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『年輪経営』伊那食品工業 取締役会長 塚越寛氏【3/3】 「社員の幸せのために経営する」

経営者に読み継がれる名著「リストラなしの年輪経営」、そしてグッドカンパニー大賞グランプリ受賞(2007年)をはじめとした数々の受賞。そして塚越寛会長個人としては旭日小綬章(2011年)を受賞。

長きに渡って経営者からの関心を集め続ける、長野県に本社を構える寒天のトップメーカー伊那食品工業株式会社。

手入れの行き届いた樹木と美しい苔に囲まれた広大な敷地は、自由に地域住民が出入りする。この開かれた場所で営まれ続けている「年輪経営」とは何か。

短期の利益追求を迫られる現代社会とは一線を画し、社員だけではなく取引先・得意先など自社にかかわるすべての人たちとともに、着実に成長し続けることができる理由は何なのか。

伊那食品工業株式会社の塚越寛会長の信念の宿る経営論を全3回シリーズでお送りする、完結篇の第3回目。


【プロフィール】
伊那食品工業株式会社 取締役会長 塚越寛 氏

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いい会社をつくるための採用基準

我が社の社員が社会人として立派だというお話をしましたが、採用時に一貫して、優秀かどうかを見ています。

優秀の定義は、学歴がいい・学生時代にチームをまとめた経験があるなど様々だと思いますが、私は、学生時代の能力と社会人になって発揮する能力は別だと思っています。

伊那食品工業にとっての優秀とは、協調性がある人のことです。会社というのは、力を合わせて皆で成果を出す場所だからこそ、大切なのは協調性なのです。

伊那食品工業の本社トイレは、設立以来、便器を手で触れても何の問題もないくらいに清潔に保たれています。清掃業者に依頼しているわけではなく、社員が素手で便器の内側も外側も、綺麗に磨いているのです。

元々が綺麗だから、お越しくださった皆さんも綺麗に使おうとしてくださる。万が一のことがあっても、気がついた社員がすぐに綺麗に掃除をすることが習慣づいているので、常に清潔な状態が保たれます。

この「気づいた社員」というところが重要なポイントで、周囲の様子をきちんとわかりながら、自ら進んで掃除ができることは、協調性の高さの表れだと思うのです。これは伊那食品工業で仕事をする上では大切なことです。

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物理的距離と心理的距離

協調性の素養がある人ばかりを採用したからといって、その後何もしなくても上手くいくということはなく、仕組みも工夫しています。

まず、物理的距離を近くするという意味で、工場などの新規建設に入る場合、現在使用している建物のなるべく近くへ建設することを徹底しています。安価だからと、本社から遠く離れた場所に誘致があっても、一切受けません。

国内は3か所工場がありますが、それぞれ車で1キロ程度の距離ですし、工場と本社の全員で集まれる場所を持とうということで、新たに700名ほどが収容できるホールも作りました。

そして月に一度、全社員で集合して全体会議をしています。全体会議といっても一方向で伝えることが多いので、私が全社員と直接話せる場所を設けているということです。

全社員が集まって同じ時間を過ごすことで、心理的距離が近くなることは、非常に大切なことです。普段はそれぞれ別の場所で働いていても「ここにいる全員で伊那食ファミリーなのだ」という意識になれるからです。

また、朝礼の実施も心理的距離を近くする施策のひとつです。本社と3つの工場の4か所で、毎日朝礼が行われていますが、私と社長・副社長で手分けして顔を出します。

全体会議よりももっと近い距離で社員とかかわることで、職場の様子が直に見えてきますし、私たちの気持ちもより近くで伝えることができるので、大切にしている時間です。

会社と社員は必ずわかり合える

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「どうやったら伊那食品工業のような会社をつくれるんですか」というご質問をよく受けますが、何も難しいことじゃありません。

大切なことはひとつだけで、経営者が、自分の名誉や財産のためじゃなくて、社員の幸せのために経営することです。

それができれば、自然と社員は気持ちを返してくれます。社員が、出勤時間の前や週末を使って、会社の敷地内の樹木の手入れをしてくれることを、当たり前だとは思っていません。

それぞれに予定もあるだろうにもかかわらず、率先して取り組んでくれることが、本当に嬉しいのです。自ずと私もまた、社員にどうすれば報いることができるかと考えるようになります。

伊那食品工業の福利厚生が充実し続けているのも、社員に報いたいという気持ちの表れです。介護保険や毎年のインフルエンザの予防注射は、全社員分を会社が負担している上、退職金も増やしました。がん保険にも、全社員分入るようになりました。

年に何度か、やはりがん保険に入っておいて良かったというケースが起こります。それなりの負担額にはなりますが、社員の皆が頑張ってくれて稼いだお金なのだから、何てことはありません。

もしも社員が病気になったり、介護が必要になったりしたときにこそ、少しでも安心できるように備えたいと思っているのです。

1969年から始めた、全社員での社員旅行もそうです。海外旅行が基本で、治安問題がある場合のみ国内旅行ということで、一度も途切れたことなく続けることができています。

こういった福利厚生の充実に対して、社員が喜んでくれることはもちろん社員の家族も喜んでくれる。そうすると社員は、より一層仕事を頑張ろうとしますし、家族も応援してくれます。

最近では、自分の子どもを勤めさせたいと言って、実際にそうなる例が増えてきました。こういった広がり方は、本当に嬉しいことです。

使命は「いい会社」をつくり続けること

頑張ってくれる社員に報いるためにも、私がやるべきことは、改めて「年輪経営」で、いい会社をつくり続けることです。商品やサービスは時代に合わせて変化し続けるべきですが、会社として大切にすべきことはぶれてはいけません。

伊那食品工業の社是「いい会社をつくりましょう~たくましく そして やさしく~」は、ずっと変わらずあり続ける。

経営的な数字の良さだけではなく、社員をはじめとして、商品を支持してくださるお客さま、地元の方々や得意先・仕入れ先の方々、伊那食品工業を取り巻くすべての方々から「いい会社」だと言っていただける会社を、生涯をかけてつくり続けていきたいと思います。

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『年輪経営』伊那食品工業株式会社 取締役会長 塚越寛氏 【1/3】「いい会社のつくり方」はこちら

 ・『年輪経営』伊那食品工業株式会社 取締役会長 塚越寛氏 【2/3】「社員とともに、苔むす会社を目指す」はこちら

※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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