【前編】総合IT企業エイチーム、当事者意識を育む“組織変革”
株式会社エイチームは「みんなで幸せになれる会社にすること」「今から100年続く会社にすること」を経営理念に掲げ、インターネット・スマートデバイス(スマートフォン・タブレット端末)をベースとしたゲームコンテンツ、比較サイト・情報サイトやECサイトなど、多角的な事業を展開している総合IT企業です。
2000年に設立後、2012年4月に東証マザーズに上場、同年11月に東証一部(現東証プライム市場)に当時史上最短での市場変更をするなど、急速な事業成長を実現するだけでなく、Great Place to Work「働きがいのある会社」ランキングに7年連続でベストカンパニーに選出、リンクアンドモチベーションの「ベストモチベーションカンパニーアワード」で2018年にTOP10入りを果たすなど、組織面でも注目を集めています。
事業の多角化に伴う組織課題にどう向き合ってきたのか。人事部の立ち上げから、エンゲージメントスコアの活用、マネジメントの強化など、具体的な取り組みを伺います。
【イベント実施日】
2020年6月9日 (火)
【スピーカープロフィール】
株式会社エイチーム 人事部 部長 中久木健大氏
株式会社エイチーム 人事部 人事企画グループ マネジャー 川口裕明氏
株式会社エイチーム 人事部 人事企画グループ 安井美穂氏
【モデレーター】
株式会社リンクアンドモチベーション マネジャー 大澤雷大
【ライター】
株式会社リンクアンドモチベーション マーケティンググループリーダー 沖田慧祐
株式会社リンクアンドモチベーション マーケティンググループ 小笠原有希
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爆発的な成長が期待できる「エンターテインメント事業」に加えて、「ライフスタイルサポート事業」で多角化してきた
エイチーム 安井氏:エイチームは現在の代表取締役社長である林高生が創業して、今年で設立20周年を迎えました。名古屋に本社があり、従業員数は約1,000名ほどです。「みんなで幸せになれる会社にすること」「今から100年続く会社にすること」という経営理念を非常に大切にしています。
エイチームはインターネットを軸にさまざまな事業を展開している総合IT企業です。現在、エイチームの事業には大きく分けて3つの領域があります。1つ目は「ライフスタイルサポート事業」です。
結婚や引越しなど、人生のイベントや日常をより豊かに、より便利にするサービスを提供しています。例えば、「引越し侍」という、引越し会社から一括で見積もりがとれるサイトや、結婚式場探しができる「ハナユメ」、最近ではエンジニア向けの技術情報共有サービスである「Qiita」というプラットフォームサービスも展開しています。
2つ目がエンターテインメント事業です。人と人とのつながりをテーマに、世界中の人々に向けてスマートフォン向けのゲームやツールなどのアプリケーションを提供しています。現在、エイチームのゲームは世界155カ国に向けて配信されています。
3つ目がEC事業です。利便性の追求をテーマに、現在は「cyma」という国内最大級の自転車専門通販サイトを運営しています。エイチームはこのようにデジタルマーケティングのノウハウや技術力を強みに、特徴の異なる複数の事業を展開することで経営の安定性を保ちつつ、さまざまなビジネス領域に「挑戦」しています。
リンクアンドモチベーション 大澤:僕は正直、エイチームさんをお手伝いするまではゲームの会社という印象を持っていました。その印象とはだいぶ違いますね。
エイチーム 中久木氏:何個かゲームがヒットしてエイチームの認知度が上がったので、ゲームのイメージが強いのだと思いますが、最近は「ライフスタイルサポート事業」のシェアが伸びていて、バランスが良くなってきました。ゲームの事業は爆発性があるので、当たると大きい反面、当たらないと回収が難しいビジネスモデルです。
一方、「ライフスタイルサポート事業」はWebサービスですので、シェアを取っていくことで安定的な売上利益が出る「シェア型」のビジネスモデルです。多角的に事業を展開することで「安定性」と「成長性」を担保しながら、新しい事業領域にどんどん投資していく戦略を取っています。
エイチームが直面した「多角モード」
リンクアンドモチベーション 大澤:ご登壇をいただいているエイチーム様は、このように事業を多角化してきた企業です。ここで、リンクアンドモチベーションでは、企業の成長を3つの期に分け、それぞれ特徴的な組織の症状が起きると考えています。3つの期とは、「拡大モード」「多角モード」「再生モード」です。
「拡大モード」の企業は、創業間もないベンチャー企業など、ある程度ヒット商品が生まれて、どんどん人員が増えているような時期です。「拡大モード」から「多角モード」になると、今度は安定成長に向けた事業の多角化を図っていく時期です。「再生モード」は、これまでの事業を取捨選択し、新たな価値創出を模索する時期です。それぞれのモードにおいて、全社・ミドル・現場で必ず起こる組織の病があります。
しかし、今回ご登壇いただいたエイチームさんは、幅広い事業を展開し、多角化を図りつつも、一方で組織の状態もとても良いのが特徴です。モチベーション (エンゲージメント) の高い部署や会社を表彰する年に一度のアワードがあるのですが、エイチームさんは会社として2019年に第8位受賞 (607社から選出) 、さらに部署として2019年に2部署、2020年に1部署が選出されています。
本セッションでは、特にエイチームさんの特徴である「多角モード」の症例に対する打ち手を明らかにしながら、その成長の秘訣に迫ります。
人事の役割を再定義し、人事部を創設
リンクアンドモチベーション 大澤:「誰が」「何を」「どのように」というフレームでお聞きしていきたいと思います。「誰が」というところでは、人事部を創設し、人事の役割の見直しをされたと伺っていますが、お話いただけますでしょうか。
エイチーム 中久木氏:以前の組織は、採用と制度企画・運用を担う「社長室 人材開発グループ」と、労務を担う「管理部」に分かれており、連携が上手くいきませんでした。起きていた問題として、採用から育成が一気通貫できていないこと、制度設計から運用、改善がスムーズに行われていないこと、人事データが色んなところに点在していて、活用できていないことなどが挙げられました。
そこで、昨年人事部を立ち上げました。部の構成は、制度設計・運用を行う人事企画グループ、採用を行うキャリア採用グループや新卒採用グループ、労務を担う人事運用グループです。
キャリア採用と新卒採用を分けるなど、各グループの機能を明確化し、会社の成長に貢献できるような組織を作っていこうとしています。「意思決定スピードを上げる」「人事部での情報連携を強化」「本質的な人事サービスの提供」の 3つを実現したいと思っています。
具体的に今後やっていきたいことは4つです。1つ目は、入社前から退職後までを繋げ、施策に落とし込んでいくことです。
例えば、エイチームを辞めた方も戻って来られるようにしたいと思っています。キャリアの上で、一時的に会社を離れることは当然あり得ること。退職者の方々に良い会社だと言っていただければ、そこからのリファラル採用やブランディング向上も期待できます。
2つ目は、採用した人の入社後のパフォーマンス傾向を分析し、分析結果を活かして、採用のPDCAを回していくこと。そして3つ目は、事業計画と要員計画、採用計画の連動をより高頻度で行うことです。4つ目は、個人の成長フェーズややりたいことを把握し、早期退職防止や早期戦力化を後押しすることです。
人事というのは「人」と「事」業をつなぐ架け橋だと思います。社員と会社、どちらの幸せも生み出す存在というのが、私なりの人事部の定義であり、今まさにエイチームでチャレンジをしている最中です。
サーベイ分析結果を元に、組織の課題を特定
リンクアンドモチベーション 大澤:ありがとうございます。では、次に「何を」されたのかを伺いたいと思います。
エイチーム 安井氏:エイチームでは、半年に一度モチベーションクラウドの結果を資料にまとめ、経営会議で報告しています。報告内容としては、子会社ごとのエンゲージメントスコアの経年比較、新卒・中途社員の入社経路別比較、入社年別のエンゲージメントスコアの経年比較、役職別の比較などです。
定期的に数値をまとめていると、例えば新卒は入社してから3回くらい、つまり1年半程度は連続でエンゲージメントスコアが下がり続け、それ以降は回復してくるといった一定の傾向が見えてきます。そういった傾向を参考にして、課題の優先順位付けや施策を検討しています。
エイチーム 中久木氏:結果を受けて、事業部単位では改善に向けてのアクションを設定してもらいますが、我々人事は別の切り口で見るようにしています。例えば、先程の新卒入社者のスコア推移の傾向は事業部単位で見ていてはわかりません。会社としてのデータの傾向から課題を抽出し、施策を打つのが人事の役割だと考えています。
組織診断結果はオープンにすることで、当事者意識が生まれる
リンクアンドモチベーション 大澤:社内にも結果をすべて公開しているそうですね。こういった組織診断の結果を、社内のどこまで公開するのかで悩まれる会社さんも多くいらっしゃいます。
エイチーム 安井氏:エイチームでは、組織図に合わせて、前回と今回のサーベイ結果や人数の変化を掲示しています。それにより、現場の責任者が自組織がどのような状態かを把握したり、他組織のエンゲージメントスコアと比較して、何か異常が起きていないかを確認することができるようにしていますね。
エイチーム 中久木氏:私たちも最初、2016年の導入時点では、管理職以上にのみ結果を公開しようと考えていました。ですが、結局自分たちの組織状態がわからなければ、自分たちで改善のしようがありません。
エイチームは創業以来、色々な情報を社員に公開するようにしてきました。情報を公開することで当事者意識が生まれ、自分がどうするかを考えるようになるからです。組織診断の結果はセンシティブな情報ですが、そういった文化を持つエイチームであれば大丈夫だと考え、公開することにしました。
リンクアンドモチベーション 大澤:透明性、公平性、オープンであることを大切にされているんですね。モチベーションクラウドを犯人探しのためではなく、組織改善の方法を考えるために使っていただいて、とても嬉しいです。
エイチーム 中久木氏:リンクアンドモチベーションのコンサルタントから、「エンゲージメントスコアが低いのは、その組織の人たちが悪いのではなく、組織内の関係性が悪いということ。人と人の間の問題を見つけにいきましょう」と言っていただきました。まさにその通りだなと思っています。特定の誰かが悪い、見つけようという話ではなく、組織内で何が起きているのかを明らかにして、改善するという使い方を心掛けています。
スコアの低い組織は、退職率が上がる
リンクアンドモチベーション 大澤:ここで参加者の方からの質問を取り上げさせていただきます。エンゲージメントスコア以外に、退職の予測に使っているKPIはありますか?
エイチーム 中久木氏:ありませんね。過去の退職の傾向把握として、退職率などを集計して見える化していますが、エンゲージメントスコアが低いところはやはり明らかに人が辞めますね。
リンクアンドモチベーション 大澤:やはりスコアと退職は相関がありますよね。それほど重要なスコアですが、責任者からメンバーへ、良いスコアをつけさせるような圧力はないんですか、という質問も来ています。
エイチーム 中久木氏:私の把握している範囲では、少なくとも悪いスコアを避けるために圧力をかけるということはありませんね。あくまで、エンゲージメントスコアは数字を見て安心するものではなく、組織課題について考えるきっかけです。エンゲージメントスコアが悪いから評価を下げるということはありません。
エンゲージメントスコアも上がったし、業績も上がったね、というように加点評価的に使うことが多いです。結果を伏せた状態で先にヒアリングを行い実態を把握してから結果を見せることもあります。数字だけでなく、肌感覚も大切にしています。
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等はイベント実施当時のものです。
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