組織づくりは、弱みを克服するだけでは実現しない。ミッション・バリューを浸透させて、文化をつくる。アンカー・ジャパン株式会社
「組織偏差値急上昇の成長企業が実践するマネジメントの秘訣とは」というテーマで迎えるゲストは、アンカー・ジャパン株式会社の井戸義経氏。同社では社員の満足度を高めるために、柔軟な勤務制度をはじめ、複数のコミュニケーション施策を導入し、成果につなげてきた。
一方で、エンゲージメントサーベイのスコアを改善するという在り方を超えてたどり着いたのは、「文化の醸成」と「ミッション・バリューの浸透」だった。
【プロフィール】
アンカー・ジャパン株式会社 代表取締役 井戸 義経(いど よしつね)氏
株式会社リンクアンドモチベーション
MCSカンパニー カンパニー長 近藤 俊弥
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アンカー・ジャパンの成長率は、設立5年間で720%。
近藤 俊弥(以下、近藤):「組織偏差値急上昇の成長企業が実践するマネジメントの秘訣とは」という本日のテーマで登壇いただくのは、アンカー・ジャパン株式会社の井戸さんです。どうぞよろしくお願いします。
井戸 義経氏(以下、井戸氏):アンカー・ジャパン株式会社代表取締役の井戸と申します。私どもは、「Anker」というブランドで、モバイルバッテリーやUSB急速充電器のようなスマートデバイスの充電・発電機器を幅広く手がけています。
もともとは2011年に海外で生まれたブランドですが、2013年に日本法人を設立し、2015年には世界でユーザーが1,500万人を突破。2017年には、日本におけるモバイルバッテリーの販売累計数が300万個を突破しました。
オーディオブランド「Soundcore」、スマートホームブランド「Eufy」といったブランドもグループ内に抱えており、充電機器の領域において、日本をはじめ米国・英国などの先進各国でNo.1の販売実績を誇っています。
おかげさまでこの5年間、順調に業績を伸ばしています。2014年にはアマゾンにてポータブル充電器の部門No.1を獲得し、正式にKDDI様とお取引を開始しました。
また2016年には、ポケモンGOの追い風を受けて爆発的に業績が伸び、2017年度の国内売り上げはおよそ70数億円に達しました。設立から5年で720%と、非常に高い成長率を実現することができています。
私たちは「Empowering Smarter Lives」をミッションとして掲げています。単に安くて良いハードウェアを売るだけではなく、製品を通してお客様の生活がよりスマートに・豊かになるように、という思いを込めています。
そのミッションを実現するためのバリュー、すなわち行動規範として、「合理的に考えよう(Rationalism)・期待を超えよう(Excellence)・共に成長しよう(Growth)」を、一人ひとりの社員が頭に入れ、日々仕事をしています。
組織状態は、一度も下がることなく向上を続けている。
近藤:本日のテーマにある「組織偏差値」ですが、まずはこの偏差値とは何で、どのように計測しているのかについてご説明させていただきます。私たちは、効果的な活動の共通点には”ものさし”が必要だと考えています。
例えば受験の前には模試を受けますし、ダイエットをするときには体重計に乗ります。現状を把握することはもちろん、何が課題なのかについても、”ものさし”をベースにPDCAを回すことは欠かせません。
企業活動に置き換えると、事業面ではP/LやB/Sという定量的な指標があります。しかし、組織づくりの面ではそうした指標がないため、自社の現状を言い表せない企業様が多いです。
私たちは組織の”ものさし”として、モチベーションクラウドによるエンゲージメントスコアを提供し、PDCAが回るよう支援させていただいています。
サーベイの結果をもとに出されるエンゲージメントスコアは、偏差値をイメージして設定されています。一般的なレベルが50なので、70は非常に高いスコアだとご理解いただいて良いと思います。また、スコアが上昇すると、翌年の利益伸長率にも影響する傾向がみられます。
つまり、組織が良い状態になると業績も好調になってくるということです。
尚、サーベイ結果としては、上にプロットされるほどに期待度が高く、右にプロットされるほどに満足度が高くなっているとご理解ください。
右上のINTERLINKという枠に入っている項目を「強み」、左上のICEBLOCKという枠に入っている項目を「弱み」と表現しています。
井戸さんに具体的なお話をおうかがいする前に、アンカー・ジャパン株式会社様のスコアをご紹介させてください。
2017年の6月からこれまでに、4回エンゲージメントサーベイを実施されています。最初は「54.8」と、いわゆる平均的なスコアでしたが、これまで一度も下がることなく向上しています。
強みのひとつに「内部統合」がありますが、これは目標達成意欲の高さ、つまり自分たちが決めたことは社内でやりきる姿勢です。「人的資源」は一緒に働いている人が好きということ。
「外部適応」はお客様に寄り添って、ニーズをキャッチしながらプロダクトに活かせていることを示しています。
一方で弱みは「制度待遇」が挙がっています。これは、いわゆる評価や報酬のことを指しています。
井戸氏:まず前提として、個別の項目の改善と同時に、継続的にサーベイを実施すること自体が、社員へのメッセージになっています。「社員や組織のことを考え、会社側できっちりモニタリングをしよう」という姿勢が伝わり、スコアが全体的にグンと上がっていると思います。
また、強みに挙がっている「内部統合」や「人的資源」のスコアは、実はサーベイ実施にあたって良いスコアが出るだろうと予測していた通りの結果です。
これは、経営陣や人事が採用に相当こだわり、能力・経験・スキルだけではなく、会社の文化に合う人材を厳選するようにした結果だと、捉えています。
組織の満足度を上げる施策。できないことは明確に、できることは徹底的に。
近藤:更に、直近のエンゲージメントサーベイでは、「制度待遇」と「継承活動」という項目の、満足度のスコアが向上されていることが特徴的です。実際に行った施策をご紹介いただければと思います。
井戸氏:まず「制度待遇」についてですが、ここのスコアはなかなか上がりにくいだろうということは予測していました。まだスタートアップの段階で、あらゆるリソースが限られている状況なので、大企業並みの手厚い制度待遇を約束するのは難しい。
もちろん業績に合わせて待遇も向上させることを基本的な姿勢として持っていますが、大きな期待をさせることを不用意に約束しないようにはしています。
また、働き方の点で言えば、エンゲージメントサーベイ開始当初はかなりハードワークな環境だったこともあり、自由コメント欄には「もっとフレキシブルに働きたい」という要望が多くありました。
そのため、まずフレックスタイム制を試験的に3カ月ほど取り入れたのち、本導入しました。社員からは非常に好評で、働くことに対するストレスが軽減したように見えます。
近藤:なるほど、ありがとうございます。井戸さんのお話にもありましたが、給与は、「衛生要因」と呼ばれるもので、少しでも欠けると不満につながります。
一方で、例え十二分に提供したとしても、満足にはつながらないというものなので、慎重に扱う必要があります。
近藤:続いて「継承活動」についてもお聞かせください。「継承活動」とは、例えばナレッジマネジメントを指します。個人に蓄積しがちな知識や経験を、どのように組織の財産にしていくのかということです。
井戸氏:「継承活動」は、スピードを重視し、立ち止まることなく走り続ける我々のようなベンチャー企業には、難しい項目です。
例えば、業務マニュアルを整えたり、仕事の仕方を社内で統一したりといった方法があると思いますが、市場もビジネスの進め方も変化し続けるため、簡単ではない。ただ、そうは言っても何もやらないというわけにはいきません。
「データベースの整理」や「成功事例の社内展開」といったように、できるところから取り組んでいます。
近藤:「制度待遇」「継承活動」のスコア向上に関する施策をお話いただきましたが、他に取り組まれたことがあれば、是非共有していただきたく思います。
組織を強くするために、意図的にコミュニケーションの機会を増やす。
井戸氏:そうですね。コミュニケーションの機会を増やすことには取り組んでいます。例えば、我々の本社は中国にあるので、日本市場を担当しているメンバーが多数、中国にいます。日本から中国本社への出張は多かったものの、中国から日本への出張は少なかったので、より意思疎通を図ろうと、制度を整備しました。
一年に一度は必ず日本に来て、1〜2週間は東京で一緒に働きながら交流を深めることで、チームワークを強めるという循環をつくっています。
それから、部署間のコミュニケーションの場も重要視しています。社員数が増え、他部署が何をやっているのか分からないという状況が生まれていました。解決のために導入したのが「パワーランチ」です。
月に一度は必ず、別部署のメンバーと食事をするという施策で、マネジャーがファシリテーターとなり、「あなたの部署では今何を頑張っているの?」とか「何が問題なの?」ということを、堅苦しくなく聞くような場になっています。
この場は気軽なようで、他の部署から「それはこうすればいいよ」と答えが出るなどして、意外と問題が解決したりする。結果として、「会社の中で自分の部署や自分自身がどういう役割を果たしているかが明確になり、モチベーションが上がった」というメンバーが出てきました。
他にも、四半期毎の業績を振り返るタイミングで、「戦略説明会」を行っています。社員全員に対して、会社は今どういうフェーズにいて、何ができて何ができていないのかを説明する場です。
既に3〜4回継続して行っていますが、営業部門に限らずカスタマーサポートなどの部門も、より実感を持って、「自分たちが役割を果たしているから、お客様に喜んでいただいている」・「結果として売上も伸びていく」と思えているようです。
近藤:コミュニケーション施策といっても様々ありますが、アンカー様の場合は、拠点間・部署間・全社という風に、範囲を変えて複数の施策に取り組んでおられるということですね。
アンカー・ジャパンが次に目指すのは、「文化の醸成」・「ミッション・バリューの浸透」。
井戸氏:そうですね。エンゲージメントサーベイを開始した当初は、弱みが明確に分かっていたので、その数値を直接上げるための施策を立てていました。ただスコアが上がっていくにつれ、特定の項目を上げるというよりは、全体に影響を及ぼすような施策が必要になってきたと思います。
具体的には、「文化の醸成」や「ミッション・バリューの浸透」に、施策の軸足が移ってきています。我々はグローバル企業の日本支社ということもあり、グローバル共通のミッションやバリューがあります。
それを、日本で事業にあたっているメンバーへどう落とし込んでいくのかが、現在の課題です。
もっと噛み砕いて伝えることで、浸透を目指したい。理想は、今いるメンバーが新しいメンバーを迎える際に、自分の言葉で能動的に語るようになること。そうすればもっと強い組織になると思います。
近藤:ただスコアを改善するということではなく、文化をつくっていくための取り組みというお話をおうかがいし、強い組織づくりに向けて、ぜひ私たちも引き続きご支援ができればと思います。本日はどうもありがとうございました。
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※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。