「チームのために、できることの全て」 栃木ブレックス 田臥勇太が語るチーム論
先駆者として日本バスケットボール界を牽引してきた田臥勇太選手。バスケットマンとしてのキャリアは30年を超え、その中で様々なチームを経験してきた。田臥勇太が考える、チームづくりのために最も大切なこととは。
【プロフィール】
栃木ブレックス 田臥 勇太選手
【インタビュアー】
株式会社リンクアンドモチベーション マネジャー 松田 佳子
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最も大切なものは「チーム力」
松田 佳子(以下松田):これまで様々なインタビューで田臥選手は「チーム力」が栃木ブレックスの強みだと挙げられておられました。
今回のインタビューでは、私が組織人事のコンサルタントの立場から、「チーム力を高めるために田臥選手がどんなことを大切に行動してきたか」ということを伺っていきたいと思います。
田臥 勇太選手(以下田臥選手):はい。よろしくお願いします。
松田:2017-18シーズンもお疲れ様でした。2018-19シーズンは、チームメンバーの入れ替えがあり、新しいチームでのスタートということになると思います。
プロスポーツチームでは新しい選手が入ってくるということが常だと思いますが、その際に田臥選手が意識されていることはありますか?
田臥選手:そうですね。ブレックスというチームのベースだったり、戦い方だったりということに関しては、入ってくる選手がちゃんとイメージを持ってきてくれていると思うので、僕たちはそれをブラさないことですね。
チームの良さを大事にしながら、新たな選手の良さをプラスアルファで加えていくイメージです。
松田:新加入の選手のお話からは「ディフェンス」や「チームへの貢献」というブレックスが大切にされている言葉をすでに使われているように見受けられます。
田臥選手:そうですね。チームに加わる前段階で選手に対しては「なぜブレックスがあなたを必要としているか」を明確に提示していて、それに応える形で入ってきていると思うので、しっかり理解してくれていると思います。
これまでのブレックスの歴史、1日1日の積み重ねの中で、チームとして大切にしたいことが外にも伝わるイメージとして出来上がってきているのだと思います。それは「ディフェンス」だったり「チームへの貢献」だったり。それはとてもいいことだと思いますね。
松田:私はいちファンとしてアリーナに来たり、チームの発信などをWEBで見ることも多いのですが、ブレックスは選手・コーチだけでなく、フロントやスタッフの方からも「チームとして大切にしたいこと」が浸透していることを感じます。
田臥選手:やっぱりこの栃木ブレックスというチームがどういうチームで、どんなチームを目指すのかというのは、プレーヤーやコーチはもちろん、フロントもスタッフも共有できていると思います。
そして、ファンの方々ですね。ファンの方々も含めて、僕たちはひとつのチームだと思っています。短い時間でつくれるものではないと思いますが、積み重ねの中で創り上げてこれたものもあるのではないか、と感じます。
エンゲージメントサーベイによって見えた「信頼」
松田:昨年、ブレックスでは選手の皆さんを対象にチームのエンゲージメント状態を測るサーベイを実施されました。非常に高いスコアが出ているのですが、特に「チームの目標の共有」や「チームメイトへの信頼」というところで5点(5点満点)というスコアが出ています。
プロスポーツでは、当然契約の世界なので、個人の成果とチームの成果という2つの両立においては、葛藤があると思うのですが、ブレックスにおいて葛藤を超えるために工夫されていることはありますか。
田臥選手:2つあると思います。それは「役割を明確にすること」と「コミュニケーション」です。ブレックスは、プレーヤー・コーチ・フロント・スタッフそれぞれの役割が非常に明確にされているチームだと思います。
もちろん選手は契約の世界なので活躍をしなければいけないです。「どんなことを期待しているか」ということをフロントやコーチが明確に伝えてくれるし、きちんと見て評価してくれているという実感があります。
またその役割を伝えるためにしっかりコミュニケーションをとるということを、ブレックスはとても大切にしていると思います。僕はブレックスで一番キャリアが長い選手になりましたが、年を重ねるごとにそれはどんどん強化されていると思います。
プレーヤーにも役割への期待はしっかりと伝わっていて、皆それに応えようと努力していると思います。また、それぞれの立場という意味でも、ブレックスはひとつのサークルのようなチームだと思います。サークルというのは円ですね。
誰が欠けてもいけない。全ての人・役割を信頼関係で繋げる。そのためにコミュニケーションを大事にする、というイメージです。
松田:なるほど。期待を明確に伝えながら、コミュニケーションで信頼を紡いでいるのですね。
田臥選手:例え1分のプレーだろうと、1つのプレーだろうと、何を期待されているのかは明確だと思います。選手はそれに応えようと努力をします。そういう姿勢やメンタルが大事だと思いますね。
それぞれの役割を全うするという、サークルのバランスがとれたときは、仮に勝利できなかったとしてもチームとしてはよかったと思いますし、仮に勝利できたとしてもチームとして一つになれていなければ、それは課題だと思います。
リスペクトがチームの信頼関係を創る
松田:昨シーズン、特にスタートはチームの成績が苦しい時期もありましたが、当時のチームの状況はどうでしたか。
田臥選手:そうですね。昨シーズンのブレックスが苦しい時に限らず、チームには苦しい時があると思います。それはやっぱり、どこかでお互いを信頼しきれていなかったり、目標や目的を一つにできていなかったり。
チームとして目指すものと、個人として目指すものがバランスをとれていないときに、チーム状態は停滞していくのだと思います。
常に上手くいくことに越したことはないですが、そうではない時もあります。僕自身も過去のブレックスやアメリカでも、いろんなチームでいろんなチームメイトと一緒にやってきました。
例えばアメリカだと、全然チームと呼べないような個人の集まりのようなチームもありました。様々な経験をする中で、やっぱり「チームとして戦う」ことが大事だと感じます。
松田:チームとして戦う上で大切なことはありますか。
田臥選手:リスペクトだと思います。それぞれのキャリアや立場がありますが、選手同士やフロント・スタッフ・ファンの方と、互いにリスペクトし合える関係を創れるかどうかが大切だと思います。僕はキャリアを重ねるごとに、リスペクトに対する意識は高まっているかもしれません。
松田:田臥選手は、チームからどんな期待をされていると感じていますか。
田臥選手:僕にしかできないこと、全部ですね。コート内でもコート外でも。僕自身は、自分のためにプレーすることがチームのためだと思っていますし、チームのためにプレーすることが自分のためだと思っています。
それは完全にイコールです。自分にしかできないこと、という点でいくと、自分の立場や存在を自覚しなければいけない、ということですね。11年目を迎えて、チームからの信頼をさらに感じますし、それは責任という意味で重く受け止めています。それに応えたいという一心です。
松田:20代の頃に話されている内容と現在では、「チーム」や「責任」という言葉が増えてらっしゃるように感じます。
田臥選手:20代の頃とは全然違いますね。大切にするものが、個人からチームへと変わっていくことは、やはりキャリアを重ねることで変化していくものだと思います。
アメリカでのプレー、Bリーグの発足、その前後での日本代表など、ありがたいことに様々な経験を積むことができたので、その中で僕は考える機会を得ることができたのだと思います。「客観的に自分を見る」ということを年々意識するようになってきました。
その中で「チーム」の大切さを改めて実感したのだと思います。
結果は大切、さらに先にある「勝ち負けを超えて応援したくなるチーム」へ
松田:キャリアを重ねても、ずっと変わらないことはありますか。
田臥選手:バスケットに対して真摯に向き合いたい、という気持ちです。自分は本当にバスケットに育ててもらいました。
バスケットボールそのもの、そしてバスケットボールに関わる全ての人に対する感謝の気持ちは、絶対に忘れないようにと心がけています。
自分が心の底から情熱を注げるものってなかなかない。僕はバスケットボールに出会えてとてもラッキーだと思うし、だからこそ大切にしなければいけないと思っています。
もう30年以上経ちますけれど、バスケットに対する情熱は、増す一方です。
松田:それがチームにも伝わるといいな、と。
田臥選手:そうですね。でも、それは僕がコントロールできることではないので、僕は自分がコントロールできることにフォーカスしたいと思います。
松田:チームを超えて、バスケ界に対してどんな思いを。
田臥選手:そうですね。僕は僕の情熱をバスケット、チームに注ぎたい。その姿によって、見ている誰かは反応してくれると思います。プレーヤーやスタッフという立場を超えて、情熱を持って取り組むことが大事だと思います。
また、勝負の世界で結果が求められるので、とてもむずかしいことですが、勝ち負けを超えて応援したくなる、そんな状態を創りたいと思います。それは僕たちブレックスが先頭に立つべきチームだと思っています。そんなチームが増えていけば、日本のレベルは自然と高まっていくと思います。
松田:最後に、ブレックスの今シーズンについて意気込みをお願いします。
田臥選手:今シーズンは「アドバンス」というスローガンを掲げています。これまでブレックスが大切にしてきたものをベースにしながら、いかに磨き上げて前進していけるかが勝負だと思います。
1つ1つのプレーや行動に対して、本当に皆がしつこく言い続けることができるか、ということがアドバンスに繋がると思います。
シーズンの中では、いろんなことが起こると思います。その中で、勝っている時は自然と皆前を向けると思うのですが、苦しいときにこそ前を向けるチームでありたいと思います。
それはプレイヤーだけでなく、コーチ・フロント・スタッフ、そしてファンの方もみんなで、そんなチームを創っていきたいと思っています。
松田:ブレックスは観ている側が思わず声を出して楽しんでしまう、大好きなチームの一つです。今シーズンも、心から応援しています。
田臥選手:そう言って頂けると嬉しいです。試合前にヘッドコーチは僕たちに必ず、ファンが熱い思いで観に来てくれている話をします。一緒に戦っていると思ってもらえるように、バスケをしたいと思います。
※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
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