
ワークシェアリングとは?メリット・デメリットや導入方法を徹底解説!
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ワークシェアリングという言葉をご存知でしょうか。働き方改革が進められる中で、その手段の一つとしてワークシェアリングが注目を集めるようになりました。
ワークシェアリングとは、簡単に言えば複数の従業員で仕事を分け合い、労働者一人あたりの負担を減らし雇用を生み出すことができる方法です。
本記事では、ワークシェアリングの概要や導入のメリット・デメリット、更に導入の方法について説明していきます。
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ワークシェアリングとは?
■ワークシェアリングの概要
ワークシェアリングとは、「従業員同士で雇用を分け合う」仕事の仕方のことを指す言葉です。「仕事の分かち合い」と訳されることもあります。
ワークシェアリングの主な目的は、社会全体の雇用者数の増加です。従業員同士で仕事を分け合うことで、ひとりひとりの従業員の労働時間を少なくし、従業員の総人数を増加させ、これまで以上に多くの人材を雇用することができる方法がワークシェアリングなのです。
ワークシェアリングに注目が集まった背景
ワークシェアリングが今注目されている背景はどういったものがあるのでしょうか。
ワークシェアリングが提唱され始めたのは日本では約10年前からですが、海外では更に前から導入がされており、成功例も生まれ、進化をしています。
特に欧州では、失業率が急増した時代に、ワークシェアリングが失業対策の一つである雇用を創出する手段として広まっていった背景があります。
ワークシェアリングが注目されるようになった背景には2つのポイントがありました。
1つ目は、先程も説明をした失業率の高まりでした。失業率の改善が求められる時代や国において、ワークシェアリングは多くの人数で仕事を分担するために雇用口を増やすための解決策として用いられるようになったのです。
2つ目は、労働者への負担軽減です。長時間労働を強いらざるを得ない業務量では、ハードワークによって従業員が心身ともに疲弊してしまいます。これは離職や休職にもつながるため、安定的な労働力の確保をしたい企業にとっては問題です。
一人で行う業務を複数人で行うことにより、前述したように個人負担が軽減され、時間や心に余裕が生まれることで、効率的に生産性を上げることができるのがワークシェアリングなのです。
こういった背景から、ワークシェアリングが世界的に注目されるようになり、日本にもその流れがやってきています。
ワークシェアリングの種類
一口にワークシェアリングといっても、そのスタイルにはバリエーションがあります。ここでは基本的なワークシェアリングの形態をご紹介していきます。
■雇用維持型(緊急避難型)
雇用維持型(緊急避難型)とは、企業の業績が悪化した際に行うワークシェアリングを指します。
業績が悪化していても、すでに雇用している従業員を解雇することなく、その雇用を維持するために行うワークシェアリングのことです。
業績が悪化した企業では、人材の流出が大きな問題となります。そういった場合の対応策として、ワークシェアリングを取り入れ、現状の雇用を維持し、人材の流出を防ぐことが、業績悪化を一日でも早く乗り越えるための土台となります。
■雇用維持型(中高年対策型)
2つ目の種類である雇用維持型(中高年対策方)は、中高年層の離職を減らすためのワークシェアリングです。
中高年層とは、定年以上の従業員をイメージしていただくとわかりやすいかと思います。ワークシェアリングによって、短時間勤務や少ない勤務日数で中高年層を雇用し続けることで、より広く雇用を提供することができます。
さらにワークシェアリングを取り入れ、一人ひとりの負担を減らすことで中高年層が企業に残ってくれることは、ナレッジや技術の継承といった観点でも企業にとってメリットがあります。
■雇用創出型
雇用創出型とは、新たな雇用を生み出し、失業率を改善することに特化したワークシェアリングの形です。
ワークシェアリングによって、すでに雇用されている従業員一人あたりの労働時間を短くし、その分新たな従業員を雇うことで雇用の機会を増やすというものです。
景気低迷などで、求人倍率が低い場合、失業率を改善したい場合に用いられることがあります。
■多様就業促進型
多様就業促進型とは、多様なライフスタイルに合わせて、柔軟な働き方を実現するために用いられるワークシェアリングの形です。昨今進められている働き方改革の手段の一つでもあります。
育児や家事、介護などと仕事を両立するため、フルタイムだけではなく、短時間労働を導入する際に、一人あたりの業務力を減らせるワークシェアリングを導入するケースがあります。
多様就業促進型は、「ワークシェアリングで労働時間を調整する」「多様な働き方を企業や社会で受け止める」ことを目的とした業務の分かち合い、ワークシェアリングなのです。
ワークシェアリング導入のメリット
ワークシェアリングを導入することでどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、企業側と従業員側に分けて、それぞれにとってもメリットを紹介していきます。
■企業側のメリット
企業にとってもメリットは、主に以下の3つがあります。
・労働環境の改善
従業員数を増やして、一人ひとりの業務量を減らすことにより、長時間労働などのハードワークが改善されます。
一人に対しての業務量が減るため、各人が本当に重要な業務に集中でき、生産性の向上が期待できるでしょう。また、業務の整理を行って無駄な会議などを減らし、効率を考えた「職場環境の改善」を行うことが可能です。
・従業員満足度の向上
ワークシェアリングを行うことは、「景気が悪化した場合に自分たちの雇用が守られるのか」という不安に対しての対応策ともなります。景気が悪くなっても会社は自分たちの雇用を守るための仕組みを持っているということが社員に伝われば、社員からの企業への信頼は向上します。
また、ワークシェアリングによって一人ひとりの業務量が減ることは、心身への負担も減るため、従業員の健康も守られますし、働き方改革の文脈でも多様なライフスタイル合わせた働き方の実現にもつながるため、そういった点を求めている従業員にとっては満足度が高まるでしょう。
・企業イメージの向上
ワークシェアリングを取り入れていることを社外にアピールすることで、「雇用の機会を広く提供している企業」「景気が悪くてもリストラをしない企業」「一人ひとりがのびのびと働ける企業」といったイメージを作ることができるでしょう。
企業イメージの向上は企業価値そのものの向上にもつながるため、ワークシェアリングを戦略的に活用することも考えると良いでしょう。
■従業員側のメリット
一方で従業員にとってもメリットは以下の2つが挙げられます。
・雇用が守られる
生活のために必要な「働くこと」を既存社員へも、求職者へも提供できるのがワークシェアリングです。
求職者にとっては、ワークシェアリングによって新しい仕事に就く機会が増えますし、今現在雇用されている人にとっては、労働時間を短縮されるものの、雇用は維持されるため働き続けることがでます。
働く場所を確保できるということは、従業員にとっての何よりのメリットと言えます。
・ワークライフバランスの実現
ワークシェアリングによって、一人ひとりの業務負担が軽減されることで生まれた時間を、一人ひとりが有効に使うことができます。
育児、家事、介護、自己研鑽、地域貢献など、一人ひとりが自分らしく生活をするための時間を得られるのです。
こうした幅広い働き方を受け入れられる組織を作り、優秀な人材が集まる環境を作ることは、企業にとってもメリットだと言えます。
(参考)テレワークの活用で働き方改革を!導入事例やポイントを解説
ワークシェアリングのデメリット
反対に、ワークシェアリングを取り入れることによるデメリットもきちんと理解しておきましょう。ここでも、企業側と従業員側に分けて解説をしていきます。
■企業側のデメリット
企業側にとってもデメリットは、以下の3つです。
・制度の再整備
ワークシェアリングを実装する場合には、すでにある制度を見直す必要があります。単に新規雇用を増やし、労働時間を減らせばいいというものではないのです。
制度の見直しが必要になる例としては、短時間勤務制度や格差是正のための制度などがあります。すでにある様々な制度をどの従業員にとっても公平なものにするためには、企業にとって負担になります。
・給与計算の増大・複雑化
ワークシェアリング導入により、短時間労働などの新たな働き方が増えるため、給与計算のコストが増大します。
単に、新たに給与計算の方法が変わるということだけではなく、従業員数が増えるため給与計算をする対象も増えるのです。
給与計算は従業員の生活に直結する重要な作業です。ワークシェアリングなど新たな働き方を導入する際は、丁寧に見直すことが必要でしょう。
・その他コストの増加
ワークシェアリングによって、従業員数が増加することで、企業が負担する金額が増えるものがあります。
例えば、社会保険料は従業員の数が増えれば増加しますし、企業規模が大きくなることで福利厚生や社員教育を手厚く行う必要性も出てくるためコストが増える可能性があります。
雇用者の増加と比例して、企業が負担する一部のコストが増加することは、経営面から考えた場合、企業側にとって大きなデメリットとなります。
■従業員側のデメリット
一方で従業員側のデメリットは、主に以下の2つが挙げられます。
・給与ダウン
ワークシェアリングを取り入れることで、一人ひとりの労働者の労働時間が短くなり、労働時間に応じて支払われる基本給も下がります。給与は生活の基盤ですから、従業員にとってはデメリットになるといえます。ただし、1時間当たりの給与が増加する場合、逆に給与が増加する場合もあるようです。
・格差が生まれる
ワークシェアリングを導入する際、すべての従業員に対して平等に導入することができないこともあります。対象になる労働形態・対象にならない労働形態がある場合は、ワークシェアリングの対象労働者だけが労働時間が短縮されるため、両者に賃金格差、待遇の格差が生じてしまいます。
同一労働同一賃金が叫ばれていても、労働時間で賃金が決定してしまう現状は、従業員にとってデメリットとなります。
ワークシェアリングの導入は個人にとっては良いことばかりではないため、導入前にきちんと企業と従業員の間で、変わること、変わらないこと、のすり合わせをすることが重要です。
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ワークシェアリングの導入方法
ワークシェアリングを取り入れるために必要な、代表的な導入ステップを解説していきます。
①現状の業務状況を把握する
業務を複数人で分け合うワークシェアリングを導入するためには、自社にどんな業務があるのかを把握することが必要です。そして、自社の業務状況について確認をしましょう。どんな業務があり、何人の従業員が関わっていて、どれほどの時間とコストがかかっているのかを整理します。
②業務の無駄を見直す
①で業務状況を整理したら、効率化できる業務がないか精査します。そもそも不要な業務や、現状のコストを削減できそうな業務を探していきます。また、現状とは違う方法で行えばもっと効率的になるものはないかという観点でも精査をすると良いでしょう。
③ワークシェアリングが適応可能な業務・職種を明確にする
②で業務の無駄を整理すると、ワークシェアリングを取り入れられそうな業務や職種が見えてきます。複数人で分担することができそうな業務、誰がやっても同じクオリティを出せそうな均一化された業務などが適切でしょう。
■ワークシェアリング運用のためのマニュアルを作成する
ワークシェアリング導入に向けて、責任者、運用方法、これまでと変更になる点(制度や福利厚生、教育制度など)を整理し、従業員に共有するためのマニュアルを作成しましょう。マニュアルと共に、ワークシェアリング導入の目的や背景、導入によって得られるメリットなどもきちんと説明することで、社員の理解を得るように心がけましょう。
■導入後、業務状況の評価を行い、進捗を確認する
ワークシェアリングの運用が始まったら、効果測定をしましょう。導入前に決めた、導入目的が果たされているかどうか、企業の業績に貢献できているかどうかを評価します。振り返りを行うことで、更にスムーズに効果的に運用をしていくための改善点を見つけ、ブラッシュアップをすることも重要なポイントです。
ワークシェアリングに関わる助成金
日本ではワークシェアリングを運用する企業に対し、国から助成金を受け取ることができます。ワークシェアリングに関わる助成金は以下3つです。
■時間外労働等改善助成金
時間外労働改善助成金は、働き方改革に取り組む中小企業や小規模事業者が対象の助成金です。取り組む内容によって5つの助成コースに分かれます。適用条件もコースによって異なるため、詳しくは厚生労働省のホームページを参考にしてください。
<5つの助成コース>
・時間外労働上限設定コース
長時間労働の是正に向け、時間外労働の短縮を実現する取り組みを行っている企業向け
・勤務間インターバル
働き過ぎを防ぐために、終業から始業までの間に一定時間の休暇を設ける取り組みを行っている企業向け
・職場意識改善コース
ワークライフバランスを保つため、労働時間や有給休暇の取得率の改善に取り組んでいる企業向け
・団体推進コース
中小企業団体や事業者団体を対象として、長時間労働の是正や職場環境の改善に向けた取り組みを行っている企業向け
・テレワークコース
育児・介護などの生活と仕事の両立を目指し、自宅勤務などの多様な勤務形態の推進に取り組んでいる企業向け
■雇用調整助成金
雇用調整助成金は、景気変動などの経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成するものです。
景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成されます。
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_20200515.html
記事まとめ
いかがでしたでしょうか。働き方改革が推し進められている中で、ひとりひとりの従業員の負担を軽減し、雇用を生み出すことができるワークシェアリングは、新しい働き方の形になるでしょう。
ワークシェアリングによって得られるメリットやデメリットを見極めつつ、自社にとって効果的な働き方の形を実現していきましょう。