【前編】 Speee IPO実現の裏にある経営哲学 -原則に“あえて”従わない、理念・育成のポイント-
2007年に創業し、企業のマーケティング課題を解決するコンサルティング事業からスタートしたSpeee。様々な新規事業を生み出しながら、従業員数500名規模まで拡大してきました。2020年7月にはついにIPOを実現。
一体なぜこの13年の間にここまでの成長を遂げることができたのか?その裏にある事業と組織を両輪で回す経営の秘訣について、代表取締役の大塚英樹氏に伺います。エグゼクティブ層の採用やオンボーディング、ミドルマネジメント、上場前の期待値調整など、「事前に予期し、防げた課題」から、「予期できていたが、防げなかった課題」まで、Speeeの拡大の歴史と共に赤裸々に語っていただきました。
【セミナー実施日】
2020年12月14日
【スピーカープロフィール】
株式会社Speee 代表取締役 大塚 英樹氏
【モデレーター】
株式会社リンクアンドモチベーション 中堅・成長ベンチャー企業向けモチベーションクラウド事業責任者 田中允樹
【ライター】
株式会社リンクアンドモチベーション 沖田慧祐
株式会社リンクアンドモチベーション 岩崎健太
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企業の成長ステージによって、起こる問題は異なる
リンクアンドモチベーション 田中:本日は、組織症例という考え方をベースに進めていきますので、簡単にご紹介します。組織は、その組織がどんなステージ(=人数・事業規模)にあるかに合わせて、陥りやすい症例が変わってきます。
特に、スタートアップが拡大成長していく過程は、4つのステージ(アーリー、ミドル、レイト、ネクスト)に分かれており、IPOはミドルステージとレイトステージの間に実施される企業様が多くなっています。
今回ご登壇いただくSpeee様は2020年7月10日にIPOされたばかりの企業様です。今回のセミナーでは、Speee様がアーリー、ミドル、レイトの3つのステージで陥りやすい症例をどのように乗り越えてきたのか、経営哲学も交えながらお話いただきたいと思います。
Speee 大塚氏:はじめまして。Speeeの大塚と申します。会社の説明ですが、創業は2007年で、社名「Speee」というのは、Speedのdを、abc順で1つ前に早めて、eという形にして、「スピードのその先」をイメージして付けたものです。特徴としては、外部から資金調達したことが今まで一切なく、ずっと自分たちで経営をしてきました。
IPOするタイミングで多くの投資家様とお話した際も「すごく特徴的だね」と仰っていただきました。現在、従業員数は大体500名ぐらいです。事業内容は、簡単にいえばDX促進 (※) です。
※DX=デジタルトランスフォーメーション。企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 (出所:経済産業省)
特徴的なのは、大手企業様向けのDXと中小企業様向けのDXを分けている点です。大手企業様向けのDXはイメージが湧きやすいかもしれませんが、実際に国内でDXが遅れている産業は、中小企業がマジョリティーを占めていて、かつ分散している市場なんです。
この場合、産業の構造問題が根深いので、マネタイズのモデルから抜本的に変える形で付加価値を出していかないと、DXが進みません。ですから、弊社もビジネスのアプローチを変えています。
コーポレートミッションは、「解き尽くす。未来を引きよせる。」としています。「解き尽くす」というのは、今まで解きにくかった問題が解き尽くせるようになるという意味です。これからの時代、データ中心の、デジタルに覆われてくる社会になっていきます。
私は、DXの本質は「真の顧客理解が起点になるもの」だと思っていて、様々な情報を集積・分析・考察した結果、リアルタイムで顧客の真の正体を理解することができるようになると考えています。
「未来を引きよせる」というのは、「私たちがいたから、未来に実現するはずだったことが、今実現できた」という状態を実現したいと思い、この言葉としています。
リンクアンドモチベーション 田中:ありがとうございます。実はSpeeeさんは非常に組織づくりが上手くいっている会社さんです。モチベーションクラウド(※組織状態の診断・改善クラウドサービス https://www.motivation-cloud.com/) を導入してくださっているのですが、Speeeさんの組織状態の偏差値、エンゲージメントスコアは70弱と高水準を推移しています。
本日は、高く維持してる秘訣はもちろんですが、IPOの前後を含むこれまでの歴史の中で経験された、様々な苦労を深掘ってお伺いしたいと思っています。
エンゲージメントレーティング「AAA」を過度に気にしない
Speee 大塚氏:実は私たちは、あまりエンゲージメントレーティング(エンゲージメントスコアを基にした格付けランクであるエンゲージメントレーティングは、スコアに応じて、良い状態から「AAA~DD」の11段階で判定されます)の高低を重要視していません。
もちろんスコアが低い時は、組織課題が多い状態ですので対応が必要ですが、一定以上の高さを維持していれば良いと考えています。なぜかというと、常に事業・組織を動的に変化させているので、多少スコアも波を打つぐらいが自然だと思っているからです。
ですから、レーティングスコアが「A」になったからといって、いきなり「うちの組織はやばい。人事に旗を振ってもらい面談を実施しよう」みたいな対応をすることはありません。
アーリーステージにおける経営哲学 「企業カルチャーの明文化」
リンクアンドモチベーション 田中:それでは、各ステージごとに紐解いていきたいと思います。まずは、アーリーステージから始めます。
Speee 大塚氏:カルチャーは、アーリーステージにおいて一番大事なことですよね。この「15の約束」は今も変わらず掲げている行動指針なのですが、経営の原理原則から考えると、15個という数は多過ぎると感じると思います。でも、なぜこんなに多い個数になっているのかが大事です。
実は、創業2年目に社員が3分の1ぐらい辞めてしまった時があるんです。10何人中、6人とか7人が辞めると。今でも覚えているシーンがあります。
辞める人がいるということで、ある日の夜に送別会をしたんです。社内で花などを渡して「今までありがとうございました」と伝えたのですが、次の日会社に行ったら、渡した花がトイレに捨てられてまして…。これまで目の前で一緒に働いてた人に、自分が渡した花を捨てられるなんて、その時は私もすごくショックを受けました。
こういった話は私も色々な書籍を読んで聞いたことはあったのですが、やはり聞くと体験するは全く別物です。言葉それ自体よりも、生々しい話や言葉の方が価値があるということを、この時に学びました。
そういった状況下で創った約束がこの15個なのですが、これらは創った時のストーリーとセットになっているので、どれも熱がこもっていて捨てがたいんです。経営の原則に基づくと、個数を絞ることを優先しがちなのですが、私は生の話や言葉が大事だと思っているので、今もそのまま使っていますね。
リンクアンドモチベーション 田中:言葉の数や表層的な表現ではなく、それぞれに裏付けされたプロセスやエピソードの方が大事だということですね。
ミドルステージにおける経営哲学①
「CXOの採用+オンボーディング」
リンクアンドモチベーション 田中:続いてミドルステージです。まさにIPO直前ですね。この時期は、短期的な数字目標達成に向けた追い込みや、法令順守への厳密な対応をしていく必要があります。また、ミドルがマネジメントの役割を果たさずにプレイヤー化してしまう等、30人ぐらいの組織では問題にはならなかったことも、100人規模の組織になると問題になってきます。
まずは「CXO(企業における業務や機能の最高責任者の総称。CEO=最高経営責任者、CFO=最高財務責任者など)の採用+オンボーディング」とのことですが、いかがでしょうか。
Speee 大塚氏:前提として、基本的には事業戦略は組織戦略に紐付きます。そのため、どのような組織を創るかによって、どのような事業に参入できるのか、そしてその事業で勝ち切れのるか、が決まります。
ベンチャー企業において、大手企業に対する優位性は、実行の密度です。ですから、いかに密度を高めるかが大事なポイントとなります。ところが、既存のCXOや役員が、担当事業領域を広げすぎるとその分密度が下がってしまい、かつ、その人が担当領域に詳しくない場合、ラーニングコストもかかります。結果、理論上勝ち切れる理由がなくなってしまうのです。
ですから、事業領域を広げるに際は、実行の密度がその領域でも高くできる人材をCXO等の役職で採用することが、すごく大事になります。一方で、こうしたCXO人材のオンボーディングは、なかなか難しいと感じています。
リンクアンドモチベーション 田中:多くの会社さんが、CXO人材のオンボーディングに苦労されています。
Speee 大塚氏:そうですよね。CXOの採用自体よりも、自分たちに合う人を採用し、自分たちに合う人になっていただくという点が本当は大事です。一例ですが、レベルが高い実力者の人ほど、入社してすぐに活躍をしようとしますよね。
リンクアンドモチベーション 田中:そうですね。
Speee 大塚氏:気持ちはわかりますよね、リクルーティングする側も高い期待を込めていますし、優秀な人は高いリクエストに応えたいと思いますから。
ですが、実は不整合が起きるケースがあります。どういうことかというと、入った瞬間にすぐに活躍しようと思い、既存のものに対して「ここが足りてないよね」という否定をしてしまうことが多いのです。
しかし、その動きはエグゼクティブクラスに求める動きではありません。既存の流れを汲みながら、どうやってよりレベルを上げていくのか?ということを本来エグゼクティブクラスには求めていますから。
もう1つ注意すべきは、経営者がオンボーディングにコミットしすぎて、構造的な不況が起きているケースです。
どういうことかというと、現場ですぐに活躍をしたいと思っているエグゼクティブと、すぐに活躍させたいと思っている経営陣が密に連携を取っていると、現場から「社長肝入りの案件らしい」という噂になったり、その人が現場で仕切る際に変な目で見られてしまったり、そういった問題が起きてしまいます。
結果として、現場で本人が孤立してしまう。実際、弊社でもこうしたケースが見られていました。
リンクアンドモチベーション 田中:なるほど。
Speee 大塚氏:経営者が直接オンボーディングをやりすぎることで、誰も悪い人間がいないにも関わらず、組織が疲れていき、本人も活躍ができなくなる。その結果、「あの人を採用したのって失敗じゃない?」ということを現場で噂され始めてしまいます。
1回こう言われ始めると、本人は仕事がやりにくくなりますよね。ですから、実力があるのであれば慌てない、ということが大事だと思います。
ミドルステージにおける経営哲学②
「ミドルの特性は経営陣の"焼き直し"」
リンクアンドモチベーション 田中:続いて、「ミドルの特性は経営陣の”焼き直し”」ということですが、こちらはどういう意味でしょうか。
Speee 大塚氏:経営陣に似るという意味です。逆に似ていないのに大活躍している人や部署があるならば、そこから、新たな経営陣が生まれてくるかもしれませんし、もしかしたら、持続性がない状態で刹那的に活躍をしているかもしれない。
色々と考えるヒントが詰まっているので、注意深く観察をする必要があると考えています。
具体的には、私が他の役員の下にいる人間を見て、「☓☓さんに似てるなぁ〜」「☓☓さんにずいぶん似てきたなぁ〜」などと思ったりしながら個人の成長や変化を感じることが多いです。逆に無理やり似させようとしすぎて、悪目立ちしているケースもあるので、それに対しては良くない、ということを塩梅良く伝えています。不自然なものは続かないですからね。
リンクアンドモチベーション 田中:「似させる」ことで、カルチャーが浸透する、判断軸がすり合いやすくなる、など多くのメリットが得られますよね。
一方で、似たような人材だけになってしまうと、新しいものが生み出しにくくなる、非連続なものが生まれにくくなる、といった懸念もあるかと思います。「似させる」と「違いを持たせる」のバランスはどのようにとられていらっしゃるのでしょうか?
Speee 大塚氏:確かに、似た人ばかりになってしまうとそういった懸念も出てきます。ですから、経営陣をはじめとする幹部陣の多様性は一定あるようにしています。
究極の話ですが、人は似させることでしか教育できないと考えていますので、多様性ある幹部陣のうち、誰に似せるとよいかということを考え、ジョブローテーションを行っています。このようにタレントマネジメントによる工夫をして、様々なタイプの人材を育てています。
ミドルステージにおける経営哲学③
「"突き上げ”と"引き上げ"」
リンクアンドモチベーション 田中:続いて、”突き上げ”と”引き上げ”についてです。ミドルステージになると、新卒採用した子たちが組織の活性を担い、スキルでも既存の中途社員を上回る、ということもありますよね。
Speee 大塚氏:毎年、新入社員に対してはギネス・最高基準を作ってもらうことをリクエストしています。なぜそうしているかというと、1つギネスを作ってもらうとそれが基準となって、次はそれを超えるのが当たり前になっていくからです。
先輩社員も、自分たちが創った基準を、新入社員が超えてくることで、自然と突き上げられますよね。毎年ギネスが更新され続ければ、理論上、新しい人材が入れば入るほど、基準が上がっていくことになります。
一方で、自然には基準が上がりきらない領域もあります。専門性が高い、新しい分野については、既存の経営陣でも引き上げられないスキルがあります。そういう分野は、中途入社の専門性が高い人に担当してもらい、専門性がない新卒を入れたとしても、専門性を有せるように育成してもらっています。
リンクアンドモチベーション 田中:配置が重要になりますね。Speee社の場合、ジョブローテーション、人や仕事との相性、本人のキャリアイメージなど、かなり網の目細かく配置やフォーメーションを考えていらっしゃるからこその話だと感じました。
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等はイベント実施当時のものです。
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