でもあると思います。
前述のASVの拡大を目指した概念図にもありましたが、「時間を短くしようよ」「工夫をしようよ」ということをスタート地点にしてインプルーブメント(改善)を続けることが大切だと思っています。
そうすることで多様な人財が成長・活躍し、そんな人財によってイノベーションが起こり、新しい価値を作り出したり、コストダウンに繋がったり。最終的にASVの拡大を実現し続ける会社が出来上がっていくという仮説です。
全てがこの順番通りに進むとは限りませんが、ある意味で言うと仮説に基づいた大きな実験をしているのだと思っています。
答えが見えているわけではないけれど、最終的な価値へと繋がっていくはずだ、繋げていこうという前向きな実験ですね。
川内:インプルーブメント(改善)が大切であることは、事業活動だけではなく組織活動にも共通して言えると思います。
当社が提供するモチベーションクラウド(従業員エンゲージメントを測定し、組織改善に活用できるクラウドサービス)も、組織状態を可視化・数値化して、現場社員が組織活動のPDCAサイクルを回すためにつくられました。
事業と組織、この2つにおいてインプルーブメント(改善)を続けることは、企業成長に欠かせないと感じています。
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
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