選ばれる組織へ~自治体の『人材確保・育成』改革~①自治体は「選ばれない」組織に!?
加速する公務員離れ
「後を担う若手・中堅層が次々と転職・休職してしまう」「人手不足で忙しいのになかなか優秀な人材が入ってこない」こうした状況に頭を抱える自治体は少なくない。
私が所属する「リンクアンドモチベーション」は2000年創業の組織変革コンサルティング会社で、近年は横浜市、札幌市、大阪府四條畷市、目黒区など、自治体の組織変革の支援が増えている。
アンケート調査などを活用した組織診断から理念策定、管理職研修まで、幅広いサービスを提供している。
本連載では、これまで自治体をはじめ多くの民間企業の組織変革を担ってきた筆者が、自治体を取り巻く労働市場の現状や、「選ばれる」組織になるための方策をお伝えしていく。第1回は、公務員離れの実態とその原因を考察していきたい。
離職・休職が増
公務員と言えば、不況期でも地方公務員の競争倍率が10倍を超えるなど、かつては人気の就職先だった。ただ、近年急速に変化する労働市場で「選ばれない」職業となっているのが現状だ。
その背景には以下のように「組織内外」の二つの要素がある。
①「内部労働市場」の変化
まず自治体組織の内部に目を向けてみよう。
自治体職員の離職者数は年々増加している。
少子高齢化による労働人口の減少により、若い労働力は取り合いになり、若手・中堅の自治体職員が民間企業に転職する、あるいは民間企業から引き抜かれるケースが増えている。
また、休職者の増加も見逃せない。
一般社団法人地方公務員安全衛生推進協会の調査によると、地方公務員の「精神及び行動の障害」を理由とした長期病休者(疾病等により休業30日以上または1か月以上の療養者)の割合は、15年前の2倍以上である。
この背景には、課長層のプレイングマネージャー化などが影響している。
業務量の増加に伴い、課長層もプレイヤー業務に割く時間が増えたことで、部下のマネジメントに割く時間が減ってしまった。
結果として、部下一人ひとりの成長課題に向き合ったり、モチベーションを高めたりするようなコミュニケーションが減ってしまった。
また、相互信頼の基盤を作るのに機能していた飲み会など、業務外のコミュニケーションの減少も相まって、職員の働くことへの意欲が減退し、結果として休職者が増えてしまっている。
②「外部労働市場」の変化
自治体組織の外部でも変化は起きている。
公務員の応募者は年々減少しており、特別区では毎年1千人(約10%)ずつ申込者数が減少している深刻な状態にある。
また、現場の職員からは「昔は旧帝大や地元国立大の学生が多かったが、今は2番手・3番手大学の学生が多い」といった声も聞かれる。
総務省が2022年に1011行政団体に対して実施した調査では、「応募者の中に能力のある人材が見つからない」と答えた割合は56%、「今後、能力のある人材の確保がより難しくなる」は82%に上った。
人材の「量」の低下だけでなく、「質」の低下にも悩んでいるのが、今の自治体の現状だ。
そもそも日本全体の労働人口が低下し、求人数の増加、転職市場の活性化など、労働市場は大きく変化している。
その中で、民間企業では選ばれるための努力を重ねてきた。
近年は自社の人材(人的資本)に投資し、能力や可能性を引き出すことで、企業価値向上を図る「人的資本経営」が当たり前の取り組みになっている。
一方、自治体に目を向けてみると、人的資本経営とは程遠い状態にあると言わざるを得ない。
結果として、職員や応募者から「選ばれない」職種になっている。
次回に向けて
こうした背景をもとに、総務省は自治体に対し、組織のエンゲージメント(働きがい・愛着)を高めることで能力を最大限に発揮させ、人材の確保・育成・評価・配置を戦略的に実施する「人材マネジメント」の推進を要請している。
ただ、その取り組みには正直なところ、自治体ごとの本気度に温度差を感じる。
少し厳しい言い方もさせていただいたが、この連載を通じて、少しでも各自治体の『人材確保・育成』改革を進める一助になれれば幸いである。
次回は、「選ばれる」組織に変わるための考え方と、「人材マネジメント」を推進するうえで押さえておきたい、自治体に共通する組織症例についてお伝えする。
※本稿は、『都政新報』2025年2月7日付「選ばれる組織へ 自治体の『人材確保・育成』改革 」に寄稿した記事を再編集したものです。
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